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第14章 二つのプロポーズ
国を救った英雄。それが、今の私、エリザベス・フォン・クライネルトに与えられた新しい称号だった。
私は再び、王宮の謁見の間に呼び出された。しかし、以前の糾弾の場とは雰囲気が全く違う。私に向けられるのは、称賛と尊敬の眼差しだけだった。
玉座の前に立つ私に、国王陛下は満足げに頷いた。
「エリザベス・フォン・クライネルト。そなたの功績、まことに見事であった。国を代表して、心から感謝する。褒賞として、そなたの望むものを何でも与えよう。遠慮なく申してみよ」
貴族の地位、広大な領地、莫大な金銭。私が望めば、何でも手に入るだろう。周囲の貴族たちは、私が何を望むのか、固唾をのんで見守っていた。
その時、私の前に一人の人物が進み出て、静かに跪いた。
アレクシス王太子だった。
彼は、以前とは比べ物にならないほど真摯な、そして少しだけ緊張した面持ちで、私を見上げた。
「エリザベス」
その声は、謁見の間にいるすべての人々に聞こえるほど、はっきりと響いた。
「私は、愚かだった。君という人間の本当の価値に、君を失ってからようやく気づいた。君の強さ、優しさ、そしてその情熱。そのすべてに、私は心から惹かれている。どうか、もう一度、私にチャンスをくれないだろうか。私の妃に、なってほしい」
心からの、再プロポーズ。
周囲の貴族たちは、ざわめいた。王太子と救国の英雄の復縁。これ以上ないほどの、美しい物語だ。誰もが、私が頷くことを期待していた。
しかし、私は静かに首を横に振った。
「……殿下。そのお気持ちは、大変嬉しく思います。ですが、お受けすることはできません」
きっぱりとした私の返答に、アレクシスは悲しそうに瞳を揺らがせた。
私は彼に向かって、穏やかに微笑んだ。
「今の私があるのは、公爵令嬢の地位を捨て、自分の足で歩き始めたからです。私の居場所は、豪華な王宮ではなく、スパイスの香りが満ちるあの厨房です。お飾りの妃になるつもりは、もうありませんの」
それは、私の偽らざる本心だった。王太子妃のきらびやかな地位よりも、料理人として生きる、埃と油にまみれた日常の方が、私にとっては遥かに価値がある。
私の毅然とした態度に、アレクシスは全てを悟ったようだった。彼はゆっくりと立ち上がると、寂しげに、しかしすっきりとしたい表情で微笑んだ。
「……そうか。君らしい答えだ。君の幸せを、心から願っている」
彼は、潔く身を引いた。失恋の痛みを受け入れ、相手の幸せを願う。それは、かつての義務感に縛られていた彼にはできなかったことだ。彼もまた、この一連の出来事の中で、大きく成長したのだった。
謁見が終わり、私が王宮の廊下を歩いていると、夕日があたる窓辺で、一人の男が私を待っていた。
「よぉ、救国の英雄サマ」
飄々とした口調で私を迎えたのは、カイだった。
「カイ……待っていてくれたの?」
「当たり前だろ。あんたの晴れ舞台なんだからな」
彼は私の隣に並んで歩き出すと、ふと立ち止まった。そして、真剣な目で私を見つめた。
「さて、未来のカレー王。俺もあんたに、一つ取引を持ちかけたいんだが」
「取引?」
首を傾げる私に、カイは悪戯っぽく笑うと、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
パカっと開けられたその箱の中には、シンプルな銀の指輪が、夕日を浴びてキラリと光っていた。
「俺を、君の生涯のビジネスパートナー兼、夫にしてくれないか?」
いつもの飄々とした態度。しかし、その瞳は、今までに見たことがないほど真剣で、深い愛情に満ちていた。
「君の作るカレーを、毎日食べたい。朝も、昼も、夜も。世界で一番の特等席でさ。……それじゃ、ダメか?」
それは、彼らしい、少し不器用で、でも最高にストレートなプロポーズだった。
予期せぬ言葉に、私の目からは、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
私は再び、王宮の謁見の間に呼び出された。しかし、以前の糾弾の場とは雰囲気が全く違う。私に向けられるのは、称賛と尊敬の眼差しだけだった。
玉座の前に立つ私に、国王陛下は満足げに頷いた。
「エリザベス・フォン・クライネルト。そなたの功績、まことに見事であった。国を代表して、心から感謝する。褒賞として、そなたの望むものを何でも与えよう。遠慮なく申してみよ」
貴族の地位、広大な領地、莫大な金銭。私が望めば、何でも手に入るだろう。周囲の貴族たちは、私が何を望むのか、固唾をのんで見守っていた。
その時、私の前に一人の人物が進み出て、静かに跪いた。
アレクシス王太子だった。
彼は、以前とは比べ物にならないほど真摯な、そして少しだけ緊張した面持ちで、私を見上げた。
「エリザベス」
その声は、謁見の間にいるすべての人々に聞こえるほど、はっきりと響いた。
「私は、愚かだった。君という人間の本当の価値に、君を失ってからようやく気づいた。君の強さ、優しさ、そしてその情熱。そのすべてに、私は心から惹かれている。どうか、もう一度、私にチャンスをくれないだろうか。私の妃に、なってほしい」
心からの、再プロポーズ。
周囲の貴族たちは、ざわめいた。王太子と救国の英雄の復縁。これ以上ないほどの、美しい物語だ。誰もが、私が頷くことを期待していた。
しかし、私は静かに首を横に振った。
「……殿下。そのお気持ちは、大変嬉しく思います。ですが、お受けすることはできません」
きっぱりとした私の返答に、アレクシスは悲しそうに瞳を揺らがせた。
私は彼に向かって、穏やかに微笑んだ。
「今の私があるのは、公爵令嬢の地位を捨て、自分の足で歩き始めたからです。私の居場所は、豪華な王宮ではなく、スパイスの香りが満ちるあの厨房です。お飾りの妃になるつもりは、もうありませんの」
それは、私の偽らざる本心だった。王太子妃のきらびやかな地位よりも、料理人として生きる、埃と油にまみれた日常の方が、私にとっては遥かに価値がある。
私の毅然とした態度に、アレクシスは全てを悟ったようだった。彼はゆっくりと立ち上がると、寂しげに、しかしすっきりとしたい表情で微笑んだ。
「……そうか。君らしい答えだ。君の幸せを、心から願っている」
彼は、潔く身を引いた。失恋の痛みを受け入れ、相手の幸せを願う。それは、かつての義務感に縛られていた彼にはできなかったことだ。彼もまた、この一連の出来事の中で、大きく成長したのだった。
謁見が終わり、私が王宮の廊下を歩いていると、夕日があたる窓辺で、一人の男が私を待っていた。
「よぉ、救国の英雄サマ」
飄々とした口調で私を迎えたのは、カイだった。
「カイ……待っていてくれたの?」
「当たり前だろ。あんたの晴れ舞台なんだからな」
彼は私の隣に並んで歩き出すと、ふと立ち止まった。そして、真剣な目で私を見つめた。
「さて、未来のカレー王。俺もあんたに、一つ取引を持ちかけたいんだが」
「取引?」
首を傾げる私に、カイは悪戯っぽく笑うと、懐から小さなベルベットの箱を取り出した。
パカっと開けられたその箱の中には、シンプルな銀の指輪が、夕日を浴びてキラリと光っていた。
「俺を、君の生涯のビジネスパートナー兼、夫にしてくれないか?」
いつもの飄々とした態度。しかし、その瞳は、今までに見たことがないほど真剣で、深い愛情に満ちていた。
「君の作るカレーを、毎日食べたい。朝も、昼も、夜も。世界で一番の特等席でさ。……それじゃ、ダメか?」
それは、彼らしい、少し不器用で、でも最高にストレートなプロポーズだった。
予期せぬ言葉に、私の目からは、大粒の涙がとめどなく溢れ出した。
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※最終話まで予約投稿済