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その後1
「人生を演じ切るのは一度で十分だ」
異世界で飽きるほどに人生のループを繰り返した男、ミノル・ダンザイこと断罪實は溜息のようにそう呟いた。
その言葉に対して、力なく首を縦に振り同意を示すのは、同じく捻じれたループを繰り返すこととなった、かつての愚かな王太子であるキャスト・レ・イシヨンという金髪碧眼の美男子だった。
ミノルが通うH学園は進学校であり、編入や留学をするにしてもそれ相当の学力や内申点といったものが必要な場所だった。
「お前に思うところは山ほどあるけど、もう過去のことだ。今となってはあれが現実のことだったかも俺の中では怪しい。
俺とキャストが同じクラスになっちゃったのはなんかの縁というか間違いとして、これからクラスメイトとして適度に距離を置いた節度ある付き合いをしよう。
それじゃ、お幸せに」
片手を上げてその場を去ろうとしたミノルの腰に、みっともなくもなりふり構わずしがみ付いているのはかつての美形王子、恐らく今はただのイケメンであるキャスト・レ・イシヨンだ。
「何をするイケメン」
「お前が俺から離れようとするからだミノル」
「いいから離れなさいよ、こんな所誰かに見られたら勘違いされちゃうじゃないのよ」
「いやだ」
おねえな言葉を操りつつキャストをやんわりと拒絶するミノルと食い下がるイケメン、校舎裏での攻防は、今回の所はキャストに軍配があがったようだ。何せ現実世界でのミノルには魔力がない。それはキャストも同じであるが、彼はミノルに会うためだけに勉学に励み、ミノルにふさわしい男になるために武道や乗馬も極めたのだという。
「わざわざ詫びに来たのか、悪いな。
前世でその誠意を見せてくれたらよかったのにな……まあいいや、謝罪を受け入れよう。今世では俺もお前も今のところ真っ当な人生を歩んでいる。お互い新しい人生を謳歌しようじゃないか」
「お前と一緒なら」
キャストは頬を赤らめると、じいとレーザーのような眼差しをミノルに向けている。ミノルはチベットスナギツネのような死んだ眼差しのまま、ハクエーキ学園へと思いを馳せた。
「……俺、お前とそんなに接点あったっけ?」
99機以上散っていった人生を全て思い出すのは困難だが、キャストとミノルが伴侶としてともに人生を過ごしたのは1度だけ、それ以外のキャストは恐らくノウチラス・クラッシュイングというヒドイン、外面だけは極上の美少女と見紛うほどの美少年と恋慕していたはずだ。
「……覚えてないのか、俺とミノルは幼少の頃からの付き合いだ」
「……」
ミノルとしての記憶は確かにあの、ハクエーキ学園での断罪から始まり、いいところ遡ることができてもせいぜい学園入学前程度の記憶であった。
「……今さら俺が、言えた口ではないか」
自重気味に笑うキャストからは後悔と懺悔の念が感じられる。彼は子供の頃からのミノルとの記憶があったとしても、それらは全てノウチラス・クラッシュイングという男に現を抜かし、真実の愛を引き裂く者としてミノルを殺害するに至ったのだから。
「……魅了」
恐らくノウチラスには魅了の力が備わっていたのだろう。ミノルのその言葉を飲み込ませたのは、キャストの人差し指だった。彼の白く美しくも男らしい指は、ミノルの唇にそっと触れる。
「仮に魅了されたのだとしても、愚かにも惑わされたのは俺自身でしかない」
すまなかったといつのまにかミノルを後ろから抱きしめると、キャストは彼の耳元で
「償いや自責じゃないんだ。でも、少しでも信じてもらえるのなら、許されるなら。最後の人生はミノルと共に人生を歩みたい」
と悔いるように囁く。
「……」
その時のミノルには、何も答えることができなかった。憎悪、失望、裏切られた記憶、そしてほんのわずかの好感、情念……すでに半分以上消え去ろうとしている記憶をどう扱ってよいものか、今世では未成年のミノルには瞬時の判断ができなかったのだろう。
「これからの自分を見てほしい」
挽回の意志を簡潔に告げると「そろそろチャイムが鳴る」とミノルの手を引いて彼らは自身の教室へと戻っていった。
流星のように平凡な日本の進学校にやっていたキャストという王子様は、学園中の生徒達の目に止まり、その美貌と人格の良さで瞬く間に拡散されていった。
人格の良さというと語弊があるかもしれないが、彼もまた数十回以上の人生を繰り返してきた男だ。愚かながらも王子であったキャストは人心掌握も心得ている。
ミノルはというと、そんな彼の涙ぐましい努力などどこ吹く風で宣言通り平和な日常を謳歌していた。性事情は爛れている癖に規律正しい息が詰まるような貴族の服と空気から解放されたミノルは、クラスメイトや友人との何気ない会話や交流を楽しみ、時に涙ぐんだ。
「情緒不安定?」
「いや、年取ると涙脆くてねぇ」
「タメだろ、何歳だよ」
「ミノルお爺ちゃん、椅子に座りましょうねぇ」
すぐに涙腺が緩むミノルに対して、冗談交じりに心配してくれるヤマザキやクラスメイトたちは彼の肩や背中をポンポン叩いてやる。ミノルは今が一等幸せだと感じていた。
「……」
キャストはそんな彼らの様子を、少し離れた場所から覗くように黙って見つめていた。物憂げな様子はますます周囲の目線を惹いたが、彼にとっては第三者からの羨望の眼差しは最早どうでもいいもの、或いは小さい羽虫のように少しだけ鬱陶しいものでしかなかった。
何十回も繰り返した愚かしい断罪の日々、転生者であるミノルにとってはそれだけの記憶だったが、キャストやあの忌まわしくも最愛だったノウチラスにとっては、それこそ産湯まで時が遡り人生を繰り返していたことをミノルは知らない。
かつてのミノルにとって、キャストとノウチラスは単なる敵であった。彼らは自身の人生を妨げる害悪でしかなかった。
けれども、少なくともキャストにとってミノルは憎悪と愛情が入り乱れ心を掻き回されるような特別な存在だった。最愛の害悪、憎悪の愛情、アンビバレントな感情は頑ななキャストの心に何度も何度もガラスの破片を突き立て、そしてついにそれはひび割れて貫通に至った。
ミノルは好物すらも優等生で、キャロットポタージュが好きだった。偏食気味であったキャストは幼少のみぎりより学力や魔力が自身よりも高いミノルに対して、嫉妬や面白くないという思いがあったのだろう。今は、その記憶が彼にとって有益な知識となり役立った。
「ミノル、これあげる」
「ん、おー!なにこれ、ニンジンポタージュ缶!」
人気のない学校の廊下に設置されていた、これまた人気のない缶スープはミノル専用と言っていいほどのニッチな飲み物だった。
「俺キャロットポタージュ大好きなんだよ、ありがとうキャスト君!」
カシュッとプルタブを引いて、缶を両手で包み込むように持ちゆっくりゆっくりポタージュを味わうミノルの姿を、キャストは只々穏やかな笑みで眺めている。
ポタージュに向ける好感の目が、少しでも自分に向けられる日が来るといいなと心の奥底で願いながら。
「……極端なんだよお前」
「だって、ニッチ過ぎていつ販売終了になるかわからないし」
「無自覚に俺の心まで抉るなよ」
休日の朝、ダンザイ家の玄関に沢山のニンジンポタージュ缶(商品名がそうらしい)が入った段ボールを持ってきたのは元王室のイケメンだ。ガッシャガッシャと重たいダンボールをどこから持ち出したのだろうか、業務用の台車に乗せられるだけ乗せてやってきたイケメンは大層人の目を引いた。
「これ、賞味期限3年あるから大丈夫」
「そういう問題じゃねえんだよ」
ミノルはイケメンと台車をしまい込むように、やむなく自身の家へと引き入れた。突然やってきた眩いばかりの美の暴力みたいな男に対して、ミノルのリアル父と母もポカンとした表情で見つめているが「これ、クラスメイト」とだけ簡単に説明してキャストの腕を掴むと自身の部屋に押し入れた。
「ここがミノルの部屋」
「そわそわすんな」
曲がりなりにも元王室の男である。礼儀正しく部屋に入ると、家主の許可を得て座布団に腰を下ろし、そのまま近くのベッドに顔を埋めて深呼吸をしている。無論スーハ―スーハ―に関しての許可は得ておらず、その様子にミノルはドン引きした。
「お前は俺の何が良くてこんなに変態なのかね」
「俺はお前の全てが良くて、こんなことになっている」
「……」
「信じて、くれていないのも理解している」
何せ異世界では、ミノルは彼に殺されたのだ。やむを得ない理由とは言え部屋に招き入れたのも、過去の記憶があれば通常とても信じられないことだろう。
「實!ジュース持って来たよ」
しかしここはミノル・ダンザイの本丸とも呼べる場所である。彼には最強にして最悪なガーディアンがいた。キャストには劣るかもしれないが、日本男子としてはかなりの美形である兄の満が部屋に侵入してきた。
「っ……!ダンザイ侯爵!」
キャロットジュースを二つとビスケットを運んできた満の姿に、キャストは頭を地面に擦りつけるようにして、それはそれは綺麗な土下座を披露した。
その感情は畏怖だった。その身体の震えは武者震いなどではなく恐怖だった。キャストは、自業自得とは言え幾度となくループする人生の中でミノルの父親に幾度となく受けた拷問により、戦意はすっかり喪失している。
「え、俺いつ爵位を得たの?」
他人の空似か、それとも記憶を無くした本人であったのか。後者はミノルにとってもよろしくないので、真っ当でずれた疑問符を頭に浮かべる兄に簡単な感謝を伝えると、ミノルは彼を部屋から追い出した。
「キャスト君、本当か」
「……間違いない、彼は記憶がないのか」
「……たぶん」
「……お兄さんとミノルって、兄弟仲は」
「良い方だよ、ちょっと心配症だけどね」
もし兄ちゃんに記憶があったら、あの時点で君は殺されているんじゃないかな。ほんの僅かのやりとりであっても、ミノルにとっては少し過保護な兄も周囲から見れば弟に執着しきっているブラコン兄であることは容易に見て取れる。難攻不落のガーディアンの存在とミノルの淡々とした物言いに、キャストは顔を青ざめさせた。
「キャスト君、クラスメイトに戻るなら今のうち……」
「俺は絶対にあきらめない」
察する能力が高く勘の良いミノルは、やんわり自身から手を引くように忠告を試みるが、キャストの決意は固かった。
「初めまして、○○学園から転入してきました納地 久良(のうち くら)です。『くら』って呼んで欲しいな、どうぞ仲良くしてください!」
「……何あれ」
「うわぁ」
「あちゃぁ」
キャストに続く時期外れの転入生、彼は非常に人目を引いた。華奢な身体つきや色白で女子と見紛う程の美形ではあるが、それ以上に桃色の髪と水色の目が悪目立ちしていた。
無論、生まれつきの髪色や瞳というわけではない。美少年ではあるがどこかコスプレキャラクターのように彼だけが教室から浮いている。
H学園は進学校故に、成績と素行さえ良ければ服装だけは自由な学校であった。彼が転入したのもその辺りが理由なのだろうと周囲は勝手に納得した。
「納地君、きれいな色の髪だねぇ。自分でブリーチしてるの?」
「これ?ふふ、運命の人に会うためにこの色で生まれて来たの。彼は僕のこの髪と目が大好きだから」
夢見心地で、どこからどうみても染め上げたかウィッグかというほどに不自然な色合いの桃色の毛を指に絡ませ、カラコンばりばりの瞳を瞬かせるその姿に「これはだめだ」と勇気を出して話しかけたクラスメイトもじりじりと後ずさる。
「不思議くんちゃんだ」
「多分ゲイらしい」
「いや、もしかしたら性自認が女性なのかもしれん」
進学校らしく教養に溢れた生徒達ばかり集まっていることが幸いしたためか、彼がいじめられるということはなかったが、何となく親しくなると面倒なことになるというセンサーだけは皆、正常に動作した。
「……転入生だって」
「なんかすごいのが転入してきたらしい」
「見た、すごかった」
キャストの時とは別のどよめきが、クラスを跨いでミノルのクラスにも噂が伝わってくる。この時期に立て続けにやってきた転入生か、珍しいなという簡単な感想を抱きながら廊下を歩いていたミノルは「ヒュッ」という声を上げると、そのまま体育の時間にすら見せたことのない驚異的な反射神経で通路脇に退避し「それ」を躱した。
長めのニット袖で手を隠し、ぽてぽてと計算し尽くされた愛らしい仕草で通路を走る美少女のような男は、何をどう見てもノウチラス・クラッシュイングその人だった。
異世界では桃色髪も水色の瞳も自然だったが、今の彼はどうみてもコスプレのそれでしかない。端的に言うと制服と現実と学園の中で、彼の頭と目だけが確実に浮いていた。
「(……さて、どうするべきか」」
ミノルの脳内サミット、今回の議題はノウチラス・クラッシュイングである。ミノル曰く「奴」が記憶持ちなのか、それとも真っ新な状態でこちらに転生してきたのかによって、ミノルの対応も変わってくる。
記憶なしならこのまま関わらず、もし記憶有であれば……彼の心はどす黒い感情に満たされた。
「見つけた、僕の運命!」
一昔前のアニメの世界から抜け出したような美少年……もといアニメの世界の人間を完コピしようとして努力の方向性を見誤っている痛々しい美少年は、学園一のイケメンであり王子様のあだ名がついたキャストにぎゅうと抱き付いた。
つま先立ちの姿すらも計算されているのだろうか、キャストに恋い焦がれる者やそうでもない者、単なる通行人すらも皆顔を顰める。
心の柔らかく黒い部分、俗にいう黒い歴史をツンツン刺激するようなノウチラス・クラッシュイング……久良は、もう離さないという風にキャストの腰に手を回している。
「ずっと君の事探してた。記憶はないけど、心と身体が君を求めてる。名前も知らなかったのに変だよね?でも一目見て分かった。キャスト、大好き」
「(なるほど)」
記憶はないがキャストに対する執着はそのままで転生したパターンかと、ミノルは納得した。彼の冷静冷酷な頭脳は最悪キャストを人身御供に久良へ押し付け、平穏な学生時代を過ごす犠牲とすることも厭わない。
「……」
前世からの運命であったキャストは、そっと久良の両肩を掴むとそのまま押しのけ、そして盛大に嘔吐した。
押しのけたのはキャストの久良に対する最後の心遣いというやつで、けれどもそれは数秒ほど遅くて間に合わず、吐瀉物は盛大に久良の全身にかかった。
阿鼻叫喚、鼻を突く胃酸の匂いに生徒たちは逃げまどいながらも、ドアと窓を全開にする。誰か雑巾とバケツ持ってきてという学級委員長の声、保健委員がキャストを両サイドから掴み保健室へと引っ張ってゆく。
「ごめん、その臭い、吐き気がする」
実際に嘔吐までしたが、キャストは心よりも先に身体がノウチラス・クラッシュイングこと納地久良を拒絶した。ハクエーキ学園の頃はいつまでも嗅いでいたいぐらい芳香だった久良の甘い花の香りは、今の彼には異臭でしかなかった。
久良にしてみれば、記憶はないものの異世界で使用していた香水と同じものを使っていたというのに。この拒絶の仕方はあんまりだろう。
「申し訳ない、俺が全部悪い。君は悪くない、少なくともあの時に罪を償った今の君は悪くない。けれども俺は……君が無理だ。ごめん、もう身体が受け付けない」
これは彼らにとって異世界転生する前の過去の出来事だ。イシヨン王国で元の世界に帰るミノルを見送った後、キャストは断罪侯爵に必ず自身が拷問のうえ処刑されることを約束し、そのまま国王と王妃には廃嫡を願い出てから、ノウチラスを地下牢に連れて投獄した。
「キャス、何を」
すっかりこれまでの記憶が蘇った当時のノウチラスはガタガタと身を震わせ、牢の隅で身を縮めている。
「愛していたよ、ノウチラス」
きっと、たぶん。けれども自分たちは恐ろしいことをしてしまった。その報いをただ受けるだけでは許してはもらえないだろう。ループの鎖を切り離すためには罪を受け、そして「与えねば」ならない。
「騎士『共』この者を犯せ」
かつてミノルを強姦し暴行したキャスト付きの騎士たちに、王太子は命令する。彼らも苦い繰り返しの記憶が残っているので罪の痛みと共に身体が小刻みに震えていたが、逆らえば断罪侯爵にされたように、ペニスを切り取られ口の中に捻じ込まれ、そして首を撥ねられるのだろう。
手を下すのが断罪侯爵かキャストか、それだけの違いだ。
「手加減はするな。あの時と同じようにやれ」
もう逃げることは許されなかった。口に自身の下着を詰め込まれ、喉を詰まらせそうになりながらノウチラスは男たちの欲望の捌け口にされた。服を破かれ腹を蹴られ、白い肌には痛々しい傷跡が残ってゆく。口や尻の穴を散々玩具にされて、胸の突起を摘ままれては、悪戯に片方だけ金の針を刺された。
戯れにもう片方の乳首は切り落とされ、ノウチラスが痛みで絶叫するのも構わずに騎士たちは悪しき行為を繰り広げる。
どうせこの先、彼らの未来もないのだ。それならやりたい放題やってやろうという気持ちなのかもしれない。王宮騎士とは名ばかりの、下衆な彼らの本性がそれなのだろう。
局部は裂傷し血がしたたり落ちる。『ミノルの時は』脅しの意味もあったのだろう、邪魔な歯はへし折られて、すっかり男の物を受け入れるためだけの器官にされた。
「こんな酷いことを、ミノルに?」
目の前の最愛が嬲られているというのに、ノウチラスを心配することも憤怒することもなく、何の罪も無かったミノルに?と惚けたように呟くキャストに対して怒鳴り散らしたのはノウチラスだ。
「その何の罪もないミノルの処刑を命じたのは、キャスでしょう」
僕のために、僕のいいなりになって本当に馬鹿な王子だね。何回も何回もキャスは愚かなことを繰り返した。それが見て気分が良くて、僕は最後までキャスを手離せなかったんだ。僕はあのミノルが苦しんで苦しんで死ぬところだけが見たかった。何度でも見たかった。
あんな平凡な容姿の癖に、そのほかの全てを持ったミノルがキャスまで手に入れるのは見てて腸が煮えくり返るような気分だった。本当にざまぁみろ。
僕はアイツが嫌いだ。アイツの破滅する姿は何度でも見たかった。
……可愛いキャス、哀れなキャス、愚かで醜くて愚王でしかないキャス、僕だけのキャス、僕だけの玩具。大好き。
「……本当に、救いようのない馬鹿!」
けれども、そこが堪らなく好きだったのだろう。自分に心底惚れ込んでいた、愚かな傀儡となったキャストが、ノウチラスはたまらなく好きだったようだ。
「……っ化け物が」
「どっちが。反省とやらが見えないキャスの方がよっぽどクズじゃないか。それに、拷問も結局部下に任せて自分は手すら汚そうとしない。
最低だよキャス。所詮王太子の座に胡坐をかいているだけのお子ちゃま無能王子。本当に愛する者すらも一時の恋愛感情で見失う哀れな男。でもそんな貴方でも僕は愛してる」
そこから、キャストの記憶は途切れ途切れとなっている。
気が付けば首を切断され、口に自身のペニスを捻じ込まれた騎士たちの骸と、そして同じようにされたノウチラスの頭部が転がっていた。ご丁寧にノウチラスの下半身はズタズタに切り裂かれ、穴であったそこはもう食い散らかされた獲物のように引き裂かれている。
ミノルの仇でも取ってやったつもりだろうか。キャストは高く飛び上がると、ノウチラスの頭部を踏みつぶした。
「うぐっ……」
血の匂いと嗅ぎ慣れた花の香りが、キャストの胃を殴りつけるように何度も何度も責め立てた。吐いても吐いても不快感は消えてくれず、愛する者やかつて愛した者すら幸せにできない自身は、やはり愚の極みだなと彼は後悔と懺悔の念を胸に、止まない痛みに耐え続ける。
「……どうぞ、あなたの気が済むまで、私を惨たらしく殺してください」
断罪侯爵の前にひれ伏し、額を地面に擦りつけるキャストの姿に侯爵は「私が直々手を下すほどの価値は、貴方にはもうない」と、居なくなったミノルをただ惜しむように断罪侯爵は遠くを見つめていた。
その後、キャストは王国の広場に磔にされると、そのまま水も食料も与えられず炎天下に晒されたまま、ほどなくして命を落とした。餓死よりも早く逝けたのは彼にとって少しばかりの幸いであったかもしれない。
……彼らがそんな壮絶な最期を遂げたことなど、キャストはミノルに伝えてはいない。過去は過去としてキャストの事情など誰もわからないが、学園一のイケメンはイタイ美少年の前で盛大に嘔吐し、見事振ったというかフラれたというべきか、ともかくそんな正しい情報が流れただけだった。
「先日は申し訳なかった」
後日、キャスト・レ・イシヨンは多量の吐き気止めを服用し、マスクを装着したうえで高級クリーニングの相場としても少々高めな金額を封筒に入れて、納地久良に差し出した。
体調不良で不快な目に遭わせたことと、図らずも周囲の目に晒すことになり恥をかかせてしまったことを彼は心より詫びる。
「じゃあ僕と付き合って♡って言ったら付き合ってくれるの?」
ノウチラスもとい久良の言葉に、キャストは顔を思い切り背けエチケット袋を口元に当てた。その姿がまた、周囲からの失笑を買った。
「……酷いな、僕はキャスト君が大好きなのに」
「ごめん、でも俺は……」
「諦めなよ納地君。仮にイシヨン君と無理やり付き合ったとしても、君の制服もジャージも私服もゲロ塗れになる未来しかないよ。人には相性ってものがあるんだ」
クラスの真面目だが空気が読めない学級委員長の言葉に、笑いをこらえていたクラスメイト達はぶふっと激しく吹き出し、その身を捩らせていた。
今世の久良にとって気の毒なことに、彼の運命は久良が視界に入るととたんに顔色を悪くし、そして吐き気を催す存在らしい。特に食事の時などは最悪で、食堂で久良の姿を見かけた瞬間キャストは食事どころではなくなる。顔を青ざめさせてトイレへ向かう姿に、久良もようやくキャストに好かれていないということは理解した。
「流石に可哀想では」
「付き合うのは無理かもしれなくても、せめて友達ぐらいにはねぇ」
「でも、もしかしたら納地君の体臭とかが遺伝子レベルでキャスト君と相性が悪いのかもしれないし」
「心か身体かわからないけどさ、そういう病気なら仕方ないもんね」
「NASAで調べてもらえないかな、病院じゃ無理だ病院じゃ」
H学園内でキャストと久良は『ゲロ吐き王子と悲劇のピンク頭』という、嫌な子供向け映画のタイトルのように呼ばれることとなった。
「……」
渦中の二人と少しだけ離れた場所で、ミノルは少しだけ心を砕いていた。彼らには積年の恨みはあるものの、少なくとも今世では二人は罪を犯していない。そしてキャストはともかくとして、旧ノウチラス現久良は前世の記憶がないのだ。
神という者がもしいるのなら、それはそれで腹立たしい思いも無くはないが、元々は愛し合っていた二人だ。これはあまりにも可哀想ではないかとミノルは思った。
「久良君、実はキャスト君ってさ、匂いに敏感で香水とか駄目らしいんだ」
「あ、そうなんだ……」
「それと……これは君のアイデンティティの問題だから俺がどうこう言える話じゃないけど」
「教えて、キャスト君の事なら何でも知りたいんだ」
「昔、メンヘラなコスプレイヤーに付きまとわれて以来、派手な髪色やカラコンがダメになったみたいで……」
それは贖罪だろうか。ミノルとてやられっぱなしではなく異世界では何度もノウチラスに報復をしてきたが、それはそれなのだろう。ミノルは今世でお助けキャラになってやろうとしたのだが、いくらなんでも嘘が過ぎる、我ながらもっとマシな嘘は付けないのかと心の中で悪態を吐いた。
「おはよう、キャスト君」
次の日、周囲はどよめきで満ちていた。久良の桃色の髪は真っ黒に、そして甘い香水の匂いは消えていた。目に悪そうな痛々しいカラコンも外されており、彼からはほんの僅かの爽やかなソープの匂いしか感じられない。その香りもコロンではあるのだが、少なくとも前よりはずっと学生らしく自然な香りだった。
「美少年や」
「もっと早くから、そうしていればよかったのに」
「なんなら転校する前からそうしていればよかったのに」
久良の代わり様に驚いたのはキャストもであった。目に痛いピンク髪と水色のカラコンがなくなり、そして吐き気を催す香水の匂いも消えた彼は、すっかり清楚な美少年と言った風情だ。かつて恋い焦がれた桃色や水色がなくなってしまっても、不思議とキャストの心は凪いでいる。
「……変、かな?」
「いや、いいんじゃないだろうか」
「そっか!じゃあこれで僕はキャスト君の隣に居られるね?」
「……」
いつの間にか、キャストはマスクがなくとも久良に対して吐き気を催すことがなくなっていた。やっぱり男は清楚に弱いよね、だとかよかったね運命に拒絶されることがなくなってと囃し立てる周囲をよそに、キャストは困惑した様子で無意識のうちにミノルを探している。
そんなミノルは、遠くの壁側で腕を組みもたれ掛かりながら、後方プロデューサー面とでも呼ぶべきだろうか。ふんぞり返って二人の動向を見守っていた。
これでいい、これが本来の「二人」のあるべき姿なのだろうと。恋愛の出汁に使われたことと、迫害されたことに関しては今でも恨みがあるが、本来好き同士がくっつくということに対して、ミノルに異論はなかった。
確かに異世界的な背景によって生じた身分違いの恋は辛かっただろうと、彼は思った。これからは好き同士幸せにおなり、俺の居ないところでと彼は決別する気満々であったのだ。
「紆余曲折あったけど、幸せになれよ」
俺のいないところで。
「今度は人様に迷惑かけずに生きるんだぞ」
俺のいないところで。幸せは願うが、ミノルは彼らと関わり合うつもりはもう微塵もなかった。過去のつもりではあったが、あの時の事を思うとやはり苦しかった、そして辛かったのだ。自分を繰り返し繰り返し何度も痛めつけてきたあの二人に対して、よいことも悪いことも含めて無関心になれるほど、流石にミノルの心は菩薩ではなかった。
「なんてことをしてくれたんだ、實!」
次の日、壁ドンと呼ぶにはあまりにも鬼気迫る様子で実の兄に追い詰められたミノルは、ポカンとした様子で満を眺めていた。
「アイツらを苦しめるために、納地久良の脳を操作したというのに」
恐ろしい形相でミノルを通して他の何かを睨み付けている兄の姿は、かつての彼の父親である断罪侯爵そのものであった。
ーーーーーーーーーー
どちらが読みたいですか
キャスト×ミノル
キャスト×久良(ノウチラス)
※キャスト×久良の場合、救いようのないバッドエンドになります。
異世界で飽きるほどに人生のループを繰り返した男、ミノル・ダンザイこと断罪實は溜息のようにそう呟いた。
その言葉に対して、力なく首を縦に振り同意を示すのは、同じく捻じれたループを繰り返すこととなった、かつての愚かな王太子であるキャスト・レ・イシヨンという金髪碧眼の美男子だった。
ミノルが通うH学園は進学校であり、編入や留学をするにしてもそれ相当の学力や内申点といったものが必要な場所だった。
「お前に思うところは山ほどあるけど、もう過去のことだ。今となってはあれが現実のことだったかも俺の中では怪しい。
俺とキャストが同じクラスになっちゃったのはなんかの縁というか間違いとして、これからクラスメイトとして適度に距離を置いた節度ある付き合いをしよう。
それじゃ、お幸せに」
片手を上げてその場を去ろうとしたミノルの腰に、みっともなくもなりふり構わずしがみ付いているのはかつての美形王子、恐らく今はただのイケメンであるキャスト・レ・イシヨンだ。
「何をするイケメン」
「お前が俺から離れようとするからだミノル」
「いいから離れなさいよ、こんな所誰かに見られたら勘違いされちゃうじゃないのよ」
「いやだ」
おねえな言葉を操りつつキャストをやんわりと拒絶するミノルと食い下がるイケメン、校舎裏での攻防は、今回の所はキャストに軍配があがったようだ。何せ現実世界でのミノルには魔力がない。それはキャストも同じであるが、彼はミノルに会うためだけに勉学に励み、ミノルにふさわしい男になるために武道や乗馬も極めたのだという。
「わざわざ詫びに来たのか、悪いな。
前世でその誠意を見せてくれたらよかったのにな……まあいいや、謝罪を受け入れよう。今世では俺もお前も今のところ真っ当な人生を歩んでいる。お互い新しい人生を謳歌しようじゃないか」
「お前と一緒なら」
キャストは頬を赤らめると、じいとレーザーのような眼差しをミノルに向けている。ミノルはチベットスナギツネのような死んだ眼差しのまま、ハクエーキ学園へと思いを馳せた。
「……俺、お前とそんなに接点あったっけ?」
99機以上散っていった人生を全て思い出すのは困難だが、キャストとミノルが伴侶としてともに人生を過ごしたのは1度だけ、それ以外のキャストは恐らくノウチラス・クラッシュイングというヒドイン、外面だけは極上の美少女と見紛うほどの美少年と恋慕していたはずだ。
「……覚えてないのか、俺とミノルは幼少の頃からの付き合いだ」
「……」
ミノルとしての記憶は確かにあの、ハクエーキ学園での断罪から始まり、いいところ遡ることができてもせいぜい学園入学前程度の記憶であった。
「……今さら俺が、言えた口ではないか」
自重気味に笑うキャストからは後悔と懺悔の念が感じられる。彼は子供の頃からのミノルとの記憶があったとしても、それらは全てノウチラス・クラッシュイングという男に現を抜かし、真実の愛を引き裂く者としてミノルを殺害するに至ったのだから。
「……魅了」
恐らくノウチラスには魅了の力が備わっていたのだろう。ミノルのその言葉を飲み込ませたのは、キャストの人差し指だった。彼の白く美しくも男らしい指は、ミノルの唇にそっと触れる。
「仮に魅了されたのだとしても、愚かにも惑わされたのは俺自身でしかない」
すまなかったといつのまにかミノルを後ろから抱きしめると、キャストは彼の耳元で
「償いや自責じゃないんだ。でも、少しでも信じてもらえるのなら、許されるなら。最後の人生はミノルと共に人生を歩みたい」
と悔いるように囁く。
「……」
その時のミノルには、何も答えることができなかった。憎悪、失望、裏切られた記憶、そしてほんのわずかの好感、情念……すでに半分以上消え去ろうとしている記憶をどう扱ってよいものか、今世では未成年のミノルには瞬時の判断ができなかったのだろう。
「これからの自分を見てほしい」
挽回の意志を簡潔に告げると「そろそろチャイムが鳴る」とミノルの手を引いて彼らは自身の教室へと戻っていった。
流星のように平凡な日本の進学校にやっていたキャストという王子様は、学園中の生徒達の目に止まり、その美貌と人格の良さで瞬く間に拡散されていった。
人格の良さというと語弊があるかもしれないが、彼もまた数十回以上の人生を繰り返してきた男だ。愚かながらも王子であったキャストは人心掌握も心得ている。
ミノルはというと、そんな彼の涙ぐましい努力などどこ吹く風で宣言通り平和な日常を謳歌していた。性事情は爛れている癖に規律正しい息が詰まるような貴族の服と空気から解放されたミノルは、クラスメイトや友人との何気ない会話や交流を楽しみ、時に涙ぐんだ。
「情緒不安定?」
「いや、年取ると涙脆くてねぇ」
「タメだろ、何歳だよ」
「ミノルお爺ちゃん、椅子に座りましょうねぇ」
すぐに涙腺が緩むミノルに対して、冗談交じりに心配してくれるヤマザキやクラスメイトたちは彼の肩や背中をポンポン叩いてやる。ミノルは今が一等幸せだと感じていた。
「……」
キャストはそんな彼らの様子を、少し離れた場所から覗くように黙って見つめていた。物憂げな様子はますます周囲の目線を惹いたが、彼にとっては第三者からの羨望の眼差しは最早どうでもいいもの、或いは小さい羽虫のように少しだけ鬱陶しいものでしかなかった。
何十回も繰り返した愚かしい断罪の日々、転生者であるミノルにとってはそれだけの記憶だったが、キャストやあの忌まわしくも最愛だったノウチラスにとっては、それこそ産湯まで時が遡り人生を繰り返していたことをミノルは知らない。
かつてのミノルにとって、キャストとノウチラスは単なる敵であった。彼らは自身の人生を妨げる害悪でしかなかった。
けれども、少なくともキャストにとってミノルは憎悪と愛情が入り乱れ心を掻き回されるような特別な存在だった。最愛の害悪、憎悪の愛情、アンビバレントな感情は頑ななキャストの心に何度も何度もガラスの破片を突き立て、そしてついにそれはひび割れて貫通に至った。
ミノルは好物すらも優等生で、キャロットポタージュが好きだった。偏食気味であったキャストは幼少のみぎりより学力や魔力が自身よりも高いミノルに対して、嫉妬や面白くないという思いがあったのだろう。今は、その記憶が彼にとって有益な知識となり役立った。
「ミノル、これあげる」
「ん、おー!なにこれ、ニンジンポタージュ缶!」
人気のない学校の廊下に設置されていた、これまた人気のない缶スープはミノル専用と言っていいほどのニッチな飲み物だった。
「俺キャロットポタージュ大好きなんだよ、ありがとうキャスト君!」
カシュッとプルタブを引いて、缶を両手で包み込むように持ちゆっくりゆっくりポタージュを味わうミノルの姿を、キャストは只々穏やかな笑みで眺めている。
ポタージュに向ける好感の目が、少しでも自分に向けられる日が来るといいなと心の奥底で願いながら。
「……極端なんだよお前」
「だって、ニッチ過ぎていつ販売終了になるかわからないし」
「無自覚に俺の心まで抉るなよ」
休日の朝、ダンザイ家の玄関に沢山のニンジンポタージュ缶(商品名がそうらしい)が入った段ボールを持ってきたのは元王室のイケメンだ。ガッシャガッシャと重たいダンボールをどこから持ち出したのだろうか、業務用の台車に乗せられるだけ乗せてやってきたイケメンは大層人の目を引いた。
「これ、賞味期限3年あるから大丈夫」
「そういう問題じゃねえんだよ」
ミノルはイケメンと台車をしまい込むように、やむなく自身の家へと引き入れた。突然やってきた眩いばかりの美の暴力みたいな男に対して、ミノルのリアル父と母もポカンとした表情で見つめているが「これ、クラスメイト」とだけ簡単に説明してキャストの腕を掴むと自身の部屋に押し入れた。
「ここがミノルの部屋」
「そわそわすんな」
曲がりなりにも元王室の男である。礼儀正しく部屋に入ると、家主の許可を得て座布団に腰を下ろし、そのまま近くのベッドに顔を埋めて深呼吸をしている。無論スーハ―スーハ―に関しての許可は得ておらず、その様子にミノルはドン引きした。
「お前は俺の何が良くてこんなに変態なのかね」
「俺はお前の全てが良くて、こんなことになっている」
「……」
「信じて、くれていないのも理解している」
何せ異世界では、ミノルは彼に殺されたのだ。やむを得ない理由とは言え部屋に招き入れたのも、過去の記憶があれば通常とても信じられないことだろう。
「實!ジュース持って来たよ」
しかしここはミノル・ダンザイの本丸とも呼べる場所である。彼には最強にして最悪なガーディアンがいた。キャストには劣るかもしれないが、日本男子としてはかなりの美形である兄の満が部屋に侵入してきた。
「っ……!ダンザイ侯爵!」
キャロットジュースを二つとビスケットを運んできた満の姿に、キャストは頭を地面に擦りつけるようにして、それはそれは綺麗な土下座を披露した。
その感情は畏怖だった。その身体の震えは武者震いなどではなく恐怖だった。キャストは、自業自得とは言え幾度となくループする人生の中でミノルの父親に幾度となく受けた拷問により、戦意はすっかり喪失している。
「え、俺いつ爵位を得たの?」
他人の空似か、それとも記憶を無くした本人であったのか。後者はミノルにとってもよろしくないので、真っ当でずれた疑問符を頭に浮かべる兄に簡単な感謝を伝えると、ミノルは彼を部屋から追い出した。
「キャスト君、本当か」
「……間違いない、彼は記憶がないのか」
「……たぶん」
「……お兄さんとミノルって、兄弟仲は」
「良い方だよ、ちょっと心配症だけどね」
もし兄ちゃんに記憶があったら、あの時点で君は殺されているんじゃないかな。ほんの僅かのやりとりであっても、ミノルにとっては少し過保護な兄も周囲から見れば弟に執着しきっているブラコン兄であることは容易に見て取れる。難攻不落のガーディアンの存在とミノルの淡々とした物言いに、キャストは顔を青ざめさせた。
「キャスト君、クラスメイトに戻るなら今のうち……」
「俺は絶対にあきらめない」
察する能力が高く勘の良いミノルは、やんわり自身から手を引くように忠告を試みるが、キャストの決意は固かった。
「初めまして、○○学園から転入してきました納地 久良(のうち くら)です。『くら』って呼んで欲しいな、どうぞ仲良くしてください!」
「……何あれ」
「うわぁ」
「あちゃぁ」
キャストに続く時期外れの転入生、彼は非常に人目を引いた。華奢な身体つきや色白で女子と見紛う程の美形ではあるが、それ以上に桃色の髪と水色の目が悪目立ちしていた。
無論、生まれつきの髪色や瞳というわけではない。美少年ではあるがどこかコスプレキャラクターのように彼だけが教室から浮いている。
H学園は進学校故に、成績と素行さえ良ければ服装だけは自由な学校であった。彼が転入したのもその辺りが理由なのだろうと周囲は勝手に納得した。
「納地君、きれいな色の髪だねぇ。自分でブリーチしてるの?」
「これ?ふふ、運命の人に会うためにこの色で生まれて来たの。彼は僕のこの髪と目が大好きだから」
夢見心地で、どこからどうみても染め上げたかウィッグかというほどに不自然な色合いの桃色の毛を指に絡ませ、カラコンばりばりの瞳を瞬かせるその姿に「これはだめだ」と勇気を出して話しかけたクラスメイトもじりじりと後ずさる。
「不思議くんちゃんだ」
「多分ゲイらしい」
「いや、もしかしたら性自認が女性なのかもしれん」
進学校らしく教養に溢れた生徒達ばかり集まっていることが幸いしたためか、彼がいじめられるということはなかったが、何となく親しくなると面倒なことになるというセンサーだけは皆、正常に動作した。
「……転入生だって」
「なんかすごいのが転入してきたらしい」
「見た、すごかった」
キャストの時とは別のどよめきが、クラスを跨いでミノルのクラスにも噂が伝わってくる。この時期に立て続けにやってきた転入生か、珍しいなという簡単な感想を抱きながら廊下を歩いていたミノルは「ヒュッ」という声を上げると、そのまま体育の時間にすら見せたことのない驚異的な反射神経で通路脇に退避し「それ」を躱した。
長めのニット袖で手を隠し、ぽてぽてと計算し尽くされた愛らしい仕草で通路を走る美少女のような男は、何をどう見てもノウチラス・クラッシュイングその人だった。
異世界では桃色髪も水色の瞳も自然だったが、今の彼はどうみてもコスプレのそれでしかない。端的に言うと制服と現実と学園の中で、彼の頭と目だけが確実に浮いていた。
「(……さて、どうするべきか」」
ミノルの脳内サミット、今回の議題はノウチラス・クラッシュイングである。ミノル曰く「奴」が記憶持ちなのか、それとも真っ新な状態でこちらに転生してきたのかによって、ミノルの対応も変わってくる。
記憶なしならこのまま関わらず、もし記憶有であれば……彼の心はどす黒い感情に満たされた。
「見つけた、僕の運命!」
一昔前のアニメの世界から抜け出したような美少年……もといアニメの世界の人間を完コピしようとして努力の方向性を見誤っている痛々しい美少年は、学園一のイケメンであり王子様のあだ名がついたキャストにぎゅうと抱き付いた。
つま先立ちの姿すらも計算されているのだろうか、キャストに恋い焦がれる者やそうでもない者、単なる通行人すらも皆顔を顰める。
心の柔らかく黒い部分、俗にいう黒い歴史をツンツン刺激するようなノウチラス・クラッシュイング……久良は、もう離さないという風にキャストの腰に手を回している。
「ずっと君の事探してた。記憶はないけど、心と身体が君を求めてる。名前も知らなかったのに変だよね?でも一目見て分かった。キャスト、大好き」
「(なるほど)」
記憶はないがキャストに対する執着はそのままで転生したパターンかと、ミノルは納得した。彼の冷静冷酷な頭脳は最悪キャストを人身御供に久良へ押し付け、平穏な学生時代を過ごす犠牲とすることも厭わない。
「……」
前世からの運命であったキャストは、そっと久良の両肩を掴むとそのまま押しのけ、そして盛大に嘔吐した。
押しのけたのはキャストの久良に対する最後の心遣いというやつで、けれどもそれは数秒ほど遅くて間に合わず、吐瀉物は盛大に久良の全身にかかった。
阿鼻叫喚、鼻を突く胃酸の匂いに生徒たちは逃げまどいながらも、ドアと窓を全開にする。誰か雑巾とバケツ持ってきてという学級委員長の声、保健委員がキャストを両サイドから掴み保健室へと引っ張ってゆく。
「ごめん、その臭い、吐き気がする」
実際に嘔吐までしたが、キャストは心よりも先に身体がノウチラス・クラッシュイングこと納地久良を拒絶した。ハクエーキ学園の頃はいつまでも嗅いでいたいぐらい芳香だった久良の甘い花の香りは、今の彼には異臭でしかなかった。
久良にしてみれば、記憶はないものの異世界で使用していた香水と同じものを使っていたというのに。この拒絶の仕方はあんまりだろう。
「申し訳ない、俺が全部悪い。君は悪くない、少なくともあの時に罪を償った今の君は悪くない。けれども俺は……君が無理だ。ごめん、もう身体が受け付けない」
これは彼らにとって異世界転生する前の過去の出来事だ。イシヨン王国で元の世界に帰るミノルを見送った後、キャストは断罪侯爵に必ず自身が拷問のうえ処刑されることを約束し、そのまま国王と王妃には廃嫡を願い出てから、ノウチラスを地下牢に連れて投獄した。
「キャス、何を」
すっかりこれまでの記憶が蘇った当時のノウチラスはガタガタと身を震わせ、牢の隅で身を縮めている。
「愛していたよ、ノウチラス」
きっと、たぶん。けれども自分たちは恐ろしいことをしてしまった。その報いをただ受けるだけでは許してはもらえないだろう。ループの鎖を切り離すためには罪を受け、そして「与えねば」ならない。
「騎士『共』この者を犯せ」
かつてミノルを強姦し暴行したキャスト付きの騎士たちに、王太子は命令する。彼らも苦い繰り返しの記憶が残っているので罪の痛みと共に身体が小刻みに震えていたが、逆らえば断罪侯爵にされたように、ペニスを切り取られ口の中に捻じ込まれ、そして首を撥ねられるのだろう。
手を下すのが断罪侯爵かキャストか、それだけの違いだ。
「手加減はするな。あの時と同じようにやれ」
もう逃げることは許されなかった。口に自身の下着を詰め込まれ、喉を詰まらせそうになりながらノウチラスは男たちの欲望の捌け口にされた。服を破かれ腹を蹴られ、白い肌には痛々しい傷跡が残ってゆく。口や尻の穴を散々玩具にされて、胸の突起を摘ままれては、悪戯に片方だけ金の針を刺された。
戯れにもう片方の乳首は切り落とされ、ノウチラスが痛みで絶叫するのも構わずに騎士たちは悪しき行為を繰り広げる。
どうせこの先、彼らの未来もないのだ。それならやりたい放題やってやろうという気持ちなのかもしれない。王宮騎士とは名ばかりの、下衆な彼らの本性がそれなのだろう。
局部は裂傷し血がしたたり落ちる。『ミノルの時は』脅しの意味もあったのだろう、邪魔な歯はへし折られて、すっかり男の物を受け入れるためだけの器官にされた。
「こんな酷いことを、ミノルに?」
目の前の最愛が嬲られているというのに、ノウチラスを心配することも憤怒することもなく、何の罪も無かったミノルに?と惚けたように呟くキャストに対して怒鳴り散らしたのはノウチラスだ。
「その何の罪もないミノルの処刑を命じたのは、キャスでしょう」
僕のために、僕のいいなりになって本当に馬鹿な王子だね。何回も何回もキャスは愚かなことを繰り返した。それが見て気分が良くて、僕は最後までキャスを手離せなかったんだ。僕はあのミノルが苦しんで苦しんで死ぬところだけが見たかった。何度でも見たかった。
あんな平凡な容姿の癖に、そのほかの全てを持ったミノルがキャスまで手に入れるのは見てて腸が煮えくり返るような気分だった。本当にざまぁみろ。
僕はアイツが嫌いだ。アイツの破滅する姿は何度でも見たかった。
……可愛いキャス、哀れなキャス、愚かで醜くて愚王でしかないキャス、僕だけのキャス、僕だけの玩具。大好き。
「……本当に、救いようのない馬鹿!」
けれども、そこが堪らなく好きだったのだろう。自分に心底惚れ込んでいた、愚かな傀儡となったキャストが、ノウチラスはたまらなく好きだったようだ。
「……っ化け物が」
「どっちが。反省とやらが見えないキャスの方がよっぽどクズじゃないか。それに、拷問も結局部下に任せて自分は手すら汚そうとしない。
最低だよキャス。所詮王太子の座に胡坐をかいているだけのお子ちゃま無能王子。本当に愛する者すらも一時の恋愛感情で見失う哀れな男。でもそんな貴方でも僕は愛してる」
そこから、キャストの記憶は途切れ途切れとなっている。
気が付けば首を切断され、口に自身のペニスを捻じ込まれた騎士たちの骸と、そして同じようにされたノウチラスの頭部が転がっていた。ご丁寧にノウチラスの下半身はズタズタに切り裂かれ、穴であったそこはもう食い散らかされた獲物のように引き裂かれている。
ミノルの仇でも取ってやったつもりだろうか。キャストは高く飛び上がると、ノウチラスの頭部を踏みつぶした。
「うぐっ……」
血の匂いと嗅ぎ慣れた花の香りが、キャストの胃を殴りつけるように何度も何度も責め立てた。吐いても吐いても不快感は消えてくれず、愛する者やかつて愛した者すら幸せにできない自身は、やはり愚の極みだなと彼は後悔と懺悔の念を胸に、止まない痛みに耐え続ける。
「……どうぞ、あなたの気が済むまで、私を惨たらしく殺してください」
断罪侯爵の前にひれ伏し、額を地面に擦りつけるキャストの姿に侯爵は「私が直々手を下すほどの価値は、貴方にはもうない」と、居なくなったミノルをただ惜しむように断罪侯爵は遠くを見つめていた。
その後、キャストは王国の広場に磔にされると、そのまま水も食料も与えられず炎天下に晒されたまま、ほどなくして命を落とした。餓死よりも早く逝けたのは彼にとって少しばかりの幸いであったかもしれない。
……彼らがそんな壮絶な最期を遂げたことなど、キャストはミノルに伝えてはいない。過去は過去としてキャストの事情など誰もわからないが、学園一のイケメンはイタイ美少年の前で盛大に嘔吐し、見事振ったというかフラれたというべきか、ともかくそんな正しい情報が流れただけだった。
「先日は申し訳なかった」
後日、キャスト・レ・イシヨンは多量の吐き気止めを服用し、マスクを装着したうえで高級クリーニングの相場としても少々高めな金額を封筒に入れて、納地久良に差し出した。
体調不良で不快な目に遭わせたことと、図らずも周囲の目に晒すことになり恥をかかせてしまったことを彼は心より詫びる。
「じゃあ僕と付き合って♡って言ったら付き合ってくれるの?」
ノウチラスもとい久良の言葉に、キャストは顔を思い切り背けエチケット袋を口元に当てた。その姿がまた、周囲からの失笑を買った。
「……酷いな、僕はキャスト君が大好きなのに」
「ごめん、でも俺は……」
「諦めなよ納地君。仮にイシヨン君と無理やり付き合ったとしても、君の制服もジャージも私服もゲロ塗れになる未来しかないよ。人には相性ってものがあるんだ」
クラスの真面目だが空気が読めない学級委員長の言葉に、笑いをこらえていたクラスメイト達はぶふっと激しく吹き出し、その身を捩らせていた。
今世の久良にとって気の毒なことに、彼の運命は久良が視界に入るととたんに顔色を悪くし、そして吐き気を催す存在らしい。特に食事の時などは最悪で、食堂で久良の姿を見かけた瞬間キャストは食事どころではなくなる。顔を青ざめさせてトイレへ向かう姿に、久良もようやくキャストに好かれていないということは理解した。
「流石に可哀想では」
「付き合うのは無理かもしれなくても、せめて友達ぐらいにはねぇ」
「でも、もしかしたら納地君の体臭とかが遺伝子レベルでキャスト君と相性が悪いのかもしれないし」
「心か身体かわからないけどさ、そういう病気なら仕方ないもんね」
「NASAで調べてもらえないかな、病院じゃ無理だ病院じゃ」
H学園内でキャストと久良は『ゲロ吐き王子と悲劇のピンク頭』という、嫌な子供向け映画のタイトルのように呼ばれることとなった。
「……」
渦中の二人と少しだけ離れた場所で、ミノルは少しだけ心を砕いていた。彼らには積年の恨みはあるものの、少なくとも今世では二人は罪を犯していない。そしてキャストはともかくとして、旧ノウチラス現久良は前世の記憶がないのだ。
神という者がもしいるのなら、それはそれで腹立たしい思いも無くはないが、元々は愛し合っていた二人だ。これはあまりにも可哀想ではないかとミノルは思った。
「久良君、実はキャスト君ってさ、匂いに敏感で香水とか駄目らしいんだ」
「あ、そうなんだ……」
「それと……これは君のアイデンティティの問題だから俺がどうこう言える話じゃないけど」
「教えて、キャスト君の事なら何でも知りたいんだ」
「昔、メンヘラなコスプレイヤーに付きまとわれて以来、派手な髪色やカラコンがダメになったみたいで……」
それは贖罪だろうか。ミノルとてやられっぱなしではなく異世界では何度もノウチラスに報復をしてきたが、それはそれなのだろう。ミノルは今世でお助けキャラになってやろうとしたのだが、いくらなんでも嘘が過ぎる、我ながらもっとマシな嘘は付けないのかと心の中で悪態を吐いた。
「おはよう、キャスト君」
次の日、周囲はどよめきで満ちていた。久良の桃色の髪は真っ黒に、そして甘い香水の匂いは消えていた。目に悪そうな痛々しいカラコンも外されており、彼からはほんの僅かの爽やかなソープの匂いしか感じられない。その香りもコロンではあるのだが、少なくとも前よりはずっと学生らしく自然な香りだった。
「美少年や」
「もっと早くから、そうしていればよかったのに」
「なんなら転校する前からそうしていればよかったのに」
久良の代わり様に驚いたのはキャストもであった。目に痛いピンク髪と水色のカラコンがなくなり、そして吐き気を催す香水の匂いも消えた彼は、すっかり清楚な美少年と言った風情だ。かつて恋い焦がれた桃色や水色がなくなってしまっても、不思議とキャストの心は凪いでいる。
「……変、かな?」
「いや、いいんじゃないだろうか」
「そっか!じゃあこれで僕はキャスト君の隣に居られるね?」
「……」
いつの間にか、キャストはマスクがなくとも久良に対して吐き気を催すことがなくなっていた。やっぱり男は清楚に弱いよね、だとかよかったね運命に拒絶されることがなくなってと囃し立てる周囲をよそに、キャストは困惑した様子で無意識のうちにミノルを探している。
そんなミノルは、遠くの壁側で腕を組みもたれ掛かりながら、後方プロデューサー面とでも呼ぶべきだろうか。ふんぞり返って二人の動向を見守っていた。
これでいい、これが本来の「二人」のあるべき姿なのだろうと。恋愛の出汁に使われたことと、迫害されたことに関しては今でも恨みがあるが、本来好き同士がくっつくということに対して、ミノルに異論はなかった。
確かに異世界的な背景によって生じた身分違いの恋は辛かっただろうと、彼は思った。これからは好き同士幸せにおなり、俺の居ないところでと彼は決別する気満々であったのだ。
「紆余曲折あったけど、幸せになれよ」
俺のいないところで。
「今度は人様に迷惑かけずに生きるんだぞ」
俺のいないところで。幸せは願うが、ミノルは彼らと関わり合うつもりはもう微塵もなかった。過去のつもりではあったが、あの時の事を思うとやはり苦しかった、そして辛かったのだ。自分を繰り返し繰り返し何度も痛めつけてきたあの二人に対して、よいことも悪いことも含めて無関心になれるほど、流石にミノルの心は菩薩ではなかった。
「なんてことをしてくれたんだ、實!」
次の日、壁ドンと呼ぶにはあまりにも鬼気迫る様子で実の兄に追い詰められたミノルは、ポカンとした様子で満を眺めていた。
「アイツらを苦しめるために、納地久良の脳を操作したというのに」
恐ろしい形相でミノルを通して他の何かを睨み付けている兄の姿は、かつての彼の父親である断罪侯爵そのものであった。
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どちらが読みたいですか
キャスト×ミノル
キャスト×久良(ノウチラス)
※キャスト×久良の場合、救いようのないバッドエンドになります。
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