リクゴウシュ

隍沸喰(隍沸かゆ)

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コノカ

5 ※GLあり ※ぽよぽよあり

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 生徒たちが教室に戻ると、既にアリシアは教団に立っていて、やって来た全員が慌ててその前に整列する。ちらほらと、遅れて教室にやってくる者もいたが、時間は守っているので問題はなかった。ただやはりみんなが並んで待っていると焦ってしまうのだろう。
 全員が集まればアリシアが話し出すのだろうと、誰もが思っていた。しかし、全員が集まった今でも、アリシアは一言も話さず、誰も見ず、ただじっと突っ立っている。
 まるで蝋人形の様だ。
「時間になったわね」
 誰もがその可愛らしさに目を奪われていたが、口を開いた瞬間にハッとする。この可愛らしい声にも毒があるのだとさっき散々理解させられた。
「全員で任務にあたることになったわ。辞退は認めないわ。全員平等、強制参加よ。情報によるとウイルスに感染した化け物が三匹程度、改装中の施設の地下入口付近にいるらしいの。地上に向かって、それを今から討伐するわ」
 「今からっ!?」と生徒たちがざわつくと、アリシアはにこりと笑った。その手の質問には答えるつもりがないらしい。
「今から作戦を説明するわ。一度しか言わないから、使えない頭の皮を剝いてせめて新鮮な状態にして聞いて頂戴」
 作戦の説明となると誰しもが教室の前方の壁に設置されたホワイトボードを使うモノだと思っていたし、メモ帳も取り出して準備をしていたが。アリシアはまったく動きもせずにそれを始めてしまった。
 ホワイトボードも使うために振り向きもせず、端にある教育係の机から今回用意されたであろう資料を取るわけでもない――否、資料などそもそも持ってきていない。詮ずるところ、資料を見ずに話せる、内容はすべて頭の中にあり、なおかつ前回までの記録を用いずにたった今作戦を考えたと言うことである。

「作戦はこれでおしまいよ。さあ、現場へ向かいましょうか」




        ◇◇◇



 生徒たちはそれぞれがアリシアに指定された区域内の好きな場所で待ち伏せを図っていた。区域内であれば何処からでも施設とその地下とが繋がる出入り口が確認できた。シティアと蘭は同じ場所に固まり、他の者も食事をするときと同じように仲の良い者同士で固まっているらしかった。
「合図はまだ来ないナ。化け物なんて本当にいるのカ……? 姿が見当たらないガ……」
 蘭が隣にいたシティアに振り向くと、緊張か、化け物への恐怖か、シティアは涙目で震えている。蘭は地面で震えているシティアの手に手を重ねてぎゅっと握る。
「大丈夫だゾ、シティア。私がシティアを守ル」
「ら、蘭ちゃん……」
「シティア……」
 蘭の強い瞳にじっと見つめられてシティアはドクドク鳴り続けていた心臓の音を落ち着かせる。
「ありがとう蘭ちゃん。化け物を三匹相手にするなんて初めてだから、緊張してたんだ」
「私もダ。でもシティアがいるから平気ダ」
 シティアの手を持ち上げ、蘭はその手に頬をすり寄せる。シティアは「なんだか恥ずかしいよ……」とはにかむ。
 蘭はその表情をじっと見つめ、シティアの手に唇を寄せた、滑らせるように触れ、不自然じゃないように目を瞑った。
「ら、蘭ちゃん……?」
「シティアの手は安心するな」
 蘭はいい匂い、すべすべ……と考えながら唇を湿らせる。目を開けると、真っ赤になってあわあわとするシティアの姿が目に入り、微笑んで口を離した。
「ありがトウシティア。緊張が解けタ」
「私も」
 困ったように笑うシティアに、今すぐ飛びついて唇を重ねたい衝動を抑え込む蘭。森の中、見渡す限りでは二人きり、そんなシチュエーション――あとちょっとで蘭の理性が崩壊しそうだった時、すぐ傍の地面が、盛り上がった。
「――敵だ!!」
 蘭はシティアに飛びつき、地面に押さえつけて、飛び出してきた化け物の攻撃から逃れる。モグラのような大きな爪が特徴の化け物だった。全身は毛で覆われ、複数の目玉がギョロギョロと動き回り、腹部から生えた何十本もの触手がバラバラに蠢く。蘭はそれを見てぐっと奥歯を噛んだ。
「あ、ありがとう蘭ちゃん」
 シティアの震えるような小さな声が聞こえてきて、蘭はぽよんとした丸いものが己の右手の中でぽよぽよしているのを確認する。
「ひゃっ!? すまない、すぐに退くからナ!」
「ら、蘭ちゃん落ち着いて! ひゃんっ」
蘭が左手を滑らせ、ぽよんとした丸いもの二つに思いっきり顔を突っ込んでしまう。視界の中で舞い踊るようにぽよよん、ぽよよんとした丸いものの先がぷるるんと揺れる。
「ごめン! シティアごめン!」
「あ、あ! 動いちゃダメえ!」
 制服がショートパンツであることを恨みつつ感謝もして蘭は自分の太ももに挟まり乱れくるっているシティアの太ももを感じ、このまま身をゆだねるかそれとも動かしてよいものかと葛藤した末に混乱した。
 蘭が真っ赤になってぐるぐるした目で首を振れば、丸いものはその動きに合わせてすり寄ってくる。蘭はそのかわいさに消沈しそうになりながらも、再び襲い掛かって来た敵に反応する。
「ええい! 邪魔をするナァ!!」
 コノカとは、炎を操る者を指す。
 しかし。
 蘭は炎をコントロールする力を持つものの、今ここに炎は存在しない。蘭は長い脚から繰り出した物理的な暴力で化け物を吹っ飛ばした。
「蘭ちゃん凄い!」
 周りからも。
「敵襲だ!!」
「きゃああああ! 化け物!」
「化け物が出現した、合図はまだか!」
 ――などと言う声が聞こえてくる。蘭はこんなに人がいたのか……と頭の中の欲望でできた小さな自分を責め立てる。
「――こんな数、き、聞いてないよおお……っ!」
 と言う幸の声が近くで上がって、蘭とシティアは改めて現状を把握した。
 アリシアがくれた情報では、化け物は三匹程度いる、と言うことだったが。
「三十匹はいるゾ……! どうなっていル!」
「蘭ちゃん、火を付けるよ」
「ああ、頼ム!」
 シティアがレッグホルスターから取り出したのは、施設が独自に生産している専用のエアガン式の着火剤だ。引き金を引けば飛び出してくる豆粒程度の小さな機械から飛行中に特別製のガスが噴出し、外装がはがれ発火性のある特殊な混合物が現れ空気摩擦だけで火が付く。
 コノカたちはその小さな火を大きくしたり形を自由自在に操ったりして攻撃するが、火が地面や森に着き大惨事にならないように自分達でコントロールしなければならない。
 蘭が掌を下に、指先を揃えて、両手をバッと左右に広げれば、火が大きく広がる。
 蘭もシティアも授業で教えられた型を使って操り、化け物達にぶつけて攻撃していく。そうすると、周囲からも赤い炎が発生しているのが見え、他の生徒たちも応戦し始めたのだと分かる。
「クソがあああああああああああ!!」
 いきなり後方から叫び声が聞こえ、シティアは飛び上がって驚く。
 シティアは声がした方へ振り向き、戦慄した。
 他の化け物達に比べて倍以上ある巨体の化け物が大きな爪や異常な長さの触手を使って生徒達に襲いかかっていた。
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