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書斎
しおりを挟む「……終わった。」
彼女は、原稿用紙から顔を離し、愛用の万年筆を机に置いた。
置きかたが悪かったのか、万年筆はコロコロとまっすぐ転がり、正面の壁にぶつかって止まった。それをぼんやり眺めたあと、彼女は、壁に飾られた一枚の絵に視線を移した。
幼いころ、保育園で描いたちょっと不思議な絵だ。そのころ繰り返し見た夢を絵にしたものだけれど、私は、あれを夢だと思っていない。
壁にかけてある、それと同じ絵を見つめる彼女の瞳も、私と同じ熱を持っている。きっと、彼女も同じことを考えているのだろう。
彼女は、机の上にある原稿用紙の束を持ち上げてトントンと揃え、再び机に置いた。その上に白紙の原稿用紙を一枚乗せて、ペン立てのサインペンを手に取って何かを書いたあと、机の上を整えて小さく笑った。そして、立ち上がってゆっくり回れ右をすると、私のすぐ横を通って階段を下りていった。
彼女を見送って部屋に入ると、まっすぐ机に向かった。
例の原稿用紙の束だ。
『逆さまの迷宮』 福子
私は、サインペンを取り出すと、彼女のペンネームの『子』以外の文字を塗りつぶした。そして、一番上にまっさらな原稿用紙を一枚乗せた。
原稿用紙の隣には、万年筆とインク瓶が置かれている。その前には、赤い携帯電話があった。私は、懐かしさで手に取った。
ああ、そうだ。この携帯電話で携帯小説を書いていたんだ。
私は、かつての相棒だった赤い携帯電話をペーパーウエイトのように、物語が綴られた原稿用紙の上に置いた。
椅子に腰かけ、近づいてきた白猫を抱き上げると、膝の上に乗せた。
彼は、そのエメラルドの瞳で私を見上げると、大きな欠伸をした。
机の引き出しを開けると、中には、そら豆の時計が描かれた素焼きのコースターが入っている。私は、それを見てふふっと笑った。
彼女はいつか、私の存在に気付くだろうか。きっと成長したあの子が、彼女に伝えてくれるだろう。
再会した、ヒマワリとトキワの力を借りて、世界の姿にたどり着いてくれるだろう。
私は、ひざの上の白い猫をそっとなでた。エメラルド色の瞳の猫は、ニャーと鳴いて床に下りると、ぐっと背伸びをした。その姿は、翼を大きく広げた彼を思い起こさせた。
鳩のプレゼントを探しに、もうじきあの子たちがここへ来る。
「さあ、私たちもここを出よう。」
私は、再び白猫を抱き上げ、書斎を後にした。
逆さまの迷宮 Fin
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