モノグサ彼氏とラブラブ大作戦っ!

藤宮りつか

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番外編 モノグサ男子の恋

    モノグサ男子の恋(11)

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 結論から言うと、俺はこの一年間、智加が俺のことをどう思っているのかがわからないままに終わった。
 加えて、智加と同じ大学を受験することになった俺は、結果次第では、高校を卒業した後も智加と一緒に過ごす日常が続くことになり、ただでさえ智加への告白に対して消極的になっていたのが、益々消極的にならざるを得ない状況になってしまった。
 もちろん、智加と同じ大学に通えることになれば俺も嬉しいし、そうなればいいと思っているのだが
(となると、俺は一体いつ智加に告白とやらをすればいいんだ?)
 という問題が出てきてしまう。
 せっかく智加と同じ大学に通えることになっても、智加に告白して振られてしまっては、智加と同じ大学に通うこと自体が辛くなる。
「うーん……」
 何事もなく最終学年に進級し、高校最後の一年間も智加と同じクラスになれた俺は、入学式の朝に劇的な出逢いをした智加と、高校の三年間を同じクラスで過ごせることに、運命みたいなものを感じなくもなかったのだが――。
「ねぇ、天馬。天馬って最近何か悩み事でもあるの?」
「え?」
「だって、最近の天馬、よく考え込んでるみたいな顔してるよ?」
「ん……んん……」
 いくら出逢いが劇的で、その後の俺と智加に運命みたいなものを感じていたとしても、それが本当に運命だとは限らない。
 そもそも、俺は神様だの運命だのという、目に見えない不確かなものを信じてはいなかった。
 午前中の授業が終わり、昼休みを告げるチャイムが鳴っても、机の上を片付けることなく自分の席でぼーっとしている俺に、智加が心配そうな顔で声を掛けてきた。
 先月、高校最後の文化祭が終わってしまうと、三年生の俺達には大学受験というものが控えているからか、休み時間になっても教室の空気はやや重たかった。
 そんな中、あまり元気がなさそうな俺の姿を見ると、智加が心配してしまうのも無理はないだろう。
「もうすぐ受験だと思うとな。ちょっと気分が憂鬱になっていたんだ」
「そうなんだ」
 ぶっちゃけた話、俺は日ごとに迫ってくる大学受験についてはあまりナーバスになっていないし、感情を左右されることもほとんどなかった。
 元々大学に進学するつもりでいた俺は、早い段階で志望校も決めていたから、高校に入学してからというもの、勉強はわりと真面目にやってきたつもりだし、受験対策も意識してきた。
 そりゃまあ、全く遊ばなかったとは言わないが、三年生に進級してからは、それなりに勉強中心の生活を送ってきたとも思うから、俺の中でこれ以上の努力のしようがないというか……。
 もちろん、自信があるわけではないが、あとはもう合否の行方を天に任せるしかなかった。
 なので、最近の俺が浮かない顔をしている理由はもっぱら、智加との関係をどうやって進展させるか、ということばかりではあるのだが、まさかそんな理由を智加本人に言えるはずもなく、それを誤魔化すために憂鬱な受験生を装う俺だった。
「確かに、俺も受験のことを考えたら気持ちが沈んじゃうかな。でも、いっぱい勉強頑張ったし、あとはもうなるようにしかならないって割りきるようにしてるよ」
 受験生にとって受験の話はデリケートな部分でもあるから、いくら気心の知れた仲であっても、あまり下手なことは言えないのだろう。
 智加はあからさまに俺を励ますようなことは言わず、ただ
「だから、最後まで一緒に頑張ろ」
 という言葉だけで俺を元気づけると
「それより、早く光稀達のところに行ってお昼食べようよ。ご飯を食べたら少しは気分が変わるかもしれないよ?」
 手にしたお弁当を俺に見せてきながら、にっこりと笑って見せもした。
 俺と智加は三年連続同じクラスになれたけど、二年連続で同じクラスだった一臣と光稀は、最後の最後で違うクラスになってしまった。二年続けて同じクラスになれた俺達四人だったから、最終学年でも四人一緒が良かったのだが、世の中はそんなに上手くはいかなかったらしい。
 最後の最後で一臣や光稀と違うクラスになってしまったことは残念だが、言っても二人ともすぐ隣りのクラスだし。昼は今まで通り一緒に食べているし、智加とは同じクラスになれたから良しとした。
 むしろ、智加に本格的な恋心を抱いてしまった俺としては、あまり智加のことで二人にからかわれたくなかったから、クラスが別々になって良かったのかもしれない。
 あの二人、何かと俺達を茶化してくるし、鋭いところもある。光稀に至っては俺の発言をすぐに智加に伝えようとするから、もし、俺が智加のことを好きだと気付かれてしまったら、俺が智加に告白するよりも先に、光稀が俺の気持ちを智加に伝えてしまうかもしれないもんな。
 なかなか智加に自分の気持ちを伝えられない俺は、周りの人間の手を借りる方法もアリなのかもしれないが、男子たるもの、好きな相手には男らしく自分から告白したいものである。
「なんだかんだと、高校生活もあっという間だったよね」
 弁当を持って智加と一緒に一臣や光稀の教室に顔を出すと、二人は既に机を合わせて弁当を食べ始めていた。
 文化祭が始まる頃までは、教室ではなく屋上や中庭、人が来そうにない階段で昼飯を食っていた俺達四人だが、秋も深まり、冬の気配が近付いて来ると、教室の外で弁当を食べるのも寒くて辛いから
『これからは教室でお昼を食べよう』
 ということになった。
 別にどっちの教室で昼飯を食べてもいいのだが、一臣や光稀のクラスの方が、俺と智加のクラスより昼休みを教室で過ごす生徒が少ないみたいだから、俺と智加が二人のクラスにお邪魔することになった。
 正直、よそのクラスにお邪魔して、人様の机や椅子を使わせてもらうことには若干の後ろめたさがあるのだが、そのへんは一臣や光稀が事前にクラスメイトから承諾を得てくれているようなので気にしないことにする。
「あっという間って……まだ三学期が丸々残ってるじゃん」
「そうなんだけどさ。三学期なんてあってないようなものじゃん。授業なんてほぼ自習になるし、自宅学習もオッケーになるから、学校自体に来なくなる生徒もいるしさ」
「光稀は自宅学習するの?」
「たまにはするかもしれないけど、基本的には学校に来るつもりだよ」
「そっか」
 クラスの半数ほどの生徒が出て行ったあとの教室はガランとしているようにも見えるが、束の間の休息(?)に、教室の中はそれなりに賑やかだった。
 俺と智加が弁当を持って二人に近付いて行った時、一臣と光稀はそんな話をしていたが、俺と智加の姿に気が付くなり
「二人はどうするの? 三学期になっても学校に来る?」
 と聞いてきた。
「ん? ああ。俺はそのつもりだ」
「俺もだよ」
 まだ二学期も終わっていないのに、もう三学期の話をしているだなんて気が早い、とも思うが、三学期になっても今まで通り学校には来るつもりでいる俺と智加は、迷うことなくそう答えていた。
 面倒臭がりな俺としては、学校に行かなくてもいい自宅学習期間は魅力的でもあるのだが、一日中家に籠って勉強ばかりしているのは気が滅入ってしまいそうだし、学校に行かなかったら行かなかったで智加に会えなくてつまらない。
 まあ、自宅学習を利用して、自宅以外の場所で朝から晩まで智加と一緒に勉強をしてもいいのだが、それだと勉強を頑張っているというより、恋愛に現を抜かしているような感じがして、罰が当たってしまいそうだ。
 一日二日なら息抜き込みでそういう日があってもいいと思うが、受験が終わるまでは、あまり浮かれた行動をしない方がいいだろうな。
 それに、自宅学習期間中の俺が学校にも家にもいないことが麒麟にバレてしまうと、また“彼女云々”の話になって面倒臭いからな。
 今年の春、予定通りに俺と同じ高校に入学してきた麒麟は、入学当初こそ俺の彼女を突き止めるべく躍起になっていたのだが、校内における俺の日常にあまりにも女の影がないものだから、夏休みに入る前には俺の彼女を突き止めることは早々に諦めたようだった。
 いやいや。諦めるも何も、最初から俺に彼女なんてものはいないと言っている。
 俺の彼女を突き止めることを諦める際に
『もしかしてさ、お兄ちゃんの付き合ってる人、もしくは、お兄ちゃんの好きな人って、いつも一緒にいるあの三人の中にでもいるの? 藤岡先輩とか美人だし。お兄ちゃんって藤岡先輩が好きなの?』
 と、ややふて腐れた感じで言われた。
 すかさず否定はしたが
『俺が狙っているのはそっちの小柄な美人じゃなくて、もう一人の更に小さくて可愛い方だ』
 と、危うく言い返しそうになってしまった。
 だがしかし、今のところ麒麟に俺の好きな奴はバレていないし、麒麟は俺と智加の関係を全く疑っていない。
『お兄ちゃん達って、本当に仲がいいよね』
 くらいは言ってくるが、俺が光稀のことが好きなんじゃないか疑惑をあっさり否定した後は、俺達の関係を疑うような発言は一度もしてこなかった。
 なので、ここへきて俺の智加に対する想いを麒麟に知られるわけにはいかない。あともう少しで俺も卒業なのだから、麒麟にはこのまま兄の密かな片想いを知られないままでいたい。
 万が一知られてしまったら、高杉家の大問題に発展してしまう恐れもあるからな。
「へー、そうなんだ。僕はてっきり、二人は自宅学習期間を利用して、二人っきりで受験勉強に勤しむものだとばかり思っていたのに。二人とも志望大学は一緒でしょ? お互いに励まし合いながら、一緒に勉強すればいいのに」
 ぐぅ……。俺が今まさにそのことについて考えていたところだと言うのに。
 慎重になる俺をそそのかしてくるような光稀の発言に、俺の心は早くも揺らぎそうになってしまう。
(ダメだダメだ。そんな軽々しい行動に出てしまって、あとで後悔することになっても嫌だ)
 思わず
『それもそうだな』
 と言いたくなる気持ちをグッと抑えた俺は、そう返す代わりに
「志望大学なら一臣や光稀も一緒じゃないか。どうせなら四人で一緒に勉強した方が、それぞれの得意分野で苦手分野を教え合えるからいいんじゃないか?」
 と返しておいた。
 ここにいる四人の志望大学は全員一緒だった。
 智加と二人きりで勉強するのも魅力的ではあるのだが、今現在、俺と智加の学力には差というものがほとんどない。
 そう考えた時、学年では常にトップクラスの成績を保持している光稀がいてくれた方が、この四人で同じ大学に進学できる可能性が高まりそうでもあるんだよな。
「何? 天馬は今更智加と二人っきりになることが照れ臭いの?」
「そ……そういうわけじゃないが……」
 何故智加の前でそういう発言をする。俺が智加のことを意識していることがバレたらどうしてくれるんだ。
「まあ、考えてみれば、大事な受験を前に智加と二人でイチャイチャしてるのも不謹慎だもんね」
「俺と智加はイチャイチャなんかしてないだろ」
 クソ……光稀の奴はまた余計なことを……。
 そりゃ俺だって智加とイチャイチャできるものならしてやりたいが、実際の俺達は全くイチャイチャなんてしていないし、至って健全な友達付き合いを続けている。
 できることなら、その友達関係から一歩先に進みたいところではあるのだが、こうして間近に迫ってくる大学受験を控えている身としては、恋愛云々よりもまずは志望大学に合格することの方を優先させなくてはいけない。
「そうなんだよね。それが僕にはちょっと不満だし、残念なところでもあるんだよね」
「は?」
 光稀の余計な発言に反論したら、またしても光稀にわけのわからないことを言われた。
「だってさ、二人とも相思相愛の癖に、ちっともイチャイチャしないんだもん。もしかして、僕達に気でも遣ってるの? だとしたら、そんな気遣いはいらないんだけど」
「相思相愛って……。あのなぁ……」
 一体何を残念がっているのやら。そんなもの、俺も残念に思っていることだ。
 確かに、俺も智加もお互いのことはお互いに好きだし、高校に入ってからの三年間をずっと同じクラスで常に一緒に過ごしてきた俺と智加のことは、周りの人間からも“仲良し”だという認識をされている。
 特に、三年になって一臣や光稀とクラスが別々になってからというものは、俺と智加の身長差から「凸凹でこぼこコンビ」なんて呼ばれ方までされ、クラスの中では名前で呼ばれるよりも、俺と智加をまとめて「凸凹コンビ」と呼ばれることの方が多かったりもする。
 酷い時は俺のことを「デカいほう」、智加のことを「小さいほう」と呼ばれることまである。
 それくらい、二人一緒にいるのが当たり前みたいになっている俺達ではあるが、残念ながらイチャイチャはしていない。
 常に一緒にいる感じだし、俺と智加の距離もそれなりに近くはあるが、俺と智加はお互いに“触れ合う”ということはほとんどしていないしな。
 強いて言うなら、俺が時々智加の頭を撫でてやったり、ちょっと鈍臭いところがある智加を助けるために、腕を掴むことがあるくらいだ。
 智加を抱き締めたことがあり、キスまでしたことのある俺にとって、この健全過ぎる智加との関係には不満がある。
「でもまあ、四人で一緒に勉強するのはいいかもね。天馬と智加は放課後とか夏休みなんかに一緒に勉強することもあったみたいだけど、四人で受験に向けての勉強合宿なんてものをしてみるのもいいかもね」
「勉強合宿?」
 もうすぐ受験本番だというのに、勉強合宿という、何やら少し楽し気な響きに、俺の心は思わず踊りそうになってしまうじゃないか。
「実はね、僕と一臣も時々一緒に勉強してるんだけど、一臣の学力が惜しいっていうか、今一つのところで停滞してるんだよね。だから、この冬休みの間にでも、一臣の学力アップを図ろうと思っててさ。何日か一臣の家に通って勉強を見てあげようと思ってたんだけど、天馬や智加も一緒の方が、一臣のモチベーションが上がりそうじゃない?」
「ほう……」
 あまり考えたことはなかったが、そうか。光稀も一臣の勉強を見てやったりもするのか。
 普通に考えたら、おかしなことでもなんでもなかった。元々一臣の学力は学年で真ん中あたり。良くも悪くもないって感じであり、光稀と同じ大学に進学するつもりであれば、やや学力不足という感じであった。
 一年生の時は智加もそれぐらいの成績で、俺が中の上。光稀が上の上だった。
 それが二年の終わりには一臣が中の上、智加が上の下。俺が上の中になった。で、光稀は相変わらず上の上。
 三年の夏休み前には俺と智加の成績がほぼ一緒になったのだが、一臣の成績は俺達四人の中ではやや低めだった。
 それでも、努力次第では光稀と同じ大学に入れるレベルにはなっていたから、俺達四人は同じ大学を目指すことにしたのである。
 唯一先生から
『問題なし』
 と言われている光稀も、自分と同じ大学に入るために、一生懸命勉強に勤しむ恋人の姿を見て、ただ「頑張って」と口で応援するだけで終わらせるほどに薄情ではなかったのだろう。
「いいね。勉強合宿。なんか凄い学力アップできそうな気がする。もちろん、合宿先は俺が提供するよ」
 自分のために俺と智加も誘って勉強合宿なるものを提案してきた光稀に、一臣の顔はパッと明るくなった。
 何やら明らかに浮かれた反応である。
 今の時期、受験生としては“シビアでストイックにならなければ”と思ってしまう俺とは正反対である。
 しかし、一臣の性格を考えたら、あまりナーバスになる方が良くなさそうな気もするから、一臣は受験生であろうと、浮かれているくらいがちょうどいいのかもしれない。
「ついでにさ、年明けにはみんなで初詣に行って、合格祈願とかしようよ」
「え」
「考えてみたら、俺達四人で初詣に行ったことってないじゃん。今年は俺も受験生ってことで、年末年始の家の行事ごとには参加しなくていいからさ。みんなで初詣に行くとしたら今回しかないんだよね」
「お……おぉ……」
 待て待て。勉強合宿の次はみんなで初詣だと? 完全に楽しむモードじゃないか。大丈夫か?
(まあ……年が明けたら合格祈願のためにも、初詣には行くつもりだったけど……)
 ただし、来年の初詣も智加と「一緒に行こう」という約束はしていなかった。
 俺もそうだが、智加も毎年俺と一緒に初詣に行く前に、家族と初詣には行っているらしい。俺と同様に受験生である智加も、今年は初詣に二回行くのは控えた方がいい、と思っているんじゃないかと思い、どうするのかを聞いていなかった。
 そんな中、一臣が「みんなで初詣に行こう」なんて言い出したものだから、俺は思わず智加を見てしまった。
「……………………」
 智加は一瞬唖然とした顔になっていたが、ハッとなった次の瞬間には、俺の方をチラッと見てきた。
「……………………」
「……………………」
 俺と智加の視線が重なるものの、俺達はお互いに何も言わなかった。
 おそらく、どうしてお互いがお互いを見たのかがわからなかったからだろう。ただなんとなく、他の人間と一緒に初詣に行くことに対して戸惑いを覚えてしまったからだと思う。
「あ。もしかして、来年の初詣も二人で行く予定だった?」
 悪気はなかったが、少し微妙な反応をしてしまった俺と智加に、特に気分を害した様子もなさそうな一臣が、にこにこした顔で聞いてきた。
「いや……そういうわけじゃないんだが……」
「そうなんだ」
「うん。今年は受験生だから、友達と一緒に初詣ってどうなのかな? って、ちょっと思っちゃって。天馬に“一緒に行こう”って言い出しにくかったから……」
 ほぅ……。やっぱり智加も同じようなことを考えていたらしい。
 だが、「一緒に行こう」と言い出しにくかったということは、本当は来年の初詣も俺と一緒に行きたいということか?
(可愛い……)
 それなのに、お互いに受験生であることに気を遣って、俺を初詣に誘えない智加のいじらしさ。堪らん。
 智加が俺に気を遣っていることに気付けていれば、俺の方から智加を初詣に誘ったんだがな。
 しかし、俺にはどうも智加の心が読めないようで、智加が俺のことをどう思っているのかもわからなければ、智加が俺に求めていることもさっぱり読み取ることができなかった。
 今までの人生、あまり他人を気にせず、他人に関心を持ってこなかったツケが回ってきたのかもしれない。智加に限らず、俺は人のことを理解する能力がやや乏しいように思う。
「えー? 何それ。智加ってばそんなこと気にしてたの? 可愛いね」
「だって……」
 なんて、俺が今までの自分の在り方について、若干の後悔と反省を感じていると、俺が言いたくてもなかなか言えないようなセリフを吐く一臣と、その一臣に対して唇を尖らせる智加の会話が聞こえてきた。
 自分の恋人が見ている前で、よくも他の人間に向かって「可愛い」なんて言葉が吐けるな。智加が可愛いことは事実だが。
 でもまあ、光稀は自分の恋人が他の人間のことを「可愛い」と褒めたところで、ヤキモチなんかは焼かないんだろうな。
 ヤキモチを焼くどころか
「ほんと、智加って可愛いよね。ね? 天馬」
 一臣と一緒になって智加のことを「可愛い」と褒め、俺に同意まで求めてくる始末だった。
 ね? なんて同意を求められてもな。俺が素直に頷くわけがないだろ。
 俺は一臣や光稀からのこの手の振りには常にスルーの姿勢を取ってきたんだ。
 今更俺が
『ああ、そうだな』
 なんて言葉を返したら、俺の心境の変化というやつを一臣と光稀からしつこく追究されて、俺が智加のことを好きだということがバレてしまう。
(いや……この場合はバレてしまった方がいいのか?)
 こんな日常会話の中で、俺の智加に対する気持ちが明らかになるなんて冗談じゃない、と思う反面、自分から智加への気持ちを本人に伝えるタイミングが掴めないのであれば、はっきりとした明確な好意が伝わらなくても、一臣や光稀を使って、俺の智加に対する気持ちを仄めかしてみるのもアリかもしれない。
 俺が智加に友達以上の特別な感情を抱いているとわかれば、智加も何かしらの反応を見せてくれそうだし。
(よ……よし……)
 あまり自分らしくないやり方ではあるが、少しでも智加との関係に変化を求める俺は、藁にも縋る思いである。
「あ……」
 なので、俺が
『ああ、そうだな。智加は可愛いよな』
 と言おうとして口を開いた時には
「智加は僕達四人で一緒に初詣に行くより、天馬と二人っきりの方がいい?」
「なっ……! そっ……そんなことないよっ! みんなで一緒に行くのでも構わないもんっ!」
 光稀の俺に対する振りは終了していて、代わりに智加をからかいのターゲットにしている光稀がいた。
「……………………」
 俺、撃沈。
 いつも光稀からの智加に対する振りをスルーしてしまう俺だから、今回もスルーするものだと思われてしまい、早々に標的が智加に変わってしまったようである。
 慣れないことはするな。ってことなのかもな。
 まあいい。こういう大事なことは人の手を借りるのではなく、自分の力でどうにかするべきだと思っていたわけだし。
 それにしても
(智加は俺と二人きりの初詣じゃなくてもいいのか……)
 そのことが少しだけ切なくなってしまう俺だった。
 智加なら当然そう答えるだろうし、別に俺と二人きりが嫌だと言われたわけでもないが、多分、俺は智加に
『天馬と二人きりがいい』
 と言って欲しかったんだろう。
 自分の気持ちは伝えられない癖に、俺のことをどう思っているのかがわからない智加にはそう言って欲しいだなんて、我儘が過ぎる話だ。
「そうなの? じゃあ、年明けにはみんなで初詣に行って、一緒に合格祈願をしようか」
「うん」
 結局、俺が何も言わないままに、年が明けたら四人で一緒に初詣に行くことになってしまった。
 高校に入学して以来、毎年智加と二人で行っていた初詣だが、最後の最後に四人で一緒に行くことになるとは……。
(まあ、別にいいんだけどな……)
 俺だって、どうしても智加と二人きりじゃないといけないってわけじゃない。現に、最初に智加と「一緒に初詣に行こう」という話が出た時は、一臣と光稀の二人も誘っている。
 毎年家の都合で初詣には一緒に行けなかった一臣と光稀だから、都合がつくのであれば、一緒に初詣に行くのは全然構わないのである。
 もちろん、来年も智加と二人きりで行きたかったと言えば行きたかったが、智加とは去年と今年に二人きりで行っているし、俺と智加の間に問題が生じない限り、再来年になったらまた二人きりで初詣にも行けるだろうからな。
 四人で同じ大学に合格したいのであれば、来年の初詣は四人で一緒に行った方が良さそうだし。
(もし、再来年の初詣を智加と二人きりで行くことになった時は、俺と智加の関係も変わっていればいいんだけどな……)
 初詣の話が出て、そんなことを考えてしまう俺は、年明けに行く初詣も今年と同様に、あまりご利益のない神頼みというやつをしてしまいそうである。



 年が明け、高校最後の初詣を俺、智加、一臣、光稀の四人で行った俺達は、四人揃ってしっかり合格祈願をしてきたおかげなのか、その翌月、全員無事に志望大学の合格通知を受け取った。


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