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言葉にできない
言葉にできない4
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ヴィンセントは侍女を呼び寄せると、応接室に二人を案内するように告げた。応接室の隣は控室になっているから、自分はそちらに居ると誰に言うでもなく宣言し、グレゴリーをひと睨みしてから大股で歩いていった。
「威圧的だな……。ま、特権階級の人間らしい」
呟いたグレゴリーにソフィアは不穏なものを感じていた。前から貴族を憎んでいるような言動はあったが、主にその対象はソフィアの父親に対してのものだった。今のは雰囲気的にもっと広く、全ての貴族に対しての嫌悪を感じていた。
紙やインクを持ってきた侍女と共に応接室に行き、侍女が退室するのを待ってグレゴリーが再びソフィアに問い質す。
「で、何があったんだ? 声を失うほど辛いことがあるなんておかしいだろ。しかも男爵のヴィンセント・バトラーと結婚するなんて……どうかしてるぞ。格下貴族の、しかも恋人まで居る男だ。ソフィアはもっと賢い女の子だったじゃないか」
肩を揺さぶられて、ソフィアは顔を顰めずにはいられなかった。ヴィンセントを下に見るような言い方も気分のいいものではなかった。
ソフィアはグレゴリーから逃れるように侍女の置いていってくれた紙と羽根ペンを掴んだ。ペンにインクを浸すと直ぐに思いを書いていく。
『声のことはヴィンセント様には関係ない! 悪く言わないで』
「庇うことなんてないんだ。恋人と格を合わせたいが為の結婚だろ? そして君は相変わらずお父さんの言いなりでしたものなのだから」
まさにその通りだが、ソフィアはショックと共に沸々と怒りが込み上げてきた。こんな辛辣な物言いをする人だった記憶はない。ひとが変わってしまったのか、ソフィアが良い部分だけ覚えているのか、どちらかだろう。
『確かに私は父の言いなりだった。でも、今は幼い時とは違う。この契約結婚が終わった時、もう父の所には戻りません。もう言いなりにはならない!』
書き殴ってみたものの、書き終わった後、沸騰していた脳内が少し冷静さを取り戻していった。契約結婚が終わった後のことを考えなければならないのは、優しくしてくれた人々との別れを意味する。それは親しい人の少ないソフィアにとっては身を切られる思いだった。
「契約結婚が終わったらどこに行く? 父親以外のところにあてがあるのか?」
グレゴリーは案の定、痛いところをついてくる。しかも、キャサリンたちを連れて行くつもりだったが、そんなことは不可能なのではないかとずっと悩んできた。そう、使用人二人の生活を賄うほどの金を稼ぐことはかなり難しいだろう。苦しくてもなんとかなると高を括った結果、キャサリンの子は天に召されてしまったのだ。
「顔色が悪くなったな。まだ父親にトラウマがあるってことか」
キャサリン夫婦とも別れなければならないことに痛みを覚えたのであって、父親のことは関係なかった。
しかしグレゴリーは持論を押し通していく。
「いいかい。世界は君のお父さんが支配しているわけではないんだ。俺をみてご覧。あの家を出たら生きていかれないと脅され続けたが、そんなことはなかった。むしろ、自力で金を稼いでソフィアを迎えに来られるところまできたんだよ。どうだい? 無事に離婚したら俺のところに来ないか? 今度こそ幸せな結婚をしたいだろ」
青天の霹靂過ぎてソフィアの思考は一旦何も考えられなくなった。あの家庭教師のグレゴリーがソフィアと結婚しようと持ちかけている。魅力的なグレゴリーだが、そういう目で見たことは一度もなかった。あくまで先生であり、親しい友人か兄くらいにしか思っていなかった。
「お金ができたら迎えに行くつもりだったんだが、信じられないようだな。ソフィアをきちんとしたレディに育てたのは俺だ。いつか自分の妻にしたいと思ってずっと教育してきたんだからな」
ソフィアは困惑した。一緒にダンスのステップを練習したあの日も、計算の練習に苦しんだあの日も、グレゴリーの根底にはソフィアを妻にするという心積もりがあったということなのだろうか。そう思うと、やっと上手く踊れて笑みを交わした瞬間が輝きを失って、急に色褪せて感じてきた。
『私は、グレゴリーのことを先生だと思っていた。歳の離れた兄のように思っていた』
グレゴリーはソフィアの戸惑いを気にすることなく「ソフィアは小さかったからな。でも大人になってしまえば俺たちの年齢差なんてまるで問題にならない。なんの障害もないんだよ」と、言い切った。
本気で言っている様子のグレゴリーにますますソフィアは戸惑って、言葉を漁っていた。なんと言えば関係を壊さずノーと言えるのかを、必死になって考えなければならなかった。
「驚いているようだね。とりあえず先のことはもう少し計画を練ったほうが良さそうだ。爵位が欲しいだけの男に爵位をやって、俺となんのしがらみもない自由な日々を送ろうじゃないか」
「威圧的だな……。ま、特権階級の人間らしい」
呟いたグレゴリーにソフィアは不穏なものを感じていた。前から貴族を憎んでいるような言動はあったが、主にその対象はソフィアの父親に対してのものだった。今のは雰囲気的にもっと広く、全ての貴族に対しての嫌悪を感じていた。
紙やインクを持ってきた侍女と共に応接室に行き、侍女が退室するのを待ってグレゴリーが再びソフィアに問い質す。
「で、何があったんだ? 声を失うほど辛いことがあるなんておかしいだろ。しかも男爵のヴィンセント・バトラーと結婚するなんて……どうかしてるぞ。格下貴族の、しかも恋人まで居る男だ。ソフィアはもっと賢い女の子だったじゃないか」
肩を揺さぶられて、ソフィアは顔を顰めずにはいられなかった。ヴィンセントを下に見るような言い方も気分のいいものではなかった。
ソフィアはグレゴリーから逃れるように侍女の置いていってくれた紙と羽根ペンを掴んだ。ペンにインクを浸すと直ぐに思いを書いていく。
『声のことはヴィンセント様には関係ない! 悪く言わないで』
「庇うことなんてないんだ。恋人と格を合わせたいが為の結婚だろ? そして君は相変わらずお父さんの言いなりでしたものなのだから」
まさにその通りだが、ソフィアはショックと共に沸々と怒りが込み上げてきた。こんな辛辣な物言いをする人だった記憶はない。ひとが変わってしまったのか、ソフィアが良い部分だけ覚えているのか、どちらかだろう。
『確かに私は父の言いなりだった。でも、今は幼い時とは違う。この契約結婚が終わった時、もう父の所には戻りません。もう言いなりにはならない!』
書き殴ってみたものの、書き終わった後、沸騰していた脳内が少し冷静さを取り戻していった。契約結婚が終わった後のことを考えなければならないのは、優しくしてくれた人々との別れを意味する。それは親しい人の少ないソフィアにとっては身を切られる思いだった。
「契約結婚が終わったらどこに行く? 父親以外のところにあてがあるのか?」
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「顔色が悪くなったな。まだ父親にトラウマがあるってことか」
キャサリン夫婦とも別れなければならないことに痛みを覚えたのであって、父親のことは関係なかった。
しかしグレゴリーは持論を押し通していく。
「いいかい。世界は君のお父さんが支配しているわけではないんだ。俺をみてご覧。あの家を出たら生きていかれないと脅され続けたが、そんなことはなかった。むしろ、自力で金を稼いでソフィアを迎えに来られるところまできたんだよ。どうだい? 無事に離婚したら俺のところに来ないか? 今度こそ幸せな結婚をしたいだろ」
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ソフィアは困惑した。一緒にダンスのステップを練習したあの日も、計算の練習に苦しんだあの日も、グレゴリーの根底にはソフィアを妻にするという心積もりがあったということなのだろうか。そう思うと、やっと上手く踊れて笑みを交わした瞬間が輝きを失って、急に色褪せて感じてきた。
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グレゴリーはソフィアの戸惑いを気にすることなく「ソフィアは小さかったからな。でも大人になってしまえば俺たちの年齢差なんてまるで問題にならない。なんの障害もないんだよ」と、言い切った。
本気で言っている様子のグレゴリーにますますソフィアは戸惑って、言葉を漁っていた。なんと言えば関係を壊さずノーと言えるのかを、必死になって考えなければならなかった。
「驚いているようだね。とりあえず先のことはもう少し計画を練ったほうが良さそうだ。爵位が欲しいだけの男に爵位をやって、俺となんのしがらみもない自由な日々を送ろうじゃないか」
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