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第三章 覚醒
【十五】情報(小太郎)
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暁国の城主夫妻に子が出来たのは、弥助と弥生が城に預けられてすぐの事だった。長年子宝に恵まれなかった二人は国の未来を考えて、弥助を養子として引取り、国を継がせようかという話までしていたという。しかしその時期に奥方様が懐妊したことが分かり、この話は流れたそうだ。そして奥方様が出産しこれで国も安泰か…と誰しもが思ったが一つ問題があった。そう、奥方様は二人の子供を出産したのだ。産まれてきたのは男女の双子…双子とは忌み嫌われる存在であり、世継ぎ問題も絡むことから片方を残し、片方を殺してしまうのが一般的な時代。しかし長年不妊に悩んでいた夫妻は命の選択をすることが出来なかった。
産後二人は、医師と信頼できる使用人数名だけを近くに置き双子を育てることにした。その間、先に取り上げられた女児は大きな病気をすることも無く健やかに育ったが、男児の方は体も小さく病弱で度々病に罹っては医者の世話になるという事を繰り返していた。
そして双子が一歳を迎えようとした時、夫妻はある決断をする。
先に産まれた女児一人を実子として大々的に育て、病弱だった男児は短命と判断され城の忍者部隊に預けることにしたのだ。
この事実を知っているのは、城主夫妻と忍頭であった才蔵、そして双子が産まれた時に災いがおこるのではないかと心配し、奥方様が恐山から呼び寄せ二人に梵字を施させ何かを封印した陰陽師だと聞いている。その当時、陰陽師に不吉な雰囲気を感じ取った才蔵に相談されたことを思い出した。
「お千代殿はおるか~?」
恐山麓の大集落にある、”水月”という茶屋。
ここにはワシが現存唯一頭の上がらない、尊敬すべきある人物が暮らしている。
『 あ、小太郎様!お久しゅうございます!お千代様をすぐに呼んで参りますね!』
明るく愛想のいい娘に声をかけられ、少し気が和んだ。そして気配もなく突然現れた妖怪婆…
『 おぉ、小太郎か、随分と久しぶりだな。何だ?ワシが恋しくなったのか?小童よ。』
この、妖怪婆め…いつまでワシのことを”小童”と呼ぶつもりなのだろうか…歳は差程変わらぬと言うのに…
「うるさい、ワシが小童なら
お千代殿は妖怪じゃがな!」
ワシとお千代殿のいつもの掛け合いをみて店の娘達がクスクスと笑っている。挨拶はこの辺にしておくとするか。
真顔に戻り、お千代殿の方を見ると奥に入れと合図を出してくれていた。流石は話が早い。部屋に案内され、弥助がうちに来てからの話をする。話を聞き、険しい顔をしているお千代殿。
『 なるほどな、確かに最近恐山へと向かう輩が増えておってな、ワシらも監視と情報収集をしておったところじゃ。それで、ワシに何をしてほしいのだ?』
「この地に、暁国の姫がおるという情報は知っているじゃろ?ワシにも届いておるくらいだからきっと、敵にも知れ渡る頃ではないかと思ってな。暁国の民は、領主を大変慕っておったから城無き今も団結し、冥国が領土を拡げようとするのを阻止しておるのじゃ。姫が大々的に殺されでもすれば暁国の復活は叶わぬものとなり、ワシも静かに暮らすことが出来ぬからな。姫を保護して恐山へと入り、黒幕を倒すことこそが最終目的。しかしワシも引退した身だから先頭をきって戦うことはしたくない。だから、弥助の手助けをしてやろうと思う。くノ一を数名派遣してはくれぬか?」
『 姫の情報は掴んでおる、この集落に”四季”という茶屋があってな、数年前に突然ここらでは見かけぬ美しい姉妹が働きだしたと聞いて素性を調べておったのじゃ。今のところ姫は無事じゃよ、姫と一緒に働いておるのはどうも城で仕えていた優秀なくノ一のようだ。しかしお主の言う通りここ数日は外部の者の出入りが激しい。もしかすると姫の噂を聞きつけてきておるのかもしれぬな。』
「やはりそうか、事態は一刻を争うということじゃな。お千代殿、恩に着るぞ。ワシは先に例の寺へと向かい、討ち入りの準備をしておく。そのうち弥助が訪ねてくる手筈じゃ、お手柔らかに迎えてやってくれ。」
水月を出て、姫がいるらしい茶屋へと向かう道中、何者かの気配を感じた。気の所為か…?ワシを尾行しようなどとは百年早いわ!目的地を変え、恐山へと入る獣道へと向かい素早く木陰に隠れ様子を見ているとやはり一人の忍びらしき人物が現れた。ん?やはりあいつか…
産後二人は、医師と信頼できる使用人数名だけを近くに置き双子を育てることにした。その間、先に取り上げられた女児は大きな病気をすることも無く健やかに育ったが、男児の方は体も小さく病弱で度々病に罹っては医者の世話になるという事を繰り返していた。
そして双子が一歳を迎えようとした時、夫妻はある決断をする。
先に産まれた女児一人を実子として大々的に育て、病弱だった男児は短命と判断され城の忍者部隊に預けることにしたのだ。
この事実を知っているのは、城主夫妻と忍頭であった才蔵、そして双子が産まれた時に災いがおこるのではないかと心配し、奥方様が恐山から呼び寄せ二人に梵字を施させ何かを封印した陰陽師だと聞いている。その当時、陰陽師に不吉な雰囲気を感じ取った才蔵に相談されたことを思い出した。
「お千代殿はおるか~?」
恐山麓の大集落にある、”水月”という茶屋。
ここにはワシが現存唯一頭の上がらない、尊敬すべきある人物が暮らしている。
『 あ、小太郎様!お久しゅうございます!お千代様をすぐに呼んで参りますね!』
明るく愛想のいい娘に声をかけられ、少し気が和んだ。そして気配もなく突然現れた妖怪婆…
『 おぉ、小太郎か、随分と久しぶりだな。何だ?ワシが恋しくなったのか?小童よ。』
この、妖怪婆め…いつまでワシのことを”小童”と呼ぶつもりなのだろうか…歳は差程変わらぬと言うのに…
「うるさい、ワシが小童なら
お千代殿は妖怪じゃがな!」
ワシとお千代殿のいつもの掛け合いをみて店の娘達がクスクスと笑っている。挨拶はこの辺にしておくとするか。
真顔に戻り、お千代殿の方を見ると奥に入れと合図を出してくれていた。流石は話が早い。部屋に案内され、弥助がうちに来てからの話をする。話を聞き、険しい顔をしているお千代殿。
『 なるほどな、確かに最近恐山へと向かう輩が増えておってな、ワシらも監視と情報収集をしておったところじゃ。それで、ワシに何をしてほしいのだ?』
「この地に、暁国の姫がおるという情報は知っているじゃろ?ワシにも届いておるくらいだからきっと、敵にも知れ渡る頃ではないかと思ってな。暁国の民は、領主を大変慕っておったから城無き今も団結し、冥国が領土を拡げようとするのを阻止しておるのじゃ。姫が大々的に殺されでもすれば暁国の復活は叶わぬものとなり、ワシも静かに暮らすことが出来ぬからな。姫を保護して恐山へと入り、黒幕を倒すことこそが最終目的。しかしワシも引退した身だから先頭をきって戦うことはしたくない。だから、弥助の手助けをしてやろうと思う。くノ一を数名派遣してはくれぬか?」
『 姫の情報は掴んでおる、この集落に”四季”という茶屋があってな、数年前に突然ここらでは見かけぬ美しい姉妹が働きだしたと聞いて素性を調べておったのじゃ。今のところ姫は無事じゃよ、姫と一緒に働いておるのはどうも城で仕えていた優秀なくノ一のようだ。しかしお主の言う通りここ数日は外部の者の出入りが激しい。もしかすると姫の噂を聞きつけてきておるのかもしれぬな。』
「やはりそうか、事態は一刻を争うということじゃな。お千代殿、恩に着るぞ。ワシは先に例の寺へと向かい、討ち入りの準備をしておく。そのうち弥助が訪ねてくる手筈じゃ、お手柔らかに迎えてやってくれ。」
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