リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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エンタイア

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 アリシアが衣服を着替え、自分の部屋を出ていき、仕事へ向かおうとしていた時だった。「アリシア」と後ろから声が掛けられて、足を止めて声の方へ振り返る。
「……アルファナ」
「相変わらず忙しいみたいね。お父様のお気に入りは大変そうだわぁ」
「貴方ほどじゃないわよ」
「まあ、嘘が下手くそ。私のこと見下してくるくせに」
「そう思いたいなら思っておけばいいわ」
 アルファナは浮かべていた笑みを無くし、ギリッと歯軋りをする。去ろうとするアリシアに、笑顔を無理やり浮かべて言った。
「ゼノアくんとの仕事が決まったわ」
「……っ」
 アリシアは反射的に足を止める。
 アリシアが顔に影を落としゆっくりと振り返ると、アルファナはそれに怯みながらも続けた。
「貴方がお父様の言うことを聞かないから、お気に入りが私になっちゃったのかしらね」
「どうでもいいわ。お気に入りでなんていたくないもの」
「あらそう。ゼノアくんのお気に入りも私になるかもしれないわね、な~んて」
 バシン――――ッと言う音が廊下に響き渡り、アルファナは掌の形で真っ赤に染まった右頬を押さえる。
「貴方、知らないの?」
「な、何をよ」
「アルファナって言葉に、どう言う意味があるかみんなで決めたの」
「な、何よそれ。どう言う意味よ」
 アリシアはアルファナを見下し、冷酷な笑みを浮かべて言った。
「ヒキガエルよ」
 アルファナはショックを受けた顔をする。
「そろそろ仕事の時間だわ」
「ま、まさか他にも意味を付けて呼んでいる人がいるの?」
 アルファナは去ろうとするアリシアを引き留める。
「ええ。例えばくたばれと言う意味は――」
「…………」
 アルファナはその続きを黙って聞こうとしている。
 アリシアは地面に伏せるアルファナを見下し、彼女が見惚れるほど柔らかく微笑んだ。それを見てアルファナは再びショックを受けた顔をした。

「オトウサマ……よ」




        ◇◇◇



 ゼノは分厚い壁をすり抜けながら、アリシアの声を頼りに捜索していた。たまに形を変え、透過させた目を壁の外に出し周りを眺めてみる。
 生まれたままの姿の男女が交わり合う光景が何度もゼノの目に映った。
 交わり合う声と声の中に、アリシアの声を見つけ、ゼノは早足でそちらへ向かって行く。
 身体の形を変え、コバエ程度の大きさへ変化する。そうしてアリシアのいる部屋へ侵入し、その光景を見てしまったのだ。
 何度も聞いたり、言ったりした交尾とはやはりそのままの意味だった。
 オスがメスを組み敷き、子を孕ませる。
 アリシアが一人になる時まで、ゼノはただぼうっとそれを眺めていた。
 アリシアはかわるがわる色んなオスと交尾をする。
 彼女の休憩時間が来てやっと、ゼノは姿を現した。アリシアは驚き、次に掛け布団を手に取り自分の身体を隠す。
 散々見たとは言えなかった。
 ゼノはアリシアに掛け布団を巻き付け、彼女の手を引いた。
「逃げるぞ」
「私は逃げられないわ」
 とアリシアは首を振る。
「なぜこんなことを赦すんだ」
 ゼノは目をつり上がらせながらそう言う。
「あら。貴方に言われたくないわ」
 アリシアはいつもの余裕の笑みを浮かべた。
「閉じ込められて親の手伝いをしているのは貴方も同じだった筈よ」
 それに対してゼノは返事をしない。
「あんな方法じゃ妊娠できる筈がない」
「出来るわよ。私が作るのは人工卵子だもの。卵管に緑龍子の膜を張る事によって卵子を増やすの。つまり一度の排卵数が多いのよ。女だけじゃないわ。ここの男達の精子の数も調整されているの。例えば10人の男がいるとするわね。私の一度の排卵数が30だとするわ。一度目は彼等の精子を3~4程度に調節して受精するの。二度目では一度目での相性の結果を見て相手の男を半数に減らすわ。精子の数を6~7程度に調整する。三、四度目では男を2~3人選ぶの。つまり残った人がこの施設の基準に置いて成功率の高い人物なのよ。此の時から成功した子供がもっと欲しいってことになるわけ。だから彼等の精子の数は10~15に増やされるわ。まあ本当なら早朝に卵管へ緑龍子を注入するわ。受精が終わった後2~3個は卵子が残るように調整されているから、緑龍子の量によって30~200程度に卵子が増やされる。緑龍子は、複製はもちろん再生にも融合にも特化した粒子だから、卵子が成熟したままの状態で保存できるのよ。野菜で例えるならみずみずしい、新鮮な状態、と言ったところね。目的の数まで増えるのを、決められた時間まで待って、その後は見た通りよ。私の場合、数を求められているからこうなるけど。少ない子は一か月に一度の排卵日に3個の卵子って感じかしら」
「それは女が優れている時か?」
「そう、女の子の遺伝子の方が優れている時のパターンよ。逆もあると言うこと。一人の男に対して10人の女性、精子の数は産ませたい子供の数以上ならば調整の必要はないわ。その女性達の卵子数が3~4個程度。同じ樣に結果で絞り込んでいって、最終的に10、50、200、実験体として欲しい分だけ産ませる。此処はコノカと別種族の配合実験専門の研究基地よ。より強い兵器を生むために建てられた研究施設なの」
「そして君達の子宮では耐えられないから、受精卵だけ外に出し、疑似子宮で育てる、と言うことだな」
「ええ。成功したモノだけね。成長加速システムがあるから一晩で6歳まで成長するわ。其れから貴方もいた研究基地へ送られる。実験が成功すれば、成功例として大事に保管されるか、私達の仲間入りをするか、売られるか、クローンを作られてその全てとその他にも利用されるでしょうね」
「クローン……」
 まるで自分と同じだ、とゼノは考える。
「ヒグナルにあいつが協力して来たと言うことか?」
「裏から操っているのは貴方の主人でしょうね」
「お前はこのままでいいのか?」
「私は苦痛だと思ったことはないわ。だってエッチなことするだけじゃない。妊娠できるとは言ったけど、自分の身体では妊娠しないもの」
「お前の子供が実験体にされているのに?」
「あら、私のお父様だって子供である私達で実験しているわ」
 休憩時間の終わりを知らせるブザーが鳴り、アリシアは準備をしようとベッドへ戻ろうとする。
 離れそうになったアリシアの手を強く握って引き寄せて言った。
「逃げよう」
 それに対して、アリシアは返事をしない。そんなアリシアにゼノは言う。
「お前と一緒だったら、外に出てもいい」
「無理よ」
 アリシアはゼノの手を丁寧に取り払う。そして、柔らかく微笑んで言った。

「私は此処から出られないわ」

 次の男の子が入ってくる前に、ゼノは透過し、アリシアとその男の子の交尾をずっと見ていることが出来ずに、壁の中へ逃げるように去っていった。
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