追放された悪役令嬢は、極寒の辺境で料理の腕を振るう〜醤油とみりんを開発したら、氷の辺境伯様と領民の胃袋を掴んでしまいました〜

緋村ルナ

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エピローグ:陽だまりの食卓、未来へ

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 あれから、数年の月日が流れた。
 私は、アリア・フォン・ベルクとして、愛する夫レオンハルトの隣で、辺境伯夫人としての日々を送っていた。そして同時に、王国一の料理研究家としても、その名は広く知られるようになっていた。
 私とマルコ商会が共同で商品化した「醤油」と「みりん風調味料」は、瞬く間に王国全土へと広まり、この国の食文化を根底から変えた。どこの家庭の食卓にも、醤油を使った料理が並ぶのが当たり前の光景になったのだ。
 王国の食糧事情は劇的に改善され、人々はもう、冬の飢えに怯えることはなくなった。
 私とレオンハルトの間には、彼の黒髪と私の青い瞳を受け継いだ、やんちゃな男の子と、私に似て食いしん坊な、可愛らしい女の子が生まれていた。
『陽だまり亭』は、今ではすっかりエマに任せている。彼女は立派な料理人に成長し、私のレシピを守りながら、彼女自身の新しい料理も生み出して、店を大いに盛り立てていた。それでも、私は時々、厨房に立っては、懐かしい常連客たちに料理を振る舞う。それが、私の原点であり、何よりの喜びだからだ。
 一方、王太子を廃されたジュリアンとリリアは、修道院で静かに(しかし、固いパンと薄いスープの食事に、毎日不満を漏らしながら)日々を送っていると、風の噂で聞いた。もはや、私たちの人生が交わることは二度とないだろう。
 あるよく晴れた春の日。
 私たちは、ベルク城の広い庭で、家族や親しい友人たちを招いてバーベキューを楽しんでいた。
 ジュージューと音を立てて焼ける肉。醤油ベースの特製ダレの香ばしい匂い。子供たちのはしゃぐ声と、それを見守る大人たちの笑い声。
 レオンハルトが、焼き上がったばかりの肉を、私の皿に優しく乗せてくれる。
「アリア、熱いうちに食べろ」
「ありがとう、あなた」
 私はその肉を頬張りながら、目の前の幸福な光景を、愛おしく見つめた。
 太陽の光を浴びてきらきらと輝く緑。幸せそうに肉を頬張る子供たちの笑顔。私の隣で、穏やかな顔で微笑む、愛する夫。
(悪役令嬢に転生した時は、一体どうなることかと思ったけど……)
 ふと、そんなことを思う。
(追放されて、本当によかった)
 あの断罪がなければ、この温かくて美味しい幸せを、手にすることはできなかっただろう。
 私の人生は、ゲームのシナリオから大きく外れた。けれど、辿り着いたこの場所こそが、私にとっての、最高のハッピーエンドだ。
 これからもきっと、私の人生は、美味しい料理と、愛する人々の笑顔に満ち溢れている。
 陽だまりのように温かい食卓を囲む、家族の笑い声を聞きながら、私は心からの幸福を噛み締めていた。物語は、温かな陽だまりのような幸福感の中で、優しく幕を閉じる。
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