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番外編①:騎士は極上の角煮丼に恋をする
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その日、俺――カイは、心身ともに疲れ果てていた。
数週間に及ぶ高難易度の討伐任務。仲間を庇って負った傷も深く、心はささくれ立っていた。ただ、温かい飯を腹いっぱい食らって、眠りたい。そんな思いだけで、ふらりとアズライトの街にたどり着いた。
目に入ったのは、「陽だまり亭」という、寂れた食堂の看板だった。正直、期待はしていなかった。どうせ硬いパンと塩辛い干し肉くらいだろう。それでも、ないよりはマシだ。
店に入ると、貴族の令嬢然とした、無表情な女が一人で店を切り盛りしていた。場違いな雰囲気。だが、追い返されることもなく、席に案内された。
「何か食えるもの、あるか」
俺の無愛想な問いに、女は少し考えると、「とっておきの一皿をご用意しますわ」とだけ言って、厨房の奥へ消えていった。
(とっておき、ね……)
どうせ大したことはないだろう。そう高を括っていた俺の前に、やがて運ばれてきたのは、見慣れない料理だった。
ロックバードのコンフィ、というらしい。その横に添えられた、キラキラと輝くジュレ。スライムから作ったと聞いて、一瞬、眉をひそめた。
だが、空腹には勝てない。半信半疑で口にした瞬間、俺の中の常識は、全て覆された。
なんだ、これは。
繊細で、深く、そしてどこまでも優しい味。荒んでいた心が、温かいスープに溶かされていくように、ゆっくりと解きほぐされていく。俺は、生まれて初めて「幸福」という感情を、味覚で理解した。
夢中で皿を空にし、大金を置いて店を出た。
翌日も、その翌日も、俺の足は自然と陽だまり亭へ向かっていた。そして、ある日、彼女はあの料理を出してくれた。
「フォレストボアの角煮丼ですわ」
それは、俺が今まで食べたどんな料理よりも、衝撃的だった。
とろけるように柔らかい肉、甘辛いタレ、そしてそれが染み込んだ白米。一口、また一口と掻き込むたびに、身体の奥から力が湧いてくる。傷の痛みも、心の疲れも、全てが消えていくようだった。
俺は、厨房で真摯に料理と向き合う、彼女――オリビアの横顔を盗み見た。無表情だが、その瞳は、自分の料理を食べる客を、真っ直ぐに見つめている。
その時、俺の心の中に、静かに、だが確かに、一つの感情が芽生えた。
それは、この温かい料理に、そして、この料理を作る彼女に、もう一度会いたい、という強い想い。
それが恋というものだと気づくには、もう少し時間が必要だったが、俺の人生がこの一皿の丼によって変わったことだけは、確かだった。
数週間に及ぶ高難易度の討伐任務。仲間を庇って負った傷も深く、心はささくれ立っていた。ただ、温かい飯を腹いっぱい食らって、眠りたい。そんな思いだけで、ふらりとアズライトの街にたどり着いた。
目に入ったのは、「陽だまり亭」という、寂れた食堂の看板だった。正直、期待はしていなかった。どうせ硬いパンと塩辛い干し肉くらいだろう。それでも、ないよりはマシだ。
店に入ると、貴族の令嬢然とした、無表情な女が一人で店を切り盛りしていた。場違いな雰囲気。だが、追い返されることもなく、席に案内された。
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(とっておき、ね……)
どうせ大したことはないだろう。そう高を括っていた俺の前に、やがて運ばれてきたのは、見慣れない料理だった。
ロックバードのコンフィ、というらしい。その横に添えられた、キラキラと輝くジュレ。スライムから作ったと聞いて、一瞬、眉をひそめた。
だが、空腹には勝てない。半信半疑で口にした瞬間、俺の中の常識は、全て覆された。
なんだ、これは。
繊細で、深く、そしてどこまでも優しい味。荒んでいた心が、温かいスープに溶かされていくように、ゆっくりと解きほぐされていく。俺は、生まれて初めて「幸福」という感情を、味覚で理解した。
夢中で皿を空にし、大金を置いて店を出た。
翌日も、その翌日も、俺の足は自然と陽だまり亭へ向かっていた。そして、ある日、彼女はあの料理を出してくれた。
「フォレストボアの角煮丼ですわ」
それは、俺が今まで食べたどんな料理よりも、衝撃的だった。
とろけるように柔らかい肉、甘辛いタレ、そしてそれが染み込んだ白米。一口、また一口と掻き込むたびに、身体の奥から力が湧いてくる。傷の痛みも、心の疲れも、全てが消えていくようだった。
俺は、厨房で真摯に料理と向き合う、彼女――オリビアの横顔を盗み見た。無表情だが、その瞳は、自分の料理を食べる客を、真っ直ぐに見つめている。
その時、俺の心の中に、静かに、だが確かに、一つの感情が芽生えた。
それは、この温かい料理に、そして、この料理を作る彼女に、もう一度会いたい、という強い想い。
それが恋というものだと気づくには、もう少し時間が必要だったが、俺の人生がこの一皿の丼によって変わったことだけは、確かだった。
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