辺境レストラン「太陽の恵み」へようこそ!追放令嬢がバイキング形式で巻き起こす、お腹いっぱい幸せいっぱい大逆転劇!

緋村ルナ

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第8章:行列のできる店と、革命的発想「バイキング」

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「太陽の恵み」の評判は、私たちの想像を遥かに超えるスピードで広がっていった。街道を旅する商人や旅人だけでなく、噂を聞きつけた近隣の町の住民まで、わざわざ足を運んでくれるようになったのだ。

 店は連日、開店前から行列ができるほどの大盛況。それは嬉しい悲鳴だったが、同時に新たな問題も浮上してきた。

「イザベラ、すまん! またシチューの追加注文だ! でも、もう鍋が空っぽだ!」
「こっちのテーブルはパンのおかわり! でも、もう焼き上がりが間に合わないわ!」

 厨房は、まさに戦場だった。私とアンナ、そして手伝いの村の女性たち数人では、押し寄せる客の注文を捌ききれない。料理の提供が遅れ、お客様を待たせてしまうことも増えてきた。

 それに、客の好みも様々だ。「肉料理はないのか」「もっとあっさりしたものが食べたい」といった要望も増えてくる。日替わり定食一本では、限界が来ているのは明らかだった。

「どうしたものかしら……」

 その夜、疲れ果てて店の片付けをしていると、カイが心配そうに声をかけてきた。

「あんた、最近顔色が悪いぞ。少し休んだ方がいい」
「でも、お客様をがっかりさせるわけにはいかないわ。もっと効率よく、たくさんの人に満足してもらえる方法はないかしら……」

 私は頭を抱えた。人手を増やしても、この小さな厨房では限界がある。一人一人の注文に応えていたら、時間がかかりすぎる。もっとシンプルで、もっと画期的な方法……。

 その時、私の脳裏に、ふと前世の記憶が閃光のように蘇った。会社の慰安旅行で行った、ホテルの朝食。大きなテーブルにずらりと並んだ色とりどりの料理。好きなものを、好きなだけ、自分のお皿に取っていく、あのスタイル。

「……バイキング」

 ぽつりと呟いた私に、カイが「ばいきんぐ?」と聞き返す。

「そうだわ! それよ、カイ!」

 私は興奮して立ち上がった。

「予め、大皿に何種類もの料理を用意しておくの。温かいものは温かく、冷たいものは冷たく。お客様には、最初に一定の料金をいただいて、あとは自分のお皿で、好きな料理を好きなだけ取って食べてもらうのよ!」

 私の説明に、カイは目を丸くしている。

「好きなものを、好きなだけ……だと!? そんなことをしたら、大食いのやつに全部食われちまうだろ! 赤字になるぞ!」
「大丈夫よ。ちゃんと計算するわ。原価の安い野菜料理を多めに用意したり、パンやスープでお腹が満たされるように工夫するの。それに、最初に料金をいただくから、食い逃げされる心配もないし、会計の手間も省ける。私たちは料理を作ることに集中できるし、お客様は待たずに、自分の好きなものを好きなだけ食べられる。みんなが得をするシステムよ!」

 これは革命だ、と私は確信した。この世界にはまだ存在しない、全く新しい食事の提供スタイル。

 カイは、私の熱弁に気圧されながらも、真剣に考え込んでいた。そして、やがて顔を上げると、ニヤリと笑った。

「……なるほどな。わけわかんねえが、なんだか面白そうだ。あんたがそこまで言うなら、やってみる価値はあるかもしれねえな!」

 彼の理解と後押しを得て、私は早速、バイキング形式導入の準備に取り掛かった。大皿をいくつも用意し、料理を並べるための大きなテーブルをカイに作ってもらう。メニューも、これまでの煮込み料理や焼き物に加え、マリネや和え物、ピクルスといった常備菜も加えることにした。

 数日後、「太陽の恵み」は新しいシステムでリニューアルオープンした。店の入り口には、私が書いた説明書きを掲げる。

『お一人様銀貨一枚で、お好きな料理をお好きなだけどうぞ!』

 最初は戸惑っていた客たちも、ずらりと並んだ美味しそうな料理を前に、次第にその目を輝かせ始めた。

「なんだこりゃ、すげえ!」「あれもこれも食べていいのか!?」「まるで祭りだな!」

 お祭り。そう、これは毎日が収穫祭のようなものなのだ。客たちは思い思いに皿に料理を盛り付け、テーブルで満面の笑みを浮かべていた。

 この革命的なシステム「バイキング」は、すぐに大人気となった。辺境の小さな食堂が仕掛けたこの革命が、やがて王国全体の食文化を揺るがすことになるなど、この時の私はまだ知る由もなかった。
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