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ディノル
最新話 ※BL?あり
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光陰の元へ稲と楽ドが駆け付けてきた。ぼうっとした奏を見て、楽ドが光陰に掴みかかる。
「何をした」
「落ち着け」
稲は楽ドを抑える。
「奏から俺に関する記憶を消した。記憶は自然と埋め合わされる。俺はこれから奏とは他人として生きていくことにする」
「……っ、何言って」
「カナタもラ矢も、鵺トからも寝てる間に消したよ」
「ふざけんな! そんなことしたって、何にもならねえよ!」
「どうかな」と光陰は言う。
そうして微笑んで、奏にしたように自分の頭を撫でて言った。
「今から俺の記憶も消す……」
「な、なに言ってんだよ。や、やめろよ……」
「じゃあな」
楽ドがやめろと言おうとしたとたん、稲が光陰の手を抑えた。
「やめろ、光陰。私たちと過ごした日々も全部消えるんだぞ、私たちとの思い出が消えるんだぞ。君の大事な妹のことまで分からなくなるんだぞ!」
「お前のこと好きなことも忘れちまうな」
光陰が笑って、稲は動かなくなる。
「でもこれが一番いいんだ。俺はお前と、お前らと関わっちゃいけない。俺は平気だ。死神なんだ。大事な人達を不幸にする為にそばにいるなんて、嫌なんだよ。俺は自分の力も大切な人も忘れて過ごすよ。お前らの記憶も消す」
「ふざけるな!」
楽ドの怒りに触れて。光陰は怯む。そして、稲の手を取って走り出す。
「光陰……っ」
稲が光陰に呼びかける。
「止めるなお前と二人きりになりたい。あいつに聞かれたくない。特にあいつだけには聞かれたくない」
遠くの超高層ビルの陰までやってくると光陰は稲を抱き締める。
「俺、子供だけど、きっと大人になったら忘れるんだろうけど、いや、どうせ今から記憶を消すんだし思い出すこともないんだろうけど。だから、最後なんだ。言わせてくれ。この気持ちを無くす前にもう一回言わせてくれ」
稲は黙って聞いていた。ただ、少し泣きそうになりながら。
「好きなんだ。稲のことが……」
「光陰……」
光陰は静かに目を瞑る。
導かれるように稲は光陰の頰にキスをした。
その瞬間、青い光が光陰を包み込み、光陰は地面に倒れ伏す。
「光陰! まさか、魔術を発動させたのか。今のが発動する行為だったのか。バカなのか、何で、私はお前に何も答えていないじゃないか。好きってなんだ、なんで私なんだ。私はそんな気持ち、少しも分からないと言うのに。あいつに聞かれたくない? 聞かれたってなんの問題もないさ。私はあいつのことなんか少しも好きじゃない……。こんなの君と同じ気持ちじゃないのに……。人間の気持ちなんか、分からないのに。私は化け物なんだ。化け物なんだ、光陰」
倒れた光陰を抱き起こし、稲は彼の胸で泣いた。
「どうして私だったんだ。君は相当……バカなんじゃないか」
光陰は泣きじゃくる稲の声で目を覚ます。
「あんた、誰」
稲は涙を拭い、顔を起こし光陰に笑いかけながら言った。
「私は――稲…………いや、威稲樹聖唖だ」
「そっか。なんか綺麗な名前だな。ああ。俺の名前は……何だっけ。思い出せねえや。はた。幡多……あれ、幡多って誰かが言ってた気がする。そのあとは思い出せねえな。誰だっけ。あれ。俺って誰なんだっけ。何も分かんねえや。おかしいな。何か、凄まじい体験した気がすんだけど」
「無理に思い出さなくていいさ。君もきっと綺麗な名前だ」
優しく笑う稲を見て、幡多は言った。
「あんたモテそうだな。なんか、あんたと一緒にいると落ち着く。何でかな」
「さあな」
楽ドが駆けつけ、幡多が「あんたは誰なんだ」と聞き、楽ドは彼が何をしたのか分かり泣き出す。
「光陰は私が連れて行く」
稲――聖唖が立ち上がって言った。
「お前は奏を頼む。幡多の為にも記憶を思い出させちゃいけない。ここでお別れだ。また会おう、楽ド」
「何でそうなるんだよ!」
「会いに行くよ。私たちが偉くなったら簡単に会えるだろ。君に会いに行くくらい簡単だろうしな」
「簡単に言うなよ、俺、そんなに強くねえし。みんなより一番弱くて。何も出来なくて。誰も助けられなくて、誰も止められなかった」
「でもみんなを繋げたのは君だ。みんなを変えたのも君だ。君がいたから私はみんなと出会えた。これから先もずっと、君が教えてくれたことは忘れないさ。君は凄いやつだ。弱くなんかない。強い意志を持っているよ」
「馬鹿言うなよ、離れたくねえんだよ、言わせるなよ! お別れなんて言うなよ! これで終わりなんか、いやだ!」
聖唖は楽ドの頭を撫でて言った。
「そうだな。言い方が悪かったな。お別れなんかじゃないな。でも言っただろう? また会おうと」
「少しも離れたくねえんだって言ってんだよ!」
駄々をこねる子供のような楽ドに、聖唖は困ったように笑った。
「私も君達と離れたくないよ。だが、光陰の言っていることも理解出来るんだ。私は厄災だ。死神だ。みんなを危険に晒すんだ。ならば、私は一人でいるさ。ずっと一人でいる。大丈夫だ。実験体たちを保護するための組織は作ってみせる。……それに、ゼルベイユを追わないといけないし、血液の回収もしないといけないんだ」
「ほんとバカなんじゃねえのお前ら」
「それ私がさっき光陰に言ったんだけどな」
「バカなんだよお前らは! もう知らねえ二度と顔見せるな!!」
楽ドは癇癪を起こして走って去ろうとしたが、大人たちが駆けつけ、楽ドは彼らに掴まった。
幡多が立ち上がり、聖唖に向き直って、彼の名前を呼ぶ。
「聖唖」
それを聞いたセイナが泣き崩れ、地面に膝をついた。口元を両手で押さえて言った。
「そうか、それが君の名前か」
茶飯が心配し、楽ドも心配する。
「聖唖。聖唖か……いい名前だ」
聖唖は微笑み、幡多は何が何だか分からないようだった。
それから俺たちは分かれた。光陰の記憶を戻さないためにも、奏ちゃんに会わせることはなかった。
◇◇◇
6か月後。
それから聖唖に会っていなかったが、聖唖は約束通り、いや、頻繁に顔を見せている。特殊部隊なんて単独行動のための部隊を作って、毎度毎度俺に会いに来ている。と言っても、仕事を終えた後だと言うのだから、本当にこいつは怖い奴だ。化け物みたいに強いけど、人間最強なんて言われてる。
皆お前のことを、人間だって認めてるんだよ、聖唖。
だからもう思い詰めるな。
でも俺に会いたいならそれは嬉しいことだな。いつでも会いに来い。
「聖唖。またな」
「ああ。またな」
聖唖は楽ドに顔を近づけて。ちゅ。と、唇を唇に押し付けた。
「きゃあああああ! えっち!」
楽ドが離れようとするが、聖唖はまた、ちゅ、とする。
「こら、キスすんな!」
「何をした」
「落ち着け」
稲は楽ドを抑える。
「奏から俺に関する記憶を消した。記憶は自然と埋め合わされる。俺はこれから奏とは他人として生きていくことにする」
「……っ、何言って」
「カナタもラ矢も、鵺トからも寝てる間に消したよ」
「ふざけんな! そんなことしたって、何にもならねえよ!」
「どうかな」と光陰は言う。
そうして微笑んで、奏にしたように自分の頭を撫でて言った。
「今から俺の記憶も消す……」
「な、なに言ってんだよ。や、やめろよ……」
「じゃあな」
楽ドがやめろと言おうとしたとたん、稲が光陰の手を抑えた。
「やめろ、光陰。私たちと過ごした日々も全部消えるんだぞ、私たちとの思い出が消えるんだぞ。君の大事な妹のことまで分からなくなるんだぞ!」
「お前のこと好きなことも忘れちまうな」
光陰が笑って、稲は動かなくなる。
「でもこれが一番いいんだ。俺はお前と、お前らと関わっちゃいけない。俺は平気だ。死神なんだ。大事な人達を不幸にする為にそばにいるなんて、嫌なんだよ。俺は自分の力も大切な人も忘れて過ごすよ。お前らの記憶も消す」
「ふざけるな!」
楽ドの怒りに触れて。光陰は怯む。そして、稲の手を取って走り出す。
「光陰……っ」
稲が光陰に呼びかける。
「止めるなお前と二人きりになりたい。あいつに聞かれたくない。特にあいつだけには聞かれたくない」
遠くの超高層ビルの陰までやってくると光陰は稲を抱き締める。
「俺、子供だけど、きっと大人になったら忘れるんだろうけど、いや、どうせ今から記憶を消すんだし思い出すこともないんだろうけど。だから、最後なんだ。言わせてくれ。この気持ちを無くす前にもう一回言わせてくれ」
稲は黙って聞いていた。ただ、少し泣きそうになりながら。
「好きなんだ。稲のことが……」
「光陰……」
光陰は静かに目を瞑る。
導かれるように稲は光陰の頰にキスをした。
その瞬間、青い光が光陰を包み込み、光陰は地面に倒れ伏す。
「光陰! まさか、魔術を発動させたのか。今のが発動する行為だったのか。バカなのか、何で、私はお前に何も答えていないじゃないか。好きってなんだ、なんで私なんだ。私はそんな気持ち、少しも分からないと言うのに。あいつに聞かれたくない? 聞かれたってなんの問題もないさ。私はあいつのことなんか少しも好きじゃない……。こんなの君と同じ気持ちじゃないのに……。人間の気持ちなんか、分からないのに。私は化け物なんだ。化け物なんだ、光陰」
倒れた光陰を抱き起こし、稲は彼の胸で泣いた。
「どうして私だったんだ。君は相当……バカなんじゃないか」
光陰は泣きじゃくる稲の声で目を覚ます。
「あんた、誰」
稲は涙を拭い、顔を起こし光陰に笑いかけながら言った。
「私は――稲…………いや、威稲樹聖唖だ」
「そっか。なんか綺麗な名前だな。ああ。俺の名前は……何だっけ。思い出せねえや。はた。幡多……あれ、幡多って誰かが言ってた気がする。そのあとは思い出せねえな。誰だっけ。あれ。俺って誰なんだっけ。何も分かんねえや。おかしいな。何か、凄まじい体験した気がすんだけど」
「無理に思い出さなくていいさ。君もきっと綺麗な名前だ」
優しく笑う稲を見て、幡多は言った。
「あんたモテそうだな。なんか、あんたと一緒にいると落ち着く。何でかな」
「さあな」
楽ドが駆けつけ、幡多が「あんたは誰なんだ」と聞き、楽ドは彼が何をしたのか分かり泣き出す。
「光陰は私が連れて行く」
稲――聖唖が立ち上がって言った。
「お前は奏を頼む。幡多の為にも記憶を思い出させちゃいけない。ここでお別れだ。また会おう、楽ド」
「何でそうなるんだよ!」
「会いに行くよ。私たちが偉くなったら簡単に会えるだろ。君に会いに行くくらい簡単だろうしな」
「簡単に言うなよ、俺、そんなに強くねえし。みんなより一番弱くて。何も出来なくて。誰も助けられなくて、誰も止められなかった」
「でもみんなを繋げたのは君だ。みんなを変えたのも君だ。君がいたから私はみんなと出会えた。これから先もずっと、君が教えてくれたことは忘れないさ。君は凄いやつだ。弱くなんかない。強い意志を持っているよ」
「馬鹿言うなよ、離れたくねえんだよ、言わせるなよ! お別れなんて言うなよ! これで終わりなんか、いやだ!」
聖唖は楽ドの頭を撫でて言った。
「そうだな。言い方が悪かったな。お別れなんかじゃないな。でも言っただろう? また会おうと」
「少しも離れたくねえんだって言ってんだよ!」
駄々をこねる子供のような楽ドに、聖唖は困ったように笑った。
「私も君達と離れたくないよ。だが、光陰の言っていることも理解出来るんだ。私は厄災だ。死神だ。みんなを危険に晒すんだ。ならば、私は一人でいるさ。ずっと一人でいる。大丈夫だ。実験体たちを保護するための組織は作ってみせる。……それに、ゼルベイユを追わないといけないし、血液の回収もしないといけないんだ」
「ほんとバカなんじゃねえのお前ら」
「それ私がさっき光陰に言ったんだけどな」
「バカなんだよお前らは! もう知らねえ二度と顔見せるな!!」
楽ドは癇癪を起こして走って去ろうとしたが、大人たちが駆けつけ、楽ドは彼らに掴まった。
幡多が立ち上がり、聖唖に向き直って、彼の名前を呼ぶ。
「聖唖」
それを聞いたセイナが泣き崩れ、地面に膝をついた。口元を両手で押さえて言った。
「そうか、それが君の名前か」
茶飯が心配し、楽ドも心配する。
「聖唖。聖唖か……いい名前だ」
聖唖は微笑み、幡多は何が何だか分からないようだった。
それから俺たちは分かれた。光陰の記憶を戻さないためにも、奏ちゃんに会わせることはなかった。
◇◇◇
6か月後。
それから聖唖に会っていなかったが、聖唖は約束通り、いや、頻繁に顔を見せている。特殊部隊なんて単独行動のための部隊を作って、毎度毎度俺に会いに来ている。と言っても、仕事を終えた後だと言うのだから、本当にこいつは怖い奴だ。化け物みたいに強いけど、人間最強なんて言われてる。
皆お前のことを、人間だって認めてるんだよ、聖唖。
だからもう思い詰めるな。
でも俺に会いたいならそれは嬉しいことだな。いつでも会いに来い。
「聖唖。またな」
「ああ。またな」
聖唖は楽ドに顔を近づけて。ちゅ。と、唇を唇に押し付けた。
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