リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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イルヴルヴ

21

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 彼はゼルベイユ・ラウグストゥスと名乗った。彼には何かと縁を感じるアシャだった。
「君もかつて実験体だったろう。一緒に暮らせはしないのか?」
「い……っしょに……」
 ゼルベイユは柳眉を寄せる。
彼の顔立ちはルイスに似ていて、アイル・トーン・ブルーの瞳もルイスにそっくりで、まるで生き写しのように見えて、アシャは動揺してしまう。
 この子がルイスとそっくりなのは最初の完成体であるからか。
「魅力的だけど……分からないんだ。正解が……」
「君のしたいようにすればいい」
「それなら、帰ろう。僕には目的がある、重要な、大事な、目的があるんだ」
 言うことを聞いてくれそうにない。
 そもそも彼がそう選び、望んだのであればそれを間違いだと止める訳にもいかないだろう。彼にとってユヤは帰る場所らしい。それが正解と言えるかもしれない。だからアシャにも何が正解かは分からなかった。ただ自分たちがユヤに行き、実験されることだけは間違いだった。
「聖茄。私はその子から君を守るつもりだ」
 そう意気込むのと共に尋ねてみると、聖茄は深く頷いた。
「私も、アシャを守るよ」
 ゼルベイユは眉をへしゃげて言った。
「君たちは未完成体だ。完成体の僕に敵う筈はないのに。どうして」
「すまないゼルベイユ。私たちは……自由がいいんだ」
「私はアシャと一緒にいたい」
 ゼルベイユは柳眉を吊り上げ、戦闘態勢に入る。
「そこまで言うなら無理やり連れて行くよ」
「そこは見逃してくれたまえ」
 聖茄とアシャも戦闘態勢に入り、同時に飛び出した。
「2号から5号まで吸収した6号と、僕の実験に必要な見本。どちらも重要な資料だ。簡単には逃げしてあげられないよ」
 ゼルベイユは二人の腹に右足と右太ももを打ち込む。アシャと聖茄は吹っ飛び、木の幹を貫いて地面に転げた。アシャと聖茄はよろよろと立ち上がる。
 彼の言う通り、未完成体と完成体の違いは圧倒的らしい。
 アシャを追いかけてきて連続で叩き込まれる拳を、腕を交差して防ぐが、その勢いは止められない。アシャは口から血液を吐き零し、それを警戒したゼルベイユは後退する。血液はただ地面へ落ちただけだった。
「やはりまだ未完成体だ……」
「私たちは完成している!!」
「それは思い込みだよ」
 アシャはカッとなって彼の頬に拳を叩き込む。凄まじい力に砂塵が上がったが、吹き飛ばされる砂塵の間から現れた、彼の頬には傷一つ付いていない。
「君たちは完成体ではないよ」
 アシャの腹に蹴りを入れ、吹っ飛ばされる彼女を見て嘲笑を浮かべる。それを見た聖茄がゼルベイユの頬に拳を入れる。彼は木の幹を5本突き破って吹っ飛んだ。
 よろよろと立ち上がるゼルベイユの目に遥か遠くで拳をつくり佇む聖茄の姿が見える。
「君はまだ未完成なのに……これほどの力があるのか……」
 呟きは森のざわめきにかき消される。
 刹那――ゼルベイユが地面を蹴り、寸秒間もなく聖茄の前に現れる。
 抱き締められ、聖茄は抵抗する。アシャは地面や草を食べて傷を修復させ立ち上がり、聖茄たちの元へ走った。彼らを見て、聖茄からゼルベイユを引き剥がそうとするも、力が敵わない。
「一緒に帰るんだ……君しかいないんだ。君だけなんだ」
「離せ……離せ、離せえええええええええ!!」
 叫び声がゼルベイユの肌を切り裂き、彼の血液は緑色なのだと知る。アシャの身体からも血飛沫が上がった。
 聖茄の叫び声でゼルベイユの腕が砕け、拘束を解いた聖茄は彼から離れるように跳躍して後退した。
 ゼルベイユの細胞と血液には高濃度の緑龍子が含まれる。緑龍子の力で腕や身体に付いた傷は再生され、再び聖茄と距離を詰めようとする。
 聖茄はその足を払い、ゼルベイユは体勢を前へと傾ける。地面へ手を付き身体を支え、聖茄たちに蹴りを繰り出してきた。
 聖茄とアシャはそれを避けるが、蹴りから起こった烈風に押し負かされ、背を地面へ打ち付ける。ゼルベイユはアシャと距離を縮め、倒れたアシャの首を掴み上げる。アシャは息が出来ずに苦しみ藻掻き、ゼルベイユの手を引っ掻く。傷は全く付かなかった。
 ゼルベイユは聖茄に振り向く。
「6号を離して欲しかったら、僕と一緒にユヤへ帰ると言って」
「いやだ。アシャは私が助ける」
「どうや――」
 どうやって、とゼルベイユが尋ねる前に、聖茄は飛び出しており、彼の腕を掴み、骨を握力で粉砕する。解放されたアシャは地面へ倒れ込み、ゼエェゼエェと大量の酸素を取り込もうとする。
 ゼルベイユの腕は瞬く間に治り、左手で聖茄の右腕を封じ、聖茄の身体に右拳を叩き込んでいく。聖茄は血液を吐き零そうとして、己の手で無理やり口の中にそれを押さえ付ける。
「ほら。君は人間じゃない。大丈夫。君は一人じゃない。僕は君と同じになるよ」
「…………っ」
 聖茄が目を見開く。
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