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第三章 覚醒
【二十二】開宴(右京)
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そして当日の夕刻。
左京は新月の到来による
体の変化に苦しんでいた。
「うぅ、やはりここまでか…
師匠、皆…どうかご無事で……」
襲ってきた強烈な睡魔に抗うことができず、意識を失い倒れる左京。
________
「ふぅ、ようやく寝たようだな。久しぶりの戦、楽しむとしようぞ。おや?佐助の気配がするな、とりあえず挨拶しに行くとするか。」
気配がした城の頂上付近に行くと、大禍時の空の下、屋根瓦に腰をかけて不敵な笑みを浮かべている佐助の姿があった。
『おや、右京。おはようございます。
今宵の気分はどうですか?』
「問題はない、そろそろ仕掛けるのか?」
『もうすぐ、冥国の忍部隊が到着します。到着したら宴の始まりと行きましょうか。私は下の堀のところで気配を消して待機しておりますので、奥方様がそこへ向かって落ちるように伝言をお願いできますか?途中で拾い上げる手筈ですので心配されぬようにとお伝えください。姫は以前申した通り、いつもの小屋へと無傷で連れてきてください。後は皆殺しにして構いませんので。』
「かしこまった、では後ほど。」
佐助と別れ城へ戻ると、静かに城内を歩き回り今宵の警備を再確認した。いつもの如く、警備は手薄であり左京が寝返って事前に準備をしていた気配もなさそうだ。本日の任務は終了とばかりに、眠っている城を護るはずの忍達。これから襲撃されるともしらず、呑気なものだな。最上階にある、城主夫妻の部屋へ行くと城主は布団をかぶって眠りに落ちており、奥方だけが窓の外を見ては落ち着かない様子で歩き回っていた。音を立てぬよう背後に忍び寄り、そっと口を抑え耳元で先程の佐助の伝言を告げた。我の顔を見た奥方は表に出るように合図をしてきたので、そのまま抱き抱えて人気のない納戸へと移動する。
『左京、貴方をこんな事に巻き込んでしまってごめんなさい。でも、この窮屈な城の生活から抜け出すにはこれしかなかったのです…。私の願いは貴方と灘姫、二人と分け隔てなく一緒に暮らすこと。この城に居てはそれが叶いません。』
奥方は我の存在を知らないようだな。佐助は奥方と利害が一致していると言っていたが、とりあえず左京のフリをしておくか…。
「とにかく、佐助殿の言う通りにしましょう。後はうまくやってくれるはずです。」
『…はい、体の弱かった左京がこんなに逞しく立派に成長してくれるなんて…貴方は私の自慢の息子です。これからは私の傍にいてくださいね?姫も一緒に親子の時間を取り戻すのです。』
奥方は何を言っているのだ?
左京は、奥方の息子なのか…?
この話は多分左京も知らぬことだろう。佐助の奴は知っていてこの話を持ちかけてきたに違いないが…
「奥方様、話が見えないのですが…俺は貴方の子供…?…姫と姉弟なのですか…?」
そして奥方は、更に話を続けた。
『もう、ここまで来てしまっては後戻りはできません。左京、貴方に全てを話しましょう。貴方と灘姫は私が産んだ双子の姉弟なのです。双子の子というのは忌み嫌われる存在だということは貴方も存じているでしょう?城に災いをもたらすかもしれないということで、心配になった私が、佐助に頼み恐山の陰陽師の先生を紹介してもらい、祈祷してもらったのです。貴方の背中にある梵字はその証。しかしその後も殿が二人を育てるということに対して、首を縦に振ることはありませんでした。そして、乳が離れた時期をみて、貴方を才蔵達に預け育てさせたのです。こんな可愛い子達が災いなど起こすはずありません!と何度も殿へと進言もしたのですが、覆ることはありませんでした…。この事を知っているのは、今では殿と才蔵、佐助、それに陰陽師の先生だけです。姫はまだ知りません。今更、母親面するなんて…と貴方は思うかもしれませんが、どうか老い先短い母の頼みを聞いてくれませんか?私は貴方達姉弟と慎ましく静かに暮らしたいだけなのです…。』
時折涙ぐみ喋り終えた奥方は、我の方をじっと見つめ、手を握りながら”どうか、どうか”と呟いていた。なるほど…そんな秘密があったとは、面白いことをきいたな。我の解放に姫が必要というのはこういう訳があったのか。しかも、左京がこの話を知らぬということが更に笑いを誘う。笑みが零れてしまった俺を見て困惑している表情を浮かべた奥方。しまった…今は左京だ。慌てて表情を切り替えて声色を落とし、話題を変えることにした。
「…そうだったんですね…奥方様が…俺の母親で灘姫は姉になると…。俺は、少々混乱しております。こんな話突然聞かされたのですから当然ですよね?今、今後の事を考えるのは難しい…。とにかく今日を無事に終わらせましょう。話はそれからです。さ、部屋に戻って先程行った通りにしてくださいね?俺も、持ち場に戻ります故。」
なんだこの茶番は!
こんなに面白いことがあるのか?
この奥方は自分の伴侶を亡き者にしても構わないから、自分の子である俺と灘姫と暮らしたいと申しておる…。何という愚かな人間なのだ…これも陰陽師とやらの洗脳の一部なのか?これで姫を生け捕りにして連れて来いと言われた理由は解った。姫はきっと我の封印にも関わっておるのだろう。
________
奥方と別れた刹那、けたたましい
警報音が城内に響き始めた。
さて、宴の始まりだ。
左京は新月の到来による
体の変化に苦しんでいた。
「うぅ、やはりここまでか…
師匠、皆…どうかご無事で……」
襲ってきた強烈な睡魔に抗うことができず、意識を失い倒れる左京。
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「ふぅ、ようやく寝たようだな。久しぶりの戦、楽しむとしようぞ。おや?佐助の気配がするな、とりあえず挨拶しに行くとするか。」
気配がした城の頂上付近に行くと、大禍時の空の下、屋根瓦に腰をかけて不敵な笑みを浮かべている佐助の姿があった。
『おや、右京。おはようございます。
今宵の気分はどうですか?』
「問題はない、そろそろ仕掛けるのか?」
『もうすぐ、冥国の忍部隊が到着します。到着したら宴の始まりと行きましょうか。私は下の堀のところで気配を消して待機しておりますので、奥方様がそこへ向かって落ちるように伝言をお願いできますか?途中で拾い上げる手筈ですので心配されぬようにとお伝えください。姫は以前申した通り、いつもの小屋へと無傷で連れてきてください。後は皆殺しにして構いませんので。』
「かしこまった、では後ほど。」
佐助と別れ城へ戻ると、静かに城内を歩き回り今宵の警備を再確認した。いつもの如く、警備は手薄であり左京が寝返って事前に準備をしていた気配もなさそうだ。本日の任務は終了とばかりに、眠っている城を護るはずの忍達。これから襲撃されるともしらず、呑気なものだな。最上階にある、城主夫妻の部屋へ行くと城主は布団をかぶって眠りに落ちており、奥方だけが窓の外を見ては落ち着かない様子で歩き回っていた。音を立てぬよう背後に忍び寄り、そっと口を抑え耳元で先程の佐助の伝言を告げた。我の顔を見た奥方は表に出るように合図をしてきたので、そのまま抱き抱えて人気のない納戸へと移動する。
『左京、貴方をこんな事に巻き込んでしまってごめんなさい。でも、この窮屈な城の生活から抜け出すにはこれしかなかったのです…。私の願いは貴方と灘姫、二人と分け隔てなく一緒に暮らすこと。この城に居てはそれが叶いません。』
奥方は我の存在を知らないようだな。佐助は奥方と利害が一致していると言っていたが、とりあえず左京のフリをしておくか…。
「とにかく、佐助殿の言う通りにしましょう。後はうまくやってくれるはずです。」
『…はい、体の弱かった左京がこんなに逞しく立派に成長してくれるなんて…貴方は私の自慢の息子です。これからは私の傍にいてくださいね?姫も一緒に親子の時間を取り戻すのです。』
奥方は何を言っているのだ?
左京は、奥方の息子なのか…?
この話は多分左京も知らぬことだろう。佐助の奴は知っていてこの話を持ちかけてきたに違いないが…
「奥方様、話が見えないのですが…俺は貴方の子供…?…姫と姉弟なのですか…?」
そして奥方は、更に話を続けた。
『もう、ここまで来てしまっては後戻りはできません。左京、貴方に全てを話しましょう。貴方と灘姫は私が産んだ双子の姉弟なのです。双子の子というのは忌み嫌われる存在だということは貴方も存じているでしょう?城に災いをもたらすかもしれないということで、心配になった私が、佐助に頼み恐山の陰陽師の先生を紹介してもらい、祈祷してもらったのです。貴方の背中にある梵字はその証。しかしその後も殿が二人を育てるということに対して、首を縦に振ることはありませんでした。そして、乳が離れた時期をみて、貴方を才蔵達に預け育てさせたのです。こんな可愛い子達が災いなど起こすはずありません!と何度も殿へと進言もしたのですが、覆ることはありませんでした…。この事を知っているのは、今では殿と才蔵、佐助、それに陰陽師の先生だけです。姫はまだ知りません。今更、母親面するなんて…と貴方は思うかもしれませんが、どうか老い先短い母の頼みを聞いてくれませんか?私は貴方達姉弟と慎ましく静かに暮らしたいだけなのです…。』
時折涙ぐみ喋り終えた奥方は、我の方をじっと見つめ、手を握りながら”どうか、どうか”と呟いていた。なるほど…そんな秘密があったとは、面白いことをきいたな。我の解放に姫が必要というのはこういう訳があったのか。しかも、左京がこの話を知らぬということが更に笑いを誘う。笑みが零れてしまった俺を見て困惑している表情を浮かべた奥方。しまった…今は左京だ。慌てて表情を切り替えて声色を落とし、話題を変えることにした。
「…そうだったんですね…奥方様が…俺の母親で灘姫は姉になると…。俺は、少々混乱しております。こんな話突然聞かされたのですから当然ですよね?今、今後の事を考えるのは難しい…。とにかく今日を無事に終わらせましょう。話はそれからです。さ、部屋に戻って先程行った通りにしてくださいね?俺も、持ち場に戻ります故。」
なんだこの茶番は!
こんなに面白いことがあるのか?
この奥方は自分の伴侶を亡き者にしても構わないから、自分の子である俺と灘姫と暮らしたいと申しておる…。何という愚かな人間なのだ…これも陰陽師とやらの洗脳の一部なのか?これで姫を生け捕りにして連れて来いと言われた理由は解った。姫はきっと我の封印にも関わっておるのだろう。
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奥方と別れた刹那、けたたましい
警報音が城内に響き始めた。
さて、宴の始まりだ。
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