花鳥見聞録

木野もくば

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第十話 十九年目の満月

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 ヨウの家へ向かう途中とちゅう、とても苦しそうなルイの様子を心配したモクは、花畑にり立ちます。
 花にれることで、ルイが少しだけ具合が良くなるからでした。

「……ルイ。大丈夫か?」

「ありがとう。少し楽になった。この前みたいに気絶するわけにいかないから助かったよ」

「今さらだけど不思議だな。なんで花に触れると元気になるんだろうな」  

「私が花の妖精だからかな。……でも何で花の妖精になったんだろう? これも呪い?」

「オレにも分からない。……水神に聞くしかないな」

 モクとルイが、しばらく休憩きゅうけいしていると、近くから若い男女の話し声が聞こえてきました。

「モナカくん。ヨウさんの体の具合はどう?」

「あんまりよくないかな。…………それより、ミヅキの方も同じくらい苦しそうに見える」

「……私は大丈夫。それに、あと少しで十九年目の満月まんげつだから」

「ヨウとミヅキが苦しいなら十九年目の満月まんげつを待つ必要はない。オレは、いつも全力で思い残しがないように生きてるから、とっくに覚悟かくごは出来てるよ」

「…………」

 ミヅキという名前に聞き覚えがあったモクとルイは、思わず若い男女の前に飛び出しました。

「おい! もしかしてミヅキか?」

「ミヅキだよね?……やっぱり、ミヅキだ」

「モクとルイ。久しぶりだね」

 急に現れたモクとルイに、ミヅキはおどろいた様子もなく笑顔で挨拶あいさつをします。
 モクの声が聞こえずルイの姿を認識できないモナカは、そんなミヅキをだまって見守っている様子でした。

「……ミヅキ。お前、この世界に帰りたくないって言ってたのに、何でここに?」

「ヨウがむかえに来たの? ごめんね。私たち、ミヅキの伝言をまだ伝えられてなかったから」

「ちがうよ。私は自分の意思で戻ったの。自分の正体を思い出してしまって……」

「正体って何なんだ? いったい、お前もヨウも何者なんだよ?」

「ミヅキも水神様と関係あるの? 私たち彼を探しているの」

「水神様? もしかしてミヅハのこと?」

「そうだ。アイツがオレとルイをのろったんだ!」

「……のろい」

 ミヅキは、そうつぶやくと、となりにいるモナカを見つめました。その瞬間しゅんかん、花畑に大きな風が吹いて花びらが空へ舞い上がりました。
 しばらくの間、花びらを見つめていたミヅキが静かに口を開きます。

「私とヨウさんは、ミヅハに生み出された存在。ミヅハが持っていた不思議な力が分散ぶんさんして、それが人間の姿になり意思を持ったの。それが私たち……」

 そう言いながらミヅキは、花びらがってしおれていた花にれました。

「次に会えたら、私の力を見せてあげるって話したよね。……見てて」

 ミヅキが目を閉じると、茶色のかみが銀色に染まり、紫の瞳が金色きんいろに変わります。すると、しおれていたはずの花が咲き始めの美しい姿になりました。

「花が元気になった!?」 

「元気になったというより、もしかして元に戻ったの?」

「……そう。花の時間を巻き戻したの。私は時間をあやつれる力を持っている」

「……すごい」

「ああ。でも、何だかおそろしい力だな。運命をじ曲げることもできそうだ」

「今の弱ってる私に、そこまでの力はないよ。せいぜい花の時間を巻き戻すのが精一杯せいいっぱいだし。でも、十九年目の満月まんげつが出れば……」

「なあ、その十九年目の満月まんげつって何なんだ?」

「ヨウも言っていたの。その満月まんげつが出ると、この花畑が銀色に染まるから、記憶の手がかりが見つからなかったら来てみるといいって……」

「何でだろう? 私も分からないの」

「はあ!? 何だよそれ? ヨウといい、ミヅキといい、肝心かんじんなことを何で知らないんだよ……」

「……本当に分からない。……ごめんね」 

 ミヅキが申し訳なさそうにモクとルイに頭を下げた時、ずっとだまりこんでいたモナカが唐突とうとつに、ある言葉を言いました。

「ふむふむ。メトン周期しゅうきのことだな!」

「えっ?」

「状況がよく分からないけど、ミヅキは十九年目の満月まんげつについて知りたいんだろう?」

「う、うん。モナカ君は分かるの?」

「まあ、オレも本で読んだ知識だけだけどね。簡単に言えば宇宙の神秘しんぴの一つかな」

「宇宙?」

「そう! あと少しで十五夜じゅうごや満月まんげつになるだろ。でも来年も再来年も、まったく同じ日、同じ時間に夜空を見上げても同じ月の形、つまり満月まんげつにはならないんだ」

 そこまでの話を聞いてチンプンカンプンな様子のミヅキたちを気にすることなく、モナカは興奮気味こうふんぎみに話を続けます。

「だけど、十九年後の同じ日に夜空を見上げると、まったく同じ形の満月まんげつになる! つまり月は、再び同じ形になるためにけを十九年のサイクルで繰り返しているわけだ!」

「それが、メトン周期しゅうき?」

「その通り。ずっと十九年ごとに同じ周期を繰り返しているからか、たましいの永遠を象徴しょうちょうを表しているとか何とか……」

「何だか難しい話だね。でもなぜか、それで間違いない気がする」

「ミヅキもヨウと同じだ。分かんないくせに本能的に分かる感じが。……人智じんちえた力を使えるのに、何かけてるんだよな」

 そう苦笑いして話すモナカは、ミヅキのとなりにいるモクとルイの方を見つめました。

「ヨウが言うには、十九年目の満月まんげつの日、花が月の光で銀色に染まると強い力を得られるらしい。もしも、その不思議な力をオレも手に入れられるとしたら、見えない友達が見えるようになりたいね」





(風に舞う花びら)
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