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これからは堂々と家族として暮らしていくのだから大切にしたいと思ったのである。
そう思いつつ部屋に戻るとそこで寝ることにしたのだ。
明日から忙しくなるだろうなと思いつつ眠りについたのだった。
そして翌朝、いつも通りに起きて身支度を済ませた後で食堂に向かうとそこにはルミナスがいたのだった。
俺は思わず固まってしまったが気を取り直して挨拶をすることにしたのである。
すると彼女は嬉しそうな表情でこう言ったのだ。
「おはようございます、リュート様」
「ああ、おはようルミナス」
そう挨拶を返すと彼女は微笑んでいた。
そんなやりとりをしつつ朝食を済ませると早速出かけることにしたのだ。
そこで、父さんに声を掛けた後で魔族城を後にするのだった。
別れ際に父から言われた言葉が印象的だったのを思い出す……。
「いいか、お前は勇者なのだ! いつ如何なる時も弱き者を助けなければならないのだ。忘れるな!」
そう言う父さんの目は真剣だった。
だから俺は強く頷いた後で言ったのだ。
「うん! わかったよ、お父さん!」
そして手を振った後に魔族城を後にしたのである。
後ろからは魔族達の声が響いてきたのだった。
それを聞いた時、俺の中に勇気と力が湧いてきたのだ。
「もう……大丈夫そうだな」
その呟きは誰にも聞こえることはなかったが、それでも良いと思った。
なぜなら、既に俺は魔王の後継者としての立場を受け入れたのだから!
リュートはそう心に決めた後、力強く一歩を踏み出した。
道中で出会う魔族達は全て倒していった。
勇者パーティーから追放された時の何倍もの速さで駆け抜けていったのだ。
俺の足取りはとても軽かったし、今の自分の姿も好きになれそうな気がしていた。
(今はこの力を使って、沢山の人を助けられるんだ)
そう考えると嬉しくて仕方がないのである!
暫くしてようやく魔族城に辿り着くと中から門番が飛び出してきた。
だが俺は構わず剣を振り抜いて真っ二つに斬り裂いたのだった。
その後で中に入っていくとそこに居た魔族達も全員殺し尽くしたのだ。
「ふぅ……これで全部か?」
そう呟きながら周囲を見渡すと、俺はある物を発見したのだ。
それは玉座に腰掛ける魔族の少女がこちらを見ていたのである。
俺は咄嗟に聖剣グラムを構えると戦闘態勢に入った。
すると彼女は立ち上がって言ったのだ。
「はじめまして、勇者様」
彼女の表情は柔らかい笑顔だったのだが目は笑っていなかった。
だがその目は俺の事を睨んでいるようにも見える。
そう考えていると彼女が口を開いた。
そして彼女が言う。
「あなたのせいで、私の両親も、弟も……」
怒りをぶつけてくる彼女を前に俺は冷静に言ったのだ。
「俺には魔王クロードがいる、君にもいたんだろう、俺が殺した、そうだろ?」
そして、俺は魔王を睨み付ける。
「魔王の子が、魔族を襲い殺すのがそんなに嫌か?」
「君は、魔王、クロードの子じゃないか、同胞が何でこんな」
「俺は同胞じゃないよ、勇者だ」
そう言って俺は聖剣を構えた。
すると魔王は表情を変えて言ってくる。
「もう一度聞こう、君の父はお親はクロードなんだろう、何で魔王の子が勇者なんてしているんだよ」
俺は魔族の力を解放する。
「真価開放!」
すると俺の身体から膨大な魔力が溢れ出す。
それを見た魔王が驚愕の表情を浮かべている中で、俺は聖剣を構えて言ったのだ。
「お前を殺して、帰る! それが俺の目的だ、だって、俺は勇者だからな」
そして、戦闘が始まったのだ……。
(分かってるさ、魔王である父を殺さないと復讐にならないって事ぐらい……)
そう思いながらも、俺が振り下ろした剣は容易く受け止められてしまうのだった。
俺は魔族としての力を解放する事にしたのだ。
魔力を解放して軽く地面を蹴っただけで魔王の後ろをとったのだが、やはりこの姿じゃないと勝負にはならないよな?
と思ったからである。
そして俺は再びグラムを構えた。
しかし魔王は余裕の表情で話しかけてきたのである。
魔王は異種族を見下しているような雰囲気を出しながら言うと、俺を殺して復讐を始めようとするのだった。
その憎悪に満ちた表情を見て俺も一瞬怯んでしまったがすぐに気を取り直して聖剣グラムを構えると、魔王に向かって駆け出す!。
「お父様!」
そう叫んで私を抱きしめてくれた魔族の少女がこの世で一番大事な存在だったと言えるだろう。
勿論その中にはルミナスも含まれていたのだが、彼女はそれ以上の存在でもあったのだ。
まるで壊れ物を扱うかのように優しく触れてくるその手に安心感を覚えつつ俺は彼女に微笑みかけるのだった。
その後で暫く談笑していると今度は彼女の方が不思議そうな表情を浮かべていた事を思い出したのだ。
「そういえば、私が死んだ後って、どうなったの?  教えてくれると助かるんだけど……」
(その反応も当然か)
と思いながら俺は答えることにした。
「ああ、最後まで俺の仲間で居てくれた戦士がいただろ?」
「ええ、居たわね」
俺の目の前には、真っ赤な赤色の肌をした幼い魔族の女性が居た。
そんな彼女の姿を見て、俺は思わず心を奪われてしまった。
(なんだこれ……)
すると彼女が小さな声で囁いたのだ。
「……おいしい? まだお腹が減っていたならもっとあるわよ……」
と俺の顔を覗き込むようにして言ってきたのだった。
その瞬間だった!
彼女が突然動き出したと思ったら、次の瞬間には俺に覆いかぶさるようにして倒れてきたのである。
その衝撃で俺の顔が真っ赤になった事は言うまでもないだろう。
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