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ウラ
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結局、彼女の死に目には間に合わなかった。
だが、実は彼にとって、生死の境は曖昧である。
彼女の部屋に入ると、彼女は生前よりも生き生きとした姿で、自分の死体の上に座っていた。
『彼とは仲直りできた?』
それが彼を見た、彼女の第一声だった。
「どうかな」
力なく彼は笑った。
「俺のことより……あんたは? これからどうする?」
『今でも、私を食べる気はないの?』
楽しげに彼女が問い返す。
彼は苦笑したが、はっきりとうなずいた。
『じゃあ、ここにいてもしょうがないわね。私、行かなくちゃ』
「もう、この世界に未練はないのか?」
――アア、マタ自分ハ一人ニナル。
『不思議ね。こうなる前は未練だらけだったんだけど。今は何だか、すごくさっぱりした気分。そりゃ、あんたのことは心配だけど、あんたにはあの彼がいるし』
――アア、マタ人間ハ、自分ヲ置イテ逝ク。
「そうだな。……じゃ、また」
いつものように、彼はそう別れを告げた。
転生は存在する。しかし、たとえ彼女がこの世に生まれ変わってきても、その彼女は今の彼女と同一ではない。
だから、これは実質、永遠の別れ。
『うん、また』
きっと、人間たちもそうと知っている。だが、みな笑顔で彼に手を振って――
消えていく。
あとに残されたのは、彼と、魂の抜けた彼女の体だけ。
確かに、人間の死はもう見送り慣れている。
しかし、今回は何かがおかしい。
痩せ衰えた彼女の顔を見ても、何の感傷も起こらない。
彼女の死体を、寝台ごと右手の白い炎で消し去る行為でさえ、彼は眉一つ動かすことなくやってのけた。
――ふと。
まだ夜の明けない窓の外に目をやって、今度の新月はいつだろうと考えた。
そして、すぐにそんな自分に気がついて、かつてないほど自分を嫌い、自分を憎んだ。
――アア、俺ハ、アノ魔物ヲ利用シヨウトシテイル――
魔物の愛情につけこんで、もう一人になりたくないから、自分を置いて死なれたくないから、それだけの理由で、魔物を受け入れようとしている――
その夜。
彼は初めて自分から魔物を呼び出した。
きっと、これが最初で最後。
何も言わずに消え去ることもできたけれど。
せめて魔物に真実を告げてからにしたかった。
でも。
これだけは言わない。言ってはならない。
――もしもあのとき、もう一度『愛している』と言ってくれていたら、俺もおまえを愛せたのに。
―了―
だが、実は彼にとって、生死の境は曖昧である。
彼女の部屋に入ると、彼女は生前よりも生き生きとした姿で、自分の死体の上に座っていた。
『彼とは仲直りできた?』
それが彼を見た、彼女の第一声だった。
「どうかな」
力なく彼は笑った。
「俺のことより……あんたは? これからどうする?」
『今でも、私を食べる気はないの?』
楽しげに彼女が問い返す。
彼は苦笑したが、はっきりとうなずいた。
『じゃあ、ここにいてもしょうがないわね。私、行かなくちゃ』
「もう、この世界に未練はないのか?」
――アア、マタ自分ハ一人ニナル。
『不思議ね。こうなる前は未練だらけだったんだけど。今は何だか、すごくさっぱりした気分。そりゃ、あんたのことは心配だけど、あんたにはあの彼がいるし』
――アア、マタ人間ハ、自分ヲ置イテ逝ク。
「そうだな。……じゃ、また」
いつものように、彼はそう別れを告げた。
転生は存在する。しかし、たとえ彼女がこの世に生まれ変わってきても、その彼女は今の彼女と同一ではない。
だから、これは実質、永遠の別れ。
『うん、また』
きっと、人間たちもそうと知っている。だが、みな笑顔で彼に手を振って――
消えていく。
あとに残されたのは、彼と、魂の抜けた彼女の体だけ。
確かに、人間の死はもう見送り慣れている。
しかし、今回は何かがおかしい。
痩せ衰えた彼女の顔を見ても、何の感傷も起こらない。
彼女の死体を、寝台ごと右手の白い炎で消し去る行為でさえ、彼は眉一つ動かすことなくやってのけた。
――ふと。
まだ夜の明けない窓の外に目をやって、今度の新月はいつだろうと考えた。
そして、すぐにそんな自分に気がついて、かつてないほど自分を嫌い、自分を憎んだ。
――アア、俺ハ、アノ魔物ヲ利用シヨウトシテイル――
魔物の愛情につけこんで、もう一人になりたくないから、自分を置いて死なれたくないから、それだけの理由で、魔物を受け入れようとしている――
その夜。
彼は初めて自分から魔物を呼び出した。
きっと、これが最初で最後。
何も言わずに消え去ることもできたけれど。
せめて魔物に真実を告げてからにしたかった。
でも。
これだけは言わない。言ってはならない。
――もしもあのとき、もう一度『愛している』と言ってくれていたら、俺もおまえを愛せたのに。
―了―
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