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アフターストーリー 宝条院聖羅編
しおりを挟む頭を抱えるものは誰にだってあるだろう。
例えば体重計に乗って、ああ、1キロも増えている! ダイエットだ、とか。
今月は給料前、ちくしょう肉が食いたいが我慢だ、我慢、とか。
様々な理由が誰にでもあるだろう、そんな事を思うからには当然わたくしにも頭を抱えるものがあるのだ。
「聖羅~! やっぱり聖羅は可愛いよ~!」
「お、お父様、お辞め下さい! 恥ずかしいのですが!」
「何を言っとるんだ、聖羅はいつまでもわしの子供だ! 可愛るのは当たり前だ!」
何が起きているのか、わたくしこと、宝条院聖羅は家のリビングで父親の宝条院総一朗(ほうじょういんそういちろう)に赤ちゃんにやる高い高いをされている最中だ。
父は親バカ中の親バカだ。わたくしは高校生だ、そんな娘を軽々持ち上げるとは凄過ぎる。
「ふふ、本当に娘命ですのねあなた」
親子の微笑ましい(?)光景を眺めている母、宝条院クリスティーヌ。母はフランス人で、父と国際結婚をしている。母は躾に厳しい方だ。ちゃんとした言葉を話さなければ泣き出す。
母に泣かれると本当に困る、何故なら泣き方が駄々を捏ねる子供と一緒でわんわん泣き出す。こっちも頭を抱えるものの一つだが、賑やかでわたくしの大切な家族だ。
本当はもう一人いなければならないのだが。
「お、お父様! わたくし学校に遅れてしまいますわ!」
「んん! そうか、それはいかんな。生徒会のトップだった聖羅が遅刻してはいかん、心残りだが行っておいで」
ようやく地上に降りられた。とにかく良かったが、夜が不安だ。母は満面の笑みをこぼしながら「行ってらっしゃい」と送り出す。
「行って参ります」
こうして宝条院聖羅の一日が始まる。
国会議員の父と、PTA会長の母を両親に持つわたくしの名は宝条院聖羅、18才で今年学校の卒業を控えている。
生徒会に勤め、会長として頑張って来た。ま、大半(殆ど)がわたくしのわがままだったわけだが。
今では新たな会長も決まり、のんびりとした時間が出来たのかと思えばそうではない。
そう、進路を決めなくてはならない。
さてどうしたものか。
わたくしは将来何になりたいのか、何を目指すべきなのか。毎日を馬鹿騒ぎする事が好きだったから先を考えていない。
小さい頃の夢は大好きだったわたくしの兄のお嫁さんだ。思い出しただけで恥ずかしいが、現実的な夢を持っていないのだ。
どうしたものかと毎日考えながら登校している。
誰かに相談するべきだろうか?
「聖羅、おはようございます」
と後ろから声が聞こえて来る。この声はいつも聞き慣れたあいつに違いない。
「おはよう政史、今日はやけにゆっくりだな。いつもはわたくしより先に学校に行っているはずだが?」
小学校からの幼馴染み、高崎政史が笑顔でそこにいた。
「いえ、実は聖羅と登校しようと思いまして。美人と歩くのは男としてまさに夢、ロマンですから」
「び、美人だと? わたくしがか?」
「ええ、当たり前でしょう」
顔が熱くなるのを感じた。そう言った言葉に抗体がない、要するに苦手。
昔から真面目で、わたくしのやる事を一緒に文句一つ言わずにしてきた政史だが、こんな恥ずかしい事を最近になって言って来るのだ。
何故だ?
「と、とにかくわたくしは悩み事で考え中だ、静かにしろ!」
「悩み事? わたしで良いなら力になりますが?」
一人で考えるよりも良いかもしれないが、政史だと何を言うのか心配だな。とにかく言ってみるか。
「実は進路をどうしようか決めかねていてな。参考のために政史、お前の進路を教えてくれ」
「わたしですか? 将来は検事を目指していますからそれにそって大学を決めるつもりです」
「初耳だ。お前の両親が科学者だからわたくしはてっきり科学者を目指すと思っていたぞ」
政史が検事か、意外と合っているのかもしれない。
「科学者は嫌ですよ。両親が科学者だと良い思いでは無いですから」
小さい頃、両親が忙しくていつも家に一人きりだったと話してくれた事があった。
今では一人暮らしだが、本当は寂しいんじゃないだろうか。
「なんですか? もしかして、わたしが寂しがってるとでも? 大丈夫ですよ、わたしにはあなたが居ますから」
また顔に熱が。
「この馬鹿者ぉ! わ、わたくしをからかうな!」
「からかっていませんよ。……そうだ、進路を決めかねているんですよね? 悩む必要はありませんよ」
「何? どう言う訳だ? 良い考えがあるのか?」
はて、進路を悩まなくても良いとはどんな事だ? そんな方法があるなら是非とも教えてもらいたい。
「簡単ですよ。聖羅、わたしのお嫁さんになれば良いんです! 専業主婦になれは何も悩む必要は無いでしょう?」
「オヨメサン? およめさん、……お嫁さん! ば、ばばば馬鹿ぁあああ!」
一瞬で政史の後ろに回り込み腕で首を絞める。
こいつなんという事を言ったのか!
わたくしが政史の……お嫁さんだと?
「死にたいのか政史! 冗談も大概にしろよ!」
「冗談ではありませんよ? わたしは本気でそう思ってますから」
ああもう、恥ずかしい事をスラスラと言いやがって。からかって楽しんでいるのか? それとも本気なのか? 政史とは昔からの仲だ、こいつに恋愛感情なんて……。
不意に思い出す、小さい頃わたくしが足を痛め、野良犬に教われていた時にこいつが助けてくれた。その日からどうしてだか、あいつの顔が頭から離れやしない。
訳の分からぬまま今に至るが、この気持ちはまさか。
「……聖羅? いつまでこのままなんです? 急がないと遅刻ですよ」
「え? あ、ああ、そうだな」
政史を解放し、駆け出す。あいつの顔を見ない様に。わたくしの顔を見せない様に。
今見せると困る。この紅葉した顔を見せられるものか。
わたくしは政史の事が『 』なんだ。
なんとか遅刻をせずに教室に入り込めた。政史は別のクラス。
別で良かったと思っている、もし一緒ならまた変な事を言ってわたくしを困らせるはずだ。
「あ、聖羅ちゃんおはよう!」
「ああ、おはよう望月」
ぶんぶんと大きく手を振る女子がいる。こいつの名前は望月今日子(もちずききょうこ)、綺麗な茶色の長い髪を持ち、頭の後ろにある大きなリボンが特長だ。
女のわたくしから見ても美人で、このクラスのアイドル的存在にしてわたくしの友だ。
「どうしたの今日は、いつもならもっと早く登校してくるのに」
「まぁちょっとな。いらん妨害があったと言うべきか……」
「分かった、高崎くんとイチャついてたんだ!」
「だ、誰が政史なんかと!」
にしししとなんとも嫌な笑いをする望月、まったく毎回わたくしと政史の事をからかいやがって。
突然後ろからトントンと指で肩を叩かれる。振り向くと見知った顔が合った。そいつも女子で、わたくしの友なのだが、少しこいつは苦手の部類に入る。
「……おはよう宝条院聖羅。おはよう望月今日子」
「ああ、おはよう新城」
「火夢騎ちゃんおはよう!」
こいつは新城火夢騎(しんじょうこむぎ)、ショートの赤みがかった髪を右側だけ縛ってテールにしている。無表情であまり口を開かないのだが、悪い奴では無い。笑えば可愛いのだが全然笑わない。
「……宝条院聖羅、今日遅かった」
「大した理由じゃない。だいたいわたくしが遅刻なんかする訳が無いだろう?」
「……うん。さすが宝条院聖羅は新城火夢騎の嫁だ」
と言ってわたくしの腕にしがみつく新城。こいつの恋愛対象が女性らしく、どうもわたくしに気があるらしい。わたくしにはそんな気は無いがいつもくっついて来る、これが無ければ良い奴なんだが。
「離れろ新城! わたくしはお前の嫁なんかになる訳ないだろうが!」
「……新城火夢騎は宝条院聖羅が好きなのだ。好きだから宝条院聖羅は嫁決定」
更にギュッとしがみついて来る。参ったな、悪い奴じゃ無いのに。
「にししし、聖羅ちゃんモテモテだね! 政史くんだっているから……これは危険な三角形関係だね、にししし、面白くなりそう!」
「望月、お前後で人間サンドバック改を食らわせてやる」
「ごめんなさい。と言うか聖羅ちゃん、改って何気にパワーアップしてるね」
朝からいつものメンバーで騒いでいると先生がやって来てホームルームが始まる。まったく、仕方の無い奴等だ。だけど、楽しいと思う自分もいる。
それから授業が始まり、あっと言う間に昼休みに。
「聖羅ちゃん、おっ昼だよ! 一緒に食べよ!」
「望月、毎日一緒に食べているだろう? 訊いてこなくても良いぞ?」
「別に良いでしょう? 聖羅ちゃんをお昼に誘うって男子達の夢なんだよ実は。美人だし、頭良いし、元会長だから権力もあるし、あ、両親自体が権力か。とにかく聖羅ちゃんは男子達のあこがれの的なんだから、お昼に誘うって結構凄い事なんだよ! だから私は美味しい思いで誘ってるの!」
相変わらずおしゃべりだな、今のを一気に喋って息切れしていないから凄い。
と言うかわたくしが男子達のあこがれの的だと? そうなのか?
「ま、その性格と空手の実力が男子達を近付けさせないんだけどね!」
「望月、お前わたくしを評価しているのか馬鹿にしているのかどっちなんだ?」
「にししし、両方!」
即答しやがった。この野郎……じゃない、この女(アマ)め。
急にがしりと腕にしがみついて来る新城火夢騎、じっとわたくしの目を見つめている。無表情だが、頬が赤い。
「……新城火夢騎も宝条院聖羅とご飯」
「お前もか。とにかくいつもの様に保健室で食べるのか?」
「そうだよ! だって神々先生って楽しい人なんだよ? 話ながら一緒にご飯は楽しいからね」
保健室の先生といつも昼ご飯をこのメンバーで食べている。神々先生は若い女先生で、わたくし達と話が合うのだ。
そう言う訳で保健室へと向かう。新城が腕にしがみついていて歩きにくいのだが、歩きにくいと言うと涙目でじっと見つめて来るから強く言えない。
わたくしとあろう女が新城一人をどうこう出来ないとは恥ずかしい限りだ。
などと考えていると保健室の前だった。望月が扉を開けて声を掛ける。
「先生~、ご飯食べよ~!」
「お、望月ちゃんと宝条院ちゃんと新城ちゃんか。いやいやいつものメンバーね」
腰の辺りまである流れる様な黒髪、美人な顔立ち、鋭い目を守るかの様にサングラスをかけている。白衣が黒髪をより一層強調させていた。
この人が保健室の先生、名を神々優里香(こうごうゆりか)だ。
「ん? なんだ新城ちゃん、まだ宝条院ちゃんはあなたに振り向かないの? 宝条院ちゃんも新城ちゃんを受け入れたら? きっと面白……素晴らしいカップルになるわよ?」
「それ私も同意見で~す! にししし!」
神々先生と望月は似た者同士だ。意地悪だし、悪巧みが好きなんだ。まったく、この二人には参る。
「……宝条院聖羅、神々優里香先生も望月今日子もああ言ってる。……結婚しよ!」
「却下だ!」
「……ちぇ、でも諦めない」
「さてと、宝条院ちゃんを馬鹿に……じゃない、からかう……でもない、ん~、苛めないでご飯を食べましょう」
「先生、どれもわたくしをけなしている言葉だぞ?」
いろいろ言いたいが食事が先だ。わたくしは母の手作りのサンドイッチ、望月は弁当だが、毎朝自分で作っていて尚且つ旨い。先生はコンビニ弁当、料理は出来るらしいのだが面倒臭いからといつもこれだ。
さて、新城はと言うと……。
「火夢騎ちゃんは今日はどんなの食べるのかな~、昨日はようかん丸ごと一本だったもんね、今日は何かな~?」
楽しそうに望月が新城の昼ご飯が何かを見つめていた。
新城は食べる物も少し変だ。望月と神々先生は何を食べるのか楽しみにしている。
「……今日はこれ」
と言って自分のご飯を両手で天高く掲げた。
両手には切っていない食パン一斤丸ごと。それを大口開けてかじり始めた。
「新城、ジャムとかは付けないのか?」
「……ジャム付けると、食パンの本来の味が台無し」
不思議な奴。
「火夢騎ちゃんワイルド~!」
「新城ちゃんそのままよ? その可愛らしい姿をデジカメに納めるから!」
「ちょっとまて先生! 新城とわたくしを一緒に撮るな! 今日はサンドイッチだから新城と同類に見えるだろうが!」
などと楽しいような昼食を終え、四人でおしゃべりを時間いっぱいまでする、これがいつものわたくし達の昼休みだ。
楽しく話していたのだが、神々先生がある話をし始めた。
「みんなは知っているかな? 今この学校で盗撮の被害が相次いでいる事を」
「盗撮だと? 先生、それは本当か?」
「そっか、宝条院ちゃんは今は進路で忙しくて生徒会に行って無いんだったわね、なんでも何者かが女子更衣室にカメラを仕掛けて撮った写真を裏で男子生徒に売り付けているんですって」
なんだと? わたくしが知らない所でそんな事が起きていたのか。皆川に会長を任せているが、あいつはこの件をちゃんと処理出来ているのか。
よし、放課後生徒会室に顔を出すか。
「実は先生も撮られちゃったのよ、保健室でちょっと着替えしてた時の写真。参っちゃう」
「ひっど~い! 先生のナイスプロポーションを独り占めにして、私もその写真見たい~!」
「望月、怒るところがずれているぞ」
被害に合っているのは生徒だけでは無いのか。盗撮は立派な犯罪だ。許せないな、わたくしの学校でそんな事が起きているとは。
兄の大好きな学校を汚す真似をして。
「それで実は、男子生徒から没収した盗撮写真を一枚先生持ってるんだけど、その写真が……」
と言って机の引き出しから一枚の写真を取り出す。
わたくしは写真を受け取り頭が真っ白になってしまった。
「な、なななな! なんだこれはぁ!」
「聖羅ちゃんどうしたの?」
「……大丈夫か? 宝条院聖羅」
この写真に写っていたもの、それは……。
「ああ! この写真、聖羅ちゃんが写ってる!」
そう、わたくしが写っているのだ。写真は更衣室、多分体育服に着替え様としているのだろう。
わたくしは上半身はブラだけ、今からスカートを脱ごうと手を掛けている場面が写っていた。
「綺麗な体だね聖羅ちゃんって」
「……最高。宝条院聖羅最高だ」
「うん、下手したら先生負けちゃうかもね」
楽しそうに談笑し合う三人だが、論点がずれているぞ。
おのれ、よくもわたくしを撮ったな、盗撮した奴捕まえたらただじゃ済まさない。
「ちなみにね宝条院ちゃん、没収した男子生徒に訊いたけど、この写真、一番人気でコピーが大量に出回ってるんだって」
「な、なんだとぉ!」
「にししし、という事は、聖羅ちゃんの綺麗で清潔な肌は欲望丸出しの男子たちに舐める様に見られてるんだね! 聖羅ちゃん、汚されちゃったね」
望月、後でど突いてやる。そう決心しもう一度写真を見ると、あれ?
「わたくしの後ろに望月も写っているな、しかも上も下も下着だけ」
「え? ……許せない、聖羅ちゃんならまだしも私の美肌をなんだと思っているんだぁ!」
「お前殴っても良いか?」
にししし、ごめんなさいと謝っては来たが反省の色は無いな。わたくしから写真を取り、自分の姿があるのか確認し始める。
そんなやりとりを見ていた先生がわたくしを見つめながらこう提案してきた。
「宝条院ちゃん、確か防衛生徒会って面白……素晴らしいものを立ち上げたのよね、確か困った人の依頼も引き受けているとか。だから先生が頼んじゃおうかな、盗撮をしたのは誰なのか、そしてただちに止めさせて欲しいわ!」
「防衛生徒会初代会長、宝条院聖羅、この依頼を引き受けた! 望月、新城、ついでに先生もわたくしを手伝え! これは命令だ!」
「命令って、聖羅ちゃんもう会長じゃ無いのに……わ! そんなに睨まないでよ! もちろん手伝うよ。こんな写真を取る何て許せ無いもんね! 私が捕まえちゃう!」
何故かボクシングの構えをして口でシュッシュッと言いながら空に向かってパンチ。取りあえずやる気みたいだ。
「先生は構わないけど、仕事あるからあんまり手伝え無いかも。それでも良いかしら?」
「十分だ。新城はどうだ?」
「……新城火夢騎は宝条院聖羅の下僕、愛のために戦う」
また腕にしがみついて来た。本当に不思議な奴だが、わたくしが困っていると助けてくれる。悪い奴では無い。
さて、もうすぐ昼休みが終わるな、教室に戻らなくては。
「先生、あの写真は証拠品として貰っていくぞ?」
「良いわよ。頑張ってね!」
あれ? 写真はどこだ? 望月が見ていたはずだが今は持っていない。
不意に新城が視界に入る、何故か真っ赤な顔でスカートのポケットを手で押さえ、見つめている。まさか。
「新城、ポケットの中の物をだせ、今直ぐ」
「……ちぇ、見つかった」
案の定わたくしが写っている写真だ。それを残念そうに返す。
「……綺麗な肌だったのに。ちぇ、せっかく今晩使おうと思ったのに」
「使う? この写真を何に使うんだ?」
「にししし、火夢騎ちゃんのエッチ! 聖羅ちゃんも人のプライバシーは守るべきだよ! もう、おませさん!」
訳が分からない。とにかく放課後、生徒会室に顔を出して情報を訊き出そう。出来るなら皆川達にも手伝わせてやる。
三人は保健室を後にし教室へと帰ってそのまま授業を受け、あっという間に放課後になっていた。
「ホームルームも終わった。望月、新城、わたくしと一緒に来い!」
「……不肖、この新城火夢騎は宝条院聖羅に付いて行く」
「ねぇ聖羅ちゃん、こんな時に不謹慎なんだけど……めんどくなってきちゃっ……わわ! そんな目で睨まないでよ、ちゃんとお手伝いするから!」
まったく望月は。さて、仕切り直して生徒会室に向け歩き出す。久し振りだからな、ちゃんと上手くやっているのかも見てやるか。
「ね、ね、聖羅ちゃん、さっきから男子生徒が私達を見ている様な気がするんだけど……」
「何?」
そう言えば、多くの視線を感じるな。擦れ違う男子がチラッとわたくしや望月を見ていた様な。
「……多分、写真のせい」
「火夢騎ちゃん、どういう事なの?」
「……宝条院聖羅と望月今日子のあらわもない姿の写真がいっぱい出回ってる、男達は写真の二人の姿を想像しながら嫌らしい目で見てる……」
という事は今わたくし達を見ている奴等は写真を持っているというわけか。なんてだらしない顔で見ているんだ、気持ちが悪い。
「あいつら一人ずつ殴って行こうか、見ていると気持ち悪い」
「聖羅ちゃん、それはやり過ぎだよ。悪いのは盗撮した奴……ま、買うのもどうかと思うけど、おっとこの子なら仕方ないか」
「……仕方ないなんて言葉で終わらせない」
いつもは無口の新城が言葉を上げる。何やら怒りがこもっている様な。
「……宝条院聖羅は新城火夢騎の嫁、あの男達に写真とは言え、見られていると思うと潰したくなる」
「聖羅ちゃん、火夢騎ちゃんが怒ってるよ」
「面白そうだから成り行きを見守ろう。新城、行って来い」
「……うん、ラジャった。あの豚ども、新城火夢騎の嫁を汚す真似を!」
誰がお前の嫁だ。
新城は男子達に近付き、ギロリと睨む。新城は普段から無表情だから怒った顔は珍しく、尚且つ恐ろしい。あまりの恐ろしさに男子達は「ヒィイイ!」などと間抜けな声を出していた。
「な、なんだよお前!」
「……宝条院聖羅の写真を持ってるだろ?」
ギクリと体が反応する。分かりやすい連中だ。
「……この豚め! 宝条院聖羅は新城火夢騎の嫁と知った上で見ているのか?」
「は、はい?」
「……朝日が拝めると思うなよ?」
後は地獄絵図。男子達に噛み付き、追っかけ回していた。
さて、丁度良いから誰から写真を購入したのか聞き出してやるか。
数人の男子は廊下の隅でガタガタと震え、仁王立ちし、牙をむく新城におびえていた。
「火夢騎ちゃんダイナミック!」
「新城もう良いぞ。さて、わたくしの写真、誰から買ったのか教えて貰おうか?」
ここでゴキリと手を鳴らすと更に奴等は震える。
「ヒィイイイイ! し、知っている事はなんでも話しますから! だから命ばかりは!」
「フフン、素直が一番だ」
「聖羅ちゃんあんな事言ってるけど、ほとんど脅してるだけ……わわわ! 睨まないでよ! 冗談だよ、望月冗談!」
どんな冗談だ。気になるがそんなのは後回しだ。
誰から買ったのかが分かればそいつを問い詰めれば盗撮犯が特定出来るはず。
「取りあえず持っている写真を出せ、全員だ」
「は、はい! ただいま!」
「ちくしょう、オレの宝が……」
渡された写真はここにいる男子だけでも三十枚以上。まったく、スケベ共め。
その中にわたくしの写真だけでは無く、何と皆川や柳刃のまであるではないか。
「この写真は使えるな」
「あ、あの笑みは聖羅ちゃんが悪巧みを考えている時の顔だ!」
「……宝条院聖羅はどんな表情も良い」
うるさいな。さて、こいつは没収しておいて、肝心な事を訊き出さないと。
「誰からこれを買ったんだ?」
「えっと、その……オレも良く分からないんです」
「分からないだと? どう言う事だ、説明してみろ」
訊いた話ではどうやら写真の買い方が特殊なため、誰が売り付けているのかが分からない様だ。この男子の話によるならば、ある紙切れが回されて来るらしい。それを読み次の男子に回す。
授業中に紙に書いてクラスで回し読みするあれだ。
紙には学校中の女子全員の恥ずかしい写真を一枚二千円で売ると書いてある。各自で用意した紙に欲しい女子の名前と、自分の靴箱の位置を記入。
それと一緒にお金をあるところに入れると翌日、靴箱に写真があるのだと言う。
「なるほど、紙に書いて回せば誰が書いたのか分からないからな、書いた本人がこんなのが回って来たと言いながら回せば分からなくなる。受け取りが靴箱とは考えたな、渡す時会わなくて済む」
「でも聖羅ちゃん、詳細を書いたメモとお金を入れたとして、お金だけ取られたらどうするの?」
「それは無いだろう。これは男子全員に回って来る、もし誰かが写真が来なかったなど騒いだら誰も買ってくれなくなる。こんなに出回っているのなら必ず渡しているのだろう」
「……さすが宝条院聖羅、賢い」
それだけでは無い。買う時に売人に会わないという事は買う本人にとって有り難い。大人の本を買うのにはやはり勇気がいる、恥ずかしさがあって買うのを躊躇うからな。
ましてや思春期の男共にとってただ紙に書いて金を払うだけで好きな子の写真が貰えるんだ、上手い売り方だ。
もしかしたら盗撮犯は並大抵の奴では無いのかもしれない。
「で? 金はどこに入れる様になっている?」
「えっと、き、旧校舎の職員室にある木で出来た箱の中です」
き、旧校舎だと? まさかそんな場所で。
前に依頼を受けて入った事があったな。その時は散々な目にあってしまった。
今でも忘れない、窓の外にいた背中に羽の生えたオバケ。本当は苦手なんだオバケとか。
「聖羅ちゃん、顔が青くなっているのは気のせい?」
「き、気のせいだ。とにかく写真の購入方法が分かっただけでも収穫だ。さて、取りあえず生徒会室にいくぞ? 他の情報があるかもしれないからな」
生徒会室に向かおうとした時、知っている顔が現れた。
現れたのは政史だった。どうやら今の騒ぎが気になってやって来たみたいだ。
「聖羅、これはなんの騒ぎですか?」
「政史か、実は……」
「ああ! 政史くんだ! いいところに来てくれたよ!」
何やら楽しそうに望月が政史に近付いていく。
あの嫌な笑い方、望月の奴変な事を考えているに決まっている。
「実はね、この写真なんだけど」
と言って一枚の写真を政史に見せる望月。その写真を見た瞬間、政史がわたくしと視線を絡めて来た。
ま、まさか、あの写真はわたくしが写っている物なのでは?
「聖羅ちゃんって、体のライン綺麗だよね!」
「そうですね、なかなか素敵な写真です」
間違ない、わたくしの写真だ。なんて事だ、よりにもよって政史に見せるとは。
「どう政史くん、これ一枚五千円で買わない~?」
「五千円ですか……千円に負けてください」
ちょっと待て、買う気か政史!
「じゃあ三千円でどう?」
「千五百円!」
「仕方ないな~、なら二千円ね」
「仕方ないですね、それで交渉です」
と言って写真を懐に入れようとしたので直ぐに写真を取り上げてやった。
「ば、馬鹿者が! 本人の目の前で買おうとするな! それに値切るとはどういう事だ政史! お前にとってわたくしはそんなに価値がない女なのかぁ! ……あ」
今の一言で望月と政史がニヤリと笑いやがった。嫌な予感が。
「そっか、そっか。聖羅ちゃんはそんなに政史くんの事を思ってたんだね! もう、聖羅ちゃんの一途~!」
「ち、ちちち違う! わたくしは……」
「……そうだ違う! 宝条院聖羅は新城火夢騎の嫁だ! 高崎政史は敵、排除すべき敵だ!」
新城の介入で話がややこしくなりそうだ。政史と新城が火花を散らしながら睨み合う。
一触即発の状況だ、わたくしの前に立つ新城に政史が語りかけた。
「あなたに聖羅は渡せません。聖羅はわたしの花嫁ですから」
「だ、誰が花嫁だぁ!」
「……図々しい下郎め。絶対に新城火夢騎の宝条院聖羅は渡さない!」
「誰がお前のものだぁ!」
ああ、頭が痛くなって来たぞ。ワーワーと言い争いを始める二人、楽しそうに見ている望月。野次馬が集まって来たぞ、くそ、ここは逃げよう。
一気に駆け抜け、この場を離脱、ひたすら走った。
あの馬鹿共め、わたくしが何故逃げなければならない。
わたくしは確かに政史の事が『 』だ。
でも、あいつの顔を見ているだけで恥ずかしくて、何も言えなくなってしまう。まったく、わたくしはふ抜けだ。
逃げる足を止めると場所は生徒会室の前だった、気がつかなかったな。だが目的の場所だ、丁度良いか。
ノックをしてから扉を開けた。
「あれ、元会長!」
と驚き声をあげたのは後藤かなめだった。生徒会室には皆川真と二人だけ。何やら書類を睨み合っている。
仕事中か、感心、感心。仕事熱心だな。
「仕事中か、熱心だな……って、ちょっと待て、なんだそのプリントは?」
「ああ、皆川会長がもうすぐ修学旅行なんですよ、何処にいくのかプリント見せてもらってたんです」
「私、修学旅行は北海道でスキーですよ!」
真面目に仕事をしているのかと思えばこれだ。だが、修学旅行とは懐かしいな。
わたくしも二年の頃行ったな。そうか今年は北海道か。
「元会長は修学旅行はどこだったんですか? 俺、来年修学旅行だから参考までに聞いて起きたいんですけど」
「わたくし達は沖縄だったぞ。……だが、あまり良くは無かったな。旅館の食べ物がハンバーグや海老フライなど沖縄料理が無かったんだ。あったのはパイナップルくらいだぞ、わたくしはゴーヤーチャンプルーを食べてみたかったが、夢は叶わずじまいだ」
「そうなんですか、俺達はどこにいくんだろう……」
て、ちょっと待て。つい懐かしくて話に乗ってしまったが、今は生徒会の時間だ。仕事をさせなくては。
「お前達、仕事は?」
「え? 終わってますよ?」
「そ、そうなのか? えらく手際が良いな。わたくしが会長の頃は山の様に仕事があったはずだが」
「……そりゃあ、防衛生徒会とか依頼とかしてたら溜まるでしょ」
「ん? 今何か言ったか後藤?」
慌てて「いえ、別に何も!」と言い返して来るところを見ると怪しいな。
おっと、こんな事をしている場合では無い。盗撮の情報が無いのかを確かめねば。
二人に詳しく事情を教えてやる。
皆川と柳刃の盗撮写真がある事を付け加えて。
「ええ! わ、私の写真もですかぁ!」
「姫ちゃんの写真だって! ゆ、許せない!」
顔を真っ赤にする皆川と、怒りに燃え上がる後藤。
自分の身や大切な人に危機が迫れば誰だってやる気になる。
「と言うわけだ。だからわたくしに手を貸せ! 良いか、これは防衛生徒会に依頼された事件だ! お前達も防衛生徒会なんだ、やるよな?」
「私の恥ずかしい姿はしゅーだけのものなんだから!」
「姫ちゃんを汚す行為を黙って見ていられない!」
よしよし、火が点いた。
「ではさっそくなんだが、生徒会に盗撮の情報は入って来てないか?」
「ん~……確かに盗撮が問題になっていると聞きましたけど。皆川会長、何か知りませんか?」
「う~んとね……あ、確かこんな噂を聞いた事があるよ」
皆川の話によると友達から聞いた話らしい、なんでもこの学校には『闇部』と言う集団がいるらしい。要は不良の集団だ。噂ではヤクザと繋がりがあり、麻薬の売人のバイトをしていると言う話だ。
そう言えば、秋津光一も闇部に居たと皆川が話した。その闇部が盗撮をしているらしい。
もしそんな得体の知れない集団がいるのなら、放って置けないな。
「ヤクザだと? ……これは危険な臭いがプンプンだ。とにかく闇部の事もっと詳しく知りたい」
「私より高崎先輩の方が詳しいですよ?」
な、何? 政史だと?
政史達から逃げるためにあの場所に置いて来たからな、本当は戻りたくは無いのだが仕方が無い。得体の知れない闇部なんかに兄が大好きだった学校を汚させはせん。
「わ、分かった。政史に訊いてみる、お前達は出来るだけ情報を集めておけ、良いな?」
「分かりました。姫ちゃんの為だ、頑張るぞ」
「私もしゅーの為に綺麗な体を他の男にこれ以上晒す訳にはいかないもん!」
やる気ある二人を残し、生徒会室を後にした。
向かうは政史と新城が睨み合いをしていた場所だ。まさか、乱闘騒ぎになって無いだろうな?
「あ! 元会長さん!」
後ろから声が。振り向いた先にいたのは我らが防衛生徒会の元エージェント、剣姫こと柳刃誠十郎がいた。
柳刃は剣道着を着ているところを見ると、部活の真っ直中のはずだが。
「柳刃か。お前部活中じゃないのか?」
「実は国語の宿題を提出するのを忘れてて、部活中に呼び出されてしまったんです。今から教室に宿題を取りに行くところです」
「そうか。……それにしても剣道着似合っているな、いや、似合い過ぎだ」
生徒会を辞め、自分の夢の為に剣道部に入った柳刃。
惜しい人材だったが今まで生徒会で頑張ってくれてたからな、わたくしは応援してやる事にした。生徒会は辞めたとは言え、心は生徒会のエージェントだと語っていたな。
そんな事を言うとは柳刃らしいな。
「えへへ、ありがとうございます。ボクもやっぱりこれを着ると身が引き締まる感じがして心地良いです」
「わたくしも空手着を着ると気合いが入るからな。その気持ち分かるぞ」
歩きながらいろいろと会話をしながらわたくしは柳刃に盗撮の事を話した。ついでに柳刃の盗撮写真も見せて。
「ひゃあ! ボ、ボクが写ってます!」
写真には水着に着替えるきわどい姿が写っているのだ。
どれだけきわどいかと言うと、後数センチで全部見えてしまう。
「エ、エロっちいのは二十歳からです! ボク、おつむに来ちゃいました! ……まだかなめさんにも見せた事無いのにです」
やっぱりこの写真は使える。よしよし、柳刃だったら無償で手伝ってくれるだろうが、反応が面白いので見せてみた訳だが。
「それじゃお前も独自に調査を行ってくれ。明日の放課後、生徒会室に顔を出せ。わたくしも行く」
「分かりました! とんでもない悪人さん達です! ボクが成敗しちゃいます!」
そして別れた。
さて、次は政史か。はぁ、気が重い。
新城と政史が睨み合っていた場所に行くとどうやら終わっているみたいだ、新城は政史を睨み続けているが襲うまででは無い。
で、肝心の政史はというと、望月と何やら話し込んでいるではないか。嫌な予感しかしないぞあの二人が話し合っているなんて。
「……と言うのはどうかな、きっと聖羅ちゃんだって」
「ああ、それは名案ですね。ちょっと酷かも知れませんが……」
「なんの話をしているんだお前達」
話しかけると二人はびっくり顔に。怪しい。
「せ、聖羅ちゃん、もう戻って来たの? 早いね~、聖羅ちゃんニトロ!」
「望月、わたくしに何か隠し事してないか?」
「べ、別に何も隠して無いんだよ~!」
棒読みでますます怪しい。
「新城、この二人は何を話していた?」
「……ごめん宝条院聖羅、こいつら声が小さくて聞こえなかった」
「別に怪しい事は無いんですよ聖羅。ただあなたの素晴らしさを語り合っていただけです」
また躊躇無く恥ずかしい事を言いやがって。こいつに訊きたくは無いが、仕方ないか。覚悟を決め、闇部の事を訊く。
「闇部ですか。……そうですか、黒幕は闇部でしたか。これは厄介かも知れません」
「闇部の事は政史が詳しいと皆川が言っていたんだが?」
「ああ、生徒会だった頃、学校にいる不良などを調べていた時に闇部を知ったんですよ。数年前から闇部は数人の不良達によって作られた集団です。かつて闇部だった不良がヤクザと成り、そのためヤクザとの繋がりが有ります。麻薬を売らせていたと良くない噂を耳にした事も有りましたね。闇部は上納金をヤクザに払う事によって有事の時にはヤクザに助けを求めるんです。だから学校側は何も出来ない、ヤクザがバックにいる限り闇部は存在し続ける」
「ヤクザが厄介だな、さてどうしたものか」
「あくまで噂です。ですが、厄介は変わりないですね」
今は良い案が浮かばない。ひとまず今日は帰って対策を考えるとしよう。
「今日は取りあえず解散だ。明日までにそれぞれ案を練ってくれ」
「……いっぱい考える。宝条院聖羅の為にたくさん考える!」
「考えるのめんどくさ……わわわわ! そんな目で睨まないでよ! ちゃんと私も考えるよ~」
今日はそのまま解散し、下校する。無論政史と。
「政史、お前も考えて来るんだぞ? 良いな?」
「分かりましたが、心配ですよ。また聖羅が無茶をしそうで」
「無茶とはなんだ。闇部などと気味の悪い連中が学校にいるなんて我慢ならないんだ。……兄の大好きだった学校なんだ、汚したくない」
優しい兄の顔が浮かび上がる。温かな笑顔が心地良い。そんな兄が大好きだった学校が得体の知れない集団に怪我されるのが許せない。
個人的な思いだが、わたくしは防衛生徒会を作った日から誓ったんだ、兄が大好きだった学校を守ると。
「……今日も空夜さんのお見舞いに行かれるんですか?」
「ああ。もう日課になってるからな、……もしかしたら目覚めているかもと胸を膨らませて行く。ま、幾度とその思いは砕かれたけどな」
「聖羅、信じるって簡単そうで難しいものです。聖羅は空夜さんが目覚めると信じて毎日お見舞いに行く……これは信じる力と言う奴では無いでしょうか? きっといつかは報われる日が来ますよ」
素直に今の言葉が嬉しかった。
「ありがとう。そう言われると元気が出る。お前が側にいてくれて良かったよ、これからも頼むぞ? わたくしを支えてくれ」
「はい、喜んで……ところで今のセリフ、愛の告白と受け取っても良いですか?」
「な! ち、違う! 今のはゆ、友人として頼もしいという事であってだな……」
「照れた聖羅は爆発的に可愛いですね。という事でキスしましょう」
「何がという事だ! 訳が分からん! 却下だ! 却下却下!」
落ち着け、こいつに飲まれるところだった。調子に乗りやがって。いつかギャフンと言わせてやる。覚えていろよ政史!
だが、元気つけてくれてありがとう。
「分かれ道だ、わたくしはこっちだからさよならだ!」
「名残惜しいですね。でも、明日になれば会えますから良いですけど。では聖羅、また明日に……あ、そうだ、さっきの愛の告白、録音したいので明日また言ってくれますか?」
獣の遠吠えの如く睨み吠えてやった、政史は笑いながら逃げて行きやがったぞ。明日一発殴ると決意し病院を目指した。
向かう途中、昔の事を思い出していた。まだ兄が元気だった頃の姿を。金の短髪、背が高くて顔は優男の部類に入るだろう。笑い顔が柔らかくて、まるで優しい日溜まりだった。
いつもわたくしの頭を撫でてくれた。兄の撫で方は少し独特だ、二回程ポンポンと軽く手の平で叩いてから頭のてっぺんから後頭部にかけて大きく撫でる。小さい頃からそうして撫でられて来た。
幼稚園だった頃、兄の手を繋いで遊び回ったものだ。
『わたくし、おにいちゃんのこと、だいすきだよ!』
『うん。僕も好きだよ』
温かな思い出。もう一度あの頃に戻れたなら嬉しいのに。
わたくしが高校一年の時だ、一つ上の兄は生徒会会長で、いつも帰りが遅かった。中学までは空手を真剣に取り組んでいたが、高校には空手部は無い。
兄と同じ学校がよかったから別に苦にはならなかったが、自然と帰宅部になり、兄とは一緒に帰れなかった。
忙しいから休みの日も一緒に出かけられない。わたくしはお兄ちゃん子だった。そんな時、久し振りに休みが取れると教えてくれて、わたくしは胸が嬉しさで高まるのを感じていた。
『お兄ちゃん、どこかに連れてってよ! 久し振りなんだから! ね、良いでしょ?』
『そうだね、聖羅と遊びに行くのは久し振りだもんね。良いよ、どこに行きたい?』
『やったぁ! お兄ちゃん大好き! 行きたい場所決めないとね! えっとね……』
ワクワクが止まらない。早くその日にならないか楽しみでカレンダーをじっと見つめたものだ。どこに行こうか、お弁当を作った方が良いのか、どんな服を着ようか。
頭の中はそればかりだった。
でも、その思いは無駄になってしまった。
『ごめん聖羅、生徒会で急な用事が出来てしまったんだ。本当にごめん』
『……わたくしと約束したんだよ?』
『うん、分かってる。でもどうしても行かなきゃいけないんだ……本当にごめん』
久し振りだったから本当に楽しみで、ずっと待っていたのに。
わたくしは兄の事情を頭に入れず腹を立てた。
なんで、どうして、約束したのに。と子供の様にわがままを。
『嫌い、お兄ちゃんなんて大っ嫌い!』
そう言った日の夕方、兄が交通事故にあったと聞かされた。
何故あの日に事故が起きてしまったのだろう。わたくしが兄を罵倒した日になんで。
わたくしのせいだと何度自分を責めた事か。
ごめんなさい、ごめんなさいと心の中で謝り続けて夜を眠る。事故の日から今日までずっとそうして来た。ベッドに入って祈る様に謝り続ける日々。
兄が目覚めたらわたくしは最初に謝ろうと思う、わがままを言ってごめんなさいと。
その言葉を言うために毎日お見舞いに通う。
早く目覚めて。そう願いながら。
翌日、いつもの朝を迎えてもう家を出ていた。学校に向かう途中、政史と出会い一緒に登校する。昨日の事をまだ根に持っていたので取りあえず頭を殴っといた。だが、懲りた様子は無い。
まったく、頭を悩ませる。
歩きながら昨日の事を思い出していた。やはり兄は目覚めてはいなかった。
いつもの事だ、わたくしは傷ついてはいない。
いつもの事なのだから。
「聖羅、闇部の事ですが、何か考えは浮かびましたか?」
「……へ? あ、ああ、少しな。放課後に話す」
「元気がありませんね。良かったらわたしの胸でも貸しましょうか? さ、飛び込んで来て下さい」
大きく腕を広げわたくしを受け入れるポーズ。
またか。こいつはどうしようも無いな。
「馬鹿者が。……ま、その、なんだ……心配してくれてありがとう」
「いえいえ。聖羅はわたしの花嫁ですから!」
今日ニ発めの打撃を頭に与えるのだった。
「にししし、聖羅ちゃんウブできゃわいい~。聖羅ちゃんキュート!」
「わあ! も、望月!」
いつの間に現れたのか、望月今日子がニヤニヤといるではないか。会話を聞いてたな。
「盗み聞きは関心しないな望月」
「私だけじゃ無いよ?」
と、また後ろから衝撃が飛んで来る。誰かがわたくしに飛び掛かり、纏りついたのだ。
両手をわたくしの首に回し、おんぶの形になっている新城火夢騎の登場。
「……良いな。宝条院聖羅の甘えた声、新城火夢騎も聞きたい」
「だ、誰が甘えているだ! と言うか降りろ!」
「……やだ。今新城火夢騎と宝条院聖羅は一つ。ここから愛が生まれ……」
「るか!」
なかなか離れないので仕方なく教室までこの格好だ。
他の生徒達の視線が痛かったのはいうまでもない。
時は進み放課後、わたくしは生徒会室に向かっていた、政史と一緒に。望月と新城は用事だとかで保健室に向かった。
はて、用事とはなんだろうか。
生徒会室に入ると皆川と後藤が待っていたのだが、他のメンバーはどうしたのだろうか? 良ければ手伝わせようと思っていたのだが。人数は多い方が良いからな。
「皆川、他のメンバーはどうした? 新しい生徒会のメンバーだ」
「それぞれ用事です。職員室に行ってると思いますけど?」
「そうか。手伝わせようと思ったのだが、ま、今回は危険だからな、そいつらは抜きにするか」
久し振りに生徒会室のソファーに座る。うん、心地が良い。柔らかくて快適だ。
「元会長、この席に座りますか?」
皆川が言う席は会長専用の椅子だった。せっかくの行為だが、わたくしは断る事にする。
「結構だ。わたくしはもう会長では無い。今はお前が会長だ。なら、そこに座る訳にはいかん」
「カッコいいです。さすがは元会長さんです!」
扉が開き、この言葉と共に柳刃が現れた。これで防衛生徒会のメンバー全員集結だ。
柳刃は剣道着だった。部活の合間で来てくれた様だ。
「姫ちゃん部活は大丈夫なのか?」
「はい、春菜さんに説明を頼んで抜けてきました。ボクは防衛生徒会のエージェントですから、いないとおかしいです!」
「偉いぞ柳刃! やはりお前は最高の逸材だった! ……さて、それでは会議を行う。闇部殲滅作戦だ。良いな?」
こうして闇部殲滅作戦が話し合われる事となった。
「元会長、具体的にどうするんですか?」
「なんだ後藤、お前考えて来てないのか?」
「いや、考えましたよ。でも……バックにヤクザがいるとなると慎重にならないと」
「そこがネックと言う訳か。なら心配するな、わたくしに考えがある。ヤクザの事は任せておけ」
実は昨日、ヤクザや闇部の事をお父様に相談したのだ。すると、警察にお父様の知り合いが数人いるらしく、ヤクザを捕まえると言ってくれた。
摘発するのは難しいはずだ。だが、前々から摘発の準備は進んでいたらしく、いつするのか慎重だったらしい。
今回はお父様が一肌脱いでくれる事となった。国会議員の地位をフル活用だ。
ま、大人の事情で警察はお父様に頭が上がらないのだとか。少し気になるがヤクザがいなくなるなら問題は無い。
そう説明してやるとみんなはなんとかなりそうだと覚悟を決めてくれた。
「ならヤクザを考えなくて良いですね」
「ああ、後藤の言う通りだ。さて、話し合いをするか」
議論を重ねた結果、ある方法を思い付く。それは旧校舎にある写真の注文書を職員室の箱に入れる、これを利用する。
つまり、箱に入れると言う事は、必ず回収する者がいると言う事。そいつを捕まえて、闇部がどこにいるのか訊き出し、言う事を利かないなら鉄拳制裁だ。
「……結局、力任せか」
「後藤、何か言ったか?」
「い、いえ! 何も言ってません! 断じて!」
後藤を思い切り睨んでやった。本当は聞こえていたが聞き流す事にした。今は闇部を殲滅が大切だからな。
「では聖羅、今から作戦を開始しますか?」
「そうだな。ではわたくしと柳刃、二人で回収する者を捕らえる。大勢で行くと勘づかれる恐れがあるからな。捕まえたらここに連れて来る。そしたら皆川、お前の出番だ」
「へ? 私ですか?」
皆川の特技と言っても過言ではないもの。それはお説教だ。怒ると怖い皆川の説教はまさに地獄、しかし飴と鞭が上手く、改心する不良がたくさんいる。
この前偶然見たのだが、皆川が廊下を歩いている時不良の集団と鉢合わせしたが、なんとその集団は皆川に深々と頭を下げて挨拶をしていのだ。
恐るべし皆川。
「期待しているからな皆川」
「へ? えっと、頑張ります」
訳が分からないみたいだ。ま、説教さえしてもらえば良いか。
「では今から見張りに入る。皆は待機だ。柳刃行くぞ」
「分かりました! かなめさん、行って来ます!」
「ああ、気を付けてな」
こうして柳刃と一緒に旧校舎へと足を運ぶ。夕方の空はオレンジ色が広がり、少しづつ夜を誘う。
わたくし達は旧校舎へ進んで行く。夕方と言えど旧校舎の中は薄暗かった。微かに光が差す程度、気味が悪いな。
ふと前に依頼で旧校舎に入った事を思い出す。
その時変なオバケを見たんだ。本当はオバケが苦手なんだ。いかん、急に怖くなって来たぞ。
「あぅ、も、元会長さん、薄気味悪くてボク怖いです」
「……や、柳刃は怖がりだな。この程度で怖がるとは。それでも防衛生徒会のエージェントか? もっとしっかりと……」
「あ、今廊下の奥で何か動きました!」
「え?」
廊下の奥を一点集中。まさか、またオバケか? こんな昼間……嫌、もう夕方か。一体何がいるんだ。
「柳刃、先行して見て来い」
「ふぇ! そ、そんなです」
「お前はエージェントなんだぞ! エージェントはこんな時こそ頑張るものだ!」
目茶苦茶言ってるとは思っているが怖いのだ。仕方ないだろう、人には得意なものと不向きなものがあるのだ。
別に言い訳ではないぞ。
「あぅ、今奥の暗闇に光る目玉が見えました!」
「ひっ! 嘘だろ?」
廊下の奥にそれは浮かんでいた。ギラリと光る目玉が二つ。
異様な光景に体が震えた瞬間、目玉がこちらに飛び出した。
「きゃああああ! やだ、やだやだやだやだやだぁ!」
叫びながら柳刃に抱き付く。もう出よう。オバケは嫌だ。
なんて思っていると柳刃は黙ったままだ。
「あれ? ニャンコさん?」
「へ?」
そこにいたのは猫だった。全身ぶちの。そうか、暗いところだと猫の目は光るからな。
多分野良猫なのだろう。わたくし達を見つめてから逃げ出す。
「怖かったですけど可愛かったです。……元会長さん、大丈夫ですか?」
はっと気が付く。なんて事だ、醜態を晒してしまったではないか。あの猫め、紛らわしい。
直ぐに離れ胸を張りながら仁王立ち、なんとか言い訳をしなければ。
「や、柳刃はまだまだだな、良いか、女の子というものはああやって怖がるんだ。後藤に今度ああやって抱き付いてやれ。大喜び間違いなしだ」
「そ、そうなんですか! わざわざボクの為に身を張って見せてくれたんですね! 感激です!」
「ま、まぁな、はは……」
柳刃だから誤魔化せたか、これが政史だったら何を言って来るか。
とにかく職員室だ。あの猫のせいでいらん時間を取ってしまったではないか。
「ボク、今度かなめさんにあんな風にしてみますね。てっきりボク、元会長さんが怖がってたのかなって思っちゃいましたけど、そんな訳ないですよね!」
「あ、当たり前だ。わたくしを誰だと思っている!」
柳刃が天然でなかったらオバケが苦手だととっくにバレていただろうな。
途中ハプニングがあったが無事に旧校舎の職員室に辿り着く事が出来た。さて、ここからが大変だな。
柳刃に静かに中へ入る事を伝え、侵入。
薄気味悪い職員室の隅に木箱が置かれている。あれが写真の注文書を入れる箱か。
「良いか、静かに身を隠せ。木箱を回収する奴が闇部の可能性がある。分かったな」
「分かりました、絶対に捕まえましょうです!」
「ああ、もちろんだ」
職員室には机等が多分当時のまま置いてあり、身を隠すには適している。
それからしばらく静かな時間が襲う。
暇だ、誰も来ない。欠伸もで始め、集中力が欠けて来た時だ、廊下から足音が。
一気に緊張感が増す。等々来たな。
ガラリと扉が開き、誰かが歩いて来る。一体誰が来たのか、隠れていた机からゆっくりと顔を出し、確認をしてみる。
声が出そうになった。何故なら、現れた人物を知っていたからだ。
「まさか、なんであいつが……」
現れたのは、わたくしの友、新城火夢騎だったからだ。
まさか、あいつが闇部のメンバーなのか? 信じられない。あいつは少し無口で無愛想な奴だ。だが、本当は優しい奴なんだ。わたくしが困っていたら助けてくれる。良い奴なのに。
新城は周りをキョロキョロと見回してから木箱に近付く。
手を掛け様とする。ここでわたくしは飛び出す。
「新城!」
「……宝条院聖羅!」
「お前、何をしている!」
戸惑う新城はぴたりと黙ってしまう。何故ここにいるんだ、そう問い掛けようとしたらあるものが目に止まる。
それは新城が握っている白い紙と……お金。
ん? 紙とお金だと? ま、まさか……。
「新城、紙を見せてみろ」
「……これは、えっと、うんと……乙女の秘密……」
「見、せ、ろ!」
「……いやんえっち」
無理矢理取って紙を見ると、どういうわけかわたくしの名前と新城の靴箱の位置が記入されている。
名前とお金、つまりこいつ写真を買おうとしていたな?
「新城、お前~」
「……だって、宝条院聖羅が闇部やつけたら写真手に入らない。新城火夢騎は宝条院聖羅のあらわもない姿の写真……欲しかった」
一発げんこつを頭に落としてやった。紛らわしい奴め。
「元会長さん、この方はどなたですか?」
「心配はいらない、こいつは新城火夢騎。わたくしの友だ。新城、こいつは柳刃だ。挨拶しろ」
「……可愛い。凄く可愛い。でも、新城火夢騎の嫁は宝条院聖羅だ」
軽く頭を叩く。誰が嫁だ。だが、新城が言った事を柳刃が真に受けてしまう。
「よ、嫁! 元会長さんは婚約してたんですかぁ! それは知らなかったです、おめでとうございます!」
「……うん、ありがと!」
頭が痛くなって来たぞ。柳刃は言った事をなんでも信じるんだったな。
はぁ、誤解を解くのがめんどくさいが、このままにしてはおけないな。
「あのな柳……」
廊下から軋む音がする。
これは足音だ。
わたくしは二人に直ぐ隠れる様に指示。今度こそ闇部の可能性がある。息を飲み、足音を待つ。廊下から聞こえる音は職員室の前で止まり、扉を開放つ。
今度入ってきたのは男子生徒だ、顔が良く見えないが筋肉質な体、見た目から柔道か何かをやっている様に思える。
「へへ、今日も注文来てるかな?」
筋肉質の男は箱を持ち上げ、揺さぶる。すると中からガサガサと紙のこすれる音が。
それを聞いた男はニヤリとなんとも悪人みたいな笑みを浮かべる。
「たくさん来てるな。へへ、さてと、回収するかぁ」
間違ない、奴が回収する者だ。直ぐに手で柳刃に合図を送り、隠れていた机から飛び出す。
突然の出現に男は驚き顔をした。
が、それは一瞬。直ぐに睨んで来た。
「なんだお前ら」
「貴様が闇部なのか?」
「け、教えると思うのかよ? ……お前は前会長じゃないかよ! へへ、お前の肌って綺麗だよなぁ?」
這う様に、舐め回す様にわたくしの体を眺めている。
こいつは鉄拳制裁決定だ。気味が悪く、嫌らしい。
「なんでテメェらがこんなところにいやがる? 写真を買いに来たのか?」
「そんなわけ無いだろうが! 貴様を捕らえて闇部の事を訊き出し、盗撮なんて止めさせてから潰してやる!」
「そうです! あんなエロっちいのは二十歳からです! ボク、おつむに来ちゃいましたんですから!」
木刀を男に向け、啖呵(たんか)を切った。すると後ろから新城の声が。
「……ちぇ、宝条院聖羅のあらわもない姿の写真……欲しかった」
「新城~? お前はどっちの味方だ!」
「……新城火夢騎は宝条院聖羅の下僕、愛のために頑張る! えいえい、おーー!」
さて、こちらは三人。向こうは一人だが油断は出来ないだろう。あの体格、掴まれればさすがのわたくしも危険だ。
だが怯むわけにはいかない。わたくしは宝条院聖羅、学校を守る元会長なのだから。
「けっ、何盛り上がってんだか。俺は柔道部副部長だぜ? 女に負けるわけないだろうが!」
「女にだと? 貴様、もう一度言う勇気はあるか?」
「けっ、何度だって言ってやる、女なんかに男が負けるわけが無いだろうが! テメェらは大人しく男共の精処理道具になってろよ!」
良く言った、本当に良く言ってくれたな。わたくしは怒った。ああ怒ったとも。こんな下衆野郎が居る事自体が許せない。
切れたのはわたくしだけでは無い、柳刃も、無表情な新城も怒りに顔を歪めて激怒。
この男は許せない、世界中の女に代わってわたくしが鉄拳制裁を下す。
「柳刃! 新城! 殺るぞ!」
「はいです! 貴方の様な男性は醜いです! ボク、本格的におつむに来ちゃいました!」
「……殺す、この豚野郎がぁ!」
男が腕を広げ柔道の構えを。掴まったら大変だろうが、わたくしは躊躇無く懐に飛び込む。
手に掴まる訳にはいかない。なら、足はどうだ。ローキックを男の足にめり込ませる。だが、男は涼しげな顔。
「へっ、その程度かぁ?」
「次はボクです!」
体の柔らかい柳刃はその柔軟性を利用し、木刀を左肩に叩き込んだ。まるで鞭の様な打撃。
しかし、またしても男は涼しげ。柳刃の攻撃は見事なものだった。それなのに利いてないだと?
そうか、こいつ異常なまでに打たれ強いのか。少し厄介だな。
「次はこっちからだぁ!」
前進を開始する男、向かった先に新城が。やばいぞ。
「逃げろ新城!」
「……新城火夢騎は逃げない。こい、豚野郎」
「誰が豚だ! テメェボコボコにしてやるよ!」
男の手が新城に牙を向く。掴まえようと突き出すのだが、そこに新城はいなかった。伸ばされた男の腕の上に手を置き、掴まる瞬間に腕を掴み、逆立ちする様に回避した。
そのまま新城の腕は力を込め、飛び上がる。まるで軽業師の様に宙を舞う。
「……これはどうだ」
新城は男の顔を両手で掴み、そのまま鼻に噛み付いた。
「ぎゃああああああああああああああああ!」
どんなに打たれ強くとも、人間には鍛えられない場所はいくつもある。鼻に噛み付かれたら誰だって痛い。
「今だ! 柳刃、わたくしが蹴った場所に攻撃だ!」
「分かりました!」
木刀が風を切り、ローキックを受けた足に一撃。
刹那、木刀の上から遠心力を利用したわたくしの得意技、回し蹴りを直撃させた。
「ぎゃあああああああああああああああああ!」
グラリと足がふらつき、男は倒れる。同じ場所を何度も攻撃されたら打たれ強くても利くはず。
わたくし達の勝利だ。
「……おい、豚野郎。この程度で終わると思うなよ」
「…………へ?」
「そうだな。貴様は言ってはならない事を口にしたんだ。女をなんだと思ってるんだ!」
「許せません。絶対に許せません。……柳刃流剣術、拷問殺法の型、最終技、地獄!」
三人で袋叩きにしてやった。しかし柳刃は何やら凄い名の技を持っているな。ちょっと羨ましい。今度わたくしの得意技、回し蹴りに名前をつけてみようか。
ようやく闇部に通じている男を捕らえる事に成功。さ、後は皆川に任せるとしよう。こいつは運が無かったな、肉体面で苦痛を徹底的に与えたが、皆川の場合精神面だ。
ご愁傷様だ。
男を文字通り引きずって来た。
事情を皆川に説明すると案の定、ブツリと切れた。
「柳刃さん、その人隣りの部屋に良い? 私、こんなに怒ったの初めてかも」
隣りの部屋から悲鳴が聞こえて来たのは言うまでも無い。皆川の迫力ある声、男の哀れみを求める泣き声。
聞いているこっちが怖いくらいだ。小一時間だったろうか、男はようやく解放されたのだった。
「み、皆川会長、この人を殺してませんよね? なんか泡吹いて目が白いんですけど」
「変な事言わないでよ後藤くん。私はただ怒っただけなんだから」
「それが一番やばいんじゃ……」
良い気味だ。これで少しは……嫌、大いに反省して貰いたいものだ。さて、説教前に皆川に言っておいた事を訊き出すか。
「柳刃、闇部の事を訊き出せたか?」
「はい。この人やっぱり闇部のメンバーでした。それと他のメンバーの居所も掴みました」
「良くやった!」
これでこいつらを潰せるぞ。盗撮写真なんかを撮るからわたくしの怒りを買ったのだ。
恨むなら自分達を恨めよ。とその時、生徒会室の入口が開く。
「聖羅ちゃんお疲れ様~! 火夢騎ちゃん大活躍だったんだって?」
「望月!」
望月が生徒会室に来るのは珍しい。いつでも来て良いと言っていたのだが、めんどいの一言で来なかったのに。そんな奴がここに顔を出すなんて。嫌な予感がするのだが。
「望月、何を企んでいる?」
「わ! 酷い~。親友が頑張っているのに私だけが蚊帳の外だなんて薄情でしょ? 火夢騎ちゃんだって頑張ったんだから、何も出来なくても応援ぐらいするもん! それにしても生徒会の女子ってレベルが高いね! ポニーテールの子はお人形みたいだし、今の会長も美人だし、そこのボーイッシュな子も可愛い!」
とマシンガントークを息継ぎ無しでやってぬけるこいつは凄い。だが、怪しさは消えないぞ? 何かを企んでいるに違いない。
「あ、あの、俺、男ですけど……」
「嘘~! どう見たって女の子にしか見えないよ! ……貴方名前は?」
「後藤です。後藤かなめ」
「かなめくんミステリアス!」
ああ、うるさい。
「かなめさんはれっきとした男です! それにボクの恋人さんでもあるんですから! エッヘンです!」
「わわ! ポニーテールの子は僕っ子だったんだ! 良いね~、これが萌え要素なんだね! きっとかなめくんが女装とかしたら、間違いなく萌えるよね!」
「そうなんです! かなめさんは女装すると本来の力を出せるんです!」
どうしてだろう。予想外に望月と柳刃が意気投合を始めたぞ。
後藤にはこんなコスプレが似合うの似合わないだの熱弁中。本人の前で。
「かなめさんはやっぱり女装ですね! ね、かなめさん!」
「……姫ちゃん」
「あぅ、かなめさんが怖い顔してます。どうしてですか?」
まったくしょうがない奴等だ。とにかく今日中に闇部をなんとかしないとな。
「盛り上がっているところで悪いが、今日中に闇部を潰すぞ? 一人を捕まえてしまったんだ、奴等を捕まえないと逃げられるかもしれん」
「ところで聖羅、肝心の居場所は何処なんです?」
「言うのを忘れていたな。闇部は旧校舎横に昔いろんな部の部室として使われていた小屋だ。奴等はそこにたむろっている。皆気を抜くなよ、奴等の人数は5人程度だが、ボクシングや剣道をやっているらしい。少数の精鋭部隊と言ったところか」
実力がどの程度かは知らんが、厄介なのは間違無い。気合いを入れて行かないとな。
行くぞと声を掛けようとしたら妙なものが視界に入る。
望月が政史に耳打ちをしていたのだ。
「じゃあ頑張ってね」
「はい、頑張りますよ」
怪しい。何の話をしているんだ。わたくしの視線に気付き、二人は何もなかったかの様によそよそしくした。
ますます怪しい。だが今は闇部が先決だ。
「良し、行くぞ?」
「頑張ってね聖羅ちゃん!」
「……新城火夢騎は付いて行く。望月今日子も来い」
「わわ! 手を引っ張らないでよ。もう火夢騎ちゃんったらおませさん!」
うるさい奴だ本当に。
気が付けば空は黒色に染まり、ちりばめられたかのような星の光が綺麗だった。
我ら防衛生徒会がその下を進む。
「あ、見えて来たよ。絶対アレだよ聖羅ちゃん! あの小屋、明かり点いてるもん!」
「静かにしろ望月。まったく、緊張感の欠片も無いのか」
「にししし、無いよ!」
「望月、帰ったら人間サンドバッグの刑改を食らわせてやるからな」
確かに望月の言う通り小屋には明かりが。いるな、あそこに。
わたくしの恥ずかしい写真だけでは無く、学校中の女子の写真まで。学校を汚した罰を味わって貰うぞ。
「良し、先頭はわたくしと柳刃が行く。皆は後に続け。望月と新城は表で待っていろ、中は危険だからな。我々防衛生徒会だけで片付ける」
「……宝条院聖羅がそう言うなら従う。新城火夢騎は信じて待つ」
「火夢騎ちゃんキュート! 可愛い~。聖羅ちゃん、頑張ってね! 一応応援したげる!」
「一応ってなんだコラ。ま、すぐに片付けるさ」
さて、闇部を潰してやる。ヤクザと繋がっている? だからなんだ。わたくしには仲間がいるんだ、この防衛生徒会のメンバーがな。
素晴らしい仲間達だ。さあ行こう、学校の安息の為に。
「行くぞ」
闇部の真っ直中へ踏み入った。部屋はわりと広いが壁に穴が空いていたり、草が頭を覗かせている。
その中央に机とパイプ椅子が並び、そいつらはそこにいた。
「あ? なんだお前ら」
「貴様らが闇部だな? 単刀直入に言う、今すぐ盗撮を止め、今まで撮った写真、ネガを渡し、部を解散しろ。そうすれば軽い鉄拳制裁で許してやる」
「はっ、何言っちゃってんのこいつ、盗撮したって証拠はあるのかよ」
ここで外から箱を回収に来た男を中へ入れ、突き飛ばす。
「こいつが何もかも白状したぞ! さぁ、反論はあるか!」
「あ~あ、捕まったのかよお前。情けないな、こんな女だらけの奴等に。ま、バレちゃったものは仕方ないか。そうですよ、盗撮したよ。……で? だから何?」
「はっはは、テメェらが乗り込んで来たからってなんとも無いんだぜ? オレらに喧嘩で勝てるのか?」
「ほぅ、腕に覚えがある様だな。だが、おしゃべりな奴等だ。わたくしは間違っているのかな、おしゃべりな奴程弱い馬鹿だと認識しているが?」
「……あ? なんだと?」
この程度の挑発に乗るとはまだまだ青いな。
馬鹿にした様に口の両側を吊り上げてやると、相手は完全に妄動に陥る。そう、殴りかかって来た。それを柳刃が相手にする。無茶苦茶なパンチを迫らせる。
まるで舞う如く紙一重で回避する柳刃、その流れを壊す事無く男の胴に一撃。
「胴!」
「がぁ!」
苦痛が表情を歪ませ、自然に男の膝が地に落ちる。攻撃された場所を手で押さえながら苦しんでいた。
柳刃の攻撃は天下一品だ。クラスマッチで戦ったから分かる、尋常じゃない痛さのはず。
「ち、ちくしょうが……」
「やりやがったなテメェら!」
「ぶっ殺す!」
残りの全員がこちらに向かってこようと立ち上がる。
乱闘を覚悟し、迎え撃とうと構えた時だ、奴等の後ろから声がした。
「やめとけ。お前達じゃその女に敵わない」
背の高い男だった。鋭い目、がっしりした筋肉だが、絞り込まれた様にスリム。
そして一番目に付いたのは腕の筋肉だ、殴るに適した素晴らしい筋肉だ。こいつは強い。
わたくしの勘が訴える。多分、こいつが闇部のリーダー。
「お前が闇部のリーダーか?」
「そうだ。三年の宮原竜士(みやはらりゅうし)だ」
「宮原竜士だと!」
「元会長さん、この方をご存じ何ですか?」
「ああ。宮原竜士、三年生でボクシング部の主将。プロ入り間違いないと言われた男だ。お前の様な男がどうしてこんな馬鹿げた事をしている!」
「別に。ただの暇つぶしだ。ボクシングの試合だって全部勝って来た、つまらないんだよ。スリルがなさすぎるのさ。盗撮自体に興味は無いが、金が入るからな、止められない」
下衆め。だが、こいつの顔、特に鼻が綺麗だ。ボクシングは殴り合うものだ。顔面だって殴る標的。
顔が綺麗だということは殴られていない。ディフェンスが上手いのだろう。負けた事が無い、あながち嘘では無さそうだ。
「負けた事が無い……か。それは喧嘩でもか?」
「ああ。殆どの奴は左ジャブ一発で落ちる。……そうだ、女、お前強そうだな。喧嘩してみないか? 一対一で。お前が勝ったら闇部を解散させる、盗撮も止める……どうだ?」
よほど自信があると見える。良いだろう、乗ってやる。
「良いだろう。こっちが勝ったら今の条件を飲んでもう」
「じゃ、こっちが勝ったら……そうだな、お前の体を好き勝手にさせてもうぞ? 良いな?」
男共がわたくしに注目する。女を物としか考えて無い下衆な視線。箱を回収に来た男と同じだ。こんな奴等を野放しには出来ない。
「聖羅!」
「大丈夫だ政史、わたくしが負けるとでも思ってるのか? 心配しなくても直ぐに終わらせる」
「……分かりました。なら、信じて待ちます」
宮原とわたくしは部屋の中央へ。他の者達は壁際に。
油断は出来ない、こいつは強い。今まで戦った中で軽く上位に入るだろう。
「じゃルールを言うぞ? ま、簡単なんだが参ったと言うか、気絶させるか。ただそれだけだ」
「ほぅ、簡単だが良いのか? 負けた時言い訳が出来なくなるぞ?」
「はは、安い挑発だ。さぁ、さっさと始めよう」
この場から音が削られたかの様に静かになった。それからリズムの良いステップの声。見事なステップをしながら宮原は構える。わたくしは最初から構えの状態だ。
ボクシングは拳を極限まで鍛えたものと言っても良いだろう。繰り出されるパンチは速い、ボクサーの拳は凶器なのだ。
不意に空気を裂く音、そして左拳が飛ぶ。これはジャブだ。速い、だが避けられる範囲だ。ギリギリの位置で避けた次の瞬間右ストレートが迫っていた。
ダメだ、避けられない。
「ぐっ!」
「へぇ、腕で防御したか。凄いね」
咄嗟に両腕をクロスさせて防ぐ。痛い、両腕で防御したのに体が後ろによろめく。
直ぐに体勢を直し、奴の頭を目掛け蹴りを放つ。
「おっと! 危ない、危ない」
「ち、避けたか」
「攻めるぞ、女!」
前進しながら左ジャブの嵐が襲う。それを躱しながら反撃のチャンスを待った。
と、嵐が止む。だが次の瞬間まるで竜巻の様な力を放つ右ストレート。
これを待っていたんだ。
片腕でパンチの中心をずらし、腕の外側にパンチが通り過ぎた。左は右を打つ為に引っ込めたのだ、つまり今は無防備。全身全霊の力をわたくしの下半身に集束、奴の足にローキックを与えた。
「がっ!」
まだだ。右が引っ込み左がわたくしに迫る。それをしゃがみ回避に成功。
足のバネを利用し、奴の顎にわたくしの拳をくれてやる。
「ひぶっ!」
「食らえ! 回し蹴り!」
得意技、回し蹴りを奴の脳天へ。勢いが強く壁に激突。
そして、奴は地面に落ちた。
「わたくしの勝ちだ!」
「やったです! 元会長さんが勝ちました!」
さすがにプロ入り間違ないと言われた奴だ、強かった。だが、奴には傲慢があった、それがあったから勝てたのだ。
こいつが最初から本気だったら勝てたか分からなかったな。
「さぁ! 約束は守ってもらうぞ! 写真とネガをよこせ!」
「……ちくしょう、宮原をやった奴におれらが勝てるわけがねぇ。ちくしょう!」
やはり宮原が一番強かったらしい。将を取れば戦は終わる。
他の奴等も戦意喪失、大人しくネガと写真を渡す。
「闇部は解散だ。これからはちゃんとした高校生活を送れる様にしないとな……皆川、こいつらに説教頼む」
「私、説教だけのためにいるのかな? ……でも、許せない事をして来たのは事実だもんね!」
宮原も起こし、皆川説教地獄が始まる。
この夜、悲鳴が止まらなかったのは言うまでもなかった。
叫び声をあげ説教した連中を家に帰してやる。次同じ事をしたら今日以上の苦しみを与えると脅して。
写真もネガも回収出来た。これで任務完了だな。
「この写真やネガはわたくしが責任を持って始末する。安心しろ、ネットとかには流さないから」
「それ冗談きついですよ」
「あはは、冗談だ後藤。愛しの彼女の恥ずかしい写真は……買うか?」
「元会長さん! エロっちいのは二十歳からです! それにボクの肌はいつかきっと生で見せます!」
柳刃、言ってて恥ずかしくは無いのか? ま、面白いから良いか。もう帰るか。あまり遅くなると母に泣かれるし、父なら寂しかったよと良いながら一緒に今日は寝るなど無茶を言うに決まってる。
「良し帰るぞ。……あれ? 政史と望月はどうした? 見当たらないが」
と言った瞬間、望月が小屋に勢い良く入って来た。なんだ外にいたのか。
「望月、勝手に離れるなと言ったでは……」
「た、大変、大変なの! ま、ま、政史くんがぁ!」
慌ただしく落ち着きが無い。それに冷静さが失われ体が震えている。いつもの望月とは違う。直ぐにただならぬ事が起きているのは明白だ。
「どうした望月! 政史がどうかしたのか!」
「えっと、えっと、あの……取りあえず来て!」
手を掴まれ引っ張られながら外へと駆け出す。わたくしを掴む手は何かに怯えたかの様に震える望月の振動を味わう。
不安な味、恐怖の味、そんな負の味が染み出ていた。
政史に何かあったのか?
何が起きている、分からない。分からないが、胸の奥が蛇に締め付けられたかの様な戦慄が。
わたくしはハッと息を飲んだ。旧校舎の前に何かがある。嫌、居るんだ。
「……え?」
空白になる精神。だが、視界に映る赤色が白を浸蝕し、どす黒く不安を沸き立たせた。
仰向けに倒れた、いつも見慣れたあいつ。
仰向けに倒れた、赤く染まるあいつ。
ああ、そうか、赤色は血だ。
倒れた政史の腹は真っ赤な色が。
「ま、政史!」
「ぐっ、せ、聖羅……」
頭が理解しないままだが、体は急いで政史のところへ。
これは一体なんだと頭の中は混乱の渦が巻く。
「す、すいません。多分……闇部の一人にお腹を……刺されて……」
なんて事だ、奴等はヤクザと繋がりがある連中、説教くらいで改心するはずが無いではないか。
わたくしのせいだ。わたくしが闇部を潰すと言ったせいだ。
「せ、聖……」
「喋るなぁ! た、助けるから、必ず助けるから! ……どうしよう、どうしよう……」
洪水の様に視界が濡れる。堪った水は決壊し頬へと伝う。
死ぬな、死ぬんじゃない。政史が居なくなったら、わたくしは、わたくしは……。
「取りあえず保健室だ! 望月! わたくしの背に政史を乗せろ! 早く!」
「う、うん!」
「聖、羅……服が汚れる……」
「お前の血だ! 構うものか!」
政史を担ぎ走り出す。冷静な判断を完全に失っていた。
普通なら救急車を呼び、体を動かさない様にしなければならない。わたくしは、早く助けたくて居ても立ってもいられなかった。
「死ぬなぁ! 死ぬんじゃないぞ政史! わ、わたくしが助けてやるから、だから、だからぁ!」
「……聖羅」
走り回りようやく保健室に到着。明かりが点いている、神々先生がいるはずだ。
荒々しく扉を開けた。そこに神々先生がいてくれた。
「宝条院ちゃん? どうしたの一体?」
「先生ぇ、ま、政史を助けて、助けて下さい! お願いだぁ!」
涙が止まらない。頭の中はすべて政史でいっぱいになって、嫌なビジョンばかり想像してしまう。
政史がいなくなるビジョン。
「わ、分かったわ。取りあえずベッドに!」
ゆっくりと寝かせる。苦しがっている顔がわたくしを締め付け、涙腺を止めさせない。
死ぬな、死んだらダメだ。
「これは……宝条院ちゃん、ここじゃ何も出来ないわ。先生は職員室の電話で救急車を呼んで来るわ!」
急いで駆けて行く神々先生。二人を残して。
どうしよう、どうしようと混乱するだけだった。肝心な時に何も出来ないなんて。
「せ、誠羅……」
「喋っちゃダメだぁ! 良いか、気をしっかり持て! 死んだら許さないからな! そんな事になったらわたくし……」
「わたしは……本当に、聖羅を……愛しています」
赤く染まり、震える手がわたくしに伸びて来る。それを両手で包む。
「わ、わたくしも……わたくしも政史の事を…………あれ?」
手に付いている血を見つめる。血ってこんなにドロドロだったか? 政史の手を放し、指に血を付け、観察する。次は匂い。あれ? この匂いは……。
「……ケチャップ?」
一気に静けさがこの部屋全体を押す。あれ? どうしてケチャップが政史のお腹から出ているんだ? 出ているのでは無く、付けている?
空白な頭は何も考えられなくて固まってしまった。
その数秒後、保健室のドアが開く。そこにみんながいた。
「あ、あのね聖羅ちゃん、えっとね、その……まさかここまで大事になるなんて……その、ごめんなさい! 悪戯なんです!」
「……え? 悪戯?」
「えっとね、私と政史くんとで考えて、生徒会の人とグルでね……ごめんなさい!」
えっと、という事は、政史は……無傷?
「あ、あの聖羅、まさかこんな事になるとは……本当にすみませんでした。……聖羅?」
全身の力が抜け、その場に膝を落してペタンと尻餅。
脱力。体が動かなかった。
「聖羅!」
政史が起き上がりわたくしに近寄る。望月も、後から来た生徒会のみんなと新城、それに神々先生まで。はは、先生もグルか。
放心状態だった。政史が死ぬかもしれないと恐怖し、震えた。でもあいつは無傷なんだ。
「本当に申し訳ありませんでした! 本当に……」
「……そうか、お前無傷か」
この場の皆は身構えた。殴られると覚悟したのだろう。嵐の前の静けさ、というところか。
だけど、怒りの感情を押し殺し、ある感情が爆発を始める。
「そっか、死なないんだな政史は……死なないんだな……うぇ……良かった、ぐすっ、良かったよぉ……」
もう人目を気にせずに大粒を流して歓喜した。声を押し殺し、政史の手を握り締めて泣いた。
居なくなると思ったら怖くて、怖くて。
「聖羅……」
「もう、やめろぉ、冗談でもやめろぉ……ぐすっ」
「はい、誓います。もう貴女を悲しませないと」
数分そのまま涙が止まらなかった。泣き疲れた頃、ようやく自我が回復し、涙を拭う。
冷静さがわたくしを満たして行く。いつからだろう、政史がわたくしを抱き締めていたのに気が付いたのは。
「ま、政史、もう大丈夫だ。大丈夫……」
「本当にすいませんでした」
「もう謝るな、お前は無事なのだからな……さてと」
すっと立上がり仁王立ち。冷静さが怒りの感情を連れて来てくれたらしく、説明を受けなければ爆発しそうだ。
取りあえず望月を睨んでやった。手始めに。
「わわわわぁ! 聖羅ちゃんが目茶苦茶睨んでる~! ご、ごめんなさい!」
「望月、それにお前達も訊こうか。何故こんな事をしたのか、1から全部話せ!」
「せ、聖羅ちゃん悪の化身! ……えっと、長くなるけど良い?」
「構わない。さぁ、早く言え!」
「わ、分かりましたぁ! ……えっとね、事の初めは一週間前、政史くんに相談を持ち掛けられたの。聖羅ちゃんが政史くんに対してなかなか素直にならないからどうしたら良いかって。だから私が考えました! 名付けて『あ、政史くんが大変だよ、これを口実に好きだと言わせちゃえ作戦』です!」
「……新城火夢騎は知らない! 望月今日子、いつの間にそんな事を!」
わたくしが素直になれていないからこんな事を?
「ちょっと待て、作戦ってどこからだ!」
「えっとね、最初からかな。闇部ってのがいるのは本当なんだけど、実はヤクザとは何の関係も無いの。そう言った方が刺された時説得力があるかな~って。盗撮が問題だったからね、闇部も無くせるし、一石二鳥かなって……聖羅ちゃんが予想外に驚いちゃったから反省してます」
な、何だと、闇部とヤクザは関係ないだと?
それじゃお父様に頼んだヤクザを一掃する話、つまり街にいるヤクザは無関係なのか。
「ごめんね宝条院ちゃん、先生ね、頼まれちゃってて。先生から依頼って事にしたら真実味があるからって言われてね……ごめんね」
「生徒会の人にはこれからある事を伝えてたからね、上手く行き過ぎちゃった。私って凄いでしょ!」
生徒会一同がごめんなさいと頭を下げて来た。ああ、つまりあれだ。
わたくしだけが道化だったというわけか。
「聖羅、わたしが愛していると言った時、聖羅も……言いかけましたよね? と言うわけで、面と向かって言って欲しいです」
「黙れ」
わたくしがうじうじしていたために起きた事だった訳だが、今の政史の言葉で恥ずかしさが急上昇。
照れ隠しに暴れる事にした。
「ヒィイイイイイイ! 聖羅ちゃんお情けを~!」
「痛い痛い痛い痛い痛い! 元会長痛いですって!」
「大丈夫ですかかなめさん! ひゃう! そこはダメですぅううう!」
まさにその場は地獄。
「……新城火夢騎は関係ないのに……でも、宝条院聖羅に踏まれるのも良い」
「きゃああああ! 助けて、しゅー!」
「痛いよ、先生痛い……あれ? なんだか気持ち良い、どうして?」
ああもう恥ずかしい!
「せ、聖羅! 背中にむ、胸が当たってますよ! 痛たたたた!」
あらゆる苦痛を与え、夜が深まって行った……。
悪戯から数日、いつもの様に保健室で昼食を取っていた。いつものメンバーで。
あの悪戯の翌日はものすごく恥ずかしくて、政史の顔が見られなかったし、望月と目が合うと殴り掛かってたりと不安定だった。
確かに度が過ぎた悪戯だったかも知れない。しかし、わたくしが政史への気持ちを偽っていた事に原因があるのだ。だから、わたくしはある決意をしていた。ただ、それをするのに少し躊躇してしまう。
「……どした宝条院聖羅、考え事か?」
「ん、なんでもないぞ新城。って、お前なんだそのバックは?」
少し大きめのバックを保健室に持って来ていた。
新城はバックからある物を出し、セットを開始。
「ま、まさか、これがお前の昼飯か?」
「……うん。宝条院聖羅も食べる?」
ガスコンロに小さな土鍋、そこに水を入れ、そして……蟹を投入。
「わお! 火夢騎ちゃんスーパーダイナミック! 私にも頂戴!」
「……ダメ。望月今日子にはあげない!」
「う~、悪戯の事、火夢騎ちゃんに話さなかった事まだ怒ってるの~?」
「あはは、新城ちゃんも望月ちゃんも仲良くね。先生、こんな二人を見ていると、嬉し……楽し……悲しいぞ!」
いつもの風景だ。大切な時間を共に供給する友達との楽しい時間。
このまま穏やかに流れて行けば嬉しい。そしてその横には政史がいて、兄がいてくれたら文句無し。
「火夢騎ちゃん、仲直りしようよ! ね? 仲直りの印に、聖羅ちゃんの下着をプレゼントするから!」
「……ほ、本当! なら許す!」
「ちょっと待て! 望月、お前まさかわたくしの下着を持っているのか?」
「あ、えっと、にししし、本人の前で言うんじゃなかった。失敗、失敗!」
新城に手伝わせて人間サンドバック改を食らわせてやった。
神々先生は爆笑しながら見ていた。後で返してもらおう。というかいつ盗んだんだこいつ。
さてと、もうすぐ昼休みが終わるな。保健室の壁にある時計を見てそろそろ戻ろうと腰を上げる。
それに釣られて新城と望月も。
「じゃ先生、また明日ね!」
「授業に遅れない様にね」
「……宝条院聖羅、新城火夢騎とラブラブしながら戻ろう」
「却下だ」
部屋を出様とした時だ、わたくしの携帯が鳴り始めた。
誰からなのか見てみると、なんとお母様からだ。
滅多に電話してこないのに珍しい。
「はい、聖羅です。なんでしょうかお母様」
「にししし、聖羅ちゃんの喋り方可愛い~」
「……最高」
外野がうるさいな。話が分からなくなるだろうが。
軽く二人を睨むと口を閉ざした。まったく仕方が無い奴等だ。
『聖羅さん、今すぐ病院に来て下さい!』
「え? 病院って、まさかお兄様に何かあったのですか!」
『詳しい事は病院で話しますから、とにかく来て下さい!』
「わ、分かりました。すぐに向かいます!」
一体何があったんだ。お母様のあんなに焦った声を聞いたのは初めてだ。
まさか、急に容体が悪化したのでは。もしそうなら兄は……お兄ちゃんは。
「も、望月、新城、わたくしは早退する! 担任に伝えといてくれ! 頼む!」
「うん分かったよ。早く行って!」
「……後は任された」
「ありがとう」
夢中で駆け出した。お兄ちゃんと何度も心の中で繰り返した。
校舎を抜け、ただ前だけを見て駆け抜ける。
息が荒くなり、動揺もそれと平行して激しく渦巻いて苦しい。お兄ちゃんがもし居なくなったら、そんな嫌なビジョンばかり浮かぶ。
「……嫌だ、嫌だよ」
優しいお兄ちゃんの笑顔を思い出す。その度に涙が目に堪る。
今にも泣いてしまいそうなほどたくさん。
「聖羅!」
「……え?」
急かす足をなだめてスピードを落として止まる。振り替えるとあいつが、高崎政史がいた。
「……どうしてここにいる?」
「聖羅が出て行くところを教室の窓から見ていました。ただごとでは無いと思いまして、気が付いたら飛び出してました……一体何があったのです?」
「……は、母から電話があったんだ。病院にすぐに来いと言ってた。もしかしたら兄の身に何かあったかもしれない、そんな事になったらわたくしは……わたくしは……」
あの時と同じだ。政史が死んでしまうんじゃないかと焦り、恐怖した。
大切な人がいなくなると考えただけで震えて、頭が真っ白になって……。
「どうしよう、お兄ちゃんに何かあったらどうしよう、どうしよう……怖い、怖……」
全身を温もりが覆う。視界に映るのは政史の大きな肩。
わたくしを力強く抱き締めている政史が見えた。
「政史?」
「大丈夫ですよ、絶対大丈夫です。今まで聖羅は頑張って来たじゃないですか。本当の貴女は繊細で、優しくて、怖がりで、意地っ張りで……そんな細い体にお兄さんの大切な場所を守ると大きな意思を宿して頑張って来たんですよ? 神様がいるのかは分かりません。でも、努力をして来た者が救われないなんて事があったら、世界は残酷です。
わたしは信じています、お兄さんの為に努力し、進んで来た道の先に幸福が待っていると……聖羅、貴女が信じないで誰が信じるんですか? お兄さんは大丈夫だと信じて今日まで走って来たのでしょう? だから、涙は早い。貴女は笑顔で泣くべきです」
抱き締める力が更に強くなる。
痛い。
でも嬉しい痛みだった。
わたくしは幸せなのかも知れない。だって、こんなにいい男がわたくしを強く支えてくれるのだから。
「……ありがとう政史、ありがとう」
「さ、行きましょう。先にあるのは幸福だと信じて」
「……うん」
駆けた、政史と二人で。どうしてだろう、さっきまでより足が軽い。嫌、理由はとっくに出ているじゃないか。
政史と一緒だから。
こいつがいてくれるだけでこんなにも力が出て来る。不安はまだ残っているが、こいつがいてくれたなら立ち向かえそうだ。
ようやく目的の場所に到着した。いつも通っていた病院、お兄ちゃんが目覚めると信じて通った場所。
中へと入りお兄ちゃんの部屋の前に着く。
途端に恐怖が纏わり付いて来た。震えが止まらない、止まらないよ。
不意に手に温かみが。重なる手、政史の大きな手だった。
「きっと大丈夫ですよ。きっと……」
「うん。そうだったな、信じて進むと決めたんだった。……もう何が起きてもわたくしは突き進む。だから……弱いわたくしを支えてくれ」
「はい、喜んで」
また力が沸く。勇気も。行こう、扉の向こうに何があるのかを知るために。
把手を掴み、扉を開いた。
広がる光景、見慣れてしまった病院には父と母がいた。それだけでただ事では無いと判断出来る。
一気に心臓が働く。高鳴る、段々と大きく。
何があったんだ、お兄ちゃんはどうなったんだ?
ベッドの方が見られない。怖い、怖い。
思い出せ、政史の事を。あいつとなら頑張れる、立ち向かえるんだ。
決意し、わたくしは覚悟を決めた。
渦巻く意思が満ちる部屋を一掃する様に、ある声が響く。
「……聖羅」
「……え?」
聞いた途端、頬が濡れる。涙が次々に出て止まらなくなった。
今、この時のためにわたくしは進み、戦って来たのだ。
ある時一度だけ絶望した。もうわたくしの頭を撫でてくれないの? と。
そんな意思に喝を入れ、弱いわたくしと戦った。
今日の日を得る為に。
「……お、お兄……ちゃん……」
「背が伸びたね。それに美人になった……」
「お兄ちゃん……お兄ちゃん!」
転びそうになりながら、夢から帰還した最愛なる兄の胸に飛び込んだ。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
「心配かけたね。僕はもう大丈夫、大丈夫だから」
頭に触れる兄の手。あの独特の撫で方だ。懐かしくて、嬉しくてまた涙が溢れた。
「……ごめんなさい、ごめんなさい」
「聖羅? どうして謝るんだい?」
「あの日、わたくしはわがままを言った。言ったからお兄ちゃんは事故にあったんだ! だからわたくしのせいなんだよ、だから、だから……」
ポンポンと軽く頭を叩かれた。痛くない、むしろ気持ち良い。
お兄ちゃんを見上げると笑っていた。
「あの事故は聖羅のせいじゃないよ。だからもう自分を責めないで。僕は聖羅を恨んだ事なんてないんだから。笑って、いつもの笑顔を見せて?」
また頭を撫でてくれた。
涙が止まらない。
嬉しくて、嬉しくて。
「お兄ちゃん、お兄ちゃん!」
ようやくわたくしは心にあった枷を取り除ける。
長い時間を待ちわび、ようやく辿り着いた。
歓喜を祝福する様に、窓から見える空には雲一つ無い世界が広がる。
また、お兄ちゃんの温もりを噛み締めて笑顔を咲かせた……。
茜色の空が向上しながら広がり、夕の刻を示している。涼しげな風はわたくし達を過ぎ、新たな場所を目指す。
さらさらと流れ行く川沿いを歩きながら眺めた。
「どうだ政史、わたくしの言った通りにして正解だったろ?」
「そうですね。綺麗な風景です」
帰り道を変えてみようと提案したのだ。単なる思い付きだったが、今日はなんとなくそうしたかったんだ。政史と。
川沿いの景色は茜色が綺麗に着色して絶景だった。
夕の空を写す川、遠くに見える町並み、その一つに兄がいる病院が視界に入る。
今まで暗い感情でしか見れなかった病院だが、今は違う。
笑みで見つめられる自分に驚きながら政史を見つめる事にした。
「ご機嫌ですね聖羅、笑っている貴女は美しくてこの風景にピッタリですよ」
「そうか? ……今日は素直にありがとうと言ってやる」
「……いつもなら顔を真っ赤にして『な、何を言っている!』とあたふたするんですが。少しつまらないです」
「ふん、なんとでも言え!」
「ならお言葉に甘えて。聖羅、先程貴女が言った言葉、支えになってくれは事実上のプロポーズですか?」
「……ああ」
肯定してやると、案の定ぽかんとした間抜けな顔になりやがった。
こんな返しが来るなんて予想外だったのだな。
いつも意地悪されてたから一矢報いたぞ。
あの日、政史と望月が企んだ悪戯、わたくしは本当に悲しかった。政史がいなくなると思っただけで胸が張り裂けそうで、苦しくて。
今まで恥ずかしくてうやむやにして来た、本当は政史の事が『 』なのに。自分を偽って接していた。恥ずかしくて。
でもいなくなると思ったら、恐怖と後悔が同時に襲う。
わたくしの気持ちをちゃんと伝えないといけない。
もうあんな思いは嫌だ。
「政史、ちょっとこっちに来い」
「……えっと、はい」
時間が掛かってしまった。
とても長い時間。
胸が熱い。トクン、トクンと激しく心が騒ぎ出す。
いざとなると恥ずかしい。
でも決めたのだ。この気持ちを伝えるのだと。そして“これ”をわたくしからしてやる、待たせた詫びに。
背伸びをし、両手をあいつの顔に。
目を閉じ、ゆっくりと唇を重ねる……。
ああ、うるさい。
心臓が野次を飛ばしている。
政史は今どんな顔をしているのだろうか。
長い時間が経つ。ようやく、愛しく唇が離れた。
「……せ、聖、羅……」
「……ま、前に話したな、わたくしの進路の事。残念ながら未だに決めていない、どうしようか迷っている。だから、わたくしはお前と一緒の大学に行くことにした。これは決定だ。文句は言わせん! まぁ、取りあえずお前と一緒に大学生活も悪くない。将来はそれから考えるさ。……政史、いつもお前はわたくしの背中を守ってくれたな、これからは……えっと、その……横を、わたくしの横でわたくしを支えろ! い、良いな!」
ああ恥ずかしい。二度と言ってやるもんか。やばい、あいつの顔が見れない。
一応今ので気持ちを伝えたのだが。
あれでもわたくしの精一杯な言葉だった。
政史、お前の気持ちを聞かせてくれ。
「ま、政史、な、なな、何か言え」
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「聖羅、大好きです」
「う、う~……」
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「い、言わなきゃダメか?」
「当たり前です!」
二度と恥ずかしい事を言わないと決意したばかりなのだが。
仕方ない、今回だけだからな?
「わ、わたくしも、政史の事が……」
政史が『 』だと自分を偽って来た、空白だった欄に素直な言葉をようやく入れられる。
あいつへの思いを込めた言葉を。
わたくしは政史の事が『好き』だ。
伝え終わる頃にはあいつが抱き付いて来た。
周りの人が見ているのにお構いなしで。
でも、拒絶せずに受け入れた。
茜色の空が祝福している様に綺麗で、嬉しかった。
「聖羅、今から愛を育みましょう!」
「調子に乗るな!」
なんて言ったが嬉しかった事は内緒だ。
やっぱり決意しても恥ずかしい。
でも嬉しい。
だから見せてやる、今一番の笑顔をこいつに……。
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