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祖母が死んだ
しおりを挟む祖母が死んだ。
風邪を拗らせた肺炎だった。
最後にお見舞いに行ったときは苦しそうに咳をしていた。
それからほどなくして、祖母は死んだ。
朝一番で母から連絡を受けて、会社に電話をする。
まだ働き始めて一年の会社は、世間で聞くような辛辣さはなく、あっさりと忌引き休暇に十日、必要があれば有給も取れと言ってくれた。
急いで地元に戻るため、すぐに準備をして電車に駆け込んだ。
いつもは気になって仕方ない前髪も、枝毛が多い長い後ろ髪も、今日は気にならなかった。
化粧なんか着いてからすればいいや、と思ったのに化粧品を忘れてきたことに気付いたのは電車に乗った後だった。
空はどんよりとした薄曇りで、季節の割に肌寒い。
灰色の空と同じように、世界色彩を無くして見えた。
がたんごとんと揺れる車内。
出勤より早い時間に出たのもあって、いつもよりがらんどうな客席は私の心の内なのかもしれない。
ぼーっと外を眺めてみると、ぽつりぽつりと祖母のことを思い出す。
とても元気な人だった。
夫である祖父に先立たれて早二十年。
友人は少ないが、一人で散歩するのが好きな人で毎日どこかに出掛けていると聞いた。
幼い頃の私は、よく祖母に手を引かれて散歩に付き合わされたものだった。
私がぐずり出すと「しようがない子ねえ」と言っておんぶや抱っこをして、そのまま散歩を続けるような人だった。
よく話を聞いてくれる人だった。
悩みや相談、愚痴はもちろん、どんなにくだらないことにだって、うんうんと聞いてくれる人だった。
親や友達に言えないことでもなんでも言えた。
母も、婿養子のはずの父ですら、祖母を頼って話をしにいくと聞いた。
祖母自身も話好きで、よく話をしてくれた。
人生の教訓めいた話から失敗した話や笑い話、時代の移り変わりや寝物語まで、大げさな演技でなんでも話してくれた。
博識な人だった。
勉強はもちろん、ものの考え方や人との関わり方、道徳や倫理、自分の在り方や生き方。
おしゃれの仕方や芸術の見方、献立から恋のテクニックまで、なんでも知っていた。
大事なことを当たり前のように大事にすることを、教えてくれた。
だから、私は幸せに過ごせている。
愛に溢れた人だった。
若いときは恋が多かったという。
それも今にしてみれば恋だったのかわからないものも多いと言っていた。
大人になった今なら、その時言っていたことが少しわかる気がする。
居場所を求めたり、愛多き人だったからその愛の行き場をなくしてしまったり、そんなことを言っていた。
家族愛も友愛も、恋人に向ける愛も、性愛も、人への愛のその本質は変わらないと、そんなことを言っていた。
これはいまだにちょっと私には難しい。
それでも、祖母の周りの人たちは、私も含めて愛されていると思うから、祖母はやっぱり愛に溢れた人だった。
私は、祖母から全部を教わった。
いつもあっけらかんとしていて、友人のように、親のように、姉妹のように、先生のように、そのどれでもないように接していてくれた祖母が死んだ。
駅に着くまでの間、私は少し泣いた。
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