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そこは小さな村だった。
人口は100人にも満たない小規模な集落である。
しかし、こんな場所でも一応は人間の住む領域内であり、近くには街もあるため、最低限の治安は保たれていた。
もっとも、最近は周辺の魔物の活動が活発化しているため、以前ほど平和とは言えない状況にあるようだが、
そんなことを考えているうちに村長の家に到着したようだ。
扉を開けると、そこには一人の老人が立っていた。
彼はこちらを見るなり驚いたような表情を浮かべた後で声をかけてきた。
「これはこれは、旅のお方ですかな?」
どうやらこちらのことを警戒しているようだ。
無理もないだろう、何しろ今の僕はどこからどう見ても女性にしか見えない格好をしているのだから当然の反応と言えるだろう。
まあ、それも無理はないことだろうと思いながらも笑顔で対応することにする。
なるべく怪しまれないように丁寧な口調で話しかけることにした。
「はい、そうですけど何か御用でしょうか?」
そう尋ねると老人は慌てた様子で取り繕うように答えた。
「いえいえ、失礼しました。実はこの村では最近妙な事件が相次いでいましてね」
そこまで言いかけたところで急に黙り込んでしまったかと思うとそのまま黙り込んでしまうのだった。
その様子を不審に思った僕が声をかけようとしたその時、不意に後ろから声をかけられた。
振り向くとそこには見知らぬ男の姿があった。
男は無言のままこちらに向かって歩いてくると僕の腕を掴んで引っ張っていく、突然のことに戸惑っているうちにあっという間に連れ去られてしまった。
「ちょっと待ってくれ! いきなり何するんだよ!?」
慌てて抗議するが聞き入れられる様子はない。
それどころかますます強く握り締めてくる始末だった。
俺は溜息を付くとそのまま全力で否定した。
俺がそう言うと彼女は不満そうな表情を浮かべる。
どうやら信じていないようだ。
仕方なく実演してみせる事にした。
まずは自分の体を見下ろすように意識を集中させる。
すると体が光り輝き始めた。
そして光が収まる頃には元の俺の体に戻っていた。
それを見ていた二人は呆然とした表情で固まっていた。
しばらくして我に返ったのか、ハッとした表情になると慌てて謝ってきた。
二人ともかなり動揺しているようだ。
まぁ無理もない事だとは思うが、
何せ目の前で人が一人消える瞬間を目撃したのだから当然と言えば当然だが、
とりあえず今は一刻も早くこの場を離れた方がいいだろうと判断した俺は二人に別れを告げる事にした。
だがその前にどうしても聞いておきたい事があった為、
「最後に一つだけ聞かせてくれないか?」
そう言うと、二人共真剣な表情でこちらを見つめ返してきた。
どうやらちゃんと答えてくれるつもりらしい。
まずは一番気になっていた事を聞いてみる事にした。
それは、彼女がどうしてここまで必死になってくれるのかという事だった。
正直言って今の俺には彼女からそこまでしてもらえる理由が思いつかなかったからだ。
すると彼女は少し考えた後でこう言ってきた。
「そうですね、理由は色々ありますが、一番の理由はあなたを見捨てる事ができないからです」
それを聞いて俺は思わず息を呑んだ。
まさかそんな事を言われるとは思ってもいなかったからだ。
(いや、ちょっと待てよ……それってつまり俺の事が好きって事じゃないのか?)
そう思った瞬間、顔が熱くなるのを感じた。
「ふふ、顔赤くなってますよ?」
からかうように言う彼女に反論しようとするが言葉が出てこない。
結局何も言えずに黙り込んでしまった俺を見て彼女は楽しそうに笑っていた。
(くそぉ~完全にからかわれてるよなこれ……悔しいけど何も言い返せないんだよなぁ)
そんなことを思っている間にも話は進んでいく。
その後、いくつかの質問を受けた後、ようやく解放された時にはすっかり疲れ果ててしまっていた。
しかしその一方でどこかスッキリとした気分でもあったのだ。
というのもずっと心に引っ掛かっていたものが取れたような気がしたからだ。
そこで思い切って聞いてみたところ、意外にもあっさりと認めてくれたので拍子抜けしてしまったくらいだ。
そうして一通り話し終えた後、俺達は帰路につくことになったのだが、帰り際にふとあることを思い出した。
それは先程の戦いで手に入れた魔石のことだ。
そういえばあれって一体何に使うんだろうな?
そんなことを考えているうちにいつの間にか眠っていたらしく目が覚めると朝になっていた。
ベッドから起き上がると大きく伸びをする。
さて、今日は何をしようかなと考えていると部屋のドアがノックされた。
返事をすると入ってきたのはリリアさんだった。
おはようございますと挨拶をする彼女に挨拶を返すと用件を聞くことにした。
すると彼女は朝食の準備ができたことを伝えに来てくれたらしい。
時計を見るとすでに10時を過ぎていたので急いで支度をしてリビングへと向かった。
テーブルの上には既に料理が並べられており、美味しそうな匂いが漂ってくる。
席に着くと早速食べ始めることにした。
「いただきます」
そう言って手を合わせるとスプーンを手に取りスープを口に運ぶ。
うん、美味しい、さすがはリリアさんの手作りだなと思う。
そう思いながら食べていると不意に視線を感じたので顔を上げると、そこにはこちらをじーっと見つめている。
どうしたんだろうと思っていると突然話しかけられた。
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