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3章 活躍する坊主

第119話 ごり押しの帰還方法

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 口元に柔らかい感触を感じて目を覚ました。目を開けると嬉しそうなエリスの顔があった。
「おはようございます。」
 エリスがにこりと笑って挨拶をしてくる。
「おはよう、朝から元気だな。」
 何時もの様に挨拶を返す。
「おはようございます、さあ、ご飯食べてさっさと帰りますよ。」
 灯も既に起きて待ち構えていた。
「はいよ。」
 さっさと起きろということなので、起き上がろうと体を動かし。
 ギシリ
 筋肉痛の嫌な感触がした、動きが悪い、動くと痛いが、無理矢理起き上がろうとする。
「流石に動き悪いですね、エリスちゃん、回復かけてみてください。」
 灯には言い訳する隙も無くバレたらしい、痩せ我慢をする余裕も無い、この二人相手にはサトラレ状態なのでそんな必要も無いが。
「了解です。」
 エリスに回復魔法をかけられ、改めて起き上がる、朝から情けないが、二人と違って加護による回復能力の常時強化は付いていないので、しょうがないと言う事にする。
「ありがとう、助かった。」
 お礼にエリスの頭を撫でて起き上がる。筋肉痛も回復魔法で治せるらしい。
「二人は大丈夫なのか?」
「一晩眠ったらすっきりですよ。」
「同じく。」
「これが若さか・・・」
 歳食った者と若い者のお約束の問答をする、意味は無いが、コミュニケーションの一環である。

「足早い仏様の真言とかあります?」
 灯が真言ドーピングを要求してきた、それ自体は大丈夫なのだが、安全確保がシビアになるので色々考えなくてはならない。
「韋駄天の真言が有るからそれで、でも、今走る場合、安全確保の為に変な恰好する羽目になるから走る前に説明するな。」
「そんな物あるんです?」
「昨日はゴブリンの群れが腐るほど出たからな、トラップ残してる可能性が有る、上から落ちてくる系は走り抜ければ良い訳だが、単純で怖いのがワイヤートラップ、足元とか転ぶ様に低い所に縄が貼ってある奴と首のあたりに仕掛けてある即死系、歩いてる時は速度出てないし、注意するから大丈夫だけど、走って速度乗ってると引っかかったり転んだ時にエライ事になる、だから走るならこう言う体勢で、武器を前に構えて走る事に成る。」
 武器の刃の部分を下段に構えて足元を防御する、出来れば首にも引っかからないようにしたいが、かなり無理矢理な体勢で走る事に成るので完全ガードは諦める、切断出来るLVの丈夫で細い紐を使ってないことを祈る、装備品としてはエリスの持っている長巻は長さ的に丁度良い、重いのは諦める方向で、奴らが重量物を使ったくくり罠を使用しないことを前提とした希望的観測と、即死しなければ掠り傷理論も含まれる。
「そして2人が前でそれぞれ足元に刃先構えるのと首元のラインをガードするために編隊組んで走る、一人で上も下も両方ガードするには無理があるから。後ろが二人を風除けに休憩する形になるから、順次交代で。」
「なるほど、こう言う体勢ですね?」
 灯が斧を構える。
「流石にその斧は重いから予備用のこの刀構えて・・・」
 武器屋で追加注文しておいた、特注の折り返し鍛錬した日本刀を持たせる、両刃では引っ掛かった時に斬れなかった場合危険すぎる。
「それと、茂みとかは怪しいから極力踏みつけたり、力押しで突っ切ったりしないように注意な。」
「了解です。」

「さてと、それじゃあ行きますよ。」
 やsる気満々という様子の灯と。
「準備完了です。」
 同じく何の不安も無いと言う様子のエリスが走る準備を整えた。
「オン イダテイタ モコテイタ ソワカ」
 韋駄天の真言で足を速くする。
 こうして、韋駄天と鬼子母神の加護をフルに活用した酷く力押しな帰還作戦が発動した。

 結果として、ほぼ休憩なしで、スリップストリーム休憩を活用すると言う、自転車の集団走行のような極めて無理矢理な走行プランによって、徒歩1日程の距離を2・3時間で走破すると言う強行軍で村まで帰還した。

 実際、足元の防御は取り越し苦労では無かったらしく、何か所か足元に構えた刃に引っかかった縄が斬れて行った。

 途中で遠目にすれ違った深紅の翼のメンバーが呆れ返った様子で。
「無駄足か馬鹿野郎!」
 と、心底からの大笑いと怒鳴り声と共に手を振っていた。
 救助隊だったのだろうか?
 それだったら少し悪い事をしたが、今足を止めると乗った速度が勿体無かった為、そのまま通り過ぎた。
「すいません~!」
 取り合えず手を振り、大声で謝罪しつつである。

 余談として、余談として、門まで来てやっと九字切り結界をほったらかしだったことを思い出し、指を鳴らして結界を収めた、門に居る見張りの職員に帰還報告をして、ギルドに寄らずに帰宅した時点で連日の無理が祟り、ベッドに倒れこんだ。回復魔法では筋肉痛は誤魔化せても、その他の疲労は誤魔化せ無かったらしい。当然だが、回復が一番遅かったのが俺だったのは補足するまでも無いお約束である。

 クマ視点
「生きてたな。」
 一同の顔にそりゃそうだなあと言う様子の安心を含んだ苦笑いが広がる。
 朝一で集合、ゴブリンの痕跡を追って罠と、待ち構えるゴブリンを処理して回っていたが、公然の秘密となっている隠し第一目標が、自力で帰還できる様子で駆け抜けて行った。
「予定調和の無駄足でしたね。」
 予想通りだが、実際にあの元気すぎる無事を確認すると、心配していた自分が馬鹿らしくなるが、大山鳴動して鼠一匹、あいつ等が無事なら何の問題も無い、後で一方的にでも恩を着せれば返してくれるだろう。
 しかし、あの速度でゴブリンが仕掛けた罠だらけの森の中を走って無事だったのだろうか?
 それぞれ武器を構えたままだったので、もしかするとアレを防御体制として力押しで突破して来たと言うオチだろうか?
「まあ、隠しの第一目標が済んだだけだ、表の目標、残党狩りの仕事は申し訳程度に継続だ、程よく狩ったら帰還するぞ、酒盛りだ!」
「あいさー。」
 一同笑いながら賛成してくれた、これで安心して酒も飲めるし休める、無事帰還したらギルドに報告入れて酒盛りして寝るとしよう。
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