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エンタイア
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「貴方達が服用している薬、何て名前なの?」
「TR、TT、TS、GR、NR、YK、DR、GS。オレが使っている薬はGSだ」
「何の略?」
「…………」
「あら、どうしたの? 分からないの?」
「とぅるちゃん」
「え?」
「天使の卵ちゃん、地底湖の珠宝ちゃん、ぎょろちゃん、にょろちゃん、欲力の欠片ちゃん、どぅるちゃん、激越の尺壁ちゃん、の略だ」
「…………」
「………………」
「随分可愛いのね」
「ちゃんまでが、正式名称らしい」
「誰が考えたの?」
「もちろんあいつだ」
「何でそんな名前にしたか聞いた?」
「見た目と作られた場所と効果から名付けたと言っていたが……ふざけてはいるだろうな」
アリシアはにこにこと笑ってゼノの頰を突いて来る。
化け物の硬い頬だが。
「激越の尺壁ちゃん」
「オレの名前じゃない」
アリシアはくすくすと笑う。ゼノはアリシアのいつもの余裕ぶった笑みは好きではないが、この自然な笑みは好きかもしれない。
「ドアの隙間を通るならもっと細い方がいいわ」
「ああ」
「コバエくらい小さくならなくちゃ。目立たない方がいいでしょ」
「ああ」
「髪の毛くらいなら廊下にも落ちてると思うけど、掃除の時間と重なったら掃除機に吸われちゃうかもしれないわね」
「…………何でお前はアドバイスしてるんだ」
「どうしてここから逃げたいの?」
「今はこっちが質問してるんだが……」
「どうして逃げたいのよ」
「…………」
「答えなさい」
「どうしてお前なんかに……」
アリシアからの返事はない。
ゼノが答えない限りそれは続くだろう。彼女が引く気がないと知り、ゼノはため息を吐(つ)き仕方なく答える。
「ただ、外に出たら自由になったことになるんじゃないかと思っただけだ」
「それだけ?」
「……あいつの求めるヒトを、あいつの手から守りたいとも思っている」
「…………それは何となく分かるわよ。私も代わりにされてきたニンゲンだもの」
「愛されている奴に腹が立つんだ、あいつとそのヒトが一緒にいつか愛し合う未来が来たなら、自由になっていたとしてもオレは耐えられない。だから、邪魔をしたい」
「それ、守りたいとは違うんじゃない?」
「言葉くらい綺麗に着飾っておきたいだけだ」
アリシアはゼノの身なりを見てから、ふむ……と考える。
「明日お洋服持ってきてあげるわ」
「いらない」
「ふふふ。嫌よ」
ゼノはアリシアの返事を聞き、「はぁ……」と情けなくため息を吐いた。
アリシアは「あっ」と声を出し、立ち上がる。不思議そうに顔を上げ、アリシアを眺めるゼノに言った。
「そろそろ帰らないと。仕事があるの」
「ああ」
去って行く彼女を見送り、ゼノはやっと一人になれたと安堵する。
明日になれば、ヒグナルに脱走しようとしていたことが知られて拘束されるのだろう。
ゼノはそう考えながら、壁に背を預け、眠りにつかずに夜明けを待った。
◇◇◇
次の日。
窓の向こう側に廊下を歩いている新顔の青年を見かけた。
彼はゼノを観察する小部屋にいる下狩と言う男の元へ行き、共にゼノのことを眺めていた。警戒してゼノが彼を睨み付ければ、彼は余裕な笑顔を見せてくる。それだけでゼノは彼にアリシアと同じ匂いを感じた。
しばらくしてからヒグナルが地下室へやって来た。
扉が開くと、ヒグナルは恐ろしい剣幕でゼノにズカズカと近づいてきた、その歩みの勢いのまま、頬を殴られ、身体が横に薙ぎ払われ地面に突っ伏する。
「シティアに随分気に入られたようだね」
「…………あいつが勝手に来るだけだ」
ゼノは起き上がり、壁に背を預けて床へ座り直す。
「それが問題だろう?」
「どう問題なんだ」
「いつかお前とシティアにも交尾をさせようと思っていたんだけど……シティアがお前を気に入っているのなら諦めるしかなさそうだね。お前の主人もそれを許可しないし……。監視役が送られてきた。まだお前に期待しているんだろう」
「…………」
ゼノはちらっと、窓の向こう側にいる青年を見る。
「喜ばないのかい?」
「オレはやっとあいつから自由になれたんだ」
「どこが? お前のどこが自由なんだ。こんなところに閉じ込められて、今まで足掻くこともしなかったお前のどこが、自由なんだ?」
脱出を計画していることが知られていない……?
あいつ、教えなかったのか。
ゼノはそう思いながら、口角を上げる。
「あいつから離れられたら、オレはいつだって自由になれる」
「…………愛しているのにかい?」
「もう愛してなどいない」
「嘘だね」
「…………それはオレが決めることだ」
「違う。他人の目から見ても明らかだ。まだお前は期待している。彼がお前を連れ戻すことを」
「…………」
「……シティアには近づくな。それだけを伝えに来たんだ。私は忙しいから、また今度話の続きをしよう」
「…………」
ヒグナルが去った後、監視役らしい青年が部屋の中に入り、床に座っているゼノの前に立った。
「俺はゼジ・ラックマンだ。お前は?」
「TR、TT、TS、GR、NR、YK、DR、GS。オレが使っている薬はGSだ」
「何の略?」
「…………」
「あら、どうしたの? 分からないの?」
「とぅるちゃん」
「え?」
「天使の卵ちゃん、地底湖の珠宝ちゃん、ぎょろちゃん、にょろちゃん、欲力の欠片ちゃん、どぅるちゃん、激越の尺壁ちゃん、の略だ」
「…………」
「………………」
「随分可愛いのね」
「ちゃんまでが、正式名称らしい」
「誰が考えたの?」
「もちろんあいつだ」
「何でそんな名前にしたか聞いた?」
「見た目と作られた場所と効果から名付けたと言っていたが……ふざけてはいるだろうな」
アリシアはにこにこと笑ってゼノの頰を突いて来る。
化け物の硬い頬だが。
「激越の尺壁ちゃん」
「オレの名前じゃない」
アリシアはくすくすと笑う。ゼノはアリシアのいつもの余裕ぶった笑みは好きではないが、この自然な笑みは好きかもしれない。
「ドアの隙間を通るならもっと細い方がいいわ」
「ああ」
「コバエくらい小さくならなくちゃ。目立たない方がいいでしょ」
「ああ」
「髪の毛くらいなら廊下にも落ちてると思うけど、掃除の時間と重なったら掃除機に吸われちゃうかもしれないわね」
「…………何でお前はアドバイスしてるんだ」
「どうしてここから逃げたいの?」
「今はこっちが質問してるんだが……」
「どうして逃げたいのよ」
「…………」
「答えなさい」
「どうしてお前なんかに……」
アリシアからの返事はない。
ゼノが答えない限りそれは続くだろう。彼女が引く気がないと知り、ゼノはため息を吐(つ)き仕方なく答える。
「ただ、外に出たら自由になったことになるんじゃないかと思っただけだ」
「それだけ?」
「……あいつの求めるヒトを、あいつの手から守りたいとも思っている」
「…………それは何となく分かるわよ。私も代わりにされてきたニンゲンだもの」
「愛されている奴に腹が立つんだ、あいつとそのヒトが一緒にいつか愛し合う未来が来たなら、自由になっていたとしてもオレは耐えられない。だから、邪魔をしたい」
「それ、守りたいとは違うんじゃない?」
「言葉くらい綺麗に着飾っておきたいだけだ」
アリシアはゼノの身なりを見てから、ふむ……と考える。
「明日お洋服持ってきてあげるわ」
「いらない」
「ふふふ。嫌よ」
ゼノはアリシアの返事を聞き、「はぁ……」と情けなくため息を吐いた。
アリシアは「あっ」と声を出し、立ち上がる。不思議そうに顔を上げ、アリシアを眺めるゼノに言った。
「そろそろ帰らないと。仕事があるの」
「ああ」
去って行く彼女を見送り、ゼノはやっと一人になれたと安堵する。
明日になれば、ヒグナルに脱走しようとしていたことが知られて拘束されるのだろう。
ゼノはそう考えながら、壁に背を預け、眠りにつかずに夜明けを待った。
◇◇◇
次の日。
窓の向こう側に廊下を歩いている新顔の青年を見かけた。
彼はゼノを観察する小部屋にいる下狩と言う男の元へ行き、共にゼノのことを眺めていた。警戒してゼノが彼を睨み付ければ、彼は余裕な笑顔を見せてくる。それだけでゼノは彼にアリシアと同じ匂いを感じた。
しばらくしてからヒグナルが地下室へやって来た。
扉が開くと、ヒグナルは恐ろしい剣幕でゼノにズカズカと近づいてきた、その歩みの勢いのまま、頬を殴られ、身体が横に薙ぎ払われ地面に突っ伏する。
「シティアに随分気に入られたようだね」
「…………あいつが勝手に来るだけだ」
ゼノは起き上がり、壁に背を預けて床へ座り直す。
「それが問題だろう?」
「どう問題なんだ」
「いつかお前とシティアにも交尾をさせようと思っていたんだけど……シティアがお前を気に入っているのなら諦めるしかなさそうだね。お前の主人もそれを許可しないし……。監視役が送られてきた。まだお前に期待しているんだろう」
「…………」
ゼノはちらっと、窓の向こう側にいる青年を見る。
「喜ばないのかい?」
「オレはやっとあいつから自由になれたんだ」
「どこが? お前のどこが自由なんだ。こんなところに閉じ込められて、今まで足掻くこともしなかったお前のどこが、自由なんだ?」
脱出を計画していることが知られていない……?
あいつ、教えなかったのか。
ゼノはそう思いながら、口角を上げる。
「あいつから離れられたら、オレはいつだって自由になれる」
「…………愛しているのにかい?」
「もう愛してなどいない」
「嘘だね」
「…………それはオレが決めることだ」
「違う。他人の目から見ても明らかだ。まだお前は期待している。彼がお前を連れ戻すことを」
「…………」
「……シティアには近づくな。それだけを伝えに来たんだ。私は忙しいから、また今度話の続きをしよう」
「…………」
ヒグナルが去った後、監視役らしい青年が部屋の中に入り、床に座っているゼノの前に立った。
「俺はゼジ・ラックマンだ。お前は?」
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