上 下
4 / 5

第2話 おっさん勇者、我慢の限界に達して創造神に物申す

しおりを挟む
 聖輝竜と別れてから、はや二十日間。エイラスは目立たない、顔の上半分を隠す仮面と茶色の使い古された感のある革鎧を着ながら南東へと進んでいた。

 世界に六つある大陸の中で、イアソニア大陸を南下している間、多くの盗賊を退治しては、その砦や廃村、廃墟などを寝泊りして過ごしてきた。

 飲料水などは魔法で水を出せるし、食料も魔法の携帯袋に大量に入れてあるのであと半年は、店で何も買わなくてもいい。

 魔法で水を出せるので風呂に入ろうと思えば入れるのだが、垢や汚れを消し去るクリーンの魔法を使えば、一瞬で消し去ることができるほど使っているので、特に問題はない。

 また盗賊達も攻撃魔法の練習にはうってつけだった。元・商人や冒険者、暗黒神の信者や汚職が発覚した役人などが追放されて、家からも追い出されて野盗の仲間になった、というパターンが圧倒的に多い。

 その為か辺境や田舎では倒しても、倒しても野盗や盗賊などが廃墟に出現する。

 それはまだいい。問題はそういう廃屋や廃村、廃墟などで寝ている内にエイラスは奇妙な夢を見るようになっていった。

 神々がそれぞれ作った小世界。創造神クリエ・ルスタには及ばないが光と闇。それぞれの属性の神々に夢の中に呼ばれては勧誘されるという毎日を送っていた。

 そしてそれを裏付けるかのように、エイラスが目覚めると枕元には1通の手紙が置かれているのだった。

 もちろん差出人は夢の中の聖域に招いた神だ。

 当然ながら断っているので手紙は全て魔法で燃やしてしまう。最初は真面目に目を通していたが、どうせ内容は夢の中で言っていた勧誘の内容と同じだったからだ。

 恐らく神々は単なる夢ではないという事を伝えたかったのだろう。

 だがエイラスが崇めるのは聖母竜・ホーリーマザードラゴンと創造神クリエ・ルスタのみだ。

 光と闇の神々はどちらも極端すぎる。

 元々は異世界から来た邪神の女王を退治した時に、彼女が滅びる間際にこの世界に混乱をもたらす為として、光の神々の影に力を注いで生まれたのが暗黒神。

 すなわち闇の神々である。

 光の神々が秩序と正義による平和を掲げているのなら、影である闇の神々こと暗黒神は欲望と混沌を司っているので、どちらもエイラスは好きではなかった。

 法と秩序の神のロウリスが夢の中に現れたら、次は彼の影の自由を司る女神アノンティが勧誘してくる。

 愛の女神マフィーラが次の日に夢の中に出てきたら、その次の日は盲愛や偏愛を司るダニラーナという暗黒の女神が現れるといった具合に、この20日の間はエイラスは心身共に疲れていた。

 「おはよう勇者様。いやドラゴン・ブレイカー殿」

 しかも起きると自称・妖魔の王子というヴェスキンという美青年が部屋の戸口に立って、腕を組みながらニヤニヤと笑って、エイラスにおはようの挨拶をしてくるのだ。

 白金色といえばいいのだろうか。ただの金髪ではなく、薄い金色のその髪は長く、遠くからヴェスキンを見たら女性だと勘違いする者がいてもおかしくないかもしれない。それほどまでにこの青年は美しい。紫色の瞳とよく似あっている。

 似合っているのだが、ここまで調和がとれているとヴェスキンとかいう魔王子がエイラスの知っている生まれ方をしたのではなく、超一流の職人によって造られたんじゃないのかという考えも浮かんできてしまう。

 いかにも上位の貴族が着ているかのような豪奢な白づくめの服。さらにその上を紫のマントを装備しているこの青年は、いやらしいほど似あっている。本当に不細工な顔の男共が彼を見たら嫉妬のあまり、憤死しかねないほどの美しさだ。

 彼は魔族だが異世界から来た魔族であって、ここの世界の魔族とは違って神々に近い存在らしい。魔王子というから魔王の関係者ではないかとエイラスは思ったが、どうもそうではないようで、敵意や悪意は全く感じられないので放っておくことにしている。

 どうしてここにいるのかというと、神々のうちで誰かが抜け駆けでエイラスを拉致しない為の監視人ということだった。単にドラゴンを倒しただけでなく、魔王退治までしたエイラスは人の形をしたダイヤモンドのように見えるらしい。

 つまりエイラスを側に置いて重鎮として扱うだけで、神々の格が上がるらしい。ちょうど貴族や王族が大粒の珍しい宝石を手にするのと同じだろう、と彼は思っている。

 この妖魔の王子も頼んでいないのに御苦労なことだと心中で文句を言いながらエイラスは起きて収納袋から出した洗面器に水を魔法で創って、顔を洗っていく。

 服は着たまま寝ている。戸口には鍵をかけて封印の魔法をかけて扉を破壊しない限りは室内に入れないし、ここは廃墟の奥深くだ。

 それでも寝ている間に襲われるかもしれない。幸いここは南国に近いので毛布なしで寝ても風邪をひくことはないのだが、こうも毎晩のように神々が代わる代わる夢の中に現れては勧誘してくるので、エイラスは体調を崩さないように薬効成分は高いが、味はすごぶる苦くて嫌なお客を追い返す時以外には使えない、薬湯を毎日飲まなければいけなかった。

 旅の途中で薬草を摘んでいる間に、白いネズミと知り合ってペットにしていなかったら、もっと早い時期に暴れていたかもしれない。

 白いネズミは非常に珍しい。しかも見た目とは裏腹に言葉こそ喋れないものの、エイラスの言葉をきちんと理解しているようだった。

 エイラスが毒のあるキノコを間違って採ってきた時は、素早く前足でどかして遠ざける。

 逆に薬効のある薬草やキノコは1箇所に集めるなど、見た目は白いネズミなのに、その小さな体とは裏腹にかなりの知性をもっているようだった。

 「チュチュ?」

 と、エイラスの右肩に乗って気を遣うように語り掛けてくる白ネズミ。

 「ああ…大丈夫だ。今はな。お前に気を遣わせるほどじゃないよ、ピリル。しかしここは遺跡なのか? 随分と薬草が多く茂っているから奥まで足を踏み込んでしまったが…」

 「ここは大昔の10大神を崇める神殿だった場所だよ。もっともドラゴンの攻撃でボロボロにされた挙句、魔族の侵攻で遺跡になってしまったけれどね」

 と、エイラスと肩に乗ったピリルと名付けられた白ネズミを興味深そうに魔王子は見つめている。

 何だか珍妙な生物を見ているようで、エイラスは不快だった。

 それはピリルも同じようで、魔王子ヴェスキンに対して全身の毛を逆立てて威嚇している。

 「これはまたそこのネズミさんには随分と嫌われたものだね。奥には罠は多少あるけど、盗賊もいない。最深部には10大神の彫像があるから、この際行ってお参りしてきたらどうかな?」

 と、ヴェスキンは苦笑を浮かべながらエイラスと肩に乗ったピリルを見つめている。

 罠じゃないかと思ったが、それならそれで片っ端から破壊するまでだ。敵が出てきたのなら倒せばいい。

 脳筋であるエイラスは扉の封印を解除すると、早足でドアを開けて奥まで進んでいった。

 通路の壁に備え付けられている蝋燭立てにはところどころにロウソクがあり、火がついていた。どう見ても燃え尽きているはずなのに、新品の蝋燭になっている。

 「転んだりして怪我をしたらつまらないからね。君が眠っている間に私が眷属を使って新しい蝋燭に変えておいたよ」

 と、背後からゆっくりと腕を組みながらエイラスの後をついてくる魔王子。その気取った仕草もさりながら、余裕のある口調は今のエイラスの神経を逆撫でするには十分なものだった。

 元々エイラスはドラゴン・ブレイカーであって普通の人間よりも優れているので照明などなくても自由に動けるようにあの老人夫婦から訓練されている。

 だが確かに明かりがあった方がいいに越したことはない。この青年の言うことは完全に信用できないし、彼も万能ではないので伏兵が潜んでいた事を考えると戦闘に没頭するあまりに足をすくわれないとも限らないからだ。

 さすがのエイラスも怪物と戦いながら罠を回避するのは難しい。これが外ならともかく、屋内なら尚更だ。

 背後からゆっくりと付いてくる美青年は無視して、そのまま足早に進んでいく。

 歩き続けていると、壊れた扉や家具が散乱している通路や部屋を通り抜けていく。

 そして終着地点に着いたのはそれから2分ほど後だった。罠もあったが、大したことはなくて力づくで破壊できるタイプのものだった。早足で進んでいなければもっとかかったかもしれない。

 終点は聖堂ともいうべき空間で、幸いなことに十大神の彫像はどれもほとんど無傷だった。

 ここが使われなくなってかなり時間が経っているのに、どの彫像もほこりが全く積もっていない。

 「やっぱりここは無事だったみたいだねぇ。それで? 君はここで神様達にどんなお願いをするのかな?」

 「それはお前さんの理由によるな。他の神々に抜け駆けされて俺が拉致されない為の監視人だと、さっき言っていたが…。その神々の手先は今も近くにいるのか?」

 「そうだよ。君には見えていないようだから見せてあげよう。ほら…あそこに隠れてこっちを見ている。あれは自由の女神の眷属だね。あっちは…怠惰の神ポロンキアの眷属かな。私がいなかったらあいつらに連れられていたかもしれないね。暗黒神は気が短いのが多いからね」

 よく見ると、今まで歩いてきた通路の先に半透明の一つ目の手足の生えた蛇が直立してこっちの様子を伺っている。

 エイラスが見るとすぐに姿を隠してしまった。他に聖堂の隅には四本腕の小柄なガーゴイルのような魔物が道具入れの箱の陰からそっとエイラス達を見ている。

 それで神々の干渉は自分を拉致しようとするまでに来たのかとわかり、とうとうエイラスは最高神にして創造神の
クリエ・ルスタに指を突き付けて叫んだ。

 「創造神よ! 俺が今、どんな状況になっているのかあなたは知っているはずだ! これ以上、俺に干渉するのならもう、俺はドラゴン・ブレイカーとしての使命を、そして魔族退治の勇者としての使命も放棄する! ただ手紙や夢の中で勧誘されるのも迷惑だというのに、今度は眷属を使って強引に拉致しようとしているだと!? そんな迷惑な行為は断然、お断りだ!」

 肩の上でネズミのピリルもそうだそうだ! といわんばかりに首を大きく縦に振っている。

 「幸いなことにここにいる妖魔の王子とやらが俺を監視しているお陰で拉致されなくて済んだが…。今後はもう、俺に関わらないでほしい。20代の時はドラゴンとその亜種や眷属の退治で忙しかったんだ。そろそろ解放してくれてもいいんじゃないか?

 それでなくてもドラゴンは頭がいいので裏で魔族と手を組んでいる可能性もあり、その調査に乗り出さなくてはいけないのに、あんた達神々のお節介のせいでその任務をこなすことができないのでは本末転倒だ! だからクリエ・ルスタよ! もうこれ以上は神々の干渉をしないように光明神と暗黒神に厳命してほしい。

 それが不可能なら、俺を守るアイテムか何かを作ってほしい。このままでは日常生活もまともに送れないのだから俺が倒れたり、魔法が暴走したらドラゴンや魔族退治どころじゃなくなる。周囲にいる罪のない人々を巻き添えにしてしまうことになってしまうぞ! それでもいいのか!?」

 このままでは本当におかしくなってしまうから、何とかしてくれ! というエイラスの叫びに呼応したのか、右端に立つクリエ・ルスタの彫像がうっすらと金色に輝き始めた。

 『我が最愛の息子エイラスよ。そなたの嘆願、たしかに聞き入れた。しかし光明神はともかく、暗黒神は頑固な者が多い上に儂が言っても聞かぬ者が多いでな…。

 そこでじゃ。お前に守護者を付けてやろうと思う。お前も人間を苦しめるのを楽しむ性悪なドラゴンを退治するのに従者や傭兵を戦いに巻き込まないために彼等を雇わずに、ずっと一人で戦ってきた。今後は魔族との戦いもしなくてはならん。

 魔族は狡猾じゃから卑怯な方法を平気でとってくる。ドラゴンのように一対一の戦いではなく、レッサードラゴンやドラゴンスレイブのような力任せの戦法に慣れたお前では荷が重い。これからは複数の魔族との戦いになるじゃろう。

 そうなるといかにお前でも苦戦するのは必至。その意味でもお前を守り、神々の干渉を退ける守護者を創ってやろうではないか。幸いなことにちょうどいい適任者がおるでな』

 ちら、とクリエ・ルスタの彫像が肩の上のピリルを見たような気がした。

 それはエイラスの気のせいではないようで、え? 私でチュか? といわんばかりのピリムは大きな黒い目を大きく見開いている。

 『そこの白いネズミ。お前をエイラスの守護者にしてやろう。案ずることはない。光明神と暗黒神の欠片をそれぞれ注いでやるだけじゃ。もともと白いネズミは英雄の手助けをする為に創造されたものじゃからな。エイラスがお前を気に入ったのも英雄とその手助けをする存在として無意識に察知したのかもしれんな』

 創造神はのんびりとそんな事を言っているが、十大神の彫像とその陰から光と闇の鱗粉としか言いようがないものが聖堂中に発散されていく。

 「チュ? チュチュ!?」

 怯えている、というよりも何が起きているのかわからないといった顔で当惑しているピリル。

 エイラスも初めてみる現象に声を発することもできずにただ十大神の彫像を見つめている事しかできなかった。

 それは生物がもつ本能に囁きかけるものだった。ある者は恐怖。ある者は畏怖と言うのかもしれない。

 うかつに動けば自分だけでなくピリルや背後にいる魔王子も危ない。それは相変わらず腕を組んで面白そうにこの状況を見ている美青年だが、彼にも全てを理解しているとは思えなかった。

 そして白い光と黒い光、としか表現できないものが肩の上の白いネズミに注ぎ込まれていく。

 それはほんの一瞬の出来事だったが、エイラスには何故か長く感じられた。

 光と闇。両方の力を注ぎ込まれた白いネズミは急に重くなり、当のピリルもわかっていないようで、そのままエイラスの肩から落下した。

 ドサッ…と音がする。エイラスが足元に目を向けると、そこには全長120センチほどの白いネズミの獣人が上体を起こして片目を瞑って痛そうに腰や足を撫でている姿が見えた。

 「あ~イタタタ。せめて地面の上に下してから力を注いでほしかったですねぇ」

 と、ネズミの獣人は立ち上がると、やぁ! と言わんばかりに片手を上げてエイラスに挨拶した。

 「初めましてご主人様! 私はあなたが名付けてくれたネズミのピリルといいます! 今の私は暗黒神と光明神の干渉からあなたを守り、そして魔族、ドラゴン、その他敵対する者から守る守護者として生まれ変わりました! どうか今後ともよろしくお願いします!」

 元気一杯のピリルにエイラスは従者兼守護者のネズミ型獣人をまじまじと見つめていた。

 貴族の侍従が着ている物より劣るが、間違いなく襟つきの白いシャツにサスペンダーのついた薄茶色のズボンと青い靴。

 かわいい。その姿はまさに生きたぬいぐるみそのものだった。ふわふわした白い体毛は柔らかくて撫でる者を癒す効果があるに違いない。

 ピリルの差し出した手を握り返したエイラスはそのまま肉球を押してやりたい衝動に駆られたが、どうにか自制することができ、改めて従者となった白いネズミの獣人をまじまじと見てみる。

 やはりかわいい。とくにその目。げっ歯類らしく白目がなくて黒のみの目だが、つぶらな瞳という表現がピッタリのその目は愛らしくてかわいらしさに拍車をかけている。

 事実、しゃがんでピリムの頭を撫でるとふわふわのモコモコで、軽く撫でただけでも気持ちいい。

 「あの~。御主人様。撫でるのはいいんですけど、ちょっと長すぎないですか? あまり撫ですぎると頭の毛が抜け落ちてハゲるのでそろそろやめてもらいたいんですが…」

 と、ピリルが申し訳なさそうに言うと、エイラスは立ち上がり手を伸ばして握手を眼下の従者にして守護者の獣人に求めた。

 「俺は家来や部下が欲しかったわけじゃない。従者として働いてもらいたいけど、もっと砕けた言葉で話してもらえないか? ええと…つまり。家族。そうだな、家族として振る舞ってほしい。俺は結構ズボラだから、言いたい時に遠慮なく言ってほしいんだ。だから敬語は不要だ。俺の事は呼び捨てで構わないよ」

 まさかそこまでするとは思わなかったのだろう。ネズミの獣人は地面を見て10秒ほど考えていたが、顔を上げて毛並みの乱れた頭を撫でながら笑顔で返答した。

 「わかったっス。でもあっしは従者だからあなたを呼び捨てにするのは不敬に当たるっス。だからこれからはあなたの事はご主人、と呼ばせてもらうっス。それでいいっスか?」

 「ああ。それで頼むよ。それじゃ部屋の中に戻ろうか。魔王子とやらも一緒にお茶でも飲んでいかないか?」

 新たにできた主従を面白そうに見ていた魔王子は、一瞬だが当惑した顔になった。
 
 それも次の瞬間にはまた人を小馬鹿にしたようなニヤニヤした顔になる。

 「いやいや。新たな守護者が出来たことだし、私はこの辺で帰ることにするよ。それではピリル君。ちゃんと君の御主人を守ってあげるんだよ? ただしやりすぎたらエイラスから引かれて主従の関係がぎこちなくなるからね。なにごともほどほどに、だよ?」

 そう言いながらピリルの頭を3回ほど撫でると、彼は扉の方に向き直ると同時に消えてしまった。

 「なんなんスかね。あの人…。かなり強い力をもっているようで不気味な存在っス。御主人もあの人の事は完全に信用しない方がいいっスよ」

 「そうだな。まあ悪い奴じゃないし、今は敵じゃないのは何となくわかるさ。それじゃ部屋まで戻ろうか」

 「はいっス。それじゃあっしは影の中に入って敵の攻撃に備えるっス」

 「そんな事ができるのか? さすがはピリルだな!」

 「いや…あの。今のあっしは光と闇の両方をある程度操れるっスから、そんなに褒めるほどじゃないっス」

 と、影の中から照れて両手で顔を隠しているのが主のエイラスには伝わってきた。

 (かわいいなぁ…ピリル。これはぜひとも寝る時にも抱き枕にしなければ!)

 と、自分の主がモフラー(毛深い獣人をモフモフする人間の事)になっている事に気づかないピリルはそのまま影の中に入ったまま、部屋に戻るまで両手で顔を隠したままだった。

 部屋に帰るまでの間、ピリルは早速働いてくれた。通路の奥にいる暗黒神の眷属を光る盾を出現させて、その盾をぶつけて眷属達を吹き飛ばして、自分達の所に近寄らせようとしなかったのである。

 「今回は追い払うだけで許してあげるっス。でもあっしがいる以上、ご主人様には指一本触れさせないっス。わかったらとっととお前らの主人の元に帰って手出しするだけ無駄だということを伝えるっス!」

 つぶらな目を三角にして周囲にいる半透明の暗黒神の眷属達を睨んで宣言するピリル。

 エイラスとピリルの周囲は大型のタワーシールドが八つほど宙に浮いており、とてもエイラスを拉致するどころではなかった。

 恐れをなしたのか、半透明の眷属達はほぼ同時に姿を消した。

 そしてその日の夜からはもう夢の中に招待されることも、手紙がいつのまにか枕元に出現するということもなく、エイラスはやっと平凡な日常を手にすることができたのだった。

しおりを挟む

処理中です...