クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン

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第20話 悪意のはじまり

「あれ? どこだここは……」

 エルドナは気がつくと見たことのない場所に立っていた。
 足元の魔法陣で自身が召喚されたことを知る。

「もしかして君が僕のことを召喚したの? ……君、人間だよねえ。へぇー、よく人間が僕を召喚できたねぇ!」

 退屈な毎日に嫌気が差していた所だった。
 エルドナは喜色を全面に弾んだ声を出す。

「うん、これから君に頼まれごとをするにしても雑用なんかの小間使いは必要だね。地獄から一人召喚するとしよう!」

 エルドナは地面に書かれた魔法陣を上書きする。
 その魔法陣が光り輝き、一人のメイド服を着た女性が召喚された。

「…………ここは? エルドナ様!」
「ここは人間界だよ、シルヴィア」
「人間界でございますか。まさかエルドナ様を召喚したものが? たかだか人間如きに……」

 シルヴィアは訝しげに頭を傾ける。

「エルドナ様、人間との契約はもうお済みなのですか?」
「うん? いや、まだだよ。願いもまだ聞いてない」
「では地獄に帰りましょう!」
「なんで? 面白くなってきた所なのに!」
悪魔王デーモンキングともあろうお方がこんな辺鄙なところに召喚されて、素性も知れないような人間と契約を交わすのは許されません。前代未聞でございます!」
「前例は廃してこそ進化は促されるものだよ。それに、君は僕がこうなったら止められないって知ってるだろ?」

 シルヴィアはため息を大きく吐き出す。

「人間よ、くれぐれもエルドナ様に無礼のないように。もし無礼を働けば私が即座に――」

 シルヴィアはその可憐な白い手を黒色の鋭い爪のついたものに変形させる。

「止めなさい、シルヴィア。それに、そんな脅しが効くような相手だとは思えないよ」

 エルドナは召喚者に向かってにっこりと微笑む。

「それで君の願いを聞かせてもらってもいいかな? 知っての通り、願いの代償は君の魂だ。あっ、一応言っておくけど、僕にも契約を選ぶ権利はあるからね」

 召喚者は単刀直入に願いを伝える。

「なんだその願いは――」

 エルドナは牙を剥いて抗議しようとしたシルヴィアを即座に止める。
 彼の顔はまるでずっと欲しかったおもちゃをプレゼントされたかのように輝いていた。
 喜びとともに柏手を「パーーン」と一つ打つ。

「面白い! 契約しよう!!」

 シルヴィアは抗議する。
 
「そんなエルドナ様、こんな契約――」
「聞いたことないだろ、こんな契約! だから面白いんじゃないかぁ! 腕が鳴るねー、久々の人間界での契約だよ。前回、僕が人間と契約を交わしたのは2000年前だっけ? 3000年前だっけ?」
「……2500年程前です」
「そっかー、そんなに前かぁ。忘れちゃったなー。それでその時はどうなったんだっけ?」
「人間たちは半分死滅しました」

 シルヴィアはまるで『昨日は晴れでした』くらいの気安さで言う。

「そんなに死んだんだっけ?」
「天界が介入してこなければ人間は絶滅してましたよ」
「そっかー忘れてたなー、へぇーそんなに死んだんだーって、もう契約の解除はできないよぉ?」

 エルドナは邪悪な笑みを召喚者に対して向ける。

「契約を守ってくれればそれでいい? そうなんだぁ、ちょっと脅かそうと思ったのに全然驚いてくれないね! つまんないや。まあ契約には全力で取り組むから安心して。その後に君の魂をもらいに行くからさ。他に伝えておきたいことはないかな?」

 召喚者は黙って首を降る。

「じゃあ、行ってくるよ。楽しみに待ってて! さあ」

 エルドナはダンスをエスコートする紳士のようにシルヴィアに手を差し出す。
 シルヴィアはその手を嬉しそうに取る。

「それじゃあ、思う存分踊ろうか」

 そう言うと二人は転移魔法を使いどこかへと消え去った。

 古びた廃墟のような古代遺跡の一角に召喚者は一人取り残される。
 残された召喚者は深い闇の中で一人、満足そうに笑みを浮かべた。
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