季節

星河琉嘩

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第3章 秋

11

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 体育祭が昨日終わった。
 だけど、落ち着いてはいられない。すぐに文化祭の準備で大忙しだ。
 うちのクラスは、喫茶店をやることになった。
 しかも逆転喫茶。
 つまり、男子がウエイトレスをやって女子がウエイターをやるという。


「……一体、誰の発案よこれ」
 呆れてしまった私。
 今、目の前にはウエイトレス姿の男子たちがいる。その中心に、妙なテンションの倉沢が立っていた。
「どうだぁい。俺が一番じゃねぇ?」
 と叫んでいた。
「倉沢~、あんたやバイよそれ」
 玲子がズバッと言って放った。
「何が」
「似合わない」
「どこが?」
「全部」
 私と玲子と愛理は声を揃えて言った。
 そんな3人を見て、男子たちは大笑いしていた。
 ただひとりはスネていたけど。


「そういえば軽音はどうするの?」
 スーツ姿の玲子。
 背が高いから決まってる。宝塚の男役ぽくキマってる。
「私と瑠璃でユニットを組むんだ♪」
 愛理はそう玲子に言う。
「な~んだ。瑠璃と宮下先輩のユニットを見たかったなぁ」
「ちょっと、玲子っ」
 もう、恥ずかしい提案しないでよ。
 先輩ってば、やろうとしてたんだから。


 そう。
 言われたんだよね。
 真由美先輩にも貢一先輩にも。


 でも全校生徒の前で、しかも一般公開の日には、他校の生徒とかもいるのに、その前でふたりでやれるわけないじゃないの。
 恥ずかしいじゃないっ。


「やらないの?」
 マジマジと聞いてくる玲子に、「やらない」とひとこと。
 そんなやり取りを聞いていた、クラスメートたちが、「やればいいじゃない」と言ってくる。
 その度にもう一度、「やらないよ」って言ってた。



     🍁 🍁 🍁 🍁 🍁



 文化祭当日。
 学校はザワザワとしていた。
 うちのクラスはというと……。


 やっぱり、ヘンなクラスになっていた。
 男子のウエイトレス姿、キモイって!
 女子はいいのよ、別に。
 でもこの男子の様子は何よ。
 しかもこの格好のままで、今日を過ごさなきゃいけないというルールを、勝手に倉沢が作った。
 ただ単にあんたがやりたいだけ?
 と思ってしまった。


 でも、宣伝になるし。
 うちのクラスが面白いって、来てくれれば一番になるかな。


 そんな私と愛理は体育館にいた。体育館では、軽音部がステージのセッティングをしていた。


「あ。愛理ちゃんに瑠璃」
 柊冶先輩がこっちを見ていた。
「先輩たち早いですね~」
「お前たちが遅いんだ」
 と笑いながらセッティングをしていた。
「ほら。お前らも手伝え」
 先輩の声に、私たちは先輩たちの中に入って行った。
 軽音部のメンバーが集まって、合同で練習した日は数少ない。しかも私と愛理はダメダメな状態…てか、私が足を引っ張っていたからなんだけど。
 だから、今日はとても緊張の日だった。


「お~い。集まれ!」
 部長の3年生がみんな声をかける。
 部長は見た目はすごい派手で、近寄りがたい雰囲気を持ってる。
 でも実際はそうではない、優しい人。
「いよいよ、俺達のステージが始る。みんなしっかりとやれよ。自分のクラスの当番があると思うけど、決めたスケジュール通りに動けよ」
「は~い!」
 部員はそう言うと笑っていた。みんな楽しみにしているステージだ。ここにいる部員全員が、笑顔で立っていた。



     🍁 🍁 🍁 🍁 🍁



「ねぇ!そろそろ時間じゃない?」
 クラスの逆転喫茶にいた私と愛理は、他のクラスメートにその場を任せて、体育館へと向かった。
 今日はまだこの学校の生徒だけだけど、明日は一般公開だから他のお客さんも来る。
 これ程緊張したのは久しぶりだ。


「遅いよ」
 楽屋となる、体育館の隣にある教室。そこで出番待ちの準備をしていた。
 今は、男子を追い出して私と愛理が着替えてる。真由美先輩は、私にメイクをしてくれてる。愛理には他の先輩がしてくれてる。
 真由美先輩は優しい顔をして、笑ってくれていた。


「ねぇ。瑠璃」
「はい」
「あんた、柊冶の話、聞いたんだって?」
「え」
「柊冶の家の話」
「あ……」
 真由美先輩はメイクパレットを手にして、私に笑った。
「アイツの傍にいてやってね?」
「先輩」
「ずっと心配だった。今まで柊冶が付き合った彼女って、本気じゃなかったのよ」
「え」
「本気の彼女はあんただけ。柊冶は今までの子と、あんたとの接し方が全然違うから、安心したの。だから、柊冶をよろしくね」
 笑った顔で「終わった」と言うと、メイク道具を片付ける。隣では愛理も終わっていた。
「やっぱあんた達、肌がキレイだわ」
 そう呟いた先輩を見て、私たちは立ち上がった。


 真由美先輩の話してくれたことが、頭の中を駆け巡る。
 グルグル駆け巡る。
 だって、柊冶先輩の昔の彼女のことを聞いてしまったから。


 真由美先輩は、悪気があってのことじゃないのは知ってる。
 だけど、ショックだった。
 彼女がいたことじゃなくて、その彼女たちが柊冶先輩にとって、単なる遊びだったってことがショックだった。


 でも。
 中学時代、荒れてたって言ってたから。
 その原因が、お父さんのことなんだよな……って思って、もしかしたらそれが影響してのことなんだろうかと思った。
 そう思ったら、自然と顔が暗くなっていた。それに気付いた愛理が、こっちを見ていた。

「瑠璃?」
「あ……」
「真由美先輩の話、驚いたね」
 隣で愛理もちゃんと聞いていた。
 真由美先輩との話。
 ちゃんと聞いていた。
「大丈夫」
 私は笑って愛理と一緒に、ステージに向かった。
 私たちの前には、柊冶先輩たちが演奏していた。その姿を見ると、昔荒れていたなんて信じられない。
 本人から話を聞いても、まだ信じられないんだから。


 ふと、先輩がこっちを見た。
 その目線にドキッとした。


 そしてボーカルを務めていた貢一先輩の傍に、行って何か話していた。貢一先輩は先輩の話に頷いて、先輩にマイクを渡した。


「えー……2年5組の宮下で~す!みんな、盛り上がってる~?」
 そのセリフに、体育館にいた生徒が大盛り上がりだ。先輩は生徒の歓声を聞いて、ニコッと笑うと私の方を見た。
 そしてそのまま先輩は言った。


「みんな知ってると思うけど、俺、1年2組の白井瑠璃と付き合ってます!というワケでこれから歌う曲は、瑠璃の為に歌います」
 そのセリフは体育館にいた、生徒と教師をびっくりさせた。そしてステージ袖にいる私も、びっくりして言葉が出て来ない。
 ギターを抱えた先輩は、私を一度見てから正面を見た。
 先輩の歌は体育館に響いた。
 優しい声で歌っていた。


 柊冶先輩の歌声は始めて聞く。
 今までカラオケに行ったこともなかったし、第2音楽室ではいつもギターを触っていたし。
 私は歌ってる先輩の姿を、ステージ袖から見ていた。
 隣では愛理がポツリと言った。
「柊冶先輩、歌、上手いねー……」
 先輩が歌っている曲は、自作の歌なんだろう。
 軽音部なんだから曲くらい作れる人多いけど、まさか先輩が作曲なんて出来るとは思わなかった。
 詞は先輩が書けるとは、思わないんだけど。


 でも。
 その歌は私の心の中に、すっと入り込んで来た。


「先輩……」
 優しい曲。
 優しくてあったかくてキレイな曲。
 私は思わず涙を零していた。
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