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序章

人生で一番衝撃的な日の始まり②

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 ハッ……ハッ……ハァッ……

 フィヨルドの森は静寂に包まれていた。
 激しい息切れの音だけが響いている。
 爆風を免れた木に叩きつけられた俺とアセウスは、疲れと痛みに暫く座り込んでいた。


「……ヤバかったぁ、サンキュなアセウス」


 肩で息を切らしながら俺は痺れる手で拳を作った。


「こっちこそサンキュー、俺がやってたらジ・エンドだった」


 同じく肩で息を切らしているアセウスが拳をコン、と付き合わせてきた。


「正直防ぎきれるとは思わなかった。意外と使えるのかなぁこの剣こいつ……」

「いや、相手あいつが弱かっただけじゃねえの? リザードマンと大して変わんなかったじゃん。ハイリザードマンとか聞いてねぇっつーの」

「確かに。個体差なのか知らないけど、弱くて良かったよ……フィヨルドの森こんなところにリザードマンが単体でいるだけでも珍しいっていうのに、ハイレベの方とか…知ってたら逃げてるっての。エルドフィンと俺おれたちの勝てる相手じゃねーよ……」

「マジそれ……疲れた……」


 リザードマンの強い版、ハイリザードマン。
 リザードマンより知能も身体能力も高い。
 俺とアセウスだと二人がかりでも一体も倒せない、という強さ分類だ。
 弱くてスマン。雑兵モブクラスなんで。
 蜥蜴人種は、基本は群れで行動する。
 頭弱めのリザードマンはたまにはぐれ・・・が出没するが、ハイリザードマンにあってはない、という話だ。当然俺ら雑兵モブは実物を見たこともなかった。


「座学も無駄じゃなかったな」


 アセウスは俺に笑いかけた。きっと、やっと今生き延びた実感に安堵した笑いだ。
 俺がそうだから。


「見た目の識別は全く無駄だったけどな。ハイレベだったって分かった今でも違いなんてよく分かんねぇし。見た目一緒な癖にハイレベはチートな特有能力、られそうになると自爆する、て勝てっこねぇだろ。ぜってー二度と戦わねぇ」

「思い出して防御魔法使った俺偉くね?」

「ハイハイ、お前じゃなくて剣の魔力ね」

「うぜぇーっ。俺より剣の方が魔力高いんだからしょーがないだろ? もっと恩に感じろ!」

「感じてます、感じてますって」

「ほんとかよ」

「ホントだよ、二回言ったろ?」


 二人の笑い声が二時間ぶりに森に響いた。

 ちょっと説明しよう。
 俺とアセウスはフィヨルドの森近くにある小さな町に生まれた。
 アセウスはその町の領主貴族の坊っちゃんなんだが、既に町が廃れてるせいか、領主一族の人柄のせいか、ただの「近所の子」みたいに普通に俺らと育った。
 親が公務員だとか、自営業だとか、地区のなんかしてるとか、ちょっと知られてる家の子どもみたいな感じ。伝わる?なんの威厳もない(笑)。
 威厳はないけど、田舎の坊っちゃんらしく、いいやつで、「現世の俺・・・・」と気が合ってよくつるんだ。
 戦士としての戦闘力も似たようなもので、アセウスの方がちょこっと魔力が多いくらい。
といっても、もとが微々たるもので戦闘での使い道などないから、違いはないようなもんだ。
 俺とアセウスの違い、それはアセウスが持っているこのだ。
 領主一家に代々伝わる家宝らしい剣。
 剣自体が魔力を持っていて、使い手として認められた者の呪文ことばで魔法が発現する。
 ハイリザードマンの自爆攻撃を耐え得るほどの力はないが、攻撃、防御ともに、なかなかの魔法効果が使える。ある意味アセウスより強い(笑)。


「森を抜けたら、宿を見つけてすぐに休もう。思いっきり食べて、寝たい……」


 アセウスは言いながら重い腰を上げた。
 そのまま、えぐられた大地の中心へと歩いて行く。
 俺も仕方なく立ち上がってアセウスやつの後に続いた。


「ハイリザードマンのアイテム、期待するほど大したことないね」


 転がっているポーション(体力回復薬)を俺に手渡しながら、アセウスは落胆の表情かおを見せた。


「数があるからいいじゃん、売れるよ」


 俺は荷物袋を取り出して、手渡されたポーションを入れると、アセウスに残りも拾って入れるよう促した。


「飲まないの?」

「どうせ後は休むだけだし」

「いいよ、一本くらい」

「節約。あと、俺的に今世紀最大くらいの死闘だったから、なんかそれで元気になるのも悔しいし」

「それは分かる」
 

 ポーションを全部袋に入れると、最後に残った塊を手に取りアセウスは立ち上がった。


「それは?」


 荷物袋を肩にかけ、歩きだしながら俺は聞いた。


「なんだろ?分っかんねー、なんかの塊。宝石の原石とかならいいけど透明度が高過ぎ。色的にはアイオライトかタンザナイト…さすがにサファイアじゃないだろうしなー」

「そんなでっかいのでサファイアそうだったら、俺、今日で戦士終了でいい。引退する」


 拾った青色の塊を光に透かして見ていたアセウスは、俺の隣に歩み寄ると目の前にその塊をかざして見せた。
 拳2つ分くらいの大きさの、いびつな形の物体。
 確かに透明度が高く、光に透かさなくても艶やかに輝いている。
 液体がそのまま固まったような、深い青。
 ふと、俺は『冷たいグズル青布ブラール』を思い出して、いい色だな、と微笑みが漏れた。 


「加工鍜冶に見て貰おうぜ。明日だけど。今日はもう終わり、やりきった。そう思うだろ? 俺も思ってる!」


アセウスを見ると、満足そうな笑顔でうなづいていた。





―――――――――――――――――――
【倒した魔物モンスター
 ハイリザードマン
【獲得したアイテム】
 ポーション 12個
 青い塊    1個

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