残夢~思い残したことはありませんか?~

十文字心

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【2】謎の声

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田中さんの葬儀の準備の為、各々の役割に
没頭する四人。私達は本当に良いチームだと
いつも思っている。
幸栄の進行の下、親族と故人のお別れの義は
滞りなく行われ、いよいよ火葬場への出発の
時間だ。本日は故人が女性の為、霊柩車の運転は私の担当である。

喪主である息子さんが遺影を抱え助手席に乗り込み、位牌を持った娘さんが後部座席へと座る。故人の身内はこれで全て。
本日はマイクロバスの送迎もない。

「本日、火葬場までの運転を務めさせていただきます岩崎翼と申します。早速ですが、故人様と最後に周りたい場所などございませんか?遠方は難しいですが、ご自宅の前を通ったりでしたら可能ですので何なりとお申し付けください。」

『父の時は男性の方でしたね、こちらこそ
よろしくお願いします。通りたい場所ですが…自宅の前と母がいつも行っていた喫茶店があるのでそこの前を通ってもらえますか?火葬場に向かう通り道にあるので、時間はかからないかと思います。』

「承知しました、では出発いたします。」

"プァーーーーーーーーン"
という長いクラクションを鳴らし、要望通りの道順で山の中に作られた火葬場へと向かう。
火葬場への最後の坂道を登っていると、突然辺りに霧が立ち込めてきた。先ほどまで晴れていたのに…山の天気は変わりやすいというしな。
駐車場に到着し、視界の悪い中なんとか車を停めることができた。
外の霧は先程よりも濃さを増し、火葬場の建物さえも見えないほどになっていた。
視界が非常に悪く、外に出るのも危険そうなのでどうしようかと悩んでいると突然、助手席のほうから喪主である息子さんとも後部座席で時折話しかけてくれていた娘さんとも違う、聞き慣れない声が聞こえてきた。

『運転手さん!運転手さん?聞こえる?聞こえてるなら返事をしてくれる?決して怪しい者じゃないの。』

なんだ?何が起きた?と思い、助手席のほうをそっと覗いてみる、するとそこには後部の棺の中に居るはずの田中さんがニコニコとこちらを見つめて座っていた。何が起こったのかわからずにポカーンと口を開けて見つめていると、追い討ちをかけるように更に喋りだす田中さん。

『私ね、運転手さんの車にさっきから同乗している、客なんですよ?わかる?先ほど輪廻會舘から運転手さんの霊柩車に乗せてもらいました、田中の婆さんよ~?わかったらいい加減、返事をしてくれる?』

確か、死人に口なしと言った言葉があったはずだが…あれは間違いか?何が起こっているのかはよくわからないがやたらと返事を求めてくる、この田中の婆さんらしき人物を私は、静かに観察してみることにした。

『ねぇ運転手さん?もしかして聞こえていないの?死んでまで一人で話している私って、心底寂しい老人みたいでしょ?だからいい加減返事をしてくれる?お願い…!少しは反応が欲しいのよー!!』

し、しつこい…。故人と遺族は大切に!
をモットーに仕事には臨んでいるつもりだが、突然現れた田中の婆さんらしき人物…
さすがに自己主張が激しすぎる。

「…はい、聞こえてますよ、田中さん?私は事態が全く飲み込めていないので返事するのを忘れていただけです。そんなに返事を求めるなんて何か私に御用でもあるんですか?」

待ってました!と言わんばかりに目を輝かせ
ながらこちらを見つめてくる田中の婆さん。

『運転手さん?貴方は選ばれた人なのよ!少なくとも、私は貴方を選んだの!それだけでも光栄に思ってよね?だってそうでしょ?幽霊になる前の死体が選んだ最後の人ですもの!』

うん、何を光栄に思えばいいのかもよくわからないし、今現在田中の婆さんは幽霊ではないのか?あ…もしかして焼かれる前の状態というのはこの前私が経験した幽体離脱と同じような感じなのかもしれない!体を焼かれることによって幽霊へと進化するのか?
…とりあえず続きを聞くことにしよう。

『で、ここからが本題ね!貴方、最近不思議な出来事に合わなかった?私の声が聞こえて驚いているということは、今までこういう体験をしたことがなかったからでしょ?という事は、何か霊的な体験をしたことにより、あなたに霊感が宿ったと私は推測するわね。どう?違う?』

「私は確かに、この前不思議な体験をしました。田中さんの言っていることは間違っていないかもしれませんね。」

『でしょ?私の推理力もまだ衰えてないわね。本題というのはね、実は私一つだけ叶えたい夢があるの。霊柩車の運転手の貴方なら、その夢を叶えてくれるんじゃないかと思って焼かれる前にこうしてあなたに会いにきたのよ。話だけでも聞いてくれる?』

確かに今まで数えきれないくらい故人を乗せた霊柩車を運転してきたが、今日のような経験は初めてだ。小さい頃からお化けが見えたり、金縛りに合ったりといったことも一度もない。先日の不思議な体験を除いては…。

「話はわかりました、しかし田中さんの言う通り、私に霊的な能力が宿っていたとしてもその使い方がわかりません。私に何かお役にたつことができるとは思えないのですが。」

『…まぁね、普通の人ならそう思うわよね。でも私を誰だと思っているの?田中の婆さんよ?実は私、仕事で占い師をしていたのよ。で、現役だったときに私の師匠に聞いたことがあるの。その人はとても霊感の強い人だったからね、その辺の嘘のような話をよく聞かせてくれていたわ。で、思い出したの!自分が死んだ時に、霊界への案内人である霊柩車の運転手に話しかけて、もし返事が返ってくるなら幽霊になって天国に上がってしまう前に現世でやり残したことがあるならできるからやりなさいって言ってたの。確かやり方は簡単よ?私と手を繋いで、私がやり残したことを考えるだけ!どう?あなたには何の迷惑もかけないでしょ?人を殺したりとか実体がないとできないことは無理みたいだから安心してよね?』

ここまで聞いて私はこの婆さんに興味が出てきた。私に害がないのならやってみようじゃないか。まだ霧も晴れそうにないし、助手席にいたはずの遺影を持った息子さんの姿は見えない。

「わかりました、どうせそのお願いを聞かないと私を解放してくれないんですよね?ならさっさと、その叶えたい夢とやらを叶えにいきましょう。」

『頭の柔らかい人は好きよ、よろしくね。』
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