季節

星河琉嘩

文字の大きさ
6 / 50
第1章 春

5

しおりを挟む
「想像……出来ないなぁ」
 学校帰り。愛理がそう呟く。真由美先輩の話、実感が沸かないんだ。あのいつも無駄に元気な宮下先輩に、昔、何かがあったなんて。
 笑うことなんかしないで、何かに対しての怒りで溢れていたなんて。


 あの先輩が……。


 目の前にはバス停でバスを待つ、宮下先輩がいた。他の先輩たちと一緒にフザけていた。その笑顔は、私が知ってるいつもの先輩だった。
「あ。柊冶先輩!」
 愛理は宮下先輩にそう声をかけると、小走りに近寄って行った。私はそんな愛理の後ろを黙って追っていく。
「おう。愛理に瑠璃」
「先輩たち、先に部活終えていったから、もう帰ったのかと思った」
「ああ。教室に忘れもんしたからな。コイツが」
 指したのは宮下先輩と仲良い、遠藤先輩だ。みんなからと呼ばれている。本人はやめてくれって顔をしているけど。
 なんか、同じクラスにもうひとり遠藤っていう名前の先輩がいて、その先輩はなんだって。
「貢一先輩が忘れ物?」
「違うよ、こっちだよ。全く、人の所為になんかすんなっ」
 貢一先輩はそう言うと、宮下先輩の背中を叩いた。笑いながらそれを受け止めていた宮下先輩は、やっぱりあのおちゃらけた先輩だった。
 こんな先輩からは想像することなんて、無理な話だった。

「そういや、瑠璃」
 貢一先輩がこっちを見て言う。
「お前、彼氏いたんだってな」
「誰から聞いたんですか」
「コイツ」
 と、宮下先輩を指した。宮下先輩は私をじっと見ては、何も言わない。
「宮下先輩~!なに勝手に話してるんですか」
「照れるな、瑠璃」
 からかう、貢一先輩の隣で宮下先輩は大人しかった。


 こういう話だから…???
 いつもと違うのは、あの告白のせい???


 先輩のあの真剣な言葉。
 たったひとことなんだけど、それが私の胸に響いたんだ。だからって、先輩と付き合えるわけない。
 それは分かってる。
 だから、先輩にはちゃんと言わなきゃいけないんだ。
「貢一先輩。瑠璃の相手ってね、中学の時から友達なんです」
 横から言った愛理に、目線を移した貢一先輩。
「中学?お前ら一緒だっけ?」
「2年までは一緒」
「3年の時に私、転校しちゃったから」
「そっか」
 貢一先輩は優しい顔で、こっちを見ていた。貢一先輩は宮下先輩とはタイプが違う。知的でクールで。でもって、優しくてかっこいい。宮下先輩とは違う雰囲気が人気がある。
 だから貢一先輩のその瞳で見つめられたらきっと、卒倒する人で続出するだろうって思う。
「瑠璃はそいつの事が好きなんだよな」
 貢一先輩は宮下先輩がいるのに、そういう話をしてくる。宮下先輩は聞かないようにしている。でも貢一先輩は、わざと聞かせようとしているみたいに話している。
「瑠璃。どうなんだよ」
「……好きじゃなきゃ、付き合ってませんよ」
 顔が真っ赤になるのが分かる。 
「そっか」
 笑って、貢一先輩は宮下先輩の肩を叩く。聞かないフリをしていた先輩は、こっちを見ると微かに笑った。


「なぁ。時間、まだ大丈夫だろ」
 貢一先輩がイキナリそう言ってきた。
「はい」
「大丈夫ですけど」
「お茶しねぇ?」
 その言葉に、宮下先輩の顔が驚きの顔に変化していった。
「おい。エンコウ」
「いいじゃねーか」
 そう言うと、やってきたバスに乗り込んだ。
「駅の方に行くぞ」
 振り返って貢一先輩は言った。 
 その姿に呆れながら、宮下先輩が後を着いていく。そんなふたりを見て、私たちは笑った。

 貢一先輩がなぜ、宮下先輩と仲良くなったのか、ちょっと謎だった。
 タイプが全然違うし。
 性格だって、違う。
 宮下先輩がフザけてる人なら、貢一先輩はとてもマジメ。
 そんなふたりが一緒にいるのは不思議でならなかった。
「貢一先輩って、なんで宮下先輩と仲良くなったの?」
 愛理がそう聞いた。
 全く、この子はそういうことをズバッって聞くんだから。私は呆れながらも興味があったから、貢一先輩をじっと見た。
「さぁ。なんでだろうな~」
 その言葉に宮下先輩は、貢一先輩の背中を叩く。
「お前が突っかかってきたんだろ」
「え。そうだっけ?」
「1年の時、同じクラスだったんだよ、こいつとは」
 宮下先輩はそう言った。そういや、今はクラスが違う。貢一先輩と真由美先輩は、同じクラスにいるけど。
「こいつと俺は最初会った時に、なんか対立してて」
「で、いつの間にか仲良くなった」
「へぇ」
 やっぱり不思議。
 どうしてふたりは仲がいいのか。でもこのふたたりを見てるのは、結構好きだったりする。終点の駅前でバスを降りて、貢一先輩は歩いて行く。貢一先輩の歩くペースは私達に合わせてくれて、その気遣いが嬉しかった。


「ここ。俺、気に入ってるんだ」
 そう言って入ったのは、オリーブという喫茶店。その喫茶店は、高校生の溜まり場のようになっていた。
「俺の中学がこっちの方だから。ここは中学の時から来てたりするんだ」
 意外な貢一先輩を見た気がした。

「いらっしゃいませ」
 店員さんがそう声をかけると、貢一先輩を見る。
「あら。貢ちゃん」
「こんにちは。南さん」
 頻繁に来ているせいか、店員さんになんて呼ばれているのが可愛かった。
「今日は女の子連れてるのね」
「後輩です。ちょっと面白い子たちなんで」
 笑った顔が、見た事ない優しい顔をしていた。先輩達はコーヒーを頼んで、私達は紅茶を頼んだ。それぞれの注文が来ると、貢一先輩は笑った。
「ここ、学生が多いでしょ。学生の味方みたいな場所なんだ」
 そう言われて周りを見渡す。確かに学生が多い。いろんな学校の制服の子達が、それぞれの会話に花を咲かせていた。

「で。瑠璃」
 貢一先輩は私の名前を呼ぶと、マジマジと私を見た。
「お前の彼氏ってどんなやつ?」
 ニカッと笑った顔が、悪戯っ子のような宮下先輩と、被って見えた気がした。
「お前な、それを聞きたいからお茶しようなんて言ったのかよ」
 呆れて宮下先輩が言った。
「そう。知りたくない?瑠璃と付き合ってるやつがどんなやつか」
「……てか、俺、一度会ってるもん」
「え。そうなのか?」
「バスの中でね」
「桜ヶ丘の制服着てたな」
「桜ヶ丘って、ここの近くだよな」
 貢一先輩はそう言うと、窓の外を見る。
 つられて窓の外を見ると、桜ヶ丘の制服を着た男子生徒と女子生徒が歩いていた。
 その姿に私はドキッとした。
 男子生徒の姿は、見覚えのある人。
 私の大好きな人だった。


 私の中の時間は止まっていた。
 博くんと一緒にいる女の子。私よりも背が高くて、キレイなロングの髪をなびかせて歩いていた。私よりも大人っぽい女の子だった。

 
 ふたりは笑いながら歩いていた。とても楽しそうに。


「……っ!アイツ!」
 ガタッと立ち上がったのは、愛理だった。そんな愛理に驚いたのは、貢一先輩で。私の目線を追った宮下先輩は、顔色が変わった。
「あれ、瑠璃の?」
 そう言い終わる前に、愛理が喫茶店を出て行く。そして外にいた博くんに何か言ってる。博くんは驚いた顔で愛理を見て、そして窓側に座っていた、私を見て更に驚いた顔をした。
 その顔は、見てはいけないもののように、困惑していた。


「瑠璃。いいの?」
 目の前にいる宮下先輩は、私に言う。愛理が博くんのところに行って、何か話している間も、私は動かないでただ黙ってその光景を見ていた。
 愛理と言い争ってる間、彼と一緒にいた女の子が愛理の腕を掴んで、何か言った。
 そんな光景をただ見ていて。
 私は何も出来ないでいた。
「あれが、瑠璃の彼氏?」
 貢一先輩はそう言うと、私は頷いた。それしか出来ないでいる私に笑って、立ち上がった。
「南さん。お勘定、ここに置くね」
 そう言うと、お金を置いて喫茶店を出て行く。その後を私の手を掴んだ宮下先輩が追って行く。




「ちょっと!どういうことなのよ、博っ!」
 愛理が博くんにそう怒鳴ってる。女の子が愛理の腕を掴んで睨んでいた。
 困った顔して立ってる博くんは、私を見ると微かに笑った。
「愛理」
 私は愛理を呼ぶと、黙って愛理の手を掴んでる女の子の手を掴んで引き離した。
「博くん」
 彼を見て、笑う私。それしか出来ないでいる。そうすることしか出来ないでいる。


 だって。
 単なる友達かもしれないじゃない。
 それなのに、何を言える?
 私だって、今。
 先輩たちとこうしているんだから。



「あなた、誰?」
 キツイ声で言った女の子。その言葉に答えたのは、博くんだった。
「俺の彼女」
「えっ」
「だから、こいつは俺の彼女で、こっちは中学の友達」
 私と愛理を女の子に説明していた。
「博、彼女いたの?」
「いるって言っただろ」
「だってっ!」
 そのやり取りを見ていた。



 ズキッと。
 胸が痛んだ。





 ──博





 女の子は、博くんをと呼び捨てにした。私がまだ呼べてない名前を、あの子は呼んだ。私はまだ、博くんを呼び捨てには出来てないのに。



 その後の事は覚えていない。どうやって帰ったのか、覚えてない。
 だけど、胸の痛みだけは覚えている。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

俺と結婚してくれ〜若き御曹司の真実の愛

ラヴ KAZU
恋愛
村藤潤一郎 潤一郎は村藤コーポレーションの社長を就任したばかりの二十五歳。 大学卒業後、海外に留学した。 過去の恋愛にトラウマを抱えていた。 そんな時、気になる女性社員と巡り会う。 八神あやか 村藤コーポレーション社員の四十歳。 過去の恋愛にトラウマを抱えて、男性の言葉を信じられない。 恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。 そんな時、バッグを取られ、怪我をして潤一郎のマンションでお世話になる羽目に...... 八神あやかは元恋人に騙されて借金を払う生活を送っていた。そんな矢先あやかの勤める村藤コーポレーション社長村藤潤一郎と巡り会う。ある日あやかはバッグを取られ、怪我をする。あやかを放っておけない潤一郎は自分のマンションへ誘った。あやかは優しい潤一郎に惹かれて行くが、会社が倒産の危機にあり、合併先のお嬢さんと婚約すると知る。潤一郎はあやかへの愛を貫こうとするが、あやかは潤一郎の前から姿を消すのであった。

#秒恋3 友だち以上恋人未満の貴方に、甘い甘いサプライズを〜貴方に贈るハッピーバースデー〜

ReN
恋愛
悠里と剛士の恋物語 ♯秒恋シリーズ第3弾 甘くて楽しい物語になっているので、ぜひ気軽にお楽しみください♡ ★あらすじ★ 「あのね、もうすぐバレンタインじゃん! その日、ゴウの誕生日!」 彼の誕生日を知らせてくれた剛士の親友 拓真と、親友の彩奈とともに、悠里は大切な人の誕生日サプライズを敢行! 友だち以上恋人未満な2人の関係が、またひとつ、ゆっくりと針を進めます。 大好きな人のために、夜な夜なサプライズ準備を進める悠里の恋する乙女ぶり。 みんなでお出かけする青春の1ページ。 そして、悠里と剛士の関係が深まる幸せなひととき。 ★シリーズものですが、 ・悠里と剛士は、ストーカー事件をきっかけに知り合い、友だち以上恋人未満な仲 ・2人の親友、彩奈と拓真を含めた仲良し4人組 であることを前提に、本作からでもお楽しみいただけます♡ ★1作目 『私の恋はドキドキと、貴方への恋を刻む』 ストーカーに襲われた女子高の生徒を救う男子高のバスケ部イケメンの話 ★2作目 『2人の日常を積み重ねて。恋のトラウマ、一緒に乗り越えましょう』 剛士と元彼女とのトラウマの話 こちらもぜひ、よろしくお願いします!

嘘をつく唇に優しいキスを

松本ユミ
恋愛
いつだって私は本音を隠して嘘をつくーーー。 桜井麻里奈は優しい同期の新庄湊に恋をした。 だけど、湊には学生時代から付き合っている彼女がいることを知りショックを受ける。 麻里奈はこの恋心が叶わないなら自分の気持ちに嘘をつくからせめて同期として隣で笑い合うことだけは許してほしいと密かに思っていた。 そんなある日、湊が『結婚する』という話を聞いてしまい……。

憧れの彼は一途で優しくて時々イジワル

RIKA
恋愛
営業課長・永瀬綋司は、その容姿や優秀ぶりから多くの女性社員にとって憧れの的。 久遠香澄もその一人だが、過去の恋愛で負ったトラウマから自分に自信がもてず恋愛を封印して過ごしていた。 ある日、香澄は会社帰りに偶然永瀬と駅で遭遇する。 永瀬に誘われて二人で食事に行くことになり緊張する香澄だが、話しているうちに少しずつ緊張もほぐれてゆく。 話題が恋愛の話になったとき、彼は香澄に向かって突然驚くべき言葉を口にした。 「好き。――俺の彼女になってくれない?」

遠回りな恋〜私の恋心を弄ぶ悪い男〜

小田恒子
恋愛
瀬川真冬は、高校時代の同級生である一ノ瀬玲央が好きだった。 でも玲央の彼女となる女の子は、いつだって真冬の友人で、真冬は選ばれない。 就活で内定を決めた本命の会社を蹴って、最終的には玲央の父が経営する会社へ就職をする。 そこには玲央がいる。 それなのに、私は玲央に選ばれない…… そんなある日、玲央の出張に付き合うことになり、二人の恋が動き出す。 瀬川真冬 25歳 一ノ瀬玲央 25歳 ベリーズカフェからの作品転載分を若干修正しております。 表紙は簡単表紙メーカーにて作成。 アルファポリス公開日 2024/10/21 作品の無断転載はご遠慮ください。

靴屋の娘と三人のお兄様

こじまき
恋愛
靴屋の看板娘だったデイジーは、母親の再婚によってホークボロー伯爵令嬢になった。ホークボロー伯爵家の三兄弟、長男でいかにも堅物な軍人のアレン、次男でほとんど喋らない魔法使いのイーライ、三男でチャラい画家のカラバスはいずれ劣らぬキラッキラのイケメン揃い。平民出身のにわか伯爵令嬢とお兄様たちとのひとつ屋根の下生活。何も起こらないはずがない!? ※小説家になろうにも投稿しています。

溺愛ダーリンと逆シークレットベビー

吉野葉月
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。 立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。 優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?

処理中です...