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カナキリ
最終話 ※BLあり
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成は能力協会とは反対側のビル群からその様子を眺めていた。
彼女は戦場にまぎれ、多くのカナキリを相手にしたが、殺すことはしなかった。
あの美しい歌声を聞いてから、戦意喪失し、成は戦うこともやめてこのビルにやってきたのだ。
真黒はずっと敵と戦っていたが、アラントロルの存在にいち早く気づき撤退したようだ。
國哦伐家に協力を願ったのはこちらだ、彼が責められることはないだろう。
「天地くん……」
成は涙を流した。
自分の愚かさを噛み締めていた。
天地はやはりカナキリだったのだ。
だが、倒せはしない。
殺せはしない。
彼は友人だ。
もう友人は殺したくない。
何より彼が気付かせてくれた、
カナキリは弱くて、守らなければならない存在だ。
カナキリは人間だ。
恐ろしい化け物でも生きている。
それは自分とも同じ、命であって、許されるべき存在だと。
それでも成は、閻夏供家の使命に従わなくてはならない。
成は見ないふりをした。
知らないふりをした。
使命も家も放り出して、反対側にいる能力協会員達の元へ走った。
人間ではない、自分を保護してもらうために。
◇◇◇
ヒグナルは血液を垂れ流しながら、身体を半分にしながら、逃げ切っていた。
そこへ、三重芯守魔法を壊れる前に何度も貼り耐え凌いでいるジェキシインが現れた。
ヒグナルの頬に幾筋の涙が溢れる。血も止まらず溢れ続けた。
敵のボスであるヒグナルを捕獲しようとジェキシインが近寄ると、ヒグナルはジェキシインに抱き着いて、唇と唇を重ねた。
「な、何すんだ!」
ジェキシインは戸惑うが、ヒグナルはジェキシインに擦り寄った。もう感覚もないのか、朦朧としながら言った。
「あいた、かった」
ヒグナルは地面に倒れ込み、天地の叫びと共に身体を震わす。
「おい」
ジェキシインが屈むと、ヒグナルは彼の両頬を両手で包む。
ヒグナルは涙を流し続け、震える声で言った。
「思い出してくれ、頼むから。愛してるんだ。愛してるんだ……ルビー」
「おい、勝手に死ぬな。お前には話してもらうことがたくさんあるんだ。他の組織の情報とか、どうやってカナキリを洗脳してきたかとか」
「ルビー……」
「おいヒグナル!」
「ずっと、ずっと。君のことを。約束を、忘れたことなんか、一度も…………………………」
ヒグナルはもう、瀕死だった。それでもヒグナルは話すのをやめなかった。
最後の言葉だ。
「すま、ない。ら、ヴィ。すま、ない。あり、し」
「おい、おい」
ジェキシインはヒグナルの身体を揺する。
「なんで……なんでだ、なんでこんな。なんで急に、涙が――どうして。お前は一体なんなんだ。何がしたかったんだ。ルビーって誰だ」
ジェキシインは開かれたままの目を閉じずに、ヒグナルがしたようにその唇に唇を重ねた。
「死ぬな。死ぬなよ。頼む……」
ジェキシインはヒグナルを抱きしめて嗚咽を漏らす。
「ああ、あああああ。あああ」
◇◇◇
天地の嘆きは止まらなかった。
大切な家族の、母親の死だけではない。脳裏によぎる、昔の記憶。
目の前に降り注ぐ血液の一粒一粒を辿り、辿った先の苦しむ父の消滅する姿。
父を殺したカナキリ。
母を殺したカナキリ。
一緒だったんだ。
なのに、母さんは責めなかったばかりか、ずっと愛してくれたんだ。
幡多はその悲痛な叫びを聞き、「行く」と、聖唖に伝えた。
「守ってくれ。俺、助けるって約束したんだ」
「分かった。私も行こう。約束したからな」
聖唖が芯守魔法の、魔法陣を張る。それは億にも及ぶ層をなし、展開された。
黄でも緑でも、赤でも青でもない。
無色でもない。
白い魔法陣。
「お前、それ」
「ああ。青い魔法陣の正体が分かった。私も力が使えるらしい」
幡多は空に停滞する空中都市を見上げる。
美しい歌声は未だ空に響き渡っている。
聖唖が微笑んで言った。
「ありがたいな」
幡多と聖唖は天地を説得しに向かった。
「天地、天地!」
天地の叫び声で、幡多の声が届かない。
凄まじい力で身体を押される。それを聖唖が支えた。
聖唖はアラントロルの全力の叫び声でもまるでびくともしない。
「俺お前が怖い」
「支えないぞ?」
幡多と聖唖、天地の距離は5メートルまで近付いていた。
「お前ならできるって言っただろ」
幡多が行って、一歩一歩近づいていく。
「約束しただろう、天地くん」
「約束を守りにきたぜ」
天地の目の前に来て言った。
「「絶対助けてやる」」
聖唖は幡多ごと抱き締める。
聖唖の抱擁で天地の口が塞がり、泣き声は物理的に抑えられた。
幡多はそれを見て真顔になる。
それでも天地は自分の意志で声を抑えて、二人に縋りついてすすり泣く。幡多も聖唖も掛けるべき声がわからず、ただ黙ることしかできなかった。
戦争は終わった。
西暦三〇一四年七月二四日、現在。
鹿児島県さつま町は第四廃都市となった。
死者六八三五人。家屋全壊一八二〇五。消失四九〇〇。
傷者は来聖学園へ運ばれ、今もなお手当てを受けている。
カナキリは保護され、数が多いために教室なんてモノまで作って訓練を始めた。
姫存軍による協力で、洗脳された者も歌う者の力で助けているらしい。
人殺しであるカナキリたちは、能力協会の情報操作によって無傷で済んだ。代わりに彼らは人のように静かに暮らすか、自分たちと同じ種や、別の種、人間などを救うか、選択できた。
しかしこれは人間の知るところではない。
そんな能力協会で同じ境遇の者同士で心を癒し、彼らは傷をなめ合い生きることを望んだ。
黒髪の青年と、赤毛の青年が砂漠と化した街中を歩いていた。
風に砂が舞い、黒髪の少年は思わず顔を顰める。
「任務が入った。いくぞコウシくん」
「まだまだ追いつけませんね、あの人には」
「そうだな」
「頑張って追いつきましょう、波燐さん」
能力協会
最高機関特別司令部
特殊部隊〝エジェスタイム〟
3番隊隊長・野口波燐。
3番隊副隊長・天地コウシ。
同じ特殊部隊に入れたが、二人が聖唖に追いつくのはまだまだ先の話だ。
彼女は戦場にまぎれ、多くのカナキリを相手にしたが、殺すことはしなかった。
あの美しい歌声を聞いてから、戦意喪失し、成は戦うこともやめてこのビルにやってきたのだ。
真黒はずっと敵と戦っていたが、アラントロルの存在にいち早く気づき撤退したようだ。
國哦伐家に協力を願ったのはこちらだ、彼が責められることはないだろう。
「天地くん……」
成は涙を流した。
自分の愚かさを噛み締めていた。
天地はやはりカナキリだったのだ。
だが、倒せはしない。
殺せはしない。
彼は友人だ。
もう友人は殺したくない。
何より彼が気付かせてくれた、
カナキリは弱くて、守らなければならない存在だ。
カナキリは人間だ。
恐ろしい化け物でも生きている。
それは自分とも同じ、命であって、許されるべき存在だと。
それでも成は、閻夏供家の使命に従わなくてはならない。
成は見ないふりをした。
知らないふりをした。
使命も家も放り出して、反対側にいる能力協会員達の元へ走った。
人間ではない、自分を保護してもらうために。
◇◇◇
ヒグナルは血液を垂れ流しながら、身体を半分にしながら、逃げ切っていた。
そこへ、三重芯守魔法を壊れる前に何度も貼り耐え凌いでいるジェキシインが現れた。
ヒグナルの頬に幾筋の涙が溢れる。血も止まらず溢れ続けた。
敵のボスであるヒグナルを捕獲しようとジェキシインが近寄ると、ヒグナルはジェキシインに抱き着いて、唇と唇を重ねた。
「な、何すんだ!」
ジェキシインは戸惑うが、ヒグナルはジェキシインに擦り寄った。もう感覚もないのか、朦朧としながら言った。
「あいた、かった」
ヒグナルは地面に倒れ込み、天地の叫びと共に身体を震わす。
「おい」
ジェキシインが屈むと、ヒグナルは彼の両頬を両手で包む。
ヒグナルは涙を流し続け、震える声で言った。
「思い出してくれ、頼むから。愛してるんだ。愛してるんだ……ルビー」
「おい、勝手に死ぬな。お前には話してもらうことがたくさんあるんだ。他の組織の情報とか、どうやってカナキリを洗脳してきたかとか」
「ルビー……」
「おいヒグナル!」
「ずっと、ずっと。君のことを。約束を、忘れたことなんか、一度も…………………………」
ヒグナルはもう、瀕死だった。それでもヒグナルは話すのをやめなかった。
最後の言葉だ。
「すま、ない。ら、ヴィ。すま、ない。あり、し」
「おい、おい」
ジェキシインはヒグナルの身体を揺する。
「なんで……なんでだ、なんでこんな。なんで急に、涙が――どうして。お前は一体なんなんだ。何がしたかったんだ。ルビーって誰だ」
ジェキシインは開かれたままの目を閉じずに、ヒグナルがしたようにその唇に唇を重ねた。
「死ぬな。死ぬなよ。頼む……」
ジェキシインはヒグナルを抱きしめて嗚咽を漏らす。
「ああ、あああああ。あああ」
◇◇◇
天地の嘆きは止まらなかった。
大切な家族の、母親の死だけではない。脳裏によぎる、昔の記憶。
目の前に降り注ぐ血液の一粒一粒を辿り、辿った先の苦しむ父の消滅する姿。
父を殺したカナキリ。
母を殺したカナキリ。
一緒だったんだ。
なのに、母さんは責めなかったばかりか、ずっと愛してくれたんだ。
幡多はその悲痛な叫びを聞き、「行く」と、聖唖に伝えた。
「守ってくれ。俺、助けるって約束したんだ」
「分かった。私も行こう。約束したからな」
聖唖が芯守魔法の、魔法陣を張る。それは億にも及ぶ層をなし、展開された。
黄でも緑でも、赤でも青でもない。
無色でもない。
白い魔法陣。
「お前、それ」
「ああ。青い魔法陣の正体が分かった。私も力が使えるらしい」
幡多は空に停滞する空中都市を見上げる。
美しい歌声は未だ空に響き渡っている。
聖唖が微笑んで言った。
「ありがたいな」
幡多と聖唖は天地を説得しに向かった。
「天地、天地!」
天地の叫び声で、幡多の声が届かない。
凄まじい力で身体を押される。それを聖唖が支えた。
聖唖はアラントロルの全力の叫び声でもまるでびくともしない。
「俺お前が怖い」
「支えないぞ?」
幡多と聖唖、天地の距離は5メートルまで近付いていた。
「お前ならできるって言っただろ」
幡多が行って、一歩一歩近づいていく。
「約束しただろう、天地くん」
「約束を守りにきたぜ」
天地の目の前に来て言った。
「「絶対助けてやる」」
聖唖は幡多ごと抱き締める。
聖唖の抱擁で天地の口が塞がり、泣き声は物理的に抑えられた。
幡多はそれを見て真顔になる。
それでも天地は自分の意志で声を抑えて、二人に縋りついてすすり泣く。幡多も聖唖も掛けるべき声がわからず、ただ黙ることしかできなかった。
戦争は終わった。
西暦三〇一四年七月二四日、現在。
鹿児島県さつま町は第四廃都市となった。
死者六八三五人。家屋全壊一八二〇五。消失四九〇〇。
傷者は来聖学園へ運ばれ、今もなお手当てを受けている。
カナキリは保護され、数が多いために教室なんてモノまで作って訓練を始めた。
姫存軍による協力で、洗脳された者も歌う者の力で助けているらしい。
人殺しであるカナキリたちは、能力協会の情報操作によって無傷で済んだ。代わりに彼らは人のように静かに暮らすか、自分たちと同じ種や、別の種、人間などを救うか、選択できた。
しかしこれは人間の知るところではない。
そんな能力協会で同じ境遇の者同士で心を癒し、彼らは傷をなめ合い生きることを望んだ。
黒髪の青年と、赤毛の青年が砂漠と化した街中を歩いていた。
風に砂が舞い、黒髪の少年は思わず顔を顰める。
「任務が入った。いくぞコウシくん」
「まだまだ追いつけませんね、あの人には」
「そうだな」
「頑張って追いつきましょう、波燐さん」
能力協会
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