スキル『睡眠』で眠ること数百年、気づくと最強に~LV999で未来の世界を無双~

雪月花

文字の大きさ
29 / 41

第29話 巫女の真実

しおりを挟む
「ぐっ、あっ……まだだ……まだアタシは……ッ!」

 倒れたアリシア。しかし、彼女は自らの負けを認めることなく、ボロボロの体を必死に起こそうとする。
 だが、オレから受けたダメージは致命傷であり、彼女が戦えないのは明白。
 それでもなお、立ち上がろうとするアリシアにオレは問わずにはいられなかった。

「……なぜだ、アリシア。どうしてそこまでするんだ?」

「シュリを……守るためよ……」

「守る? 一体何から守るって言うんだ?」

「それは――」

「私達『聖十騎士団』いえ、四聖皇ネプチューン様から、ということでしょうね」

 その場にオレやアリシアとも異なる第三者の声が響いた。
 声のした方を振り向くと、そこには一人の女性が立っていた。
 銀色の鎧に身を包んだ美しい女性。
 だが、彼女が纏う雰囲気はオレが知るいつもの彼女とはまるで違っていた。

「アリス……」

「ご苦労様です。ブレイブ君。巫女シュリをよくぞここまで守っていただきました」

 そう言ってアリスはオレとシュリを一瞥した後、地に倒れ伏すアリシアを見る。

「まさか、あなたが裏切り者だったとは。私達の仲間になったのも今日この日のため、いいえ、彼女――あなたの友人であるシュリさんが巫女として選ばれた日からあなたは彼女を救出するために我々の仲間になったということですね」

「…………」

 アリシアは答えない。
 ただ憎しみの目を持ってアリスを睨むだけ。

「どういうことなんだ、アリス。アリシアがこんなことをした理由をあなたは知っているのか?」

「ブレイブ君。巫女シュリを守り抜いたあなたに新たな任務を下します」

 オレの質問に答えることなく、アリスは新たな命令をオレに下した。
 だが、それは耳を疑うようなありえない命令であった。

「そこにいる巫女シュリを――殺しなさい」

「……は?」

 一瞬、オレは聞き間違いかと思った。
 あの温厚で優しく、オレを導いてきたアリスがオレにシュリを殺せと。
 何かの間違い、聞き違いだと、そう思った。

「聞こえませんでしたか? すでに彼女の役割は終わりました。いえ、これから終わります。そのためにも『特級騎士』ブレイブ。彼女を、巫女シュリをこの場で殺しなさい」

 だが、アリスは答えた。はっきりと。
 あまりに冷たく、そして、当然のごとく。
 シュリの命を奪えと、まるで機械のようにオレにそう命じた。

「どういう……ことだよ、アリス……」

 オレの問いにアリスは答えない。
 だが、代わりにそれに答えたのは地べたに倒れ伏したアリシアであった。

「これが答えよ、ブレイブ……。巫女は、この国に……いいや、この国を統べる神・ネプチューンへと捧げられる供物なのよ……」

「え?」

 アリシアの答えに息を呑むオレ。
 ネプチューンに捧げられる供物? それは一体……?

「百五十年前……。この世界を救った英雄『四聖皇』が神として祭り上げられるようになって、彼らが人類を統治する以外である一つの命令アタシ達に強制したの……。それが数十年ごとに現れる『巫女』と呼ばれる存在を捧げること……」

「巫女……」

 そのワードにオレは思わずシュリを見る。
 だが、シュリは唇を強く噛み締めたまま俯き、その顔をオレに見せなかった。

「――そう。これは我々聖十騎士団の神でもある『四聖皇』ネプチューン様からの命令。巫女と呼ばれる存在がこの世界に現れた際、その者をこの聖都に招き、儀式の準備が整った後、その者を殺し、魂を天へと捧げること。それがネプチューン様が望むこの世界の“平穏”。私達、聖十騎士は結成以来、その儀式を常に繰り返し続けた」

「繰り返し続けたって……じゃあ、これまでの巫女も!?」

「ええ、全員例外なく、皆命を捧げてもらいました」

 まるで虫や動物を供物に捧げるようにアリスはハッキリとそう断言した。
 バカな……。
 人間を、ましてこんな少女の命をそんな簡単に捧げろというのか?
 しかも、それが『四聖皇』ネプチューン。いや、あの俊の命令っていう、ただそれだけのために?

「ブレイブ君。君にその巫女の護衛を任せていたのは、この一月、儀式の準備を行うため。そして、今夜その儀式は完成しました。ネプチューン様のいる『聖皇城』にて、ネプチューン様が巫女の魂を取り込む準備が完了しました。あとはただそこにいる巫女を殺すだけ。それで全てが達成されます」

 そう言ってアリスは腰に差していた剣を抜き、それをオレの足元へと突き刺す。

「さあ、『特級騎士』ブレイブ。私の専属騎士として、あなたへの最後の命令です。その剣を持って巫女シュリの命を奪いなさい。そうすればネプチューン様もその功績を認め、あなたを『聖十騎士』の一人として迎えるでしょう」

「…………」

 聖十騎士。
 ずっと目指していた目標。
 四聖皇ネプチューンの元へとたどり着くためのチケット。
 それが、これで手に入る。
 この剣を、シュリの体に突き立てるだけで。
 オレはアリスの投げたその剣の柄に手をかける。
 その瞬間、右足を誰かが掴んだのを感じた。

「……て、……や、めて……くれ……ブレイ、ブ……」

 振り向くと、そこには地面に倒れたままのアリシアが、力ない様子でオレの右足を必死な様子で掴んでいる姿があった。

「頼む……殺さ、ないで……殺さないで……彼女は……アリシアは……アタシの、アタシの大事な……大事な、友達、なんだぁ……!」

 顔をあげる。
 その顔は涙でぐちゃぐちゃに濡れて、泥と涙と鼻水とで、とても先程まで精錬に戦っていた聖十騎士の女性とは思えなかった。
 そこにいたのはただ親友の命を助けてくれと、必死に頭を下げ、泣き喚くただの少女。あまりに儚い、哀れな子供の泣き顔であった。

「…………」

 オレは答えない。
 ただ剣を握り、目の前のシュリを見つめる。

「……ブレイブさん」

 その瞬間、俯いていたシュリが顔をあげる。
 その表情を見て真っ先にオレの中に浮かんだ感情は驚愕であった。
 なぜなら、そこに映ったシュリの表情は決して恐怖に怯えるものでもなく、悲しみに包まれたものでもなく、まるで満ち足りたかのような笑顔であったのだから。

「先ほどの花火、ありがとうございました。約束守ってもらって。すっごく綺麗でした」

「シュリ……!」

「これで思い残すことはない……なんていうと嘘になるけれど、うん。私、すっごく満足してます。本当にありがとう。またどこかで、違う形であなたに会えると嬉しいです。さようなら――真人さん」

「――!」

 瞬間、シュリが見せた表情は紛れもなくオレが知る花澄と同じものであった。
 無論、そのことをシュリ本人が気づいた様子もなく、覚悟を決めたように彼女は瞳を瞑る。

「……アリス。一ついいかな。四聖皇ネプチューンはなぜ、巫女を殺せと命ずるんだ?」

「理由なんかない。神が命じるのなら我々はそれに従うだけ」

「つまり“理由もなく神は巫女を殺せ”とそう言っているのか?」

「……彼らは神であり英雄よ。かつてこの世界を救った救世主。その彼らがこの世界の平穏のために『巫女』という人柱を要求するのなら、我々はそれに従うしかない。事実、この百五十年。この聖都を初め『四聖皇』の加護を受けた国に魔物をはじめとしたあらゆる驚異が降り注ぐことはなかったよ。たった一人の犠牲でこれほどの長くの平和が維持できるのなら『巫女』はそれだけで存在意義があるんじゃないの」

「その平和ってのも本当に“巫女を殺すことで得られるものなのか”?」

「…………」

 アリスは答えない。
 いや、その答えを彼女ですら知らないはずだ。
 つまりは、そういうこと。
 『四聖皇』ネプチューンが『巫女』を殺すように命じているが、その目的がなんなのか、理由がなんなのか、真実を知る者は誰もいないはず。
 にも関わらず、この国の全員が、聖十騎士団がそれに従っているのは単に連中がかつてこの世界を救った英雄、神だから。
 そんな“ちっぽけな理由”でだ。

「だったら、オレはもう従わない。アンタ達の、聖十騎士団の、いやネプチューンの命令にはもう頷きはしないよ」

 その一言に目の前に立つシュリが瞳を開く。
 その目は驚きに見開き、オレを見つめたまま、彼女の瞳からはポロポロと涙がこぼれる。

「ブレ、イブ……」

 そしてまた、地面に倒れたアリシアもぐちゃぐちゃな顔のまま涙を流しながらオレを見上げる。
 オレはそんな二人を庇うように背中を向け、オレは剣を構える。
 その切っ先は――聖十騎士アリスへと向けられる。

「……いいのかい? そんなことをすれば君は聖十騎士への昇格権を失う。それどころかこの国に背く大罪人として処分されるよ」

「別にかまわないさ。そもそも、オレが聖十騎士団を目指したのは『四聖皇』――ネプチューンの喉元に食らいつくためだ。つまり命令に背こうが従おうが、結局行き着く先は同じ。なら、オレが納得できる方でオレの目的を達成する」

 そう告げた瞬間、アリスは息を呑む。
 やがて、何かに納得したように笑みを浮かべる。

「そっか。なんかあるんだろうなぁっては思っていたけれど、まさか四聖皇様を狙っていたなんて……ははっ、まったく君ってやつは本当に予測不可能な新人だね」

 けれど、と静かにアリスは腰にかけていたムチを取り出す。
 いつかの時のようにその鞭に雷を帯びさせ、地面を叩きつける。
 それだけで彼女を中心とした地面がえぐられる。

「聖十騎士の一人として大罪人となった君を見過ごすわけにはいかない。そこにいる巫女と裏切り者の処分も私が担う。ブレイブ君、覚悟はいいかな?」

「当然だろう。こっちはもう吹っ切れてんだ。このままアンタを倒して、そのまま聖皇城へ乗り込むつもりだよ。アリス」

 そうオレが答えるとアリスはわずかに寂しそうに笑い、その目に氷のような殺意を宿す。

「それじゃあ、君は敵だ。ここで私が殺す」

 その瞬間、聖都に存在する全ての聖十騎士はオレの敵となった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界ビルメン~清掃スキルで召喚された俺、役立たずと蔑まれ投獄されたが、実は光の女神の使徒でした~

松永 恭
ファンタジー
三十三歳のビルメン、白石恭真(しらいし きょうま)。 異世界に召喚されたが、与えられたスキルは「清掃」。 「役立たず」と蔑まれ、牢獄に放り込まれる。 だがモップひと振りで汚れも瘴気も消す“浄化スキル”は規格外。 牢獄を光で満たした結果、強制釈放されることに。 やがて彼は知らされる。 その力は偶然ではなく、光の女神に選ばれし“使徒”の証だと――。 金髪エルフやクセ者たちと繰り広げる、 戦闘より掃除が多い異世界ライフ。 ──これは、汚れと戦いながら世界を救う、 笑えて、ときにシリアスなおじさん清掃員の奮闘記である。

異世界転移からふざけた事情により転生へ。日本の常識は意外と非常識。

久遠 れんり
ファンタジー
普段の、何気ない日常。 事故は、予想外に起こる。 そして、異世界転移? 転生も。 気がつけば、見たことのない森。 「おーい」 と呼べば、「グギャ」とゴブリンが答える。 その時どう行動するのか。 また、その先は……。 初期は、サバイバル。 その後人里発見と、自身の立ち位置。生活基盤を確保。 有名になって、王都へ。 日本人の常識で突き進む。 そんな感じで、進みます。 ただ主人公は、ちょっと凝り性で、行きすぎる感じの日本人。そんな傾向が少しある。 異世界側では、少し非常識かもしれない。 面白がってつけた能力、超振動が意外と無敵だったりする。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

召喚した勇者がクズでした。魔王を討伐して欲しいのに、勇者が魔王に見えてきた。助けて

自ら
ファンタジー
異世界は、勇者を待ち望んでいた。 だが現れたのは──強すぎて、無自覚で、少しだけズレた現代の若者たち。 最初は祝福と喝采。人々はその力に酔いしれ、国王すら彼らを「救い」と信じた。 けれど、英雄譚は長く続かない。 小さな勘違い、軽いノリ、深く考えない一手が、国の仕組みや信仰、暮らしの均衡を少しずつ壊していく。 それは破壊のつもりなどない。ただの“善意”と“暇つぶし”の延長。 だが世界は、静かに壊れていった。 王は迷い、魔王は冷静に見つめ、民衆は熱狂し、やがて狂信と恐怖が入り混じる。 誰も「この結末」を望んだわけではないのに、歯車は止まらない。 これは、 「英雄」を信じすぎた世界の物語であり、 「無自覚な力」が招く悲喜劇を描く、風刺とブラックコメディの物語。

勇者の隣に住んでいただけの村人の話。

カモミール
ファンタジー
とある村に住んでいた英雄にあこがれて勇者を目指すレオという少年がいた。 だが、勇者に選ばれたのはレオの幼馴染である少女ソフィだった。 その事実にレオは打ちのめされ、自堕落な生活を送ることになる。 だがそんなある日、勇者となったソフィが死んだという知らせが届き…? 才能のない村びとである少年が、幼馴染で、好きな人でもあった勇者の少女を救うために勇気を出す物語。

防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました

かにくくり
ファンタジー
 魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。  しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。  しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。  勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。  そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。  相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。 ※小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...