旧校舎の闇子さん

プーヤン

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第9話 作戦②

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昨日、金城は親同伴で、指導員の先生にある事件の主犯として特別指導室に呼ばれていたそうだ。

それはいじめに関する事件である。

金城は他の連中にこの事を聞かれると、「なんかバレた」と濁していたが、ようは親からこの動画は本当かという連絡が学校にいき、話し合いが行われたようだ。

それを知られたくないのか、金城は他の人間には一切漏らしていない。

金城家に送られた動画の僕の顔の部分はモザイク処理がなされていることから、僕が徴集されることはなかった。

他のいじめっ子も呼ばれなかった。

それはそうだ。あの動画の彼らにはモザイク処理がなされていたからだ。

それゆえ、動画ではいじめられっ子と金城の二人しか映っていないのだ。

これは冴子さんの案の一部である。

なんでも、自分だけが疑われている状況というのはもの凄く辛いことであり、この状況は金城にとって相当、頭にくる展開であるとか。

他のいじめっ子も一緒になって悪事を働いていたのに、自分だけがあたかもそのいじめに関与していたと取れる現状。自分が外れくじを引かされたようなものだ。

かといって、他の人間の名前を出したなら、間違いなく金城が他の連中を売ったとバレる。

校内放送では彼の名前しか出ていないのだから。

冴子さんは校内放送の内容を聞いてほくそえんでいたそうだ。

僕は教室内で金城に日中にらまれ続けて気が滅入っているが。

どうやら、僕にとって事態は好転しているようだ。

 

 

 

「あの日から今日まで金城に呼ばれていない。でも、手紙が来たんだ。なんかデータを消せっていうのと、明日、放課後またいつもの処に来いっていう内容。」

「なるほど。報告ご苦労であったな軍曹。では次の作戦に移項する。」

「とりあえず手を組むのやめて。」

「なによ。」っと不満そうに組んでいた手をほどき、今日も冴子さんと僕はいじめについての会議を開いていた。

「でも、手紙ってことは相当絞られたわね。教師の見てる前で下手なことは出来ないようだし。さて、ここで押し切らないと、事態は好転どころか悪化するかもしれないわね。」

「というと?」

「ここで事態を押し切らないと、また沈静化した時にいじめが再発するわよ。彼らは多分、それほど貴方をいじめることは当たり前だと思ってる。これは投函作戦は中止、放送ジャック作戦に移項します。」

「分かった。」

明日、校内放送であの動画音声を流す手筈を冴子さんから再度説明してもらい、今日はお開きとなった。

彼女のことだから、失敗はしないだろう。

仮に流れなくても、明日、僕が何発か殴られてそれを耐えたら、次の日に同じことを行おう。

それで、冴子さんの作戦は完了する。

始めはここまで上手くいくとは思っていなかった。しかし、僕の心中には未だ不安が付きまとう。

それは、生来の僕の性格もあるが、いままでこの状況を打開しようとしても失敗してきたからなのだろう。僕は今の生活が、冴子さんとの生活が好きで楽しんでいる。一度甘い汁を吸えば、その分辛い時は身に染みて辛さを実感する。

もうあんな地獄のような生活に戻るのだけは嫌だ。

僕は本当に明日であんな地獄から脱却できるのかと疑問に思いながらも、やはり最後は冴子さんの事を思い出し精神を落ち着かせ、明日を待つのみであった。

 

 

 

昼休み。

校内放送はいつも通り行われた。

うちの学校は毎日、放送部が決まった時間に昼間から校内放送を行う。

昼間のラジオという題目で放送部の部員が毎日交代で行っている。

いつも僕は学内食堂の隅の方で昼食を食べており、校内放送を意図して聞いたことはない。

そのため、どういった放送をしているとか、何曜日は誰が担当ということは知らない。

今日はえらくはきはきとした女子の声が校内に流れていた。

校内に彼女の声やら、最近流行りの音楽が流れてラジオは進行していく。

もう12時55分だ。

もうすぐ放送は終わる。

この放送の時間は1時までだ。

僕は早めに昼食を食べきると緊張した面持ちでその時を待つ。

体が熱くなってきて、手汗が出る。

学内食堂は大勢の生徒でひどく混雑しており、時折その喧騒で放送が聞こえない。

その時、時刻は1時を指していた。

「それでは、今日の放送はここまでとなります。秋になり肌寒くなってきましたが、皆さん体調には気をつけ……………………」

放送部の子の終わりの言葉はノイズ音とともに途切れて消えた。

ノイズ音は思ったより大きく、僕は思わず音の方に顔を向ける。

急なノイズ音に学内食堂の中は先ほどまで活気に満ち溢れていたのに、静寂が訪れる。

場は騒然としており先ほどまで笑っていた生徒も口を閉じ、不振な面持ちでいる。

ジジッジジジ!

とまたノイズ音が続くと、次に加工したような声が聞こえてくる。

「皆さま、こんにちは。これから流れる音声は実際にあったことです。東校舎裏にて日時は~」

急に機械のような全く感情のこもっていない声が流れ出し、生徒たちは思わず聞き入ってしまう。

こんな不可思議なことが行われたことは過去に類をみないからだろう。

そして、その音声は音量が大きく、皆の耳に嫌でも入る。

音声はあの時のいじめの日時、時刻、関係者の名前がつらつらと流れていく。

また、その音声の中では、本件は傷害、脅迫等の現場であると伝えられる。

関係者の名前は包み隠さず、金城とその仲間たちの名前が挙げられた。

しかし、僕だけが知っている。

この声は冴子さんだ。

こんなフウに無機質な声を演じられるのは予想外であっただ、内情をすべて把握し、それを細かく説明していく冴子さんの手際の良さに感嘆の声を漏らしそうになる。

事件の詳細を話終えると、次にまたノイズが走り、いじめ現場の時の音声が差し込まれる。

ジジジッっというノイズ音の次にあの時の音声が流れる。

校庭に響く。

学内に轟く。

金城の恫喝の声。

彼らの笑い声。

そして、僕の情けない呻き声。

これはカットしてほしいと言ったが、冴子さんに駄目だと止められた。

被害者の声がないと、他の人間が感情移入しにくいとのことだった。

同情の念がないと、これは意味がないとのことだった。

学内食堂にいる生徒たちは皆、さまざまな反応を見せていた。

「なに、これ。気持ち悪い」と嫌悪感を表す者、「ははは、馬鹿みたい。」と嘲笑するもの、「ひどい。」と同情する者。また、それに同調する者。

僕はそれを確認すると、すぐに教室に戻った。

それは、今、金城とその仲間たちが僕を血眼になって探しているはずである。しかし、人の多いところで襲ってはこないだろうが、万が一、彼らがそのような行動に出る場合、どうせ殴られるなら人の多いところで殴られるべきだと冴子さんが言った。

それは、確かにこんな動画を流されて、今まさに人を殴っていたら彼らの評判は地に落ちるだろう。

僕が教室に戻る最中に放送は終わりを告げる。

最後に「以上です」と冴子さんが告げ、放送は切れた。

その後、すぐに放送部員の「なに、これ!?」という焦った声と、放送室に押しかけた教師陣の声が流され、聞いている人は思ったよりも重大なことなのだと感じるはずだ。

それは、いたずらなのかなんのか分からずとも、あの醜悪な音声から感じ取れるものは多いはずである。

放送後、さき程上げられた金城とその他の関係者は呼び出しの放送が流された。

僕はしかし、全く別の考えごとが頭を占拠していた。

そう、その放送部員の素の声は嫌に聞き覚えのある声であったからだ。

放送中は気づかなかったが、それはあの子の声だ。

そう、谷さんの声だった。

 
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