銃器使いの追放者

天樹 一翔

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オリュンポスからの客人Ⅰ

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 ったくエリーの初陣だったのにとんでもない奴がきたものだ。それに俺の正体を知っている奴って一体誰だ。俺は五年前に死んだ人間になっているんだぞ。国外追放という結果を知っているのは世界政府と元老院の人間。そしてオリュンポス十二武ドゥオデキムを含めたオリュンポスの一部の人間と、エリー以外のうちの事務所の人間だけだ――。

 そう考え込んでいるとエリーが飛び降りて近付いてきた。

「怪我大丈夫ですか?」

「ああ。この切り傷か。直ぐに治るさ。エリーも大丈夫か?」

「はい大丈夫です!」

「そうか。ところで俺がマンバと戦っている時、残った連中を制圧しなくてよかったのか?」

 俺が悪戯な笑みを浮かべてそう言うと、エリーはしまった! というような焦った表情を浮かべていた。

「どうしましょう! せっかくリストキー副所長が追い詰めてくれたのに!」

 と、あたふたしているエリー。

「リストキーさんご協力ありがとうございます。お陰で反対運動の集団を捕らえる事できました」

 そう言って近づいてきたのは黒い制服を着た保安局のオッサンだった。

「別にいいって事よ。それより犠牲者が数人出たのは残念だったな」

「ええ――。しかし、イレーネ事務所の御二人がいなければ全滅していたかもしれません。本当にありがとうございます」

 保安局のオッサンはそう言って頭を下げてきた。実際に俺が来てから犠牲者は出ていなかったが、何とかできなかったものかと悔いる。

「マンバという男を調べておいた方がいいぞ。今回の事件もあの男が糸を引いていたみたいだし。それにあのマンバという男、オリュンポス十二武ドゥオデキムくらいの実力はある」

「そんなにですか!?」

 と、エリーと保安局のオッサンが声を揃えた。

「ああ。しかもオリュンポス十二武ドゥオデキムの中でも大佐クラス以上の実力はあるな。中佐レベルじゃ勝てないだろうな」

「――待ってください。そしたらリストキー副所長はオリュンポスの大佐クラスはあるんですか!?」

「俺、兄貴と同じくらいの実力だから」

 と兄貴なんかいないのに嘘を付いた。退職したのが大佐だったけど、腕が訛らないように仮想拡張空間装置の部屋で、所長兄貴と戦闘訓練しているから実際はもっと上だろうけど。まあ連絡全く取って無いから、皆がどのくらい強くなっているかも知らないしな。

「まあ何か分かったら連絡してくれ。俺も何か分かったら連絡する。結構ややこしい奴等を見つけたかもしれない」

「かしこまりました。何か分かれば私から事務所へ連絡致しますので」

「ああ。宜しくな」

 そうすると、保安局のオッサンは敬礼をして去って行った。

「さて、とりあえずそろそろ事務所に戻るか。最近外出先で食べることが多かったし、レイアさんのご飯を久しぶりに食べよう」

「レイアさんのご飯ですか?」

「ああ。これがすげ~美味しいんだ。それに人気なんだ」

「人気?」

 エリーはそう言って首を傾げた。

「まあいいから帰ろうぜ。動いたら腹減った」

 俺達はそうしてイレーネ事務所へと戻った。ホバーバイクを走らせて15分程。イレーネ事務所の前ではたくさんの人達が並んでいた。この辺りで働いているサラリーマンや、武器鍛冶職人、武器の手入れ職人、鳶職の人間まで様々だ。

「――なんですかこの行列」

 事務所にそんな大勢の人数が集まっている当然エリーは吃驚している。正体はアレだ。

 俺が指を指した方向を見るとエリーは張り紙を見るなり「500円弁当ですか?」と呟いた。

「ああ。レイアさんとソフィアが朝から限定75食の500円弁当を作って昼時になると販売しているんだ。これが安くて美味しいから人気なのさ」

  長いテーブルにAランチ、Bランチ、Cランチの弁当を25食ずつ陳列させてお客さんに選んでもらい、お会計を済ませるだけのシステム。+50円でお味噌汁を付けることができる。

「す――凄い。確かにお味噌汁の昆布と鰹のいい香りがする」

「そうだろ? 今日のランチはAがハンバーグランチ。Bがトンカツランチ。Cが焼き魚ランチか。今日はトンカツにしようかな。エリーは何にするか決まったか?」

 エリーはそう言ってお弁当の中身を脇から眺めていた。副菜も少しずつではあるが違うのが選ぶ時に迷うポイントだ。俺が選んだBランチにはトンカツ。マカロニミニパスタ。ほうれん草と小魚のおひたし。ベーコンとクレソンのサラダだった。

「じゃあ、ハンバーグランチにします!」

 エリーが選んだハンバーグランチは、マッシュポテト。オニオンフライ。ベーコンとクレソンのサラダが付いていた。

「早く並ばないと無くなりますよ!」

 と焦るエリーだが。

「俺達は従業員だぞ。中で無料タダで食べることができる」

 俺がそう言うとエリーは目を輝かせていた。早速俺達は事務所へ入り二階の食堂に向かう。しかし俺達が食べるのは弁当では無い。出来立てほやほやのランチをソフィアが用意してくれる。

「もう何にするか決まっているの?」

「俺がBでエリーがAだ」

 俺がそう伝えるとプレートにはさっきのランチメニューのBセットが味噌汁付きで出て来た。用意してもらったご飯をテーブルの上に置いて俺とエリーは早速頂くことにした。

「買わないと食べれないのが、無料で食べることができるなんていいですね」

「そうだろ? これがイレーネ事務所の福利厚生だ。じゃあ早速頂きます」

「頂きます!」

 そうして俺達のランチタイムが始まった。いつも通りのホクホクの白ごはんに、昆布と鰹の出汁がきいたお味噌汁。トンカツには大根おろしにポン酢をかけて堪能していた。エリーの表情を見ると黙々と笑顔になりながら食べているので満足してくれているようだ。

「エリー。もしかして食べるの好きか?」

「ものすごく好きですよ! レイアさんほどではないですけど、料理することもしばしばあるくらいです」

「じゃあ歓迎会は普通の居酒屋は止めて少し背伸びしたところ行くか。苦手な料理とかあるか?」

「苦手な料理は特にないですね。割と何でも食べます。お酒を飲むのも好きです」

 と、エリーは満面の笑みを浮かべていた。

「じゃあなんか色々考えて所長と相談しておくよ。行く日と決まったらまた言うから」

「ありがとうございます!」

 とえらく喜んでくれた。まあ、無理強いしている歓迎会にはならなさそうでホッとした。

 昼食を終えてエリーのオリエンテーションをしようと思っていた時だった。

「副所長。どうしても会いたいというお客様が」

 そう言って自席で休憩している時にソフィアに声をかけられた。

「誰?」

 俺がそう問いかけると、ソフィアが小声で話しかけてきた。エリーの視線が気になるけどまあいい。

「マジか――何でまた珍しい人が来たな」

「有名人だもんね」

「まあいいわ会ってくるわ。来客室にいるんだろ?」

「ええ。宜しくね」

 ソフィアにそう言われてから俺は早速来客室へ向かう事にした。五年ぶりの再会だな。
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