幻界戦姫

忘草飛鳥

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35、ゴート

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 あまりゴートの下側から入り込むと上昇気流に吹き上げられた水滴が直に当たってずぶ濡れになるということで、私達は大分上空まで飛び上がってからゴートの中に突入した。
 入った時の感覚もしくは衝撃は恐らく生涯忘れないと思う。掃除機に吸い込まれる米粒の気持ちが分かったような気がし、入ってしばらくは絶叫系アトラクションに乗った時のように、
「きゃーっ」
 と絶叫した。
 でも不思議と人間は慣れる生き物だった。始めあれほど騒いでいたくせに数分もすると慣れて、確かに生身の体で上空まで吹き上がって行くという感覚は新鮮かつ刺激的だったけど、よく思えば私達は常に空を飛んでいたから、上に上がったくらいのことで興奮することでもないのではないかと思ってしまい、そう思うと次第にキャーキャー騒いでいる自分がバカみたいに思えてきた。
 すると次第に冷静になってきて、マルカと手を離したあとゴートの中でクルクル回りながら、
「でさー、うちの妹のどに菜っ葉つまらせて死にかけたことあってさー」
 という身内の笑い話を話せるほど状況に適応してしまった。
 でも、そのままクルクル回っていると気持ち悪くなってきた。
「うっ、ゲロ吐きそう」
 とマルカに言ったところで、
「あ、待って。もうちょっとで着くわよ。上に陸地が見える」
 と返されたから上を見ようとしたのだけど、どこが上だか分からなくて、
「ごめん、見えない。もう無理」
 と言ってそのあとマルカの近くでモザイクが必要になりそうなことをした。
「うぷええっ」
 と。そのあとフワッとした感覚が襲って来たから助かったと思ったのだけど、その途端私の体にゲル状の物がベチャッとくっ付く感触があった。何が起こったか分かったから、
「え、うわ、へ?」
 と間抜けな声を上げたところで、
「あ、ツバシ、飛んでっ」
 と言われたから、
「え、あ、うん」
 といつものように飛行した。恐る恐る服を見てみると、さっき口から吐き出した物が服に見事なまでに付着していた。
「何これ、最悪だぁ」
 と私が泣きそうな声でマルカにそう言うと、
「だ、大丈夫。私が水の魔法で洗い落としてあげるから。その前に」
 と返したマルカがそこで言葉を止め、下の方を指差した。
「やっと陸地に上がって来たからどこかに着地しましょう。安定した所の方が汚れも落としやすいから」
 とマルカに言われたから周囲を見回してみると、そこには私達が浮かんでいる所を囲むように草地が広がっていて、しかもその先には王都にも匹敵するほどの近代的な街並みが見えたのだった。
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