リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

文字の大きさ
206 / 299
アノン

しおりを挟む
 ――風呂上がりのシェルビーがほくほくしながら扉を開けて出てきて、出来上がった地図を床に寝転んで見ているアライアの隣に寝転ぶ。
「髪濡れてる」
「ドライヤーってやつ使い方分かんなくてさ」
「風邪ひいても知らないからな」
「へいへい、俺はいつもこうだから大丈夫だって」
 アライアは黙り込み、地図を眺める。シェルビーはその横顔を見つめながら言った。
「よく中央施設の水路に侵入するなんて考えたよな」
「監視カメラは廊下にはないみたいだし」
「人の目が一番問題だよな」
「監視カメラのない倉庫があちらこちらにあるみたいだし危ない時はそこに隠れよう」
「…………あ~もう! いいよこの話は。考えれば考えるほど失敗する道しか見えねえ!!」
「ポンプに入ろうとしてた行動力はどこ行ったんだよ」
「うるせえ!」
 シェルビーの肩がアライアにぶつかり、アライアはそれに反応し睨む。
「お前笑ってる時の方がいいよ」
「…………俺もそう思うけど。顔に出ちゃうんだよ」
「素直でよろしいこと」
「寝よう。眠くなってきた」
「そうだな」
 シェルビーとアライアは同じベッドに入り、互いに背を向け、目をつむる。
 シェルビーはなかなか寝付けず目を開け、寝返りを打った。振り返ったらアライアの顔がすぐそこにあって、悲鳴を上げそうになるのを抑える。二人用のベッドらしかったそれは父親と一緒によく寝ていたらしいので子供二人で使えば広い。
 しかし、だからと言って思いっきり寝返りを打つとこうなる。
「…………アライア」
 相手は眠っているようで返事はしない。いつも仏頂面で年下のくせに生意気で。それなりに頭はよくて。偶に見せる笑顔は全身が硬直するか、震えるほど美しかった。
一緒に過ごしている間彼がいて助かったことも多くあった。
「俺はお前がいないとだめだ……」
 思ってみたことを口にしたのではなく、考える間もなく自然と口から出ていた。
 その言葉の意味をよく考えてから、シェルビーは顔を真っ赤に染め上げる。
「違う、そんな意味じゃない……!」
「どんな意味?」
 真ん前から声が聞こえて、シェルビーのルビーの瞳と相手の瞳はガッチリと合わさって離れない。
「…………お、お前起きて」
「眠いのにうざくて無視してた」
「生意気な」
 憎々しく呟くが、アライアは気にしていないようで眠たそうに瞼を開閉する。
「シェルビーは優しいよな」
「え?」
 寝ぼけているのかそんなことを言い出す。
「シェルビーの手は……」
 掛け布団の中の手が握られて、シェルビーはビクつく。
「あったかい……」
 そう言って完全に目をつむり、深い呼吸に落ちる。
 シェルビーはドッドッドッ……と煩くなる心臓の鼓動を抑えるようにアライアの手ごと胸を抑えた。
「…………お前の手は冷たくて心地いい」
 シェルビーはそう呟くと、元から近いアライアの顔との距離を縮めていく。視線はアライアの唇に釘付けだった。
 あと少しでそれが実行可能になった時、ふわりと、目の前の長い睫毛が開かれた。シェルビーはガバッと後ろに背を逸らすも、相手の蔑んだような眼が自分から離れない。
「……何しようとしてたの」
「い、いや、何も? あれだよあれ、直ぐ眠ったから風邪でも引いたかなと」
 シェルビーが背を向けると、ふぅん、なんて声が聞こえてくる。
 次に、シェルビーの背中につんつんと、アライアの指が触れてきて、「何だよ」とシェルビーは寝返りを打ってアライアを見る。
 アライアの目はとろんとしていて眠たそうだった。
「…………」
 アライアは目を完全につむる。呼吸は深くならず、唇がシェルビーに向かって突き出された。シェルビーはそれを真っ赤な顔で滝のような汗を流して見つめる。
「…………」
「……………………」
「…………!」
「……………………」
「…………!!」
「……………………」
「…………っ!!」
 ごくりとつばを飲み込んで、少しずつ、少しずつ。距離を詰めていく。
 その間、シェルビーは瞬きをしなかった。
 最後の最後に目を閉じて、それを、実行した。
 顔を離し、目を開けると。そこには優しい微笑みがあって、シェルビーも笑いかけようとした。
 ――瞬間、アライアの目が蔑むようにシェルビーを見る。

「変態」

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

処理中です...