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第1章 第1話 「アイドル、一ノ瀬のあ、最期のステージ」
しおりを挟む――煌めきは、いつも儚い。
それが誰かの胸に、確かに残る光だとしても。
◇ ◇ ◇
「のあちゃーん!マイクテスト、入るよっ!」
スタッフの元気な声に振り返り、私は笑顔を返す。
「オッケー!ありがとー!」
そのまま、マイクを片手にくるりと一回転。スカートの裾がふわりと舞い上がり、控え室にいるメンバーから小さな歓声が上がった。
「のあ、今日もキマってる~!さすがセンター様!」
「んー、今日っていうか、いつもだけどな。ま、アイドルの鏡ってやつ?」
くすくすと笑う声に、私はちょっとだけ照れたふりをしてウィンクを投げた。
「やだなあ、もう、そんなに褒められたら空まで飛んじゃうかも」
「……いや、飛ばないでくれマジで。今日だけは無事に終わって」
「それな」
みんなの冗談に笑いながらも、私は自分の胸に手を当てた。
――この心臓の鼓動、まだ怖がってる。
それは、いつもの本番前の緊張。だけど今日は、いつもより少しだけ……強い気がする。
日本最大の音楽イベント、《サマーオブライト》。
今日はそのメインステージ。トリを務めるのが、私たち――Stellar❤︎Soda(ステラソーダ)。
結成して四年。涙も汗も、後ろ指さされる日々も乗り越えて、やっとここまで来た。
センター、一ノ瀬のあ。17歳。
私は、誰よりもこの瞬間に命をかけている。
◇ ◇ ◇
「……空、曇ってるね」
舞台袖で、衣装の胸元を軽く押さえながら、私は空を見上げた。
夏の雲が不穏にうねり、風が少しだけ冷たい。
「ゲリラ雷雨、ワンチャンあるかもって。音響さんが言ってた」
「……でも、大丈夫。私たちの歌で、晴らしちゃおっか」
隣に立つマネージャーは、眉をひそめていたけど、私は笑って応えた。
こんな天気、関係ない。だって、今日は――
私の最後のステージになるかもしれないんだから。
(……ううん、違う)
思わず浮かんだ言葉を、心の中で振り払う。
そんなこと、思いたくない。
でも、どこかで「終わり」が近づいているような気がしていた。
ここしばらく、ずっとそんな予感が胸を離れなかった。
◇ ◇ ◇
いよいよ、開演のアナウンスが流れる。
会場を揺らすような歓声とペンライトの光――まるで星空みたいなその景色を、私はすでに何度も夢に見た。
ゆっくりと歩を進めると、そこには4万人のファンたちの期待が渦巻いていた。
脚が震える。呼吸が浅くなる。
でも、私は知ってる。
この感覚の先にこそ、本当の輝きがあることを。
「みんなーっ!今日は来てくれて、本当にありがとーっ!」
ステージ中央に立った瞬間、私は胸を張って叫んだ。
「最後まで、最高の光を見せるから……ぜったい、目を離さないでねっ!」
歓声が、空を突き抜けた。
◇ ◇ ◇
ライブは順調だった。
炎の特効、風をはらむ衣装、星屑のように舞う花吹雪――すべてが完璧だった。
そして、いよいよソロパート。
私が作詞したラストナンバー、『君がくれた光』。
――過去も、傷も、涙も全部
――あなたの笑顔が、今日の私をここに立たせてくれた
サビへ向かうメロディとともに、私は右手を高く掲げた。
と、その瞬間。
空が裂けた。
眩しい閃光が視界を真っ白に染めた。
雷鳴の音が、音響すら上書きした。
身体に衝撃が走る。
――え?
何が起こったのか、理解する間もなかった。
スタッフが叫んでいた。
メンバーが、泣きながら私の名を呼んでいた。
でも、私の耳にはもう、なにも届かない。
ペンライトの海が、ゆっくりと消えていく。
まるで、光が一つずつ星座から剥がれていくみたいに。
私は、静かに崩れ落ちた。
そうして、世界から音が消えた。
◇ ◇ ◇
意識の奥底、私はひとつだけ願っていた。
――また、誰かの心に届く歌を。
――もう一度、ステージに立ちたい。
その願いが届いたのか、否か。
その答えは、異世界で目を覚ました少女だけが知ることになる。
(第1話・了)
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