クラス転移して授かった外れスキルの『無能』が理由で召喚国から奈落ダンジョンへ追放されたが、実は無能は最強のチートスキルでした

コレゼン

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第36話 契約内容

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「なんで……死んだはずじゃ……」
「残念だけど、僕は悪魔の中でも特別製でね。僕を殺すことは不可能なんだよね」

 フェリシアはシエラを守るように強く抱きしめる。

「フェリシア、アデル、ここから離れて逃げてくれ。後で追いつく」

 二人は無言で頷き、走り去っていく。
 エルドナは二人を歯牙にもかけていないようだ。
 逃げるがままにさせている。

 洞窟前に二人取り残される。

「……君、一体何者? あり得ないよさっきの一撃。一瞬であの数の悪魔を……。シルヴィアをはじめ、上級悪魔も多数いたんだよ」
「ただの元高校生だ」
「高校生? なんだよ、それは」
「んー、異世界転生人って言ったほうがわかりやすいかな」
「ああ、なるほど!」

 エルドナはすっきりした表情で手をポンっと叩く。
 しかし、すぐにその表情を訝しげに変える。

「……にしても強すぎるね。人間に到達できる範囲を超えているというか……」
「どうでもいいだろ、そんなことは。さあ、決着をつけよう」

 俺は腰に収めていた星絶断刃スターブレイクブレードを抜く。

「どうでもよくはないよ。実に興味ふ……」

 俺はその言葉を待たずにエルドナを斬り捨てる。

 肩口から切り離した上半身が、地面に落ちる。
 しかし、エルドナの上半身はまるで霧のようになって、元の身体とつながる。

「だから、僕を殺すことは不可能だって言ってるだろ? 人の話は聞こうよ。僕のコアは特別製の魔核なんだよ。この魔核はどんな物理攻撃も受け付けなくてね」

 エルドナはニヤリと笑みを浮かべる。

 俺は魔力感知マナセンスでエルドナの魔核を探る。
 確かに胸の中心部に小さなパチンコ玉大くらいの球があるみたいだった。

「人の話を聞かないし、攻撃してくるしもう、おいとまさせてもらってもいいかな?」
「何を今更言ってる。これはそもそも、お前がはじめた物語だろう? 罪なき人々の命、魂、尊厳を奪った報いを受けろ!」
「ふふふ……僕、痛覚はないんだよね。恐怖心とかいうものもないし。で、無敵の僕にどうやって報いを受けさせてくれるんだい?」

 エルドナは挑発的な笑みを浮かべて俺に問いかける。その間際――

 俺は目にも止まらぬ速さで、エルドナの胸から魔核を抜き出した。 

「……だから、そういうことじゃないんだよね。魔核を奪った所でそちらに移動するだけで……」
「俺のスキルを知っているか?」
「……なんだっけ?」
「無能だ」
「無能?」

 エルドナは訝しげに顔をしかめる。

「ああ、無能だ」
「何かの冗談かな?」
「冗談なんかじゃないぞ。文字通りの能力だ」
「ふふふふ。で、そのクソスキルが一体なんだというのさ?」
「文字通りの無能。すべてを無にする能力だ」
「はぁ!?」

 俺は魔核を宙に投げてそれに手をかざす。

「やめ……」

 エルドナは血相を変えて必死に手を伸ばすが――


『無』


 俺がそう念じた後、魔核は跡形もなく消し去った。

 すると、エルドナの魔力と体の一部が霧となって周囲に拡散していく。
 彼は力が抜けたのか地面に倒れる。
 
「ありえないよ。まさか、人間に僕がやられるなんて……」

 エルドナが天に向かってつぶやく。
 
「俺も異世界に来て悪魔と戦うことになるとは思わなかったよ」

 パチパチと力なさげにエルドナは手を叩く。

「ことごとく僕の上をいったね。想像も、実力もすべてにおいて。誇っていいよ。悪魔の始祖にして、数万年もの永きに渡って地獄の支配者として君臨した僕を倒したんだもん」

 数万年なんて想像もできないような期間だ。
 そう考えると目の前にいるこの悪魔が全く違う生物のように感じてきた。

「……そんなに永く生きていたら、死ぬことが怖くなくなったりするのか?」
「死もそうだけど、生も僕にとって価値はないよ。少し永く生きすぎた。次、生まれ変わる時は人間に生まれ変わりたいよ。僕にとって100年くらいはあっという間だからね。人間として花火のように刹那に生きてみたいんだ……」

 エルドナはもう声も弱々しく変化していた。
 強かった魔力もほとんど感じなくなっている。
 そろそろ限界だろう。

「じゃあな……」
「ふふふ、死に際を見ていかないのかい? 僕のこと憎んでないのかな?」
「……あんたがやったことは許せないが、こうなればもうそこまでのものは俺にはない」
「そっかぁ……」

 エルドナの頬から発散する霧が涙のように見えなくもなかった。
 俺は黙って、エルドナを一人残してそこを去る。




 そこに一人の男が歩み寄る。
 
「…………おや、いたんだね。今までずっと見てたのかな?」

 召喚者の男は黙って頷く。

「それで、契約は無事履行されたということでよかったかな? 正直、経験したことない契約で自信なくてさ。全くなんて契約やらせるんだよ」

 男は肩を竦める。

「なにせ、君との契約内容は『ありったけの愛と悪意を込めて踊り狂え』だもんね。それで…………僕はうまく踊れたかな? ありったけの愛と悪意を込めて」

 男はゆっくり頷く。

「それはよかった」

 エルドナは笑みを浮かべる。
 彼の体はそうしているうちにも、どんどん塵となって消えていく。

「契約が完了した今、本来ならここで君の魂をもらうんだけど、魔核が破壊されたのでそれはできない。…………まさか君、こうなることを見越して僕と契約したのかい?」

 男はいたずらっぽく微笑む。

「ふふふ、まったく悪魔みたいな奴だよ君は…………」

 その言葉を最後に、エルドナは頭部も塵となって消え去っていく。
 その塵は風に乗ってどこまでも遠くへ飛んでいった。
 


 
「なかなか楽しませてもらったよ。わざわざ君を呼び寄せたかいがあったというものだ」

 残された男はひとり呟く。

「やはり、イレギュラーなノイズは新たな発見を与えてくれた。退屈な生に彩りと楽しみを与えてくれた。私は私が正しいことを証明してみせる! …………ユウか、面白い人材だな。今までの異世界召喚の中でも極めて稀なノイズだ」

 男は不敵に微笑む。

「次の舞台は用意してある。存分に踊り、その力を奮うがいいさ。我々をその上をゆくがね」

 そう言い残すと男は魔法によってどこかに転移して消えたいった。
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