あやかしが漫画家を目指すのはおかしいですか?

雪月花

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11 アニメとはなんじゃ?

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「はぁ……南雲のアシスタントかぁ……」

「なんじゃ、さっきから帰ってきてはため息を吐いて。その南雲とやらの『あしすたんと』をするのは何か問題なのか?」

 あのあと、美和担当との打ち合わせを終えた佳祐と刑部姫は彼らの住むマンションへと戻ってきた。
 本来ならば担当に持ち込んだ原稿を褒められ、それが連載に通るかもしれないと言われれば有頂天になるだろう。
 だが、そんな雰囲気とはまるで正反対に落ち込んだ様子の佳祐を見ながら、刑部姫は疑問を口にする。

「いや、別に問題ってわけじゃないんだけど、その……」

「なんじゃ?」

「…………」

 しばしの沈黙の後、答えるべきかどうか悩む佳祐であったが、彼をじっと見つめる刑部姫の眼差しに押され、ため息と共に零す。

「……あいつオレの高校からの知り合いなんだ。当時漫画研究会って部活で知り合って一緒に漫画家目指して……で、どういうわけか二人とも同時期にデビュー。けれど、オレの漫画は鳴かず飛ばずの売れない漫画ばかり。打ち切りも多く今では手持ちの連載はゼロ。片や南雲のデビュー作『あやかしロマンス』は初版から大量重版。雑誌での人気もうなぎのぼりで今や押しも押されぬ看板作品。更には今年の夏からアニメ化も決定。単行本の売上もうなぎのぼり。打ち切りなんてまずない、オレとは正反対の輝かしい道を歩いている漫画家なんだ」

「ほお、なるほどのぉ」

 南雲の説明を聞き感心したように頷く刑部姫。
 だがその後、再び頭に疑問符を浮かべて尋ねる。

「で、それの何が問題なのじゃ? 聞く限り、お主の知り合いで大成功を納めた人物ではないか。見知らぬ人物の手伝いよりも、見知った人物の方がいいのではないか?」

「それが問題なんだよ……」

 まるで佳祐の心境をくみ取らない刑部姫の純粋な一言に佳祐は自分の心の狭さを痛感するように告げる。

「こういっちゃなんだけど知り合いだけにあっちだけが成功して、自分がこんな底辺でさまよっていると嫉妬してしまうんだよ……。ホント情けない話だけどさ……。本来なら高校からの知り合いの作品がアニメ化するんだから笑顔でよかったなとか、すごいなとか言うべきなんだけど、それを素直に言えないんだよ……。ましてそんなあいつの下にアシスタント……手伝いとして入るなんてさ。完全に負けたようなものじゃないか。それがなんだかちょっと悔しくて……勝手に自分で凹んでただけだよ……」

「……なるほどのぉ」

 自身の感情を吐露する佳祐を前に刑部姫は静かに頷く。
 佳祐自身、口にしたことで自分の器の狭さを自覚したのか、ますます情けない気持ちで縮こまる。
 だが、そんな佳祐に対し刑部姫はあっけらかんと告げる。

「別に良いのではないのか。そのような感情を持っても」

「え?」

 てっきり「情けない奴め」と叱られると思っていたのか刑部姫からの意外なセリフに佳祐は顔をあげる。

「お主も人の子。そのような感情があって当然じゃ。うむ、確かに儂が生きた時代にも将軍に気に入られ出世した奴とそうでない奴もいた。実力や才能はあったのに、ただ上の者に気に入られたからと自身の出世のなさを嘆いた者達を見た。それと同じとは言わぬが、お主が感じているそれは『向上心』の一つじゃ。自身と同期の者が己より先に行く。それを見てなにも感じず笑顔で称賛する者がいれば、そやつが出世することなどはない。むしろ、心の内で「負けるものか」と嫉妬の炎を燃やす者の方が大成する。無論、ただそう思うだけで実行に移さない者はただのうつけじゃ。しかし、お主はそうではないのじゃろう? 相手を羨ましいと思いながらも、自分なりに努力している。今日上げた原稿にしてもそうではないか。ならば、なにも恥じることはない。その者の下について仕事の手伝いをするのも良い機会ではないか。その人気作家とやらの技術、間近で盗める良い機会じゃ。儂もお主もその者の下で働いて技術を盗めれば、もっと上に行けるというもの。そうではないのか?」

「…………」

 そう告げた刑部姫を前に佳祐は驚いたような、関心したような顔を向けた。
 普通ならば嫉妬心など醜い感情として、それを切り捨てよと宣言するはず。
 だが、刑部姫はそれをこそ上に上がるための大事な感情だと宣言してくれた。
 南雲の仕事場に行くのも、ただその手伝いをするのではなく、彼の技術、人気となった秘訣を仕事を手伝いながら奪えと宣言した。
 だが、その通りだと佳祐は頷く。
 正直、かつての同期の下で働くのは悔しい想いがあるのが、しかし同時にこれはチャンスでもあった。
 自分では出来ない技術を、今の人気に至るための秘訣を南雲が持っているのなら、それを間近で見て盗むべき。
 刑部姫の放つ正論に佳祐は頷き、先ほどまでのネガティブな思考は全て頭の隅に追いやる。

「確かにそうだな。刑部姫の言うとおりだ。うん、こいつはチャンスだ。あの原稿が連載会議に通ればオレ達の漫画の連載が始まる。それに向けて人気漫画家の技術やネタ作りを奪えるならこれ以上ないチャンス。分かったよ、刑部姫。オレも悔しさは一旦置いて明日からのあいつの下での仕事、全力で取り組むよ。その上で彼から盗めるものがあったらそれを盗んで活かす! カッコ悪いなんて言ってられないからな!」

「うむ! そういうことじゃ! わらわもお主以外の者がどのように漫画を描くのか興味ある! わらわの漫画技術の向上につながるものは全て見ていたいぞ!」

 そう言って互いに手を取り合う二人。
 人間と妖怪による作画担当と原案担当。その二人の息は最初よりもドンドン近いものとなっていた。

「ところで佳祐。一つ質問があるのじゃが」

「うん? なんだ?」

「その……『あにめ』とやらは一体何じゃ?」

 そう言って小首を傾げる刑部姫を前に佳祐は肩の力が抜けるのであった。
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