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1章
12 今日もこの部屋は盛り上がる
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「ゲームを買ってきたぞ。早速始めよう」
部屋の主のいないたまり場に、今日も脈絡のない言葉を口にしながら入ってきたのはエレ。
その不躾な様子に、いつものようにトレーニングに励んでいた男たちの動きが一斉に止まる。
「いやもういいわゲームはっ! 前回散々盛り下がって終わったばっかだろーが!」
大声で拒否するのはピースケ。
前回幼馴染でゲームをした時は、ピースケとMOは心にダメージを。
エレは、ユウの撮ってきた動画を見ても、サービス終了までにリザに間に合う事が出来ず発狂を。
ユウは編集を頑張った動画が一日も持たずに削除されて轟沈。
誰にとっても散々な結果に終わっていた。
「おいそれ、VRデバイス……新品を2台も……って、バカなのか!? 金はどうしたんだよ!?」
言葉には棘があるものの、表情は心配そうに声を掛けるのはMO。
「なに、大学進学に貯めておいたお金を崩しただけ――って、おいおい落ち着け」
想像もついていなかった話に思わず立ち上がる2人を抑えて、エレは続ける。
「今は金なんかいいんだ。これを見ればお前らも分かるさ」
そう言ってエレはVRデバイスの他に2つの『ユートピア』を取り出す。
「……お前は、頭がイカれちまったのか?」
「……保存用と……鑑賞用か? 少なくとも俺はそれ、見るのも嫌だし他所に置いてくれよ?」
「まあいいからとにかく起動してみろ。見てもらいたい物があるんだ」
いつもより強引なエレに「なんなんだよ一体……」と、ぼやく2人だが、実際にお金を出してまで用意された物を無下にも出来ず、渋々言われた通りにする。
そしてエレに指示されるがままに、動画機能からランキング一位の動画の視聴を開始した。
♢
「………」
「………」
体感で、30分は経っただろうか、2人のデバイスのランプは消えて、動画を見終わった事を示しているが考えがまとまっていない様子だ。
時計は殆ど進んでいない。このゲームのタイムシフト視聴は時間が早く進むらしい。2人はヘッドセットを外すと、呆然とした顔で互いを見合わせていた。
「――と、いう事だ」
2人が言葉を探しているのがもどかしくなったのか、エレは話を進めようとする。
「……なんでユウのアバターが勝手に使われてんだよ」
あくまで人違いだと主張するMOも本気では言っていないのか、ユウに電話を掛けるも繋がらない。
「旅行中のはずだよな? なんでまたこのゲームやってんだよ」
「……いやねぇって。飛行機に乗ってるから、とかだろ」
「本来なら向こうに着いている時間だな。あのな……ユウのアカウントは私が再挑戦する際に消したんだぞ? それにユウと名乗って、あの倫理観の欠け方に、特技も出し惜しみしなかったんだ。――分かるだろ?」
「それにあの蹴り、オレが教えたヤツだしな! 力を逃すなんて鍛えた肉体に失礼だっつってな!」
MOだってそれは十分分かっていた。今上げた例だけじゃなく、何もかもがユウそのものだったから。
2人の言葉に反論が思いつかなかったのか、彼はしばらく黙ると――
「…………説明」
一言、頭を抱えて呟いた。
♢
「……あーもう、理解が追いつかねぇ!」
エレからアップデートの流れ、数量限定の未来の技術の話、エレとMOの叔母である『九條星羅』が行方不明となると同時に、ゲームがサービス再開した事。
――怒涛の勢いで現実離れした説明を受けたMOは、ひとまず1番心配な事だけ尋ねる。
「とにかくさ、ユウ……あんな謎の演技するヤツじゃねーし、マジで出られないんじゃねーの?」
「そうなんか? 最後の方に、ゲームオーバーで出られるって言ってなかったか?」
「そうだな。だがユウは、見る限りそれを選べないんだと思う。私には本当に追い詰められているように見えたな」
重い雰囲気を出すエレの言葉に、MOは少し考えるが――
「いや……それなら逆に、当分は心配いらないんじゃね? アイツ追い詰めるとかガチで悪手じゃん」
今までの経験からMOは、この状況のユウをどうにか出来る奴がいる訳ないと思い直して、肩の力が抜けている。
「あー、確かにな。あのアホ、俺らが相手であっても追い詰められると何でもするからな……」
前回遊んだ時は、ユウを追い詰めた途端泣き叫ばれて、ご近所さんから警察を呼ばれて大事になった。
「迷惑をかけてしまい本当にごめんなさい」と警察に謝るあまりに情けないユウの姿を思い出して、ピースケが苦々しく同意している。
「確かにユウの生き汚さは見事ではあるが、だ。実際身体は無防備で、ゲームの難易度は上がっていく以上、保険は必要だ。そこで――これだ」
と言って、エレは自分が買ってきた2台のVRデバイスを前に出す。
「──いいか? 私は、ユウは九條星羅に攫われたと考えている。少なくとも、ゲームの設定がユウだけ変えられている以上、間違いなく関わってはいるんだ」
「……いや何言ってるかわかんねぇけど、まあ、エレがそう断言するならいいさ。──警察は?」
「当然既に動いてる。ゲーム会社を通さずに『ユートピア』が再開されたんだからな」
「あん? じゃあオレ達は警察に協力するってか?」
「あー、俺らは言葉通り保険として動くってことな。でも叔母さん行方不明なんだろ? どうすんだよ」
「──そう、まずは九條星羅の位置を掴まなくてはいけない。だから私たちはこのゲームで、ネット上の匿名を完全に無効化するという『未来技術Ⅱ』の習得を目指す!」
突然のエレの盛り上がりに2人はついて行けない。今のとんでもスキルの信憑性をスルーするのが精一杯のようだ。
「んだよその技術は……ネットでキツめの誹謗中傷でもされたんかソイツは――されてたつってたな」
「それよりその未来技術ってやつ、プレイヤー全体で1人しか取れねーんだろ? 流石に無理があるだろ」
「私は勝算はあると思う。今このゲームは複数人で挑めるようになっていてな。そして私達は幸運にも3人とも肉体派だ」
「なんだよ、簡単になっちまったのか?」
「九條が関わっていて、そんなはずないだろう? 手に入るスキルポイントは人数で等分、スキルを取るにはメンバーの半数を超える賛成が必要。
そして個数制限のある金になるスキル。間違いなく、そこかしこでドロドロの裏切り劇が始まるだろうな」
「九條はマジでさぁ……下々の争いが大好きな奴しかいねぇ……」
「つーかよォ、そもそもそんな技術本当に貰えるのかよ。客寄せの為の嘘って事も――」
「ないな」
「ねぇよ」
「……お、おう」
「自尊心と自己顕示欲と自意識の化け物である九條の人間が、そんな情けない手段を取るのは不可能と言っていい」
「今考えるとこの『匿名無効』をつけたのも、正々堂々アピかもな。対等な訳ねーのに」
「……あー、そういやお前らも、ユウとつるむまでは性格最悪だったもんな」
あっけらかんと、笑いながら言うピースケだが、2人は全く笑えない。
九條の家に生まれた優秀な姉は、どこまでも調子に乗って他人を見下す傲慢の塊で、
姉に劣る弟は家族から蔑まれ、弱者を集めてプライドを保っていたという黒歴史持ちだからだ。
「……んんっ! さて、今の話から分かるとは思うが、この九條星羅という女はとにかく性格が歪んでいる。未来技術を世間から妄想だと決めつけられている現状が続けば、必ず何かしらで証明しようとする筈だ」
掲示板の流れからもそれは分かるが、結局何がいいたいのかピンと来ない2人は曖昧な返事をしている。
「そう、世間は間もなく大盛り上がりをみせる。そして、このままいけば、話題の中心には攻略の最前線にいるユウが座る事になるだろう……それは、なんだか、こう! 置いて行かれた気分になるだろうっ!!」
「……なんか急にスケールの小せえ話になったな。別にいいだろ、お前はユウを好き過ぎるんだよ……」
「いやちょっと待て、確かに……そうなるとオレも、なんだかめっちゃ悔しいぞ!?」
乗せられやすいピースケの賛同を聞き、エレはここぞとばかりに畳み掛ける。
「それにピースケの凄まじいパワーは、そろそろ世間の話題になっていいとも思わないか?」
「……だよなァ!? そうなんだよ、オレもずっとそう思っていたんだよ!!」
「だろ? そしてMOは昔、親戚から酷い扱いを受けてきたんだ。未来技術で、恥ずかしい書き込みを特定してしまえ」
「――っ!? ひ、人をそんなみみっちいキャラにするんじゃねぇよ!! 協力はまあ、してもいいけど、それはあくまでユウが心配で――」
「――そして私はユウが自力でなんとかする前に助け出す。前回このゲームでユウに上を行かれた雪辱を果たさせてもらうつもりだ」
と、数ヶ月経った今も忘れない、いつもの負けず嫌いの病気を発症させながらも――
「何よりワクワクが止まらないだろう? 今まで4人で色々やってきたが、高校生活最後はなんと、VS日本だ」
表情はとても純粋で、そんな楽しげな姿にいつも通り周りは「仕方ねぇな」と悪態をつきながらも笑顔で巻き込まれていく。
「――私達で取るぞ! 未来の技術!!」
そして、普段の冷静なエレからは考えられないほどの大声で、全力で気合いを入れた。
部屋の主のいないたまり場に、今日も脈絡のない言葉を口にしながら入ってきたのはエレ。
その不躾な様子に、いつものようにトレーニングに励んでいた男たちの動きが一斉に止まる。
「いやもういいわゲームはっ! 前回散々盛り下がって終わったばっかだろーが!」
大声で拒否するのはピースケ。
前回幼馴染でゲームをした時は、ピースケとMOは心にダメージを。
エレは、ユウの撮ってきた動画を見ても、サービス終了までにリザに間に合う事が出来ず発狂を。
ユウは編集を頑張った動画が一日も持たずに削除されて轟沈。
誰にとっても散々な結果に終わっていた。
「おいそれ、VRデバイス……新品を2台も……って、バカなのか!? 金はどうしたんだよ!?」
言葉には棘があるものの、表情は心配そうに声を掛けるのはMO。
「なに、大学進学に貯めておいたお金を崩しただけ――って、おいおい落ち着け」
想像もついていなかった話に思わず立ち上がる2人を抑えて、エレは続ける。
「今は金なんかいいんだ。これを見ればお前らも分かるさ」
そう言ってエレはVRデバイスの他に2つの『ユートピア』を取り出す。
「……お前は、頭がイカれちまったのか?」
「……保存用と……鑑賞用か? 少なくとも俺はそれ、見るのも嫌だし他所に置いてくれよ?」
「まあいいからとにかく起動してみろ。見てもらいたい物があるんだ」
いつもより強引なエレに「なんなんだよ一体……」と、ぼやく2人だが、実際にお金を出してまで用意された物を無下にも出来ず、渋々言われた通りにする。
そしてエレに指示されるがままに、動画機能からランキング一位の動画の視聴を開始した。
♢
「………」
「………」
体感で、30分は経っただろうか、2人のデバイスのランプは消えて、動画を見終わった事を示しているが考えがまとまっていない様子だ。
時計は殆ど進んでいない。このゲームのタイムシフト視聴は時間が早く進むらしい。2人はヘッドセットを外すと、呆然とした顔で互いを見合わせていた。
「――と、いう事だ」
2人が言葉を探しているのがもどかしくなったのか、エレは話を進めようとする。
「……なんでユウのアバターが勝手に使われてんだよ」
あくまで人違いだと主張するMOも本気では言っていないのか、ユウに電話を掛けるも繋がらない。
「旅行中のはずだよな? なんでまたこのゲームやってんだよ」
「……いやねぇって。飛行機に乗ってるから、とかだろ」
「本来なら向こうに着いている時間だな。あのな……ユウのアカウントは私が再挑戦する際に消したんだぞ? それにユウと名乗って、あの倫理観の欠け方に、特技も出し惜しみしなかったんだ。――分かるだろ?」
「それにあの蹴り、オレが教えたヤツだしな! 力を逃すなんて鍛えた肉体に失礼だっつってな!」
MOだってそれは十分分かっていた。今上げた例だけじゃなく、何もかもがユウそのものだったから。
2人の言葉に反論が思いつかなかったのか、彼はしばらく黙ると――
「…………説明」
一言、頭を抱えて呟いた。
♢
「……あーもう、理解が追いつかねぇ!」
エレからアップデートの流れ、数量限定の未来の技術の話、エレとMOの叔母である『九條星羅』が行方不明となると同時に、ゲームがサービス再開した事。
――怒涛の勢いで現実離れした説明を受けたMOは、ひとまず1番心配な事だけ尋ねる。
「とにかくさ、ユウ……あんな謎の演技するヤツじゃねーし、マジで出られないんじゃねーの?」
「そうなんか? 最後の方に、ゲームオーバーで出られるって言ってなかったか?」
「そうだな。だがユウは、見る限りそれを選べないんだと思う。私には本当に追い詰められているように見えたな」
重い雰囲気を出すエレの言葉に、MOは少し考えるが――
「いや……それなら逆に、当分は心配いらないんじゃね? アイツ追い詰めるとかガチで悪手じゃん」
今までの経験からMOは、この状況のユウをどうにか出来る奴がいる訳ないと思い直して、肩の力が抜けている。
「あー、確かにな。あのアホ、俺らが相手であっても追い詰められると何でもするからな……」
前回遊んだ時は、ユウを追い詰めた途端泣き叫ばれて、ご近所さんから警察を呼ばれて大事になった。
「迷惑をかけてしまい本当にごめんなさい」と警察に謝るあまりに情けないユウの姿を思い出して、ピースケが苦々しく同意している。
「確かにユウの生き汚さは見事ではあるが、だ。実際身体は無防備で、ゲームの難易度は上がっていく以上、保険は必要だ。そこで――これだ」
と言って、エレは自分が買ってきた2台のVRデバイスを前に出す。
「──いいか? 私は、ユウは九條星羅に攫われたと考えている。少なくとも、ゲームの設定がユウだけ変えられている以上、間違いなく関わってはいるんだ」
「……いや何言ってるかわかんねぇけど、まあ、エレがそう断言するならいいさ。──警察は?」
「当然既に動いてる。ゲーム会社を通さずに『ユートピア』が再開されたんだからな」
「あん? じゃあオレ達は警察に協力するってか?」
「あー、俺らは言葉通り保険として動くってことな。でも叔母さん行方不明なんだろ? どうすんだよ」
「──そう、まずは九條星羅の位置を掴まなくてはいけない。だから私たちはこのゲームで、ネット上の匿名を完全に無効化するという『未来技術Ⅱ』の習得を目指す!」
突然のエレの盛り上がりに2人はついて行けない。今のとんでもスキルの信憑性をスルーするのが精一杯のようだ。
「んだよその技術は……ネットでキツめの誹謗中傷でもされたんかソイツは――されてたつってたな」
「それよりその未来技術ってやつ、プレイヤー全体で1人しか取れねーんだろ? 流石に無理があるだろ」
「私は勝算はあると思う。今このゲームは複数人で挑めるようになっていてな。そして私達は幸運にも3人とも肉体派だ」
「なんだよ、簡単になっちまったのか?」
「九條が関わっていて、そんなはずないだろう? 手に入るスキルポイントは人数で等分、スキルを取るにはメンバーの半数を超える賛成が必要。
そして個数制限のある金になるスキル。間違いなく、そこかしこでドロドロの裏切り劇が始まるだろうな」
「九條はマジでさぁ……下々の争いが大好きな奴しかいねぇ……」
「つーかよォ、そもそもそんな技術本当に貰えるのかよ。客寄せの為の嘘って事も――」
「ないな」
「ねぇよ」
「……お、おう」
「自尊心と自己顕示欲と自意識の化け物である九條の人間が、そんな情けない手段を取るのは不可能と言っていい」
「今考えるとこの『匿名無効』をつけたのも、正々堂々アピかもな。対等な訳ねーのに」
「……あー、そういやお前らも、ユウとつるむまでは性格最悪だったもんな」
あっけらかんと、笑いながら言うピースケだが、2人は全く笑えない。
九條の家に生まれた優秀な姉は、どこまでも調子に乗って他人を見下す傲慢の塊で、
姉に劣る弟は家族から蔑まれ、弱者を集めてプライドを保っていたという黒歴史持ちだからだ。
「……んんっ! さて、今の話から分かるとは思うが、この九條星羅という女はとにかく性格が歪んでいる。未来技術を世間から妄想だと決めつけられている現状が続けば、必ず何かしらで証明しようとする筈だ」
掲示板の流れからもそれは分かるが、結局何がいいたいのかピンと来ない2人は曖昧な返事をしている。
「そう、世間は間もなく大盛り上がりをみせる。そして、このままいけば、話題の中心には攻略の最前線にいるユウが座る事になるだろう……それは、なんだか、こう! 置いて行かれた気分になるだろうっ!!」
「……なんか急にスケールの小せえ話になったな。別にいいだろ、お前はユウを好き過ぎるんだよ……」
「いやちょっと待て、確かに……そうなるとオレも、なんだかめっちゃ悔しいぞ!?」
乗せられやすいピースケの賛同を聞き、エレはここぞとばかりに畳み掛ける。
「それにピースケの凄まじいパワーは、そろそろ世間の話題になっていいとも思わないか?」
「……だよなァ!? そうなんだよ、オレもずっとそう思っていたんだよ!!」
「だろ? そしてMOは昔、親戚から酷い扱いを受けてきたんだ。未来技術で、恥ずかしい書き込みを特定してしまえ」
「――っ!? ひ、人をそんなみみっちいキャラにするんじゃねぇよ!! 協力はまあ、してもいいけど、それはあくまでユウが心配で――」
「――そして私はユウが自力でなんとかする前に助け出す。前回このゲームでユウに上を行かれた雪辱を果たさせてもらうつもりだ」
と、数ヶ月経った今も忘れない、いつもの負けず嫌いの病気を発症させながらも――
「何よりワクワクが止まらないだろう? 今まで4人で色々やってきたが、高校生活最後はなんと、VS日本だ」
表情はとても純粋で、そんな楽しげな姿にいつも通り周りは「仕方ねぇな」と悪態をつきながらも笑顔で巻き込まれていく。
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