【完結】黒い月【三魔王シリーズ2】

邦幸恵紀

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ウラ

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 結局、彼女の死に目には間に合わなかった。
 だが、実は彼にとって、生死の境は曖昧である。
 彼女の部屋に入ると、彼女は生前よりも生き生きとした姿で、自分の死体の上に座っていた。

『彼とは仲直りできた?』

 それが彼を見た、彼女の第一声だった。

「どうかな」

 力なく彼は笑った。

「俺のことより……あんたは? これからどうする?」
『今でも、私を食べる気はないの?』

 楽しげに彼女が問い返す。
 彼は苦笑したが、はっきりとうなずいた。

『じゃあ、ここにいてもしょうがないわね。私、行かなくちゃ』
「もう、この世界に未練はないのか?」

 ――アア、マタ自分ハ一人ニナル。

『不思議ね。こうなる前は未練だらけだったんだけど。今は何だか、すごくさっぱりした気分。そりゃ、あんたのことは心配だけど、あんたにはあの彼がいるし』

 ――アア、マタ人間ハ、自分ヲ置イテ逝ク。

「そうだな。……じゃ、また」

 いつものように、彼はそう別れを告げた。
 転生は存在する。しかし、たとえ彼女がこの世に生まれ変わってきても、その彼女は今の彼女と同一ではない。
 だから、これは実質、永遠の別れ。

『うん、また』

 きっと、人間たちもそうと知っている。だが、みな笑顔で彼に手を振って――
 消えていく。
 あとに残されたのは、彼と、魂の抜けた彼女の体だけ。
 確かに、人間の死はもう見送り慣れている。
 しかし、今回は何かがおかしい。
 痩せ衰えた彼女の顔を見ても、何の感傷も起こらない。
 彼女の死体を、寝台ごと右手の白い炎で消し去る行為でさえ、彼は眉一つ動かすことなくやってのけた。
 ――ふと。
 まだ夜の明けない窓の外に目をやって、今度の新月はいつだろうと考えた。
 そして、すぐにそんな自分に気がついて、かつてないほど自分を嫌い、自分を憎んだ。

 ――アア、俺ハ、アノ魔物ヲ利用シヨウトシテイル――

 魔物の愛情につけこんで、もう一人になりたくないから、自分を置いて死なれたくないから、それだけの理由で、魔物を受け入れようとしている――

 その夜。
 彼は初めて自分から魔物を呼び出した。
 きっと、これが最初で最後。
 何も言わずに消え去ることもできたけれど。
 せめて魔物に真実を告げてからにしたかった。

 でも。
 これだけは言わない。言ってはならない。

 ――もしもあのとき、もう一度『愛している』と言ってくれていたら、俺もおまえを愛せたのに。

  ―了―
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