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種明かし、子どもたちは知っていた
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「父さんと離婚したら?」
娘と息子に口をそろえてそう告げられた瞬間、奏は己に対する情けなさで涙が滲んできた。芽以と別れた後も、敦がしばらく他の愛人を囲っていたことを彼らは知っていた。そしてその愛人は決まってβの男で、芽以に似た雰囲気や風貌をしている者たちばかりだった。
……奏だけは、その事実を知らなかった。
「ごめんねぇ、君のお父さん、君のお母さんよりも僕のことが好きなんだって」
「で?」
「おごぁああぁああ!!」
蘭が10歳になったあたりから、つまりは敦が運命と番解除をして数年ぐらい経過したころから不貞は再開され、何故か娘や息子に敦の不倫相手がマウントを取ってくることが多かった。
結局のところ運命の愛人がいなくなり、また彼もムラムラと欲がでてきたのだろうか。
その度に蘭は父親に対する期待値は地の底まで落ち、彼女は瞬時に不倫相手を社会的に葬り去るすべを覚えた。
一人目はうっかり不倫相手の足に植木鉢を落とした。二人目の時はうっかりピラニアを飼っている巨大水槽の前で愛人とぶつかってしまい、彼は水没した。
「まあまあ子供のしたことですから……」
東堂家は表向きは財閥のそれだが、裏では指定が入るような暴力の団体と密接なかかわりがあるというべきか、東堂家自体がそれというべきか、とにかくいろんな事業を拡大させ成長し続けている。
「クソオヤジがよぉ」
蘭が自分の女性性を捨てたのは父の所為だ。反抗期に便乗して母の居ぬ前で父親の顔面を殴り、歯を数本折った時、彼女は何故か妹弟を連れてきて、その歯を縁側に投げた。
「家族でこういうイベント行事あまりやらなかったでしょう」
蘭と理央と諒は、どこか光を失った暗い目でじっと血の付いた歯を見つめている。
αとしてもプライドが勝ったのか、それとも後ろめたさが勝ったのか、敦は奏に何も告げることはなかった。
「鬼は外!」
「おにはそと!」
「おにあっちいけ!」
恥も外聞もなく、屋敷の離れで愛人と性交を繰り広げていた節分の日、子供たちは母である奏の目に入らないように屈強な護衛たちをバックにつけて、パチンコの玉を二人にぶつけた。大豆や落花生がもったいないという配慮からだが、ぶつけられた方にしてみたら大豆や落花生より遥かに痛かったであろう。
「多額の慰謝料と爪一本、どっちがいい?」
桃の節句に父親と浮気をしたβは、可哀想なことに爪を結局5本剥がされた。綺麗に剥がして並べてみると薄桃色のそれは桜の花弁のようだったと、諒は後に淡々と語る。
数人目の浮気がバレて、父親の代わりとばかりにいっそ気持ちが良いぐらいに報復されてゆく愛人共を目の当たりにして、ようやく敦ももう駄目だと悟ったのだろう。
このままだと、これまでは浮気相手のβの男に向けられていた子供達のどす黒い感情が、今度は敦本人に向かってゆく。
そう考えると彼はようやく浮気もそれを疑われるような行為もやめた。やめなければ自身の人生が辞めさせられる可能性もあったからなのだが。
―自分とのことだけであればどうとでもするつもりだったが、番っているαのだらしがない下半身によって子供の人格形成にまで悪い意味で影響を及ぼされたことを知った時、奏の心に敦に対する愛情の欠片も憐憫も全てが消え去った。
種を明かせば実に簡単で、敦を病死に見せかけて殺したのは奏だ。彼は自身の能力を使い、敦の両足を凍らせて凍傷を起こした。完全犯罪そのものの魔法は証拠を残すこともなく、敦は原因不明の病として処理された。
奏は自分でも自覚し悔いては居たが、これは偉大なる霧ヶ峰の最も悪い力の使い方……の一つだと言えるだろう。
「(商品のイメージを著しく損なわせてしまい申し訳ない)」
奏は、亡き夫でも元幼馴染の愛人でもなく、一体誰向けの懺悔なのかともかく霧ヶ峰へ懺悔を死ぬまで欠かすことはなかった。
「蘭、理央、諒、すまなかった」
奏の最後の言葉は懺悔だった。本人曰く88歳まで「しぶとく生きた」彼は、どこか心に虚無を抱えたままこの世を去った。
結局愛した男の心は運命の番の元へ中途半端に行ったまま、そして自身と最愛だった男の中を引き裂いた運命とやらは、ちゃっかり結婚し幸せになり、待望の子まで儲けた。
自分の人生は一体なんだったんだろうかと、奏は未練を胸に輪廻の輪へ向かおうとする。
娘と息子に口をそろえてそう告げられた瞬間、奏は己に対する情けなさで涙が滲んできた。芽以と別れた後も、敦がしばらく他の愛人を囲っていたことを彼らは知っていた。そしてその愛人は決まってβの男で、芽以に似た雰囲気や風貌をしている者たちばかりだった。
……奏だけは、その事実を知らなかった。
「ごめんねぇ、君のお父さん、君のお母さんよりも僕のことが好きなんだって」
「で?」
「おごぁああぁああ!!」
蘭が10歳になったあたりから、つまりは敦が運命と番解除をして数年ぐらい経過したころから不貞は再開され、何故か娘や息子に敦の不倫相手がマウントを取ってくることが多かった。
結局のところ運命の愛人がいなくなり、また彼もムラムラと欲がでてきたのだろうか。
その度に蘭は父親に対する期待値は地の底まで落ち、彼女は瞬時に不倫相手を社会的に葬り去るすべを覚えた。
一人目はうっかり不倫相手の足に植木鉢を落とした。二人目の時はうっかりピラニアを飼っている巨大水槽の前で愛人とぶつかってしまい、彼は水没した。
「まあまあ子供のしたことですから……」
東堂家は表向きは財閥のそれだが、裏では指定が入るような暴力の団体と密接なかかわりがあるというべきか、東堂家自体がそれというべきか、とにかくいろんな事業を拡大させ成長し続けている。
「クソオヤジがよぉ」
蘭が自分の女性性を捨てたのは父の所為だ。反抗期に便乗して母の居ぬ前で父親の顔面を殴り、歯を数本折った時、彼女は何故か妹弟を連れてきて、その歯を縁側に投げた。
「家族でこういうイベント行事あまりやらなかったでしょう」
蘭と理央と諒は、どこか光を失った暗い目でじっと血の付いた歯を見つめている。
αとしてもプライドが勝ったのか、それとも後ろめたさが勝ったのか、敦は奏に何も告げることはなかった。
「鬼は外!」
「おにはそと!」
「おにあっちいけ!」
恥も外聞もなく、屋敷の離れで愛人と性交を繰り広げていた節分の日、子供たちは母である奏の目に入らないように屈強な護衛たちをバックにつけて、パチンコの玉を二人にぶつけた。大豆や落花生がもったいないという配慮からだが、ぶつけられた方にしてみたら大豆や落花生より遥かに痛かったであろう。
「多額の慰謝料と爪一本、どっちがいい?」
桃の節句に父親と浮気をしたβは、可哀想なことに爪を結局5本剥がされた。綺麗に剥がして並べてみると薄桃色のそれは桜の花弁のようだったと、諒は後に淡々と語る。
数人目の浮気がバレて、父親の代わりとばかりにいっそ気持ちが良いぐらいに報復されてゆく愛人共を目の当たりにして、ようやく敦ももう駄目だと悟ったのだろう。
このままだと、これまでは浮気相手のβの男に向けられていた子供達のどす黒い感情が、今度は敦本人に向かってゆく。
そう考えると彼はようやく浮気もそれを疑われるような行為もやめた。やめなければ自身の人生が辞めさせられる可能性もあったからなのだが。
―自分とのことだけであればどうとでもするつもりだったが、番っているαのだらしがない下半身によって子供の人格形成にまで悪い意味で影響を及ぼされたことを知った時、奏の心に敦に対する愛情の欠片も憐憫も全てが消え去った。
種を明かせば実に簡単で、敦を病死に見せかけて殺したのは奏だ。彼は自身の能力を使い、敦の両足を凍らせて凍傷を起こした。完全犯罪そのものの魔法は証拠を残すこともなく、敦は原因不明の病として処理された。
奏は自分でも自覚し悔いては居たが、これは偉大なる霧ヶ峰の最も悪い力の使い方……の一つだと言えるだろう。
「(商品のイメージを著しく損なわせてしまい申し訳ない)」
奏は、亡き夫でも元幼馴染の愛人でもなく、一体誰向けの懺悔なのかともかく霧ヶ峰へ懺悔を死ぬまで欠かすことはなかった。
「蘭、理央、諒、すまなかった」
奏の最後の言葉は懺悔だった。本人曰く88歳まで「しぶとく生きた」彼は、どこか心に虚無を抱えたままこの世を去った。
結局愛した男の心は運命の番の元へ中途半端に行ったまま、そして自身と最愛だった男の中を引き裂いた運命とやらは、ちゃっかり結婚し幸せになり、待望の子まで儲けた。
自分の人生は一体なんだったんだろうかと、奏は未練を胸に輪廻の輪へ向かおうとする。
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