Eternal Chains - 圧政の影

序章: 闇に包まれた王国

1.王国の静寂

湿地帯に広がる王国は、かつて豊かな自然と繁栄に満ちていた。
しかし、今ではその面影はどこにもなく、国全体が暗く重苦しい雰囲気に包まれていた。

湿った空気が肌にまとわりつき、濃い霧が太陽の光を遮っている。
この国の中心には、巨大で威圧的な石造りの城がそびえ立ち、その周囲には重く沈んだ沈黙が広がっていた。


城の外では、民衆が無言で日々の仕事をこなしていた。
市場に集う人々の声は聞こえず、かつて賑わいを見せていた場所は今や静まり返っていた。

重税に苦しむ農民たちは、黙々と疲れ切った体を引きずりながら畑を耕し、商人たちは身を縮めて商品を売りさばいていたが、その顔にはかつての笑顔は見当たらなかった。


「もう耐えられない…こんな生活、いつまで続くんだ…」


一人の若い農民が、苛立ちを隠せずに呟いた。
彼の隣に立つ年配の男が、慌てて彼の腕を引いた。


「静かにしろ、誰かに聞かれたらどうするんだ。ここでは何も言うな、何も感じるな。ただ、生き延びることだけを考えろ…」


年配の男の声は、恐怖と疲労に満ちていた。
彼の顔には、長年の重労働と飢えの痕跡が刻まれており、その目はかつての希望を失っていた。


若い農民は不満そうに唇を噛みしめたが、口を閉ざして再び黙々と作業に戻った。
彼は理解していた。何かを口に出すことが、どれほど危険なことか。

ここでは、言葉一つが命取りになるのだ。


王国全体が、このような静寂に包まれていた。誰もが声を潜め、誰もが影のように過ごしている。
日常のあらゆる場所に監視の目が光り、民衆は圧政の恐怖に怯えていた。


その中心にある城の大広間。

冷たい石の床に響くのは、わずかな足音と重々しい沈黙だけだった。
かつては華やかな宴が開かれ、国王を中心に多くの貴族たちが集っていたが、今ではその賑わいは過去のものとなっていた。


玉座の上には、国王が無表情に座っていた。

かつては民を慈しみ、彼らの幸せを第一に考えていた王だが、今やその面影はなく、彼の顔には疲れと冷酷さが刻まれていた。
王は、民衆の苦しみに対して何も感じていないかのように見えた。


「今日も、誰一人として反抗しなかったようです、陛下。」
側近の一人が、低い声で報告した。

その声には、わずかな安堵と不安が混ざっていた。
彼もまた、この静寂に囚われていた。


「当然のことだ。民が反抗するなど、愚かで無意味なことだ。」
国王の声は冷たく響いた。

その瞳には、何の感情も宿っていなかった。
彼の思考は、かつての温情や正義感とはかけ離れたものになっていた。
彼が信じていたのは、力と恐怖による支配だけだった。


だが、その心の奥底には、かすかな揺らぎがあった。
民を苦しめているのは、本当に自分の意思なのか？　
それとも、何か別の力に操られているのか？


「全ては、この国のためだ…」


自らに言い聞かせるように国王は呟いた。
しかし、その言葉には確信がなく、ただ空虚な響きを残すだけだった。


大広間の窓から見えるのは、霧に覆われた王国の景色だった。
冷たい霧がすべてを包み込み、外界との繋がりを遮断している。

民衆はその霧の中で静かに苦しみ続け、声を上げることもできずにいる。


「…この静寂が永遠に続くわけではない。」
国王の隣に立つ側近が、不意に口を開いた。

その言葉には、何か予感めいたものが込められていたが、
国王はそれを深く考えることなく、再び沈黙に戻った。


そして、王国は再び静寂に包まれた。

その静寂は、表面的には何も変わらないように見えるが、
その裏には、やがて訪れるであろう嵐の前触れが潜んでいた。