異世界坊主の成り上がり

峯松めだか(旧かぐつち)

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4章 助けた少女とその後

第148話 硝子屋のボヤキ

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「しかしこれ、如何してくれよう・・・」
 和尚と呼ばれる冒険者が店に持ち込んだ配合レシピと融解温度、加工温度の書き込まれた紙を難しい顔で睨みつける。
 物自体が難しい訳では無い、レシピは極めて簡単な物だ、ありふれた金属、鉛の灰をガラスを溶かす際に混ぜて使う、この間まで化粧品、ご婦人方の白粉にも使われて居た物がガラスの加工にも使えると、要約してしまうと只それだけだ、其れだけなのだが・・・
「どうしたの?」
 妻が難しい顔をしている自分に声をかけて来た、困った時には事情を知らない人間に話すだけ話して見るのが一番だ、職人の決まりは分かって居るので外に漏らす事は無いだろう。
「どこぞの貴族様が抱え込んでるガラス工房が必死になって隠してそうな配合票が手に入った、このまま使うかどうか迷ってる。」
 使う事は簡単なのだ、この程度再現できずに困る事も無い。
「使い方難しいの?」
「いんや、簡単だ、温度も材料も俺に取っては難しい要素は無い。」
「じゃあ何で?」
「どこぞのお偉い貴族のお抱え工房が必死に隠してそうな物だ、ガラスの透明度を上げる方法は、何処でも必死になって探して試し、隠してる物だからな、下手に情報が漏れると色々面倒事に成る気もする。」
「じゃあ捨てるの?」
「捨てる訳にも行かんだろう勿体無い、下手すりゃこの配合表だけで大金貨が動くぞ。」
 金貨一枚と言う金で譲り受けたが、王都の大商人に流せば最低でも10倍は堅いと思われる、今の自分には金貨一枚でも十分大金だったが・・・
「じゃあ売るの?」
「ここ等に来るような物好きな行商人じゃ価値も判らんだろう。買い叩かれるのがオチだ。」
「じゃあ使いなよ、勿体ない。」
「結局そう成るな・・・」
「領主様に献上品として完成品渡して、いざと言う時に助けてもらえるよう根回ししときなよ。」
「それぐらいしかないな。」
 あの領主は賄賂で転ぶ性質では無いが、実際これしか方法が無い。

 後日、ギルドで働く領主の元に水晶の様に透き通ったガラス細工が納品された。感心すると同時に、レシピと出所を聞かれたが、こう言った他の客の秘密を漏らすようでは職人としても商人としても失格だ、レシピは兎も角、自分で開発したと言って誤魔化した。

 ギルマス視点
「さあて、犯人は、多分あいつだが・・・」
 脳裏に何時もの剃髪頭の和尚の顔が浮かぶ。思わずため息が出た。
 納品されたガラス細工は、今までのガラスに無数に入って居た気泡と、全体的に緑がかって居た色が灰色に近い無色透明に成って居る、比べてしまうと一目瞭然の凄まじい技術だった。
「と言うか、多分私のこれ作った時のレシピですし。」
 アカデが最近大事そうに使って居る顕微鏡と言う物を掲げる、遠くを見る望遠鏡と言う物は高級品で、昔からあったが、逆に近くを大きく見ると言う意味の必要性が判らず、事有る毎に構えて覗き込む意味が解らなかったが、実際見せてもらうと、成程と感心した。
「どっかの工房やら領主がうちの領地から盗まれたとか言い出した時に便宜を図ってくれって所だろう。」
 機密の類にもなるが、この間身内扱いに成ってしまったので、多少は漏らしてしまっても良いだろう。
「具体的には何処の領地です?」
「恐らくブレイン領か?この間フラワーとか言ってた馬鹿の実家だ・・・」
「ガラスの産地でしたっけ?」
「いんや、正確には鉛の産地だ、でっかい鉱山持ってたはずだが・・・・其のせいか・・・」
 変な所で繋がってしまった。
「この間家に来た情報通に、物のついでとして聞いた王都の状況で、しばらく前に、見事に透明なガラスの食器が献上されたと話題に成ったらしい、其れで話題に成ってのし上がったんだとさ・・・」
「食器?」
 アカデの顔が訝しげだ。
「どうした?」
「このガラス、鉛混ぜて有るから、食器だと、溶けだして毒に成るって・・・」
 変な爆弾が勝手に爆発した・・・
「・・・・」
「大丈夫でしょうか?」
「俺の知った事じゃねえ・・・」
 思わずぶん投げたくなるが・・・
「役人にそれとなく知らせとくか・・・」
「其れが良いと思いますよ?」

 後日
「あの人、此処に押し込んどいて正解ですね?」
 役人が片手で頭を抱えてこめかみをつつきながら呟いた。
「この方向でやらかされるとは思いませんでした・・・」
 只強くて世渡りが上手いだけなのかと思ったが、予想外の方向にも理解があったらしい。
「予想外の知識も有ると言う意味を甘くて見ましたね。」
「すいません・・・」
 思わず謝る。
「毒物の規制で少し動くだけです。それと、領主がそんなに軽々しく頭を下げる物では無いです、私でなければ付け込まれますよ。」
 前回異様な殺気を放っていたが、今は穏やかな物だ、本当にこの人の雰囲気は読み切れない。
 領主として王国の歯車に組まれてしまったせいもあって、正直苦手なのだが。
「具体的にはどうなるのでしょう?」
「献上されている水晶硝子の器を調べて、鉛が溶け出すような物だった場合は、ちょっと面白い事に成るかも知れませんね?」
 役人が目を細めてクククと笑う、こうしてみるとキツネっぽい。
「貴方に直接影響は無いと思いますが、王侯貴族の力関係が多少動くかもしれませんね。」
「正直関わり合いたくありませんね・・・」
 心底思う、冒険者上がりの新興貴族では、中央の陰険な権力争いは意味が解らない。
「この土地は他の土地と違って自給自足できますからね、貴方はそれでよいです。」
 この土地は鉱山資源も森の恵みもある程度有るのだ、魔の森の魔物や獣で肥料や食料には困らない、交易で儲けるには辺境過ぎるが、この領地単品で生き残る分には其処まで物資は不足しないのだ、大量発生の襲撃は怖いが、現状あれが居る限りは大丈夫な様な気もして来た。主戦力が娘と入り婿達だけと言うのは問題なので後々どうにかしなくてはいけないが、継がせる場合も主戦力が領主で戦闘中に行方不明では如何にも成らないので、育ててもらわないといけないかもしれない。
「あの人の手綱は握って置いて下さいね?」
 役人は何とも言えない表情をしている、あの時すっかり空気を塗り替えられ、飲まれてしまったので苦手としているらしい。
「其れは気を付けて居ますが、まあ、特注で物作るぐらい普通ですからね。」
「普通の其れだけでこうして役人である私が動く騒ぎに成るんですから、大物ですね・・・」
 二人で揃ってため息を付いて、お互いに顔を見合わせ、苦笑いを浮かべた。
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