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第一部ヴァルキュリャ編 第一章 ベルゲン
黒船来襲
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「……止めなくていいのかよ」
強い風が時折吹き抜ける中庭を臨んで、俺は隣のアセウスに呟いた。
中庭には一組の男女が向かい合って立っていた。
束ねられた赤褐色の髪が風に揺れている。
女が手にするのは大きな銀色の剣。
猛々しい気迫を放つカールローサ・ソルベルグ。
彼女が睨み付ける先には、ジトレフ・ランドヴィーク。
兜鎧を着けず、黒い長剣を手にしただけの姿で、長い……3つに分ければ良かったかもm(_ _)mかに風を受けていた。
カールローサの燃える炎のような闘志とは対照的に、ジトレフからは冷たい威圧感が漂っている。
ホフディと父親と母親、長男と双子と俺とアセウス。
観戦者は東屋の付近まで下がって、今始まろうとしている真剣勝負を見つめていた。
ベルゲンに来て五日目の昼食時、アセウスは彼らを前に出立の意思を告げた。
ホフディが事前に話していたんだろな、父母は少しも驚きを見せず、夜に宴席を設けると笑った。
兄姉妹たちは僅かに驚きを見せたが、予想の範疇ではあるんだろ。
静かに微笑んで受け入れてた。
ただ一人、カールローサを除いては。
「お願いがあるの。アセウス、お父様、お母様。足手まといにはならないと誓うわ。自分の身は自分で守ってみせる、絶対に迷惑はかけない。だから、私も一緒にベルゲンを離れることを認めて貰えないかしら」
広間が水を打ったように静まった。
和やかだった空気が、小さな物音すら許さないかのように冷たくなる。
長びくほどに重苦しさが強まるようだ。
その沈黙を破ったのは、カーラクセルだった。
「ローサ……お前はもう大人だ。わしも、母上も、お前が望む生き方があるのなら、好きにすれば良いと思っている。誉れあるソルベルグの血を引く者として、このカーラクセルの娘として、お前が選んだ道であれば、例えそれが分不相応だとしても親として力になりたいと思う。だが、決めるのはアセウスだ。……アセウス、どうだろうか。娘の望みが叶うなら、どんな結果になろうとそなたを恨むことはないと誓う。妨げになることが有れば切り捨てても構わん。親バカと憐れまれることも覚悟の上だ。ローサを一緒に連れていってはくれぬだろうか?」
慈愛に満ちた表情のカーラクセルに、ローサは今にも泣き出しそうな顔で微笑んだ。
その感動的な光景に、俺は露骨に眉根を寄せていた。
父娘揃って、卑怯な真似しやがってっっ
アセウスが一番弱いところを攻めてきやがった。
居酒屋のお通しぐらいに断りづらいじゃねぇかっっ。
え? お通しって断れねぇだろって? 店によるんじゃね? 断ったこと、俺はある。
「出来ません」
俺が心配して表情を伺うよりも早く、全ガチモードのアセウスが答えていた。
少しも揺らいだ様子のないアセウスと、そっと項垂れたカーラクセルにホッとする。
なんかアセウス……ちょっとメンタル強くなった……?
「どうして?!」
「危険なんだよ。みすみす巻き込むわけにはいかない」
「エルドフィンやジトレフはいるじゃない! 同じよ! 私だって彼らと同じように出来るわ!」
「ローサ、聞き分けのないことを……」
正面と左隣でいきなりディベートがスタートしてしまった。
授業じゃないから勝敗を決める審判はいないけど、どーすんだこれ。
俺は首振り人形みたいに、二人の顔を交互に追いかけた。
「確かに今はまだ及ばない、分かってる。でもジトレフに稽古をつけて貰って、足りないものも目指すレベルも分かったの。旅をしながらにはなってしまうけれど、今までよりも時間は使えるのだし、きっと私にも出来るわ! お願い輝く光! チャンスを頂戴!」
「ダメだ。答えは変わらない。……いつものように笑って送り出してよ、ローサ」
「嫌よ、どうしたら認めて貰えるの? ジトレフ! あなたからもアセウスに言って、私は十分に戦えるって」
オイオイオイオイオイ。
ジトレフにムチャ振りかよ。
ジトレフだぞ? 一番無ぇだろ。
あいつじゃ、たとえ出したとしても助け船じゃなくて泥船だ。
そこまでするのか?
絶対に諦めないっっつー執念か!? ハンパねぇな。
俺がこの流れにドン引きしていると、長男カーヴェルが静かにカールローサに声をかけた。
「ローサ。もう、諦めなさい」
「嫌。全然納得出来ないんだもの。絶対迷惑かけないって覚悟があるのに、どうしてダメなの? そうだわ、ジトレフと私が真剣勝負をして、私が一太刀でもジトレフに入れることが出来たら、嘘じゃないって認められるでしょう? それで決めましょう!」
カーヴェルが心苦しそうにアセウスを見た時、既にアセウスは声を荒げていた。
「何馬鹿なことを言ってるんだ! そんな勝負はしない。危険だ」
「だから危険じゃないと証明するんじゃない」
ダメだこの二人、不毛だ。
俺はこのディベートは一生終わることはねぇと悟った。
どちらかというとカールローサが理解不能で元凶だ。
アセウスが込める意味とは違うんだろうけど、俺の頭も同じセリフでいっぱいだった。
何馬鹿なこと言ってるんだ? この女は。
ドン引きも引き過ぎて、目の前に居るのに空想の人物に見えてくる。
まぁ、ファンタジーはファンタジーなんだけど(笑)。
ジトレフと真剣勝負して、一太刀入れたら連れて行けって?
これまでのちょいちょい強気な発言通り、マジですんごい手練れなんだろうか。
ガチンコ勝負をしたことはねぇけど、ジトレフはかなり強い、と思う。
一緒にオッダを出てから、隙さえあれば、ストイックな鍛練をしているし。
普段から動きには無駄がねぇし、筋肉の付き方も強いやつのソレだ。
(と、エルドフィンの記憶の中の知識がそう言っていた、うん。)
トロル戦の時も見てるから、間違いない。
味方だったから、すげぇ! で済んだし、何度も助けられたけど、敵だったら危険なんてもんじゃない。
今現在生きている人間対象で、王様ランキングならぬ戦士ランキングがあれば、上位だと思う。
少なくとも、セウダとオッダの中では一番強いはず。
そんなジトレフを? え?
ワンチャン来たぁっみたいなノリで? ふぁっ?
どっかズレてるか、頭お花畑のド天然なのか? 理解出来る奴がいるなら解説して欲しい。
「そういうことじゃない。ローサがどうとかって問題じゃないんだ。答えは変わらない、ダ・メ・だっ!!」
「何よそれ!」
「あー、あのぅ……」
つい口を挟んでいた俺を、二人が凄い表情で振り返る。
ひぇぇっ! 何を言うつもりなのか、気になるよなぁ、そりゃぁ……。
俺はちらっとジトレフを見やってから、カールローサに視線を合わせた。
アセウスの考えは知らなかったので静観していたんだけど、さっきの言葉でなんとなく分かった。
連れてく気なんて、ちょっともないんだろ? なら……
「……さぁ、勝負なんて意味ないんですヨ。そもそもジトレフも」
一緒には来ないんだから、そう言うつもりだった。
そのつもりだったんだけど……
「私は構わない。アセウス殿、真剣勝負の結果で決着をつけては? カールローサ殿も納得出来る根拠を示された方が良いだろう」
はぁっっっ?!?!
黒船ジトレフ、警戒ゼロだった背後から低音ボイスで来襲。実際は右隣からだけど。
漫画だったら絶対飛び出て血走っている目で、俺はジトレフを睨んだ。
泥船か?! まさか助け船になるのか?! どっちっっ!
いやいやっ。
エルドフィン まだ はなしのとちゅう!
よこどり だんこきょひ!!
「いや、あのな、今俺が」
「ジトレフ……」
だーかーらー最後まで喋らせろって!
っって、アセウス?!
俺の言葉を遮った声の主を見ると、何か訴える目をしたアセウスがこっちを見ていた。
こっち、俺を通り越して、後ろのジトレフをだ。
「いや、でも、……」
「大丈夫だ。ちゃんとやる」
あれ?
俺は今度は、アセウスとジトレフを交互に見る首振り人形になった。
「……分かった。じゃあ、そうしよう。ローサ、最初で最後の譲歩だ。それでいいな」
あれれ??
ジトレフ 真剣勝負するます?
アセウスとジトレフ、以心伝心?
あー、うん、したのか?! 二人だけで?
まだ話してるとちゅうだったのに エルドフィン くうき?!
「もちろんよ! 昼食の後、少し休んで準備ができたら、中庭ではっきりさせましょう! ありがとう、輝く光! ジトレフ!」
あれれれれぇぇぇぇえ????
強い風が時折吹き抜ける中庭を臨んで、俺は隣のアセウスに呟いた。
中庭には一組の男女が向かい合って立っていた。
束ねられた赤褐色の髪が風に揺れている。
女が手にするのは大きな銀色の剣。
猛々しい気迫を放つカールローサ・ソルベルグ。
彼女が睨み付ける先には、ジトレフ・ランドヴィーク。
兜鎧を着けず、黒い長剣を手にしただけの姿で、長い……3つに分ければ良かったかもm(_ _)mかに風を受けていた。
カールローサの燃える炎のような闘志とは対照的に、ジトレフからは冷たい威圧感が漂っている。
ホフディと父親と母親、長男と双子と俺とアセウス。
観戦者は東屋の付近まで下がって、今始まろうとしている真剣勝負を見つめていた。
ベルゲンに来て五日目の昼食時、アセウスは彼らを前に出立の意思を告げた。
ホフディが事前に話していたんだろな、父母は少しも驚きを見せず、夜に宴席を設けると笑った。
兄姉妹たちは僅かに驚きを見せたが、予想の範疇ではあるんだろ。
静かに微笑んで受け入れてた。
ただ一人、カールローサを除いては。
「お願いがあるの。アセウス、お父様、お母様。足手まといにはならないと誓うわ。自分の身は自分で守ってみせる、絶対に迷惑はかけない。だから、私も一緒にベルゲンを離れることを認めて貰えないかしら」
広間が水を打ったように静まった。
和やかだった空気が、小さな物音すら許さないかのように冷たくなる。
長びくほどに重苦しさが強まるようだ。
その沈黙を破ったのは、カーラクセルだった。
「ローサ……お前はもう大人だ。わしも、母上も、お前が望む生き方があるのなら、好きにすれば良いと思っている。誉れあるソルベルグの血を引く者として、このカーラクセルの娘として、お前が選んだ道であれば、例えそれが分不相応だとしても親として力になりたいと思う。だが、決めるのはアセウスだ。……アセウス、どうだろうか。娘の望みが叶うなら、どんな結果になろうとそなたを恨むことはないと誓う。妨げになることが有れば切り捨てても構わん。親バカと憐れまれることも覚悟の上だ。ローサを一緒に連れていってはくれぬだろうか?」
慈愛に満ちた表情のカーラクセルに、ローサは今にも泣き出しそうな顔で微笑んだ。
その感動的な光景に、俺は露骨に眉根を寄せていた。
父娘揃って、卑怯な真似しやがってっっ
アセウスが一番弱いところを攻めてきやがった。
居酒屋のお通しぐらいに断りづらいじゃねぇかっっ。
え? お通しって断れねぇだろって? 店によるんじゃね? 断ったこと、俺はある。
「出来ません」
俺が心配して表情を伺うよりも早く、全ガチモードのアセウスが答えていた。
少しも揺らいだ様子のないアセウスと、そっと項垂れたカーラクセルにホッとする。
なんかアセウス……ちょっとメンタル強くなった……?
「どうして?!」
「危険なんだよ。みすみす巻き込むわけにはいかない」
「エルドフィンやジトレフはいるじゃない! 同じよ! 私だって彼らと同じように出来るわ!」
「ローサ、聞き分けのないことを……」
正面と左隣でいきなりディベートがスタートしてしまった。
授業じゃないから勝敗を決める審判はいないけど、どーすんだこれ。
俺は首振り人形みたいに、二人の顔を交互に追いかけた。
「確かに今はまだ及ばない、分かってる。でもジトレフに稽古をつけて貰って、足りないものも目指すレベルも分かったの。旅をしながらにはなってしまうけれど、今までよりも時間は使えるのだし、きっと私にも出来るわ! お願い輝く光! チャンスを頂戴!」
「ダメだ。答えは変わらない。……いつものように笑って送り出してよ、ローサ」
「嫌よ、どうしたら認めて貰えるの? ジトレフ! あなたからもアセウスに言って、私は十分に戦えるって」
オイオイオイオイオイ。
ジトレフにムチャ振りかよ。
ジトレフだぞ? 一番無ぇだろ。
あいつじゃ、たとえ出したとしても助け船じゃなくて泥船だ。
そこまでするのか?
絶対に諦めないっっつー執念か!? ハンパねぇな。
俺がこの流れにドン引きしていると、長男カーヴェルが静かにカールローサに声をかけた。
「ローサ。もう、諦めなさい」
「嫌。全然納得出来ないんだもの。絶対迷惑かけないって覚悟があるのに、どうしてダメなの? そうだわ、ジトレフと私が真剣勝負をして、私が一太刀でもジトレフに入れることが出来たら、嘘じゃないって認められるでしょう? それで決めましょう!」
カーヴェルが心苦しそうにアセウスを見た時、既にアセウスは声を荒げていた。
「何馬鹿なことを言ってるんだ! そんな勝負はしない。危険だ」
「だから危険じゃないと証明するんじゃない」
ダメだこの二人、不毛だ。
俺はこのディベートは一生終わることはねぇと悟った。
どちらかというとカールローサが理解不能で元凶だ。
アセウスが込める意味とは違うんだろうけど、俺の頭も同じセリフでいっぱいだった。
何馬鹿なこと言ってるんだ? この女は。
ドン引きも引き過ぎて、目の前に居るのに空想の人物に見えてくる。
まぁ、ファンタジーはファンタジーなんだけど(笑)。
ジトレフと真剣勝負して、一太刀入れたら連れて行けって?
これまでのちょいちょい強気な発言通り、マジですんごい手練れなんだろうか。
ガチンコ勝負をしたことはねぇけど、ジトレフはかなり強い、と思う。
一緒にオッダを出てから、隙さえあれば、ストイックな鍛練をしているし。
普段から動きには無駄がねぇし、筋肉の付き方も強いやつのソレだ。
(と、エルドフィンの記憶の中の知識がそう言っていた、うん。)
トロル戦の時も見てるから、間違いない。
味方だったから、すげぇ! で済んだし、何度も助けられたけど、敵だったら危険なんてもんじゃない。
今現在生きている人間対象で、王様ランキングならぬ戦士ランキングがあれば、上位だと思う。
少なくとも、セウダとオッダの中では一番強いはず。
そんなジトレフを? え?
ワンチャン来たぁっみたいなノリで? ふぁっ?
どっかズレてるか、頭お花畑のド天然なのか? 理解出来る奴がいるなら解説して欲しい。
「そういうことじゃない。ローサがどうとかって問題じゃないんだ。答えは変わらない、ダ・メ・だっ!!」
「何よそれ!」
「あー、あのぅ……」
つい口を挟んでいた俺を、二人が凄い表情で振り返る。
ひぇぇっ! 何を言うつもりなのか、気になるよなぁ、そりゃぁ……。
俺はちらっとジトレフを見やってから、カールローサに視線を合わせた。
アセウスの考えは知らなかったので静観していたんだけど、さっきの言葉でなんとなく分かった。
連れてく気なんて、ちょっともないんだろ? なら……
「……さぁ、勝負なんて意味ないんですヨ。そもそもジトレフも」
一緒には来ないんだから、そう言うつもりだった。
そのつもりだったんだけど……
「私は構わない。アセウス殿、真剣勝負の結果で決着をつけては? カールローサ殿も納得出来る根拠を示された方が良いだろう」
はぁっっっ?!?!
黒船ジトレフ、警戒ゼロだった背後から低音ボイスで来襲。実際は右隣からだけど。
漫画だったら絶対飛び出て血走っている目で、俺はジトレフを睨んだ。
泥船か?! まさか助け船になるのか?! どっちっっ!
いやいやっ。
エルドフィン まだ はなしのとちゅう!
よこどり だんこきょひ!!
「いや、あのな、今俺が」
「ジトレフ……」
だーかーらー最後まで喋らせろって!
っって、アセウス?!
俺の言葉を遮った声の主を見ると、何か訴える目をしたアセウスがこっちを見ていた。
こっち、俺を通り越して、後ろのジトレフをだ。
「いや、でも、……」
「大丈夫だ。ちゃんとやる」
あれ?
俺は今度は、アセウスとジトレフを交互に見る首振り人形になった。
「……分かった。じゃあ、そうしよう。ローサ、最初で最後の譲歩だ。それでいいな」
あれれ??
ジトレフ 真剣勝負するます?
アセウスとジトレフ、以心伝心?
あー、うん、したのか?! 二人だけで?
まだ話してるとちゅうだったのに エルドフィン くうき?!
「もちろんよ! 昼食の後、少し休んで準備ができたら、中庭ではっきりさせましょう! ありがとう、輝く光! ジトレフ!」
あれれれれぇぇぇぇえ????
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