夜霧市の影

ペコかな

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夜霧市の影

霧の中の出会い

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夜霧市やぎりしは、いつもと変わらぬ静けさの中にあった。

深い霧が街を覆い、すべてを曖昧にしている。

石畳の道を行く者たちも、家路を急ぐ足音を静かに忍ばせているようだ。

灯りは霧の中で霞み、まるで街全体が夢の中にいるかのようである。


影山 蓮は、霧に包まれた夜霧市の路地を歩いていた。

足音はほとんど響かず、彼の周囲にはただ冷たい空気が漂っている。

足元の石畳は湿り気を帯び、歩くたびに淡い光が霧の中で揺れ動く。


蓮が歩みを進めると、霧の中にぼんやりとした人影が浮かび上がった。

黒いコートに身を包み、影のように静かに佇むその姿。

蓮の目が細められる。



「久しぶりだな、影人かげびとよ。」


低く、冷たさを含んだその声が、霧の中に溶け込んでいく。

影の中から現れたのは、御影 透だった。

彼の鋭い眼差しが蓮を捉え、時間が止まったような感覚が広がる。


二人の間に漂う空気は、過去の記憶を呼び覚ますように重く、深い。

御影の目には、冷酷さとともに複雑な思いが宿っている。



御影は一歩、蓮に向かって前に出た。

霧が彼の動きを柔らかく包み込み、その姿をぼやけさせる。

二人の間に言葉はなく、緊張感だけが霧と共に濃くなっていった。


「影狩りとして、俺はお前を見逃すわけにはいかない。」


その声には冷たさがありながらも、何か揺れるものが含まれているように思えた。

彼の心の中には、かつての出会いから続く何かが形を成しつつあった。


遠くから、かすかな足音が響いてきた。

霧の中から別の気配が近づいている。



「誰かが来る。」


蓮はそれに応じるように、霧の中で一歩後退し、身を低く構えた。

霧が二人の姿を包み込み、視界がさらに曖昧になる。


霧の向こうで、新たな影が動いた。

蓮はその動きを見逃さず、次の瞬間にはすでに霧の中へと身を溶かしていた。
御影の目が再び蓮を追いかけるが、蓮の姿は霧に紛れて消えかけている。


「ここからが本番だ。」

御影の言葉が、静かに夜霧市の霧の中に溶けこむ。

蓮はその言葉を背中で受け止め、二人の姿はやがて完全に消え去り、静寂だけが残るのであった。
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