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イルヴルヴ
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しおりを挟むカタカタカタ、コポコポコポ、ピッピッ、ピコンピコン、ゴポポ、――――のに、――――がもしかして、――――だろう、ゴポ――……
外側の音を聞いて私は【言葉】を覚えた。口は開く、でもまだ【話す】が分からない。
コポコポ、ゴポポ
彼らの真似をすると、そんな音が聞こえてくる。これは内側の音だ。
遠い遠い外側の世界、私はいつまで、この場所に――……。暗闇にひとりぼっちで、光の中でもひとりぼっちでいる。これが私の日常なのか。
ゴポ、コポポゴポ
«出よう。内側から»
◇◇◇
二八〇三年五月。
世界を滅ぼした空に浮かぶ島・ユヤが地に降りたことを発見して、多くの研究者たちがユヤへ辿り着いた。ユヤは既に廃都市となっており、生き残っている人物はいないと思われた。研究者たちを乗せたユヤは再び空へと戻り、地上へ攻撃はせずに、今も空を彷徨っている。
ユヤの中枢には僅かに崩壊していた壁から入ることが出来た。何ヵ月か後には、未知の物質・緑龍子で元に戻ってしまうだろう。
ユヤの中枢には大きな丸い形の、まるで金魚鉢のようなカプセルがあった。カプセルの中は緑龍子の液体で満ちていた。
その中に浮かんでいたのは、この世のものとは思えないほど美しい子供であった。
胸は胸板のようにも見えるが少し膨らみがあり、性器は男性器と女性器、両方あった。身体つきからは男の子か女の子か分からない。
髪は足元まで伸びており、それも見れば見るほど美しい、晴天の空のように深い天色だった。
そのユヤの中に、ング・エンタ第一研究基地はあった。
ユヤにあった物質や最初の実験成功作から失敗作まで多くの実験体が収容されている。ただ、カプセルの中の子供だけには手が出せなかった。
出来るだけ彼に似せて作った最初の完成体にはラウグウストゥスの名を与えた。彼は非常に頭が良く、実験へ協力したところ、研究者顔負けの功績を残した。
彼は物質にそれぞれ、黄龍子、赤龍子、青龍子、黒龍子、白龍子と言う名を付けた。黒龍子とは無色の物質のことだが、単体の粒子を見てみると透明で、集合した粒子が透明にも黒にも見えたことから、その名前が付けられたと言う。
なぜ彼がそこまで研究に協力的だったのかは他の研究者たちにも明らかだった。彼はカプセルの中の子供に魅了されていたのだ。研究者たちも美しいとは思ったが、彼ほど執着する人物は他にいなかった。彼はいつの間にか研究者たちの中心になり、組織のボスにまで上り詰めていた。
二八一五年一二月。
ング・エンタ第一研究基地重要研究室【F】から成功体6号が逃げ出した。
彼女は異常な食欲がある実験体だった。
食べ物はもちろん鉄や石をやっても食べる。彼女は全てのモノを飲み込み、胃袋で消化し、それをイダと言う力に変えていく能力を持っていた。
彼女は自分を繋ぐチューブも拘束具も、カプセルの緑龍子の浸透したガラスまで食い散らかし逃げたのだ。
緑龍子を簡単に説明すれば、何でも直せて、何でも複製できる万物の万能細胞だった。万能細胞より優秀かもしれないが、その分、いやそれ以上危険性も高かった。
再生するガラスを食べて取り込んで逃げた6号。
彼女はユヤの崖から遥か下にある地上を眺める。
6号はずっとカプセルの中に閉じ込められ実験されていたので、ユヤが浮かんでいることを知らなかった。
そして、世界がこれほどまでに広く、美しいことも知らなかった。
ユヤは風を裂く時、悲鳴を上げていた。
6号は感動して、いっとき逃げるのをやめて外の世界を充分に眺めた。冷たい雲が身体の横をすり抜けていく。たち込めた霧――否、雲に複数の影が浮かぶ時、6号の身体が斜めに傾いた。
6号は自分の意志で、ユヤから落ちていった。
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