大人初恋

星河琉嘩

文字の大きさ
5 / 50

5

しおりを挟む
「それで?」
 菜々美のマンションにやって来たかよが、同窓会で翔と消えたことに興味津々。いや、送っていくとは言ってたけど、かよはそれだけで済むわけないと思っていたのだ。
「何が」
「中山くんとなんかあった?」
「なにも」
「えーっ!嘘でしょ!」
 大袈裟に叫ぶかよに呆れる。
(何かあるわけないじゃない)
 元々、翔は菜々美のことはそんな風には見ていない。高校の時にそれは証明されている。

「もうっ、中山くんのことはもういいじゃないの」
 そう言って菜々美は珈琲を片手に仕事部屋に向かった。
 そんなかよも菜々美の後を追って仕事部屋に入る。
「で?書けそうなの?」
 菜々美が行き詰まってることを知ってるかよは聞く。寄りによって、苦手な部分。恋愛小説なんか書いてるわりには経験がない菜々美。
 経験がないことを話せばきっと回りは驚く。菜々美のその姿からしたら経験豊富に見えるから。
 それが嫌だと、菜々美は思ってる。

「なんで菜々美のような人が、恋愛小説なんか書いてるんだろうねぇ」
 かよは不思議だった。高校生の頃から知ってるが、そういう雰囲気になった人はいない。みんな菜々美を見て好意は寄せるが、相手がいるものと思い、その胸の内を打ち明けることなどない。
 かよは傍にいたからそれをよく知っている。
「恋愛はおろか、エッチも未経験だもんねぇー」
 面白おかしくかよに言われる。言い返すにもその通りだから無理もない。
 セックスどころか、キスも未経験だから何も言えないのだ。
「もう、ほんとに茶化さないで。こっちは真剣なんだから」
「中山くんにお願いしてみればー?」
「な、な、な……っ!なんて事っ!」
 言葉が出て来ない菜々美は、顔が真っ赤だ。
「うふふ。菜々美ってば可愛い~」
 かよはますます笑う。
「かよっ!」
 顔が真っ赤になってる菜々美は、恥ずかしくて顔を背けていた。
「菜々美ってば、ほんとそういうのダメね。そんなんで恋愛小説家なんてやってられるの?」
「そう言われたって……」
 小説は所謂いわゆる、妄想の世界。なんとでもなる。だが、嘘っぽいのはダメ。だから行き詰まってるのだ。
「ま、菜々美が頑張らないといけないよね。小説しごとも恋愛も」
 かよの言う通りだ。自分が頑張らないといけない。それは痛い程分かってる。


 かよが帰った後、仕事部屋で籠ってる菜々美はいろんな場面シーンを想定した文章を書いていた。
 菜々美は場面を飛ばして書く癖がある。そしてそれを組み合わせてひとつの物語ストーリーにしていくのだ。
 だけど、肝心な場面は書けないでいる。
(これじゃ組み合わせられない)
 今書いているのはちょっと大人な恋愛物で、そういう場面は飛ばせないのだ。

「ふぅ……」
 ため息を吐いた菜々美は、珈琲を入れにキッチンへと向かう。
 お湯を沸かしていると、テーブルに目がいく。ついこの前、そのテーブルに翔がいたことを思い出す。
 連絡していいかと言われたが、あれ以来連絡はない。
 電話がかかってくることを期待している訳ではないが、少なからずも待ってる自分もいることに気付く。それでも自分から何か行動を起こす勇気もなく時間だけが経っていく。
 あれは社交辞令だなと思って忘れようとした頃、翔から電話が入った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

15年目のホンネ ~今も愛していると言えますか?~

深冬 芽以
恋愛
 交際2年、結婚15年の柚葉《ゆずは》と和輝《かずき》。  2人の子供に恵まれて、どこにでもある普通の家族の普通の毎日を過ごしていた。  愚痴は言い切れないほどあるけれど、それなりに幸せ……のはずだった。 「その時計、気に入ってるのね」 「ああ、初ボーナスで買ったから思い出深くて」 『お揃いで』ね?  夫は知らない。  私が知っていることを。  結婚指輪はしないのに、その時計はつけるのね?  私の名前は呼ばないのに、あの女の名前は呼ぶのね?  今も私を好きですか?  後悔していませんか?  私は今もあなたが好きです。  だから、ずっと、後悔しているの……。  妻になり、強くなった。  母になり、逞しくなった。  だけど、傷つかないわけじゃない。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

愛想笑いの課長は甘い俺様

吉生伊織
恋愛
社畜と罵られる 坂井 菜緒 × 愛想笑いが得意の俺様課長 堤 将暉 ********** 「社畜の坂井さんはこんな仕事もできないのかなぁ~?」 「へぇ、社畜でも反抗心あるんだ」 あることがきっかけで社畜と罵られる日々。 私以外には愛想笑いをするのに、私には厳しい。 そんな課長を避けたいのに甘やかしてくるのはどうして?

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

Emerald

藍沢咲良
恋愛
教師という仕事に嫌気が差した結城美咲(ゆうき みさき)は、叔母の住む自然豊かな郊外で時々アルバイトをして生活していた。 叔母の勧めで再び教員業に戻ってみようと人材バンクに登録すると、すぐに話が来る。 自分にとっては完全に新しい場所。 しかし仕事は一度投げ出した教員業。嫌だと言っても他に出来る仕事は無い。 仕方無しに仕事復帰をする美咲。仕事帰りにカフェに寄るとそこには…。 〜main cast〜 結城美咲(Yuki Misaki) 黒瀬 悠(Kurose Haruka) ※作中の地名、団体名は架空のものです。 ※この作品はエブリスタ、小説家になろうでも連載されています。 ※素敵な表紙をポリン先生に描いて頂きました。 ポリン先生の作品はこちら↓ https://manga.line.me/indies/product/detail?id=8911 https://www.comico.jp/challenge/comic/33031

処理中です...