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第3章 秋
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宮下先輩から柊冶先輩へと、呼び方が変わったワケ。
それは先輩がそう呼べと言ったから。
なぜそんなことを言い出したのか分からないけど、「言わなきゃ毎朝校庭の真ん中で、好きだと叫んでやる」と恥ずかしいことを言われてしまったから。
それでなくても、毎朝「好きだ」と言われてるのに、これ以上恥ずかしい思いは、したくなかったから。
「よっ」
バイクに跨った柊冶先輩が、家の前で待っていた。
「先輩」
呆れて私はため息を吐く。朝起きてから、「今、お前んちの前!」とだけ書かれたメッセージが来て、外に出てみればバイクに跨った先輩がいるんだもの。
呆れてしまうよ。
「お前、ほんと柊冶に愛されてんのな」
歯を磨きながら、玄関先に出てきたお兄ちゃん。その脇にいるのは幼い弟。
「ねぇね」
私のところに来て、先輩を見上げた。
「だぁれ?」
そんな弟と目線を合わせるように、しゃがみ込んだ先輩。
「名前は?」
「あおい」
「そうか。お兄ちゃんはな、お姉ちゃんのお友達だよ」
そう言う先輩。
──友達。
その言葉に、少し寂しく感じてしまった。
なぜそう思ったのかは分からないけど、寂しいって思ってしまったんだ。
🍁 🍁 🍁 🍁 🍁
「お前に弟がいたんだな」
バイク飛ばして来たのは、先輩のお気に入りの場所。最初にここに来た時と同じように、先輩は私の手を取って海岸へと降りる。
「10コ離れてるの」
「幼稚園か?」
「うん。もう、毎日うるさくて」
「でも賑やかでいいじゃん。俺、一人暮らししてっから羨ましいな」
先輩のこと。
こうしている時間が増えていくと、いろいろと知っていくことも増える。
先輩の好きな食べ物と飲み物は、オムライスとコーラ。
先輩の嫌いな食べ物の飲み物は、パセリと牛乳。
先輩の得意科目は、体育と数学。
先輩の不得意科目は、美術と国語。
先輩の好きな映画は、アクション映画。
先輩の嫌いな映画は、意外にホラー映画。
先輩にはお母さんがいないこと。
いろいろと知っていく。
それがとても嬉しく、思ってしまってる。以前の私だったら、そんなことを思ったりしなかっただろう。
私は今。
柊冶先輩と過ごす時間が、大切だって思えてる。こんなにも楽しいんだって、思わされてる。
だからって、先輩に想いがあるワケじゃないんだ。私はまだ、忘れられないから。だけど先輩といる時間は、忘れていられる。
安心……するんだ。
「なぁ、瑠璃」
海を眺めている先輩が!私の名前を呼ぶ。その声に私は、先輩の顔を見ていた。
先輩はとてもキレイな顔をしていた。
今までは気付かなかったけど、先輩ってとても美形なんだ。
性格のせいで、柊冶先輩をかっこいいって思ったことなかった。
「最近、瑠璃はよく笑うようになったな」
柊冶先輩に言われ気付いた。ちょっと前までの私は、心から笑うことなんてなかった。
でも先輩といると、笑っていられる。
そうなるのに、時間がかかったと思う。
「……先輩がいたから」
小声でそう呟くように言う。
柊冶先輩はそんな私の声を、ちゃんと聞いていてくれた。
頭にポンと手を置くと私に笑う。
その笑顔が、とてもかわいく思えてしまって、思わず私も笑う。
「なぁ、瑠璃」
隣に座ってる先輩は、私の顔を見ないで海をじっと見たままで言う。
「俺、お前のことを諦めたわけじゃねーよ」
そのひとことが、私の胸に突き刺さる。私は先輩の気持ちに応えていない。
それを分かっていても、どうすることも出来なくて、ただ誰かに頼っていたくて、ズルズルと甘えていた。
このままじゃいけないって分かっているのに…。
「ちゃんと、考えてくれ」
何度目かの先輩の告白。
「好き」とは言われてはいないその言葉が、私の気持ちを重くする。ちゃんと考えなきゃっという気持ちが、私の背中に圧し掛かる。
今までのような、軽い気持ちで一緒にはいられないって思った。
このままじゃいけないって。
「……先輩。私……」
言葉が続かなかった。
そんな私に気付いて!先輩がいつもように笑った。
「返事は先でいい。ちゃんと考えて応えてくれればいいから」
先輩の優しさが苦しかった。
こんな私にいつもいつも優しくて、いつもいつも傍にいてくれて、いつもいつも笑ってくれて。そんな先輩に、私が出来ることはなんだろうか。
それを考えていた。
私の中にいるのは、博くん。
まだ好きな博くん。
でも。
それと同時に、先輩でいっぱいだ。
いつも傍にいてくれて、楽しませてくれて。そんな先輩が、私の中にいるのも確かで。だからといって、そう簡単に応えられることでもないんだ。
先輩への気持ちに、軽い思いで応えちゃダメなんだ。
🍁 🍁 🍁 🍁 🍁
それから暫く、私は考えていた。
先輩のことを。
朝から夜寝る前まで考えて。夢にまで出てくるくらいに、考えていた。
お兄ちゃんに心配されるくらいに、弟の葵にまで心配されるくらいに。
「ふぅ……」
部屋の中でクッションを抱えて、窓から夜空を見上げている私。手にはスマホが握り締められていた。
いつもなら先輩から電話があるのに、最近はそれがない。
あの告白から暫く、先輩からの電話がないんだ。
それがとても気になってしまっている。
「……どうしたんだろう」
呟くと、スマホの画面を見つめる。
どうしてこんなに落ち着かないのか分からないくらい、落ち着かないでいた。
♪~♪~♪~
スマホの着信が鳴る。
曲で電話じゃないことに、がっかりした。メッセージを開いて文面を読む。
メッセージの相手は、中2の時のクラスメイトからだった。
そういえば、彼女には博くんと別れたことは言ってなかったなと、思いながらメッセージを開いていた。そしてそのメメッセージには、画像が貼り付けられていた。
その画像は、博くんと繭子が腕を組んで歩いてる姿だった。
そして文面にはこう書かれていた。
──博が浮気!
その文面と画像を見ても、不思議と心が痛まなかった。その事実に私は傷付いた。
(なぜ私は傷付かないんだろう)
このふたりの姿を見ても、なぜ何も思わないんだろう。前はあんなに傷付いて、苦しかったのに……。
あんなに好きな相手が、違う女の子と一緒にいるのに、何も感じないなんて……。
「そっか」
私は気付いてしまった。本当は随分と前からあった想いを。
私は気付いてしまったんだ。
それは先輩がそう呼べと言ったから。
なぜそんなことを言い出したのか分からないけど、「言わなきゃ毎朝校庭の真ん中で、好きだと叫んでやる」と恥ずかしいことを言われてしまったから。
それでなくても、毎朝「好きだ」と言われてるのに、これ以上恥ずかしい思いは、したくなかったから。
「よっ」
バイクに跨った柊冶先輩が、家の前で待っていた。
「先輩」
呆れて私はため息を吐く。朝起きてから、「今、お前んちの前!」とだけ書かれたメッセージが来て、外に出てみればバイクに跨った先輩がいるんだもの。
呆れてしまうよ。
「お前、ほんと柊冶に愛されてんのな」
歯を磨きながら、玄関先に出てきたお兄ちゃん。その脇にいるのは幼い弟。
「ねぇね」
私のところに来て、先輩を見上げた。
「だぁれ?」
そんな弟と目線を合わせるように、しゃがみ込んだ先輩。
「名前は?」
「あおい」
「そうか。お兄ちゃんはな、お姉ちゃんのお友達だよ」
そう言う先輩。
──友達。
その言葉に、少し寂しく感じてしまった。
なぜそう思ったのかは分からないけど、寂しいって思ってしまったんだ。
🍁 🍁 🍁 🍁 🍁
「お前に弟がいたんだな」
バイク飛ばして来たのは、先輩のお気に入りの場所。最初にここに来た時と同じように、先輩は私の手を取って海岸へと降りる。
「10コ離れてるの」
「幼稚園か?」
「うん。もう、毎日うるさくて」
「でも賑やかでいいじゃん。俺、一人暮らししてっから羨ましいな」
先輩のこと。
こうしている時間が増えていくと、いろいろと知っていくことも増える。
先輩の好きな食べ物と飲み物は、オムライスとコーラ。
先輩の嫌いな食べ物の飲み物は、パセリと牛乳。
先輩の得意科目は、体育と数学。
先輩の不得意科目は、美術と国語。
先輩の好きな映画は、アクション映画。
先輩の嫌いな映画は、意外にホラー映画。
先輩にはお母さんがいないこと。
いろいろと知っていく。
それがとても嬉しく、思ってしまってる。以前の私だったら、そんなことを思ったりしなかっただろう。
私は今。
柊冶先輩と過ごす時間が、大切だって思えてる。こんなにも楽しいんだって、思わされてる。
だからって、先輩に想いがあるワケじゃないんだ。私はまだ、忘れられないから。だけど先輩といる時間は、忘れていられる。
安心……するんだ。
「なぁ、瑠璃」
海を眺めている先輩が!私の名前を呼ぶ。その声に私は、先輩の顔を見ていた。
先輩はとてもキレイな顔をしていた。
今までは気付かなかったけど、先輩ってとても美形なんだ。
性格のせいで、柊冶先輩をかっこいいって思ったことなかった。
「最近、瑠璃はよく笑うようになったな」
柊冶先輩に言われ気付いた。ちょっと前までの私は、心から笑うことなんてなかった。
でも先輩といると、笑っていられる。
そうなるのに、時間がかかったと思う。
「……先輩がいたから」
小声でそう呟くように言う。
柊冶先輩はそんな私の声を、ちゃんと聞いていてくれた。
頭にポンと手を置くと私に笑う。
その笑顔が、とてもかわいく思えてしまって、思わず私も笑う。
「なぁ、瑠璃」
隣に座ってる先輩は、私の顔を見ないで海をじっと見たままで言う。
「俺、お前のことを諦めたわけじゃねーよ」
そのひとことが、私の胸に突き刺さる。私は先輩の気持ちに応えていない。
それを分かっていても、どうすることも出来なくて、ただ誰かに頼っていたくて、ズルズルと甘えていた。
このままじゃいけないって分かっているのに…。
「ちゃんと、考えてくれ」
何度目かの先輩の告白。
「好き」とは言われてはいないその言葉が、私の気持ちを重くする。ちゃんと考えなきゃっという気持ちが、私の背中に圧し掛かる。
今までのような、軽い気持ちで一緒にはいられないって思った。
このままじゃいけないって。
「……先輩。私……」
言葉が続かなかった。
そんな私に気付いて!先輩がいつもように笑った。
「返事は先でいい。ちゃんと考えて応えてくれればいいから」
先輩の優しさが苦しかった。
こんな私にいつもいつも優しくて、いつもいつも傍にいてくれて、いつもいつも笑ってくれて。そんな先輩に、私が出来ることはなんだろうか。
それを考えていた。
私の中にいるのは、博くん。
まだ好きな博くん。
でも。
それと同時に、先輩でいっぱいだ。
いつも傍にいてくれて、楽しませてくれて。そんな先輩が、私の中にいるのも確かで。だからといって、そう簡単に応えられることでもないんだ。
先輩への気持ちに、軽い思いで応えちゃダメなんだ。
🍁 🍁 🍁 🍁 🍁
それから暫く、私は考えていた。
先輩のことを。
朝から夜寝る前まで考えて。夢にまで出てくるくらいに、考えていた。
お兄ちゃんに心配されるくらいに、弟の葵にまで心配されるくらいに。
「ふぅ……」
部屋の中でクッションを抱えて、窓から夜空を見上げている私。手にはスマホが握り締められていた。
いつもなら先輩から電話があるのに、最近はそれがない。
あの告白から暫く、先輩からの電話がないんだ。
それがとても気になってしまっている。
「……どうしたんだろう」
呟くと、スマホの画面を見つめる。
どうしてこんなに落ち着かないのか分からないくらい、落ち着かないでいた。
♪~♪~♪~
スマホの着信が鳴る。
曲で電話じゃないことに、がっかりした。メッセージを開いて文面を読む。
メッセージの相手は、中2の時のクラスメイトからだった。
そういえば、彼女には博くんと別れたことは言ってなかったなと、思いながらメッセージを開いていた。そしてそのメメッセージには、画像が貼り付けられていた。
その画像は、博くんと繭子が腕を組んで歩いてる姿だった。
そして文面にはこう書かれていた。
──博が浮気!
その文面と画像を見ても、不思議と心が痛まなかった。その事実に私は傷付いた。
(なぜ私は傷付かないんだろう)
このふたりの姿を見ても、なぜ何も思わないんだろう。前はあんなに傷付いて、苦しかったのに……。
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私は気付いてしまったんだ。
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