リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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ディーヴァ

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 理解したくない。
 そう思い続けたのに……理解してしまった。
 その瞬間、目は意思を示してしまった。
 ミドノはそれを見てもただ笑いながら刃先を向ける。
 奏の血を付けた、胸と手首と心を壊したあのナイフの刃を。
 私はバカだ。
 何度も何度も頼ってしまう。あなたに。
 ──カナタ……ミドノが、可笑しいよ。
「──……奏…………!!」
 ナイフに反射して姿を現すその姿が、奏の目へ写った。
「──……カナ……タ……?」
 奏はそれを信じられないでいた。奏がカナタを呼んだ瞬間、現れた偶然を。
 ミドノは奏の後ろを睨んだ。
 それは冷たくて、どす黒い。
「…………生きてたのかカナタ……」
「──え……」
 ──……ミドノ?
 私はまだしも、カナタは仲間でしょ?
 何で不服そうな顔してるの……?
 ねえ、何で────…………
 ナイフに映るカナタはこちらに向かって来ている。
 ────ラドもやって来ていた。譜王や御王、戯王たちは戦場の指揮を取りにラドとは別で行動することになっている。
 ラドが来ていることはミドノにも分かっているだろう──それでもミドノの手は止まらない。 ミドノは口の端を高くあげ、美しい笑顔で奏を見つめた。
 奏の目玉に、血で汚れたナイフを近づけながら。
「もう少し……怯えてくれよ奏……。やりがいがねえだろ……?」
 ミドノが不敵に笑う。
 ――違う、これは、もうミドノじゃない。
 奏は今まで溜め込まれた恐怖が弾けるのを感じた。
「ひっ……いや……──いやッ……!!」
「はは、いいねぇ……」
 ミドノは奏の右目にナイフを刺し込む。
 瞼と角膜の間に釘が打たれたような錯覚が生じた、
 冷たく冷えていたそれは、やがて熱くなり、強い痛覚を与える。
「ミドノ……やめて……カナタぁ……」
 血が網膜を覆って、視界がすべて赤く染まった。
 何も、見えない。
 ミドノは右目を抉り取ったあと、自慢の握力で潰し、次は左目に唇をつけて、咀嚼した。
 見えない。何も見えない。真っ暗だ。
 ミドノは地面に倒れてしまった奏の背中の皮を剥いで、身を抉り、手榴弾を開けた穴に詰め込む。すべての安全ピンを一気に外し、ミドノは後方にさがる。
 奏の身体は爆発で真っ二つになり、バラバラになる。そのバラバラになった肉を、ミドノは口に含んだ。
「――何、してんだ……!! ミドノッ!!」
「お~お~……怖い怖い。その顔怖いぞカナタ……」
「お前!! お前は──!! お前なんか!!」
「何……何何……!? 早く言えよ、カナタって肝心なところ言わねえよなぁぁ……!?」
 カナタの声とミドノの声。
 目が再生するまで、どれくらいかかるのかも分からない。
 ただ、その時間、奏は何も目に入らない。
 それだけで恐怖が増幅した。
 でも、奏の目は異常な速さで回復してしまう。
 それさえも奏には恐怖となる。
 自分の身体の下半身がないことに気が付き、奏は悲鳴を上げる。
 上半身の残り方の方が多かったからだろう、離れた下半身は再生されず、上半身だけが再生していった。奏は慌てて下半身のスカートをはぎ取る。
 血肉が入り混じる様と、焦げた肉の匂いに嘔吐した。
 奏は可笑しくなりそうだった。
 ──カナタ……来てほしい。
 でも、だめだ。やっぱりだめだ。
 来ちゃだめだ。
 ミドノの目を見てカナタ。
 ──……ミドノは……殺すつもりだよ。
 私もカナタも、2人とも殺すつもりだよ。
 気付いてるんでしょ……?
 何で来てしまうの……。
 カナタの目は、奏と、ミドノの手に輝くナイフを映していた。
「奏は……俺が!!」
 ──……ダメだよ……。
「来ちゃ…………メ……」
 恐怖なんかに負けずに、ちゃんと、声を張り上げていれば、
「──うっ……」
 何かが変わっていたかもしれない。
「え……?」
 目の前のミドノの姿が消えた瞬間、聞こえた声と音。
 肉を裂くような音と、空気を裂くような震えた声。
 可笑しい。
 ミドノは可笑しい。
 可笑しすぎた。
 何でカナタの胸に、ナイフを刺す必要があるのだろう。
 何故だろう、この時は疑問しか浮かばなかった。
 何がなんだか分からない。
 カナタの左手はナイフを握り、右手はミドノの手を掴む。
 カナタは抜こうとし、奥へ押す──が、ミドノの力はそれに勝る。
 ミドノはナイフを内蔵にまで押し付ける。
 カナタの口から血が吹き零れた。
 ナイフの柄の部を強く押し、カナタの肉、内臓、血管を切り開く。
 音はざくざくからぐちゃぐちゃと変わり、やっと血の音が混じった。
 カナタは何も変わっていない。
 問題があるとしたらミドノだ。
 私がミドノを止めなくちゃ。
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