リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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コノカ

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 選択なんて簡単だと思ってきた。より正しい方を選べば自分達は生涯息をしていられるのだと。けれど私は知っていた。自分が正しいと思った道が他の人には間違いになってしまうのだと。
「大丈夫よ! 私について来て!」
 だから私は間違いの道を選ぶ。例えその先が血溜まりでも、私は死にはしないから。私以外の人のことなんて、考える必要もないわ。

『おのれ』


 憐れなクズ共めが。


『シティアあああああああああああああああああああああああああああ──ッッッ!!!!!!』









「──ティア、シティア。しっかりしナ」
 背中をつつかれ、思考が引き戻されてハッとする。後ろは振り返らず、慌てて前方を確認すれば、自分と同じ型の服を着た仲間達が整列している姿だけが見えた。自分も最右列に整列している一員だ。仲間の背から少し頭をずらして前を確認しても、教壇に威風な姿はない。自分達の真っ白な制服だけしか見えなかった。
 シティアはふぅ、と安堵してから後ろへ振り返る。
「ら、らんちゃん……、ごめん、私考えごとしてて」
「ボーッとしてたから心配したダケダ。平気カ?」
「平気だよ。ちょっと思考が悪い方に飛んでただけ」
「持ち前のペシミズムダナ。良いことを考えないとダメだゾ」
「……うん。分かってるんだけど、どうしても考えちゃうんだ……」
「まあ仕方ないカ。今日は新しい教育係が来る日だからナ。色々と考えちゃうんダロ」
 シティアは昨日まで教壇に立っていた教育係を脳内に思い浮かべる、彼は昨日まで生きていた、今朝亡くなったと知らされて信じられなかった。もしかしたら自分達の所為で彼が亡くなってしまったのではないか──もしかしたら彼のことを助けられたんじゃないか、もしかしたら、上が彼を消したのではないか──
「──シティア」
「あ、ご、ごめん!」
 ──いけない。何でいつも悪い方へばっかり考えちゃうんだろう。
 かぶりを振って前へ向き直れば、手入れのされていない散り散りの口髭が目に入る。シティアの前に並んでいた男が振り向いていたのだ。
「死んじまったんなら仕様がねえだろ。気にすんなよシティアちゃん」
 目前の男は励まそうとして笑ったがシティアには逆効果らしい。俯いて黙り込んでしまう。
「なんてことを言うんダ貴様。シティアは優しいから、あんな野郎でも気にするんダロ。余計な口を挟むナ」
 すかさず蘭は男との間に入り込み、シティアを背に隠し守ろうとするが。
「ああ? 手前にゃ話し掛けてねえんだよ餓鬼が」
 男に肘で押しのけられてしまい、蘭は額に青筋を浮かべた。
「貴様のその口引き裂いてやローカ……!!」
「何だと手前──ッ」
 危うく拳を交える喧嘩になるという処で、ガチャン──と重たい金属の音が部屋中に響いた。喧嘩騒ぎに何事だと身を乗り出してこちらを観察していた者達も恐れ戦いて今は銅像のように固まってに整列している。
「あら綺麗に並んでるのね。つまらないわ。……ああ、そうそう、私の名前はアリシア。今日から貴方達の教育係になったわ」
 シティアは目を疑った。シティアだけではない、部屋中にいる者全てが彼女を凝視したことだろう。
「女の教育係なんていたのか……」
「教育係にしちゃあ若過ぎないか?」
「おい嬢ちゃん、俺と今夜どうだ~い?」
「ああいうのが好みなのか頭伎かしらぎ
 口々に話し始め、先程までの緊張感が嘘のようだ。ざわめくそれを止めようともせず、アリシアと名乗った教育係はくすりと笑った。
 それは天使のような微笑みで、彼女に一瞬にして心を奪われた者もいただろう。だが─────、

「低脳の会話は聞くだけで耳が腐るわ」

 その一言を始めとし、彼女はその場にいた全員に敵視されることになる。
 例え教育係と言えど、何年も共に過ごせば一般の教師と生徒程度の信頼関係は築かれるものだ。以前の教育係はある程度の軽い絆さえも築けない儘死亡した。何故そうなったのか我々に知る術はない。──否、もしかしたら彼女は知っているのかもしれない。彼女に問いただせば我々にも知る機会が与えられるかもしれない。
 シティアや蘭と同年代と見てとれる少女。目鼻立ちも整っており、まるで陶器の様な艶やかな肌は人間離れして見える。後頭部の白いリボンの髪止めには唯一人間味を感じる。人間の手で作られた人形のように愛らしかった。初見で見惚れないものはいないだろう。
「まずは自己紹介からして貰うわ。資料は読ませて貰ったけれど、嘘っぱちしか書かれてない紙なんて興味ないから流して読んだだけよ。出生でも趣味でも何でも構わないわ。一人30秒もあげるんだからしっかり話して。右の列後方から前方へ、渦巻き順に答えていって」
 組んでいた腕を解いて、左手を前方に差し出して促してくる。
「は、原野はらの拓次たくじです。えっと、しゅ、趣味はボーリングですっ」
「あら? 貴方の趣味は靴集めでしょ?」
「え……? いえ、そのような趣味は私にはないのですが……」
「ボーリングシューズが欲しくて常連客になって、仲良くなった店員から使えなくなったシューズをこっそり貰っていたんでしょう?」
 しんとしていた周囲がざわつく。周囲から彼に向けられる視線を見てシティアは妙な違和感を覚えた。
「えっと、申し訳ありません。身に覚えがありません。何の話でしょうか……?」
 拓次は引き吊った表情で答える。力の入った拳が後ろ手に震えていた。
「ああ、違ったわね。此れは平野ひらのジダンくんの話だったわ。ね、平野くん」
「は、はい……」
 何食わぬ顔で突っ立っていたのに、呼ばれたとたん肩をビク付かせて項垂れる。周囲の人は彼にちらりと視線を泳がせて、拓次は安堵するより先にジダンを嘲笑するように口角を上げた。一方アリシアは彼等に視線を向けることもない。そもそも興味がなさそうだ。
「次の方どうぞ」
 彼女の一言で騒々しかった部屋がしんと静まり返る。
「早く話して。全員を紹介出来ると云うなら代わりにして呉れてもいいのよ。其れが嫌なら早くして」
「は、はい! 江東えとうりんです。好きな食べ物はたい焼きです」
「嘘ね。貴方が好きなのは人肉でしょう。特に未成熟な男の子がね」
「ち、違うわ……! 変なこと言わないで!!」
 先刻の周囲の反応が怖かったのか、江東凛は全力で否定する。
「あら? でも貴女食べたわよね? 昨日の朝食」
 それを聞いたとたん、江東は口元を抑えて真っ青になる。江東だけではない。周囲の人々全員が血の気のない顔で腹を抑えたり戻したりしていた。食事付きの全寮制なのだから当たり前ではある。シティアも思わず口元を抑えたが、彼女の脳裏には誰がどのように調理されたのかと言う想像ばかりが渦巻いている。涙目になって祈るシティアを見て、頭伎が吐くのも忘れて瞠目する。
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