ひねくれぼっちが異世界転生したら雑兵でした。~時には独りで瞑想したい俺が美少女とイケメンと魔物を滅すらしい壮大冒険譚~

アオイソラ

文字の大きさ
51 / 123
第一部ヴァルキュリャ編  第一章 ベルゲン

火炎

しおりを挟む
「しばらく一人になりたいから、出来れば夕食まで誰も来ないようにしてくれます?」
 
 
 俺はスニィオにそう頼むと、部屋のドアをパタンと閉めた。
 そのままベッドにダイブすると、くるりと上半身を起こして右手首を顔の前に掲げる。
 
 
「エルドフィン ボナ ランドヴィーク」
 
 
 シュウウウウウッ
 
 ある意味好都合だった。
 アセウスはカールローサに付き添って行ったし、ジトレフは部屋に閉じ込めた。
 スニィオに不自然さなく足留めを頼めたし、余程のことがなければ邪魔はされまい。
 ベッドから少し離れたところ、サクラ色の光の中に、ソグンは現れた。
 
 
「……御呼びでしょうか?」
 
「ウィスー。見てた・・・・?」
 
「何を、でしょうか?」
 
「ここでの五日間。いろいろあったと思うけど」
 
「……えぇ」
 
 
 ソグンは現れた位置に直立したまま浮遊している。
 なんだか今日はノリが悪いな。
 
 
「どした? どこか具合でも悪いのか?」
 
 
 彼女は唖然とした顔をする。
 それから腕を組むと、
 
 
「ヴァルキュリャには具合もなにもありませんよ。二日酔いにもなりません。何が知りたいのですか?」
 
 
 急かすように言った。
 それは皮肉のつもりか。
 可愛いのに可愛くないやつ!
 
 
「明日ここを発つんだ。やり残しっていうか、他に調べておいた方が良いことってあるかな?」
 
「……エルドフィン。あなたはどう思うのですか?」
 
「開かずの部屋? で十分な情報が手に入ったと思うんだよね。『オージンの書』ってやつが見つからないのは残念だけど……、逆に言えば、それ・・を見つければっていう一つの目標が出来たっていうか。ソグンは……どこまで知ってたんだ?」
 
 
 表情を読み取ろうとジッと見つめる。
 知っていて言わなかったとしても、もうそれは仕方ない。
 けど、今は・・知る限り教えて貰いたい。
 ソグンはすっと目を伏せた。
 
 
ベルトがソルベルグ家にあるだろうことは知っていました。あと、盾も。けれど他の物についてはすべて初めて知りました。書物に記されていたことも、私が関わったこと以外は知らないことです」
 
「そっか。ランドヴィーク家はさ、なんで離脱・・しちゃったの? ほんとに伝承自体止めちゃったのか?」
 
 
 年代記の中に記されていたことだ。
 ランドヴィーク家は、ヴァルキュリャがヴァルホルに去ってから程無くして、ソルベルグ家を初めとするヴァルキュリャ一族との関係を断った。
 一族からヴァルキュリャに選ばれた者が居たこと、ヴァルキュリャ一族として人々を率いて魔物と戦ったこと、その史実すべてを無かったことにしたいと宣言して、伝承も交流も一切止めたというのだ。
 見守っていることに気が付かれないとかいうレベルではない。
 ソグンの存在自体が・・・・・消されている・・・・・・
 理由は書かれていなかったし、ホフディも知らないと言っていた。
 気になるから聞いたけど、聞いておきながらすっげー気まずい。
 
 
「私も……知らないのです。ヴァルホルに行ってからしばらくの間、私は新しい世界のすべてに夢中でした。人間こちらの世界や一族のことをまるで気にかけなかった。シグルドリーヴァ……私はシグルと呼んでいましたが、シグルから知らされてとても驚いて……、その時は既に遅かったのです」
 
 
 ポツリ、ポツリと話す姿がとても悲しく見えた。
 可愛いのに可哀想過ぎて見ていられない……
 
 
「そうなんだ。じゃ次の質問。この五日間さ、魔物襲って来なかったじゃん。それはどう思う?」
 
「……分かりません。オッダでアセウス・エイケンが狙われたこと自体まだ解明出来ていませんから」
 
「だよなぁ。じゃあラストの質問、というか、頼み? シグルドリーヴァは何処にいるんだ? 会いたいんだけど、呼べる?」
 
 
 ソグンはハッとした表情で俺を見ると、直ぐにまた目を伏せた。
 腕を抱えて縮こまっている。
 やっぱり今日はどうも様子がおかしい。
 これではいくら可愛くてもエロい目でバックグラウンド処理しにくいではないか。
 
 
「ソグン?」
 
 
 投げ出していた脚を引き寄せて、ソグンの方へ身を乗り出した時だった。
 ソグンの姿が激しい火花にかき消された。
 あの時・・・見た火花と同じだ。
 中庭で風に散った火花と同じ煌めきが、寄り集まった壁となってソグンの前に立ち塞がった。
 炎の壁?!
 そう見えたのは鮮やかに赤い巻き毛だった。
 壁と見間違うほどに長く豊かな髪を一度大きく揺らして、彼女・・は降り立った。
 カールローサ?! いや違う。
 もっと激しい。
 面影はあったが、カールローサよりも彫りが深く、力強い。
 何より目力めぢからが、全然違う。
 気圧される。
 瞳も火炎のようだ。
 
 
この娘・・・そういう風・・・・・に使うのは止めなさい。私に会いたければおのれで呼ぶがいい、エルドフィン・ヤール!」
 

 ワーグナーのワルキューレの騎行が高らかに聞こえるようだった。
 クレッシェンド! クレッシェンド!! フォルテッシモ!!!
 
 緊張した面持ちのソグンを庇うようにして、シグルドリーヴァはその姿を現した。
 シグルドリーヴァ・ソルベルグ、勝利を約束された無敵の盾乙女。
  
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

処理中です...