初恋は十三年経っても

高木凛

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第一章:忘れたはずだったのに

再会

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外に出てからお昼らしいお昼を食べていないことに気がついた。荷物を受け取ってからすぐに荷解きをして、今はすっかり昼時を過ぎている。ギリギリランチタイムがやっているかどうかくらいだ。戻る頃には冷蔵庫の中は冷えているだろうし、いざとなれば惣菜やカップ麺を買うでもいいかと思いながら、健人は駅のある広い通りを目指した。

駅の近くにはスーパーや個人がやっている小さなお店がいくつも並んでいる。健人の記憶にある中では少し寂れたイメージがあったのだが、駅が新しくなったことに伴ってなのか、比較的最近建ったと思われるような綺麗な建物も増えていた。昔から観光で訪れる人も少なくない街で、いつだったか流行りのアニメかゲームの舞台になったことでより脚光を浴びたらしい。健人の視界にも観光客と思われる人たちが目に入った。

すっかり変わってしまい、地元という感じがしないなと、十三年も離れていた癖に寂しい気持ちになっていた。

「あれ、あそこの肉屋って……」

目に入ったのは小さな街の肉屋。外観こそ新しくなっていたが、学校帰りによくコロッケを買って食べていたお店と同じお店だった。ようやく見覚えのある景色を見つけ、健人は懐かしさを感じながら更に歩を進めた。

駅近くのエリアの外れまで来たところで、健人は一軒のカフェに目が行く。木を基調とした温かみのある建物で、少なくとも高校生の頃にはなかったはずだ。両隣の建物と比べても真新しさが残っている辺り、比較的最近できたカフェなのだろう。店先の黒板にはパスタやサンドイッチのセットがイラスト付きで紹介されていて、空腹の健人の胃はぎゅるぎゅると音を立てて店に入るよう促した。健人はここで腹ごしらえすることに決め、カフェの扉に手を伸ばした。

店内はカウンター席が四席、テーブル席が三つとこじんまりとしている。

「いらっしゃいませ。お一人様ですか?」

エプロン姿の大学生くらいのアルバイトと思われる女の子が健人に声をかけた。答えるとカウンター席に案内され、慣れた手つきでお冷の入ったグラスを健人の前に置いた。

「お食事されるようでしたら、ナポリタンがおすすめです。メニューはこちらになります。ごゆっくりどうぞ」
「あ、ありがとうございます」

店員の女の子はにっこり笑うと、カウンターの内側に入っていった。健人はそのままメニューに視線を落とす。コーヒーやカフェラテなどのドリンクが表に書いてあり、裏面には食事が書かれている。彼女がいうナポリタンは一番上に書いてあって、そこでもおすすめされている。カウンターの向こう側には厨房があり、先程の彼女は入口に近づくと声を張った。

「店長! あとお願いしますね!」

彼女の声に反応した様子は聞いていてわかったが、健人にははっきり聞こえない。おそらく男性なんだろうな、くらいだ。

「ゆっくりしていってくださいね。店長の料理、どれも美味しいんで」

再度店員に話しかけられ、健人は顔を上げて頷いた。どうやら彼女は仕事をあがる時間だったらしい。彼女が裏に行くのと入れ替わるように、奥から男性が現れた。おおよそ、店長だろう。

「お疲れさん。時間大丈夫か?」
「大丈夫ですよ! それじゃあお先です」

女の子が見えなくなり、店長と呼ばれた男がカウンターの前に立った。

「いらっしゃいま、せ……」

健人は店長と目が合った。すらっとした長身の男は健人の姿を見るなり、目を見開いて驚いている。すっとした顔立ち、薄い唇、くっきりとした目。十三年の間で時々思い出しては心の奥底にしまっていた、その人を見間違えるはずがない。

「ゆう、や……?」

健人がなんとかして紡いだ名前に、時間が止まったかのように固まっていた店長が動き出したと思いきや、ぽかんとした口を結び、きゅっと弧を描いた。

「久しぶりだな、健人!」

はっきりと呼ばれた自分の名、十三年前と変わらない声。健人の胸は一気にざわつき、呼吸の仕方を忘れそうになる。まさか何の気なしに入った店に、初恋の相手――西園裕也にしぞのゆうやがいるなんて。
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